お礼と言ってはなんですが、割と性癖に忠実に書いた代物を置きます。
「イナバちゃん、君には、お願いがあるんだ。
ポケモンと人が手を取り合う、その第一人者となってほしい———」
翡翠の地より、何処までも。当然です、儂は、貴女のポケモンなのですから。
たとえ、その手が離れようとも、この胸のキズナは、絶えぬモノであるから————
ポールダンス。日本では、ストリップ的な面で知られがちであるが、立派な競技の一つである。
一つの棒にその身体を絡み付けるその競技は、体の柔軟性以外にも自分の身体を支えるための筋力が重要となる。
努力の積み重ねによってようやく、美しい動作で舞うことができる、ポールダンス。私は、そんなポールダンスが大好きだった。冷たい鉄の棒がだんだん、自分の体温で温もりに満ちていくあの感覚。自分の身体を自在に動かすあの楽しさ。
そんな私だからこそ、なのかもしれない。
今回、とんでもない案件をマネージャーが持ってきた。
きっと、こんな経験をするのは、私が初めてなのだろう。
「…………ポケモンと、同時公演ですって?」
幾度も世界的に公園を行ってきたが、ポケモンと共にポールダンスの公演をすることになるとは思いもしなかった。
最初は、断るつもりでいた。どのような者であれど、ポールダンスはあまりに難度が高い競技の一つ。
そう簡単にポールダンスを極められるわけがない、などと思っていた。
過去形なのは、どうしても、と強く訴えるマネージャーに根負けして、ポールダンスを学ぼうとしている生徒と顔合わせをした時である。
「ミッミ」
私なんかよりもずっと大きく、逞しい身体。
つぶらで、愛らしく垂れ下がった瞳に、柔らかく靡くおおきなおおきな耳。茶色の全身の毛はふわふわもこもこと愛らしいが、その毛の下に隠された骨格や筋肉は、とてもがっしりとしている。
ミミロップ________うさぎのポケモン、だ。
努力家らしい彼は、待ち時間を無駄にする事もせず、ヨガを行う事で身体の柔軟性をより高めている。開脚はしっかりと地面に対して並行に。柔らかな上半身は体幹がしっかりとしていて、ブレもしない。
ああ。
ああ——コレは、自分が目指すべき境地の一つだ。
なんて逞しいのだろう、なんてしなやかなのだろう。美、というものには疎い自分ではあったが、彼を見た時点ですでに、私は彼の虜となっていた。
そして、不思議なことに……彼もまた、私というポールダンサーの虜になっていたらしい。
コレはきっと、運命、というものなのだろう。
「今回は、ポケモンを世間に馴染ませる為の芸術活動の一環として、世界的に有名なポールダンサーである貴女に、ポールダンスの指導をしていただきたくお越しいただきました。
彼……イナバオトシは、努力家なので、きっと貴女から学んだ事を忘れずに吸収してくれるでしょう。どうか、彼のことをよろしくお願いします」
「えぇ………えぇ。」
浮かれたように何度も頷いた。彼は、こちらを見上げると、ニッコリと笑って立ち上がる。そして、こちらへと歩み寄ってきた。
弟子なんて、今まで一度も取ったことがない私ではあったのだけれど。
目の前にいる彼はとてもキラキラしていて、なんというか。彼ならば、大丈夫だ、と。自分の全てを託すには相応しい相手だ、などと思ってしまった。
「初めまして、イナバオトシ、私は——」
因幡国を落とすような脚力を、という意味合いの込められたその名前に基づくかのように、彼は特に脚部の筋力が素晴らしくがっしりしっかりとしていた。
腕を使った技、というよりは脚を使った技、の方が彼も向いているのだろう。脚を軽く引っ掛け、筋力で自分自身を支え、床に自分の体を並行に持ち上げるスターフィッシュや、肩、股関節、背中の柔軟性が重要となり、同時に、身体を支えるための筋力が必要不可欠なバードオブパラダイス。上級技であったが、彼は、難なくその技を覚えていった。
