メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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メゾン・ド・チャンイチ 飛翔編
クラスのみんなには内緒だよ


 

 

グランドフィッシャーの戦いから数日、あれ程までに荒らされていた空座町には戦いの痕跡は既に欠片も残されておらず、人々は元通りの日常を過ごしていた。

石田雨竜は己の霊力を酷使し、また己の御せる範疇を超えた霊力をその身に受け続けた反動で体が軋むような痛みを訴え続けて居たが体の所々に包帯を巻き意地でも学校を休む事なく登校していた。

登校中に己の通う学校の生徒を傍目に芽生えた彼の罪悪感が疼きだす、彼等の平穏を奪おうとした己の愚かな所業に。

 

「石田!?どうしたのそのケガ!?」

 

「階段から落ちました」

 

事実を隠して全ての言葉が嘘になるならその言葉の価値を僕は考慮しない。僕は最早、自分の言葉にすら価値を持てない。僕自身の怪我なんて、大した事でもないだろう。

砕けた窓も荒らされた机も元通りのままいつも通りの授業が始まる、板書された文字を一つも漏らさずノートに書き写す、先人の教えを護る為に。

 

「石田君…ケガ、したの?」

 

「……そうだね、全ては僕の不注意が原因だ」

 

昼休みにとある女生徒が僕に話しかけて来た、かつて解れた人形を直してあげた同じ手芸部のみちるさんだ。

端的に言えば彼女の顔を見る事すら心苦しい、冷静となり果ての無い己の誓いに振り回されて僕は僕の存在を持て余してしまう。

きっと世界は美しい、恐らくその中で僕は不純物で、彼等の日常を再び穢してしまわないかと不安になるのだ。

 

「あ、ええと……もしかして落ち込んでる?」

 

「……そうだね、自業自得だけども」

 

「そっか……じゃあこれ、もし良かったら貸してあげようか」

 

そう言って僕に見せたのは、彼女が自分の鞄から取り出したであろう僕が直したなんだかヘンテコなフォルムの人形。そこで初めて僕はみちるさんの顔を見た、顔を赤くして僕に人形を差し出す彼女の笑顔に僕の心が揺れるのが分かった。

 

「私がね、落ち込んだ時にお母さんがくれた人形なんだ。この前石田君に直してもらって本当に嬉しかったの。だから、お返しじゃないけど…石田君が元気になってくれたらなって……」

 

「―――それじゃあ、みちるさんの縫いぐるみ、借りてもいいかな?」

 

「あ……うん!!」

 

僕は既に誰かを助けていた、彼女の笑顔を護る事が出来ていたのだ。きっと誰かも、誰かに助けられているだろう。

僕が無理やり分け入ってまで助けに入る必要はきっとないのだ、僕は僕に出来る形で誰かを助けよう。

 

「石田!話し終わったか?」

 

「黒崎君駄目だよ!今いい感じなんだから!!」

 

「……黒崎、僕に何か用か?」

 

「そんな風に構えるなよ、昼に一緒に飯を食おうって誘いに来たんだよ」

 

「黒崎、一々僕の事を気にしないでくれ。僕はもう騒ぎを起こしたりなんてしない」

 

「当たり前だろそんなもん、ケイゴが飯を奢るから行こうぜって話だ」

 

「一護ォ!?なんで奢りの時に限って頭数を増やすかなぁ!!?」

 

同じくクラスメイトの男が騒いでいるが、気になるのは誰かの奢りという言葉だ。

僕は今一人暮らしの身だ、自分の居場所を失った家から逃げ出したくて父に酷い我儘を言ったものだ。

今では自分が何よりも嫌っていた父の仕送りで生計を立てているのだ、そういう意味で僕は父によって助けられて生きている。

 

「―――ご一緒しよう」

 

今日は僕がクラスメイトの彼に助けられる、だからいつか彼が困っていれば僕が力になろう。

 

思い上がってはいけない、それで後悔したばかりだろう石田雨竜、誰かを助ける理由なんて簡単でいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「朽木ルキア、見ィ――つーけた!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「久しぶりだなぁ、朽木ルキア『元』隊員!!」

 

「貴様、阿散井恋次か……!?」

 

私の目の前に現れたのは意外な人物だった。かつての同郷の友、護廷十三隊―――六番隊副隊長。

 

「何だその顔は、まさかお前だってこのまま逃げ続けられる訳ないって思ってただろ」

 

