所謂ポケモン食が関係する暗めの話なので、閲覧注意をば。
「魂獣神伏美教ゥ?」
「はい。携帯獣……ポケモンの現代進出に合わせて発足された宗教団体でして……」
魂獣神伏美教。
宗教自体を発足した人間の苗字がこれまた自己主張激しく載せられているその宗教団体は、最近発足されたばかりで、問題行動も多いとかなんとか。
曰く、ポケモンを働かせるな、とポケジョブ先にデモを行ったり、ポケモンの誘拐未遂を図ったり。(もちろんこの誘拐未遂に関しては、そもそもの身体能力が人間に勝るポケモン側の逃亡という形に終わった)
終日怪しい儀式をしているなどとも言うし、深堀すると、性被害が発生している可能性すらある。
教祖は、ポケモンとの混血を名乗り、「自分を身体に取り込んだら、一段階上のステージ……ポケモンと同じ領域に辿り着ける」などと謳い、様々な品を高額で売りつけている。
「なんじゃそりゃ。なんでもかんでも祀りあげて人の味方になってもらうってすんのは日本人の悪癖か何かか?」
「まぁ、共存に対して反対意見も未だに上がってますしね。……アレに見つめられた時、逆らえないって思ったのに、よくもまぁ……」
「逆らえないからこそでしょ」
アルセウス本神が遥か高次元から此方を見つめる眼差しを共有した時、体感はほんの一瞬だけであったとしても、その眼差しの厳かさに恐れ慄く人間は数多くであった。
それこそ、普段から見られてて慣れてる自分じゃないから、当然と言えば当然ではあるが。
そこから、恐怖のままに共存に従う者もいれば、ゲームを知っているからこそ、納得した上で共存を願う者もいた。かと思えば、ポケモンそのものに恐怖を感じる者も少なからず存在するし、その恐怖心から、ポケモンそのものを拒絶する者もいる。
ある程度、個人のスタンスはアルセウスの瞳により選別された、とも言えるが、一番厄介な集団……ポケモンを狂信する者達が集う場所が産まれるのも、当然と言えば当然だろう。
狂信者を一定数集め、それを監視することが叶う団体が存在する、と言うのは喜ばしいが、それを管理する側のスタンスが私利私欲に走っている時点で、監視は無いも同然。現に、問題行動を今もずっと見過ごしてしまっている。
その行動は、然るべき研究機関に託された、とあるポケモンの有精卵……ラッキーやハピナスが産んだ食用のものですらない、生きているものを盗むという悪行に至ったのだから。
……スマホロトムが騒ぎ立てる。
珍しく青ざめた表情のスマホロトムに、「なぁにロロくんや」と呼び掛ければ、ハッキング結果をそのスマホ内に映し出した。
無感動にそれを見る。フリをした。
「さぁてと……」
「何方へ?」
「ちょっと乗っ取ってくる」
だが、しかし。ポケモンを愛している存在である、というのもまた事実といえば事実である。御すことが出来れば、彼らもまた、共存にあたっての強力な友であるのは事実だ。仕事が増えることに関しては、まぁ、みんな道連れということで。だが、個人的には、味方などと思いたくはない。
握りしめた拳に爪が食い込む。少なくとも、教主とその取り巻き集団は二度と息をしないようにしてもらいたい、と思いながら窓へと歩く。
オボンの実の準備はヨシ。
窓を思い切り開ければ、外の空気が優しい風と共に流れ込む。縁を蹴り、外へと飛び出すと同時に、あえて他には見せないようにしていたポケモンの入っているボールを開いた。
背中に飛び乗れば、「ボールの中から話は聞いていた」と言わんばかりに、そのまま宙を駆け抜けていく。
「え、は?ちょっと!」
「近くの○○警察署さんに警察署前を包囲しといてって伝えといてー!」
ちょうど今日は総会とやらを行うらしい。スマホロトムがハッキングを行い、調査をしてくれた。
配慮してなのだろう、周囲からは見えないように特殊なフィルターをそのポケモンが施してくれている。そのまま本拠地の場所へとテレポート。
テレポート先は、これまた大きな屋敷であった。自分達の姿が見えないおかげで、屋敷には難なく入り込めた。
そのまましばらく無言のまま、屋敷内を探索。目を閉じれば、身体の内側から響くものがある。響き渡り、流れる力——波導を使い、そっと、聞こえる音がないかと探った。
「神は来れり————」
「我らは選ばれた————」
「我々は次のステージへと————」
そして、大広場になっている場所にちょうど信者と教主、そして幹部陣が固まり何やら叫んでいたので壁を壊して中へと突撃。ちょうどいいタイミングだった。
響き渡る轟音は無論無視である。
なんだなんだ、と言う声。逃げようとする人がいたが、扉は開かないように、エスパータイプとなったポケモンがサイコキネシスで固定しているので逃げられるわけがない。
