メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
『なーんか、グランドフィッシャーの件といい、世界の流れが違う気がするなぁ。違う世界にでも迷い込んだみたいだ』
真咲の虚にして真咲の斬魄刀であるホワイトは霊子を隠蔽しつつ民家の屋根に身を隠しながら黒崎一護と阿散井恋次の戦いを眺めていた。
先日のグランドフィッシャーとの闘いで折られた一護の斬魄刀は既に井上織姫によって修復されている為、白鞘穿月の本体である斬魄刀は今一護の手にはない。
よってここからは一護本人の戦い、そして己の運命を決定づける夜の始まりだ。
「―――死覇装だと?テメェ何番隊だ、今の空座町の管轄は十三番隊か?だがテメェみたいな髪色した奴は見た事ねぇ」
「俺も始めてだよ、お前みたいな愉快な眉毛をしている奴は見た事ねぇ」
「どいつもこいつも……!!第一なんだお前、その馬鹿デケェ斬魄刀は!!」
「知らねぇよ、最初からこうだ。これが普通なんだと思ってたがな」
斬魄刀の大きさは霊圧の大きさ―――というのは実は間違っていない、斬魄刀は本来入隊した死神全てに貸与される浅打を基本とする。
浅打は未完の斬魄刀であり本来は刀と同じく脆い物である、そして膨大な霊力を注ぎ込まれては未熟な斬魄刀では耐えきれずにそのサイズは肥大化させる事で対抗する。
それを己の霊力で圧縮する事で斬魄刀は通常のサイズを維持されるがその結果、肥大しようとする刀身には常に膨大な霊圧によって圧縮が加わりそれが鍛錬となって斬魄刀はその堅さ
としなやかさを向上させる。
阿散井恋次はその前提の下、圧縮をかけられても通常のサイズを超える斬魄刀から一護の霊圧の規模を錯覚したのだ。
「一護……何故来た…莫迦者…!!」
「成程、テメェがルキアの死神の能力を奪った奴か!!」
「だったらどうする」
「殺す!!」
現世に現れる死神には外界における影響を最小限にする為、限定封印と呼ばれる霊力を二割にまで抑え込む術式が刻まれる。
それを以てしても阿散井恋次という死神から放たれる連撃は一護の見掛け倒しの斬魄刀では弾くのが精一杯であり、徐々に押されて体勢が崩れていく。
「やっぱりだ!!お前の斬魄刀はデカイだけで霊圧が駄々洩れで使いこなせてねぇ!!」
「うるせえ!!」
大振りで斬魄刀を振り返すも隙だらけの一撃に当たる恋次ではない、拍子抜けした恋次だが弱者が朽木ルキアの能力を奪える筈もないと油断を振り払って一護に問いかける。
「テメェの斬魄刀の名はなんだ、死神擬き」
「あぁ?斬魄刀の名前だと?前に聞いた時は『穿月』って言ってたぜ」
違う、それは私が付けた私である斬魄刀の名前であって一護の斬魄刀の名前ではない。
「たった数ヶ月で始解に至るなんざ中々だが、何故始解しない」
「コイツに聞いてくれよ、名前を呼んでもうんともすんとも言わねぇからよ」
「―――ぶははははははは!!!!!」
それを聞いて阿散井恋次は弾かれた様に笑った、死神の代名詞とも言える斬魄刀の解放が出来ない未熟者に恐れを抱いた己に対して馬鹿馬鹿しくて笑ったのだ。
「斬魄刀に見放されるような野郎が俺とタメを張ろうなんざ―――二千年早いんだよ!!」
「止めろ恋次!!」
「いい加減遊びは終わりだクソガキ!蛇尾丸、目の前の敵はテメェの餌だ!!」
「形が変わっただけで何が変わるって!?」
「だったら味わってみろよ、蛇尾丸の本領をなァ!!!」
阿散井恋次の持つ斬魄刀である蛇尾丸は所謂蛇腹剣のような形をしていた、一護の間合いの外から振るわれる伸びた刃節が一護に襲い掛かる。
伸びる刃節とそれを繋ぐワイヤーで構成された鞭のような性質を持つ以上、単純に受け止めるだけでは勢いを止められない。
本来間合いが伸びるというのはそれだけで厄介だ、自分は攻撃出来ずに相手は出来る。しかし間合いだけで言えば一護にも勝算はあった。
飛ぶ霊圧の斬撃、今度こそ阿散井恋次の表情は驚愕に染まった。民家に当たらない様に配慮した様だがそれが放たれた付近の地面が底が深く見えない程に抉れていたのだから。
「あ……れ…?」
『馬鹿、斬魄刀が補助しない状態であの一撃を放てば霊力ぐらい枯渇するわな』
「なんだよお前……訳わかんねぇ…!!」
弱者と断じた男が放った一撃は霊力を抑えられた今の恋次にとって致命傷になり得る威力を持っていた、しかしそれを一発撃ったら今度は勝手に疲労困憊になる相手に頭が混乱する。
今の阿散井恋次を動かしたのは恐怖、そして己の職務における責任感だった。この存在を野放しにすればいずれ多くの被害を生むだろう、一刻も早く目の前の男の脅威から逃れる為に斬魄刀を振り上げた。