毛皮があるというのがやや難点であり、滑り落ちてしまうことが多いかと思ったが、そこはポケモンの脅威のパワーで滑り落ちないようにする事ができた。
ここまでできるのならば、「人間ならば」公演はまず問題は無い、という確信はあったが、同時に、私の中では「違う」という感情があった。
もっと、もっと——彼でしかできない事があるはずだと。
その思いは止める事ができず、マネージャーらと相談して、そして、一つ、とある事を試すことにした。
ある日、私はポールダンスで使うポールをもう一つ、彼の横に設置したのだ。
「このポールは、あなたがよりあなたらしく舞うためのものよ、イナバ」
イナバオトシは、最初は戸惑っていたが、しっかりと固定されて動かないポールに、その意図を察してくれた。
コクーン————片足をポールに絡め、もう片足を腹から反らせた頭の方向へ突き出し、その足に両腕を絡める技————の状態でくるり、くるりと二回転。そしてそのまま、足から腕を離すと、ポールに面した腹筋の力で、もう一つあるポールへと飛んだ。
咄嗟に彼はポールを掴み、そして、今度は別のポーズを取ってくるりくるりと回り出す。
そう、そうだ。私が望んでいたのは、これだ。彼は因幡国をも落とす兎なのだから、跳ね回らなければ。
まだ最初だから、ポールを掴んでポーズを取るまでにタイムラグがあるが、練習を行えば次第にそれもなくなっていくだろう。
回転する彼に合わせて、大きく柔らかな耳が嫋やかに揺れる。
そのうち、イナバオトシは楽しくなってきたのか、ポールの位置を少しだけ遠くに調整すると、ポールからポールに移る時にクルクルと宙返りをしながら移るようになっていた。
きゃらきゃらと笑いながら舞うその姿に、自分の原点を思い出した。
私も、初めは、くるくる回るのがとても楽しかった。
最初は回りすぎて目が回ったりなどもしたけれども、自分の身体がまるで自分じゃないみたいに動くのがとても心地よかった。
鉄のパイプが体温で温くなる感覚、自分の体重がかかる事で、わずかに軋むポールの音。くるり、くるり、と回転する事で肌に滑る滑らかな触感。
イナバオトシの隣で、私もポールダンスを舞う。
時折、彼はこちらへ両手を差し伸べてくるので、ぐっ、と掴んであげると、ポールのように「絶対に倒れない」と思えるような力強さがあった。そのまま、腕の力で自身の身体を宙へ持ち上げると、彼は楽しそうにくふくふと笑う。
私も、何かがおかしく思えて、つい笑ってしまった。
あぁ、こんなに楽しいと思えたのはいつぶりだろうか。
そうして、短くも長い時間は過ぎていき、いよいよ公演の日となった。
相方に合わせてバニーガールのような、されど、欲を煽る事を目的としていない、実にシンプルな衣装に身を包む。
化粧は、彼に合わせて愛らしさと、力強さを込めて。
首元には、きらりと光る石が嵌め込まれた、チョーカーが一つ。
このチョーカーは、イナバオトシとお揃いのものだ。
「…………でも、いいんですか?私は、彼の「トレーナー」ではありませんよ?」
「絆というのは、トレーナーとか、そういうのは関係ないんですよ」
その言葉を聞いて、私は、もう前までの自分とは違うのだと悟った。
その変化は、とても喜ばしいものであり、尊いものである、と。
二度と昔の自分には戻れない物悲しさと、今の自分という喜びに打ち震え、私達はソラへと跳ね上がるのだ。
星々のような喝采を胸に刻みながら、私達は前へと出た。
両翼はソラへと舞い上がる。
高みへと至ったその時に迸るそのキズナの光は、その場にいた者全てを虜とした。
イナバオトシ。
あぁ、なんて素敵な名前だろうか。
因幡国を堕とす、国一つを堕とした魔性のオム・ファタール。
そんな彼の隣にいる、妖艶なファム・ファタールは微笑した。
イナバオトシ ♂ オヤブン
頑張り屋な性格。
遥か昔のヒスイ地方から
時間と空間を超えて
やってきた。
暴れることが好き。