「……お呼びいただき感謝致します、教主さん」
呼ばれてねーのに勝手にやってきた迷惑なトレーナーは、その身を隠していたベールを解くように「伝えた」。
ベールはそっと優しく解かれ、その場に、黄金に輝くその玉体が晒される————
「ドドキュウーーーン!!」
「まさか、さらに適任の教主が居るとの事で、私をお呼びするとは思いもしませんでした」
現代日本において、現状、法律によって禁止されていないものがある。
————「洗脳」。
「ポケモンは上位者」と、全人類があまねく目を合わせた存在を根拠に刷り込まされた盲目な人間は、その場にいる存在が紛れもなく目が合った存在と同一のものであると理解し、そして。
新たな主を持ち上げる歓声で、その場は包み込まれた。
「え、は、な————」
「えぇ、えぇ……神、を崇めるためと嘯き、行ってきたその儀式の数々……
「かみさま!」「深奥の主人!」「はじまりのそのひと!」
人々はその神に触れようとするが、透明な壁に玉虫色の波紋を響かせるのみで終わる。それだけでもよかった。神の力に触れた……それだけで十分だった。
より、さんざめく悲鳴は巻き上がる。中には、気絶するものすらいた。
それを眺めるアルセウス……金柑はそっと震えた。神の分身は意外と、人間味を持っているのだろうか。
いいや。こいつはただ、自分を崇める声が気持ちいいだけだ。神の寂しがり屋な性格は、どんな形であれど意識してくれるなら快楽に感じる、最低なそれであると他の何者でもないトレーナーが理解している。こうだから、手持ちから外す事を躊躇う、という事実がある。
気持ち悪さからくる吐き気を堪えながら、ニコリを笑いを浮かべた。
「
こっそり、
懐から銃やドスを取り出そうとした幹部らは、懐にあるものが紫色のムスカリの花に変化しているのに気がつき、再び恐れ慄く。
なんてことはない、影に潜んでいたヒスイゾロアークが見せた、ただの幻覚である。
されど、それだけで戦意を喪失するのには十分であった。
「
そして、その場の無辜の民を除いた、悪意を持つ者とともに大型の警察署へとテレポート。瞬間、逃げ出そうとした連中は警察により直ちに取り押さえられることとなった。
***
「や、そんなに怒らなくてもいいじゃないですか……」
「他人の土地への不法侵入者が何を言ってるんですか、もみ消してなければ厄介なことになってましたよ?!」
「……なんとかなったんだしいいじゃん……」
その後、トレーナーという肩書き以外に公務員の社畜やらなんやらとゴテゴテとした肩書きが載せられている肩に、「新興宗教の教主」が追加されるのはそう遠くない話であった。
「……ですが、たまごは……」
「やめて」
「……たまごが盗まれたのが数日前で、たまごを管理してた人間が手引きしてたから発見が遅れてしまったのは、あなた方の落ち度ではない。
そもそも、人を見る目がなかった、私側の落ち度だよ」
たまごの中に居たのは、ヒンバス。非力で無害な、研究するにはうってつけのポケモン。
…………最初は、「進化先のミロカロスの鱗の成分が人類にとって有益、かつ飼育に難度が低い為、飼育を行いたい」という研究所側からの依頼であった。
最初は渋った。ヒンバスの頃はあまりにも弱いポケモンだ、確かに、初心者には卸しやすく、人にも懐くのが早いポケモンではあるが、1からのポケモンの飼育には、環境整備に難があるのではないか、と思ったからだ。
上からの要請により、仕方なくたまごを一つ、提供させてもらったが……その上の存在が最近迷惑行為で有名な新興宗教の幹部である、と見抜くことができなかった。
それは、本来、ポケモン世界に生きる人間と同じ構造をしてないが故の、波導の行使による肉体へのダメージを懸念して、読心を行う事を怠ったこちら側の落ち度。
「たまご、だと?はは、ははは!あんなもの、とうに喰らってしまったわ!!」
そして、自分という、まるで夢の世界で生きてきたかのような存在に嫉みと憧れを抱く者の狂気を理解していなかった、という人としての甘さ。
未発達で柔らかかったとはいえど、骨すら残すことなく喰らい尽くされた命は、彼らの肉体を変質させることなく全て、彼らの中で消化され、そして、いなくなってしまった。
「共存、とかって言うけどさ。
勘弁してくれよ。私たちは夢の住人なんかじゃあないんだよ。私たちは、紛れもなく、この世界を生きる、弱い人間なんだよ……」
波導を行使した対価で傷ついた内臓を「念の為」療養する為、暫くの間休養を命じられたトレーナーは顔を覆い、そっと呟く。
緩められたシャツから見える胸元には、玉虫色の板が埋め込まれていた。
金柑
寂しがり屋な性格。
シンオウ地方で運命的な出会いをし、
時間と空間を越えて
やってきた。
イタズラが好き。