買い物してたら思い浮かんだので投稿します。
右肩に「パン」とプリントされたエコバッグ。背中に迷彩柄の巨大リュックサックを背負い、左手に引っ掛けるは生肉柄のシルバーカー。
尻尾を右へ左へ振りながら車が行き交う大通りを闊歩する紺色の竜と、黒毛の獅子。
「がう」
背中にクーラーバッグを背負ったレントラー……オトザラシと、重装備のガブリアスことガブくんは、戦場へと向かう漢の表情をしていた。
今日、この二匹は、トレーナーから重要任務を与えられていた!
「あ、そろそろ肉ねーや。業スーで買ってきてくれる?」
「ヴ?!」
重要任務なのだ!!
この時に買うものの内容次第で、今後の食卓のメニューが変わってくるッ!!安いものだけでは、美食へは到達できず、されど高額商品ばかりではこの現代世界を生き抜くにあたってのセンスが足りない………ッ!!
そう、これは、ポケモンという種が現代社会に適応するための試練なのである。トレーナー直々の、「お前ならやれる」という熱い信頼の籠った命令なのである!
尚、トレーナーにそんな意図は特に無い模様。
ウィーン、と音を立てながら自動ドアが開く。
トレーナーを見て覚えた、「黒いガラガラするやつ」を一つ引っ張り出して、「黒いカゴ」を上と下にセット。この「もちもの」こそ快適な買い物の最適解なり。
入って早々、視界に入るのは野菜コーナー。
「おい、ポケモンが入ってきたぞ」「嘘でしょ」というざわめきもなんのその、のしのしと二匹は入場する。
「————ガブ」
右爪でそっと掬い上げたのは、「モモソル」。「モモンの実」と「ソルガム」を交配させて生まれた、新種のすもも。通常のすももよりもはるかに速いスピードで成熟し、すももよりもあっさりとした甘みとメロンのような果汁感が特徴だ。
「うるぁん」
「ガビャ?!」
「いっぱい入ってるしおやつに使えるよ!」と振り向いたガブくんの背中をスパァン!と尻尾ではたくと、オトザラシは冷酷に「戻せ」と告げた。「きのみはいくらでもあるだろうが」、とも。
「ガルル……。!ギャ!」
それなら、と手に取ったにんじんとトマトを見て、「まぁそれなら……」と納得した顔のオトザラシ。ついでに白菜と大根も下のカゴに入れるように指示してから、続いてお目当ての肉コーナーへと向かった。肉コーナーに到着したオトザラシは目を光らせると、その何もかもを見通す視界で最も鮮度が良いものを見た。
マトン、手羽元、もも、豚足。
見抜いたものの値段を、その頭脳で数字を理解しているガブくんが頭の中で安いか否かを冷凍庫内のラップのシールの記憶と照らし合わせる。
「しゅるるるるる……。ガァウ」
「ウルン」
もも、マトンと、そろそろ無いと言っていたひき肉に牛のコマ。
上のカゴに2キロあるそれを3パックずつ乗せていけば、カゴはあっという間に埋まっていく。
続いて向かうは魚コーナー。
魚に関しては、漁の補助を行っているカイリューのでっていうやオーダイルのワニッチが定期的に海面の反射経由で反転世界に投げ入れているので、大量に在庫がある。これはスルーし、続いては冷凍食品コーナーへ。
冷凍食品コーナーに到着すれば、ひえぇ、と腰が抜けた老人。そっと背中を支えれば、「主人公……」とぼやかれたのでガブくんはなんのこっちゃと首を傾げた。とりあえず褒められているかもしれないのでニパッ!と笑っておく。
なぜだろう。今度はあわあわと何事かを言っている。
首を傾げながら手を振ってバイバイ!をした後に、ガブくんは冷凍食品を吟味することにした。
冷凍食品はオトザラシではそんなにしっかりと見通しにくいので、ガブくんチョイスでの厳選である。カキフライとコロッケ、レバーをチョイスするが、オトザラシから「ホヤ ホヤ ホヤ」とうみゃうみゃ連呼された。
ホヤはトレーナーの好物の一つなので、急いで魚コーナーへ戻りホヤをカゴへと入れる。ホヤをカゴに入れた途端、周囲から「おぉ」とどよめきが走るが、そのまま気にせず次のコーナーへと向かう。
オトザラシは後ほどホヤをご褒美として一部もらうのを狙っているのやもしれない。オトザラシは苦いものが好物だが、ガブくんはホヤは微妙な苦味があって好きではなかった。
次は調味料系にお菓子があるコーナー。
お菓子はいけない。誘惑が多すぎる。ミルクチョコレートにビスケット、アイスクリームにプリンにケーキ。調味料もいけない。はちみつに砂糖、メープルシロップという飲める甘味の暴力が販売されている。
薄目になりながら進んでいると、「お父さん買って!!」と泣き喚く幼女が視界に入り、つい思わず凝視する。してしまった。
「こんなにいっぱいチーズケーキ食べたらお腹いっぱいになるでしょ!」
「いやだ!食べるもん!!ご飯食べれるもん!!!」
「ガァ」
ちぃずけぇき?