「逃げるだと!?何故私が逃げねばならぬ!!」

 

「テメェが死神の力を人間に奪われて、その上でお前が霊圧を一切漏らさない義骸に入って行方を晦ましたからだろうが」

 

「行方を晦ませただと…?そんな事はない!尸魂界にだって定時連絡を送っていた!!」

 

「そんなもん来てねぇんだよ一通も!!!」

 

そんな筈がない、死神の力を失った以上地獄蝶を扱う事が出来なかったが浦原に言って伝令神機は手に入れていた、尸魂界からの虚出現による情報も受信していたのだ。

確かに定時連絡を送っていた筈だ、浦原に言われて個人にメッセージを送る事は避けていたが生存報告は伝わっているだろうと思っていた。

 

「まさか…伝令神機に細工をされていたのか?」

 

「あぁ!?まあいい、お前を連れて帰る前に死神の能力を奪った奴の事をさっさと吐け」

 

 

―――死神の能力の譲渡は重罪だ、そこに情状酌量の余地はない。

死神の力は調律師(バランサー)として世界の傾きを調整する役割を持つ、故に扱いを誤れば現世のバランスを壊しかねない。

一護と出会い死神の力を半ば強引に渡してから早数ヶ月、心の上辺だけで理解していた罪の重さをじわじわと理解した時にはいつかこの様な日が来ると思っていた。

 

 

「―――言えぬ」

 

「…もう一回言ってみろ、言い間違えたんだろ」

 

「お前には決して言えぬ!!」

 

「ホォーそうかい、だったらこの人には言えるのか?」

 

突如として背後に感じる存在感、最もお会いしたくなかった雲上の人。

 

「白哉、兄さま―――!!?」

 

反射的に動いた鈍い身体、頬に感じる熱と錆の匂い。視線を外した瞬間に斬りかかって来た阿散井恋次の仕業だった。

 

「随分人間らしい顔になったな、ムカつくぜ。そんなにソイツが大事か?お前はもう逃げられない、そしてテメェが庇っても死神の能力を奪った奴は死ぬんだ」

 

再び斬魄刀を深く構える恋次、本気になって振れば私の命等簡単に切り捨てられるだろう。

 

 

「死ぬわけないだろうが、死神」

 

 

――――しかしその時は来なかった、恋次の頭を狙って放たれた霊子の矢が張り詰めた空気を切り裂いたからだ。

 

「死神よ、一つ聞くがその女は死神か?」

 

「あぁ!?掟を破ったコイツは最早死神じゃねぇよ!!」

 

「それは良かった、僕は死神が大嫌いでね。クラスメイトが困っているなら助けてやらないと僕の仁義に反する」

 

「テメェ!何者だ!!」

 

次の瞬間には恋次は躊躇いなく斬魄刀を構える、弓を引き絞った滅却師の石田雨竜も同様に。

 

「言っただろ。クラスメイトだよ、通りがかりのね」

 

「それは答えになってねぇんだよ!!」

 

恋次が悪戯に切った石田の持つレジ袋が地面に落ちる、石田の態度を見るに反応できなかったらしい。

 

「言っておくがテメェは弱い、見なかった事にしてやるからとっとと帰りな」

 

「石田雨竜だ」

 

「アァ!?」

 

「僕に負けた君が、僕の名前すら知りませんだなんてかわいそうだろ?」

 

解き放たれた獣のように恋次は駆けだした、しかし石田が撃ちだした霊子の矢が踏み込む足元近くに突き刺さり恋次が蹈鞴を踏んで足を止める。

 

踏み込んだ勢いのまま停止した慣性に振り回されながらも石田の放った矢を上体のスウェーだけで躱しきる、慣性が消えた時には再び踏み込み石田の間合いの内に入る為にステップを混ぜながら突進していく。

 

 

 

銀鞭下りて(ツィエルトクリーク・フォン)五手石床に堕つ(キーツ・ハルト・フィエルト)

 

 

 

五架縛(グリッツ)

 

 

 

恋次が切り捨てたレジ袋、そこから放たれた光が実体を持ち恋次を拘束せんと五本の帯が手を伸ばす。

しかし死神であれば鬼道の対応など基礎中の基礎であり見慣れぬ技であっても動きを止める男ではない、拘束を斬魄刀で突破し続けざまに放たれた矢も回避する。

 