それを止めたのは朽木ルキア、既に一般の人間レベルまでに格を落とされた脆弱な少女の身でありながらも死神に飛び掛かり命を繋げんと必死だった。
「逃げろ!!一護!!!」
「離せルキア!!コイツは危険だ!!」
「立ち上がって逃げるのだ!走れ!一護!!!」
必死に叫ぶ朽木ルキアの声、朦朧とした一護の脳裏に残る残響がかつての誓いを思い出させる。
一護、お前はいつか日常へ帰るだろう。だが覚えておいてくれ、簡単に消えてしまう命の儚さを、それを護り育む事の尊さを。
「――――誰かを見殺しにした俺が日常へ帰るなんざ、明日の俺が情けない俺を殴るだろうよ」
再び斬魄刀を握る黒崎一護、しかし先程とは様子が違う。大きく吐いた吐息が、更なる大きな吸気を呼び起こす。
『霊王の肺の力……見せてみろ一護』
今にも飛び掛からんとする一護から放たれる霊圧が恋次の全身に叩きつけられ恋次は咄嗟にルキアを振り払って防御の構えを取らせた。
次の瞬間、黒崎一護は動いた。一閃、避ける事叶わず。
「な…!?」
先程までとは違う一護の動き、大雑把な動きさえ視界の端にしか捉えられず。一護の乱暴な切り上げは斬魄刀で受けた恋次の体ごと弾き飛ばし、受け止め切れなかった一護の斬魄刀が掠った額からは胸元まで垂れる程の血が流れた。
「さっきまでの動きと全然違うじゃねぇか!!」
蛇尾丸を伸ばして何度も振り下ろして一護に攻撃するも全てが霊圧を纏った斬魄刀で弾かれる、ならばと狙いを変えて蛇尾丸を拘束の為に動かし一護の斬魄刀を捕縛する。
蛇尾丸を通して流れる生物であれば神経ごと焼き払う一撃は一護に到達する前に斬魄刀を恋次に向けて投擲する事で回避された、斬魄刀を躱す事に集中して反応が遅れた恋次の頬に喧嘩慣れした一護の尋常ではない霊力を込めた拳がめり込んだ。
地面に突き刺さった己の斬魄刀を抜き一護は恋次を斬る為に刀を振るう、それが命を奪う行為だという事に自覚を持たないまま。
「コイツで―――終わりだ!!!」
次の瞬間、一護の視界に映ったのは切り裂かれた死神の姿では無く血溜になった己の足元。そして己の体が重力に引かれて上体が折れ曲がり、目前に地面が迫り来る光景だった。
「鈍いな、倒れる事さえも」
初めて聞いた声、そういえばもう一人居たんだった。
「一護!!」
「―――終わりだな、コイツは」
死神とは霊子で構成されている、魂魄となった存在であっても外部から内部へ霊子を取り込まなければ存在を維持できずに死んでしまう。
朽木白哉は一瞬で黒崎一護の霊力の源である鎖結と魄睡を砕いた、こうなってしまえば存在を保つことは出来ずにそのまま死に至る魂魄の急所である。
『霊王の肺がなければ即死だったな』
一方で黒崎一護の中に存在する霊王の肺が失われていく己の霊力を察知して再び活動し霊力を生み出して命を繋いでいた。
しかしそれが余りにも微量であった為に、幸運にも現場にいた死神達に察知される事は無かった。
「―――手を離せ、小僧」
死んだふりをすれば、この場を乗り切る事さえ出来たのだ。それが出来なかったのがこの少年が少年たる所以だった。
「諦めねぇぞ……俺は―――!!」
黒崎一護にしてみればこの怒涛の日々はただの数ヶ月の出来事、それでも彼と朽木ルキアに結ばれた友誼は彼にとって掛け替えのないものになっていた
「人間の分際で兄様の裾を掴むとは何事だ!身の程を知れ!小僧!」
朽木白哉の裾を掴んでいた拳に走る鈍痛が、耳朶を叩く朽木ルキアの悲痛な叫びが黒崎一護を萎縮させる。
朽木ルキアにとっても彼とは同じく人間として似たものを感じていた、共に雨の日に大切な者を失った者同士なのだ。
「兄様、いえ朽木白哉様。全ての責任は私にあります、全ては軟弱な私が招いた事態。この一身を以て罪を償います」
「ルキア、何を言って―――」
「お前はもう喋るな、全部無意味だったんだよ」
阿散井恋次によってぞんざいに足蹴にされても黒崎一護の体は指一本も動かす事は叶わなかった、朽木ルキアが連れていかれる姿をただ眺める事しか出来なかった。
「待て、ルキア!!!」
「一歩たりともそこを動くな。私を追って来てみろ、私は貴様を絶対に許さぬ……!!」
「いずれ果てるその命、一瞬でも永らえた事を感謝するがいい!!」
「一護、お前はいつか日常へ帰るだろう。だが覚えておいてくれ、簡単に消えてしまう命の儚さを、それを護り育む事の尊さを」
「全ては生きてこそだ。死ぬ事も、何かを残す事も生きているから出来る事なのだ」
「このような世界に巻き込んで、本当にすまないと思っている」
かつてそう言ったルキアはまるで郷