視界に入ってしまった。
真っ黄色の上に真っ白のクリーム。四角い形の業務用チーズケーキ。お値段もお手頃価格でとてもお安い!!
「ガ、ギャ、ギャアゥ……」
「ア?」
けぇき。けぇき。おいしいけぇきがあるよ。買って食べようよねぇ。一緒に食べようよ。絶対おいしいよ。あれ。しかもいっぱいあるよ。みんなでひとかけらずつ分けて食べようよ。在庫もあるよ
必死に訴えるガブくんをあきれた目で見つめると、オトザラシは無情に告げた。
ダメ
…………………。
「ウギャアアアアアアア〜!!!!!」
やだやだ買う!買うの〜!!お肉以外も買ってきていいよって言われてるから買うの〜!!!
「シャアッ!!」
オマエ要らないものは買わないようにするって出る前に言ってただろうがよ!!
持っていた黒いガラガラから手を離し、その場に丸くうずくまる。紺色のざらざらした、突起のある団子がそこに生まれた。
びたん、びたん!と地面に叩きつけられる尻尾は甘えに甘え子供の地団駄レベルの力に収まっている。
ちらり。一瞬オトザラシの方を見てから、再びうぎゃうぎゃと喚き出したガブくん。幼女、呆気に取られて泣き止み。
地面を這うようにうごうごと動き、優しくチーズケーキを両爪で挟み、天へと掲げた。わずかに香る香りだけでわかる、絶対に美味いやつ。
あっ隣にティラミスもあるじゃん。これも美味そう!
「フー!フー!!!」
ばかやろう!!誘惑に負けてどうするんだ!!オマエはおとこのこだろう!!
「ぎゅーん。ぎゅぅーーん。」
でもオトザラシ、いっぱいの量が……。けぇきが……。
呆気に取られる幼女の父親。幼女は真顔に近い表情で、悟った。
わたしは姉だ、と。
「わたしおねーちゃんだから、いらない。この子に買ってあげて!!」
「?!え、えぇっ?!」
「ぅるにゃ?!……んぅーー……」
他人にゴチになる文化はなるべく甘んじて受けておけ、とトレーナーが言っていたことを思い出し、それなら……いいか……と呟いたオトザラシにバッ!と顔を向けるガブくん。
そのまま父親の方へすりすりと擦り寄り、シンオウコンテストノーマルクラス優勝レベルの可愛さで「お願いします、買って」と媚を売り始めた。
「え、えっと……えぇ……??」
その後、チーズケーキとティラミスを買ってあげた幼女の父親は、近くの公園で四等分したケーキをモサモサと食べた。
そんなにしっとりしてなかったし、この後夕飯が入らなくてみんな怒られた。
ガブくん★ ♂
むじゃきな せいかく。
懐かしの シンオウ地方 から
時間と 空間を こえて
はるばる やってきたようだ。
ちょっぴり みえっぱり。