「陰湿なメガネだなぁ!!」

 

「面白眉毛に言われてもね」

 

「ぶっ殺す!!!」

 

恋次との距離を開けながらも間を開けずに放たれる矢を斬魄刀で弾き飛ばしながら恋次は遂に石田雨竜の間合いに踏み入った。

 

 

 

 

大気の戦陣を(レンゼ・フォルメル)杯に受けよ(ヴェント・イ・グラール)!!!!」

 

聖噬(ハイゼン)!!!!」

 

 

 

 

 

知らずの内に石田雨竜の通って来た道に誘導された阿散井恋次は石田の唱えた詠唱を聞き、意味は分からずとも己の本能が放つ警戒信号に従って空間を削ぎ裂く四方形の結界からすぐさま飛び退いて脱出した。

 

「悪いが君と違って策も無くこんな所に踏み入る事はしない。準備して来たよ、君達の為に盛大にね」

 

恐らく電柱や民家の囲い等に罠を仕込んでいたのだろう。黒崎一護の強さとは違う使える物を使う強さ、己ではなく外界の環境に強さを左右される滅却師故の力。

 

「何をボサっとしている朽木ルキア。目印を残してある、僕の来た道を辿ってさっさと逃げろ」

 

「しかしお前に迷惑をかけるわけには!!」

 

「僕には迷惑をかけてもいい、黒崎一護の知り合いである君ならば」

 

「だから逃がさねえって言ってるだろうが!!!」

 

 

 

「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽ばたき・ヒトの名を冠す者よ!

焦熱と争乱、海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!」

 

 

「破道の三十一・赤火砲」

 

 

 

「させない!!!」

 

 

 

恋次の掌から放たれた赤火砲は囮、熱球を矢で撃ち落として生まれた爆発に意識を一瞬持って行かれた隙に恋次が再び石田の間合いに入る。

 

対象の認知、霊子の矢の形成、弓を引き絞る、対象へ狙いを定める、矢を放つ。矢を放った滅却師に生じる多段のプロセスから発生する唯一の隙。

 

石田雨竜は前傾姿勢となり己の胸元で両手を組んでいた、まるで神に祈りを捧げるかのように。死を遠ざける為の弱者の姿勢か、しかし彼の目は諦めずに恋次を捉えている。

 

地面を捉えた恋次の足、霊子の矢を形成した石田雨竜。縮めた脚を伸ばして腰の捻りに伝えた恋次、石田雨竜の一撃は間に合わない。

 

 

―――霊子の弓を持つ右の拳が下段への正拳突きとなって振り下ろされるまではそう思っていた、それは居合と同じ概念、刀を引き抜くのではなく腰を切り刀を置き去りにして抜刀する動きに似ている。

 

 

彼は弦を引かずに腕力と背筋を力任せに用いて()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

一方で生まれた恋次の躊躇いはその動きを鈍らせた。石田が弓を持つ拳の先は至近距離にいる恋次を既に捉えており斬魄刀で石田を切り裂くまでに霊子の矢は放たれるだろう、それが恋次の隙を生んだ。

 

しかしそれだけだった、阿散井恋次の選んだ答えは体を崩して更に一歩踏み込む事。急所を庇いながら体当たりの様に急激に沈み込む恋次の体に石田の狙いがブレた、矢を外した正真正銘の隙を再び捕らえた恋次の斬魄刀が遂に石田の体を捉えた。

 

「グゥッ…!!」

 

「テメェは弱くはなかったが俺よりは弱かったな、大した根性だが俺を邪魔した罪で死罪だ」

 

脇腹から血を流しながら膝を突いた石田雨竜を切り捨てる為に大上段に振り上げた斬魄刀、私の為に命を賭した者の命が奪われようとしている。

 

「阿散井恋次、テメーを殺した男の名だ!!よろしく!!!」

 

―――斬魄刀が振り下ろされる、それはアスファルトで舗装された地面を砕き、慌てて阿散井恋次はそこから距離を空けた。

 

「何だテメェ…!?死覇装…?死神か!?」

 

「黒崎一護、テメーを倒す男の名前だ。ヨロシク!!」




僕は ついてゆけるだろうか

君のいない仕事のスピードに


総合評価が千点桜になったので大歓喜、あとは龍紋鬼灯丸(評価バー)が紅くなるのが目標ですね。

誤字報告、とても感謝しております。
評価と感想お待ちしております。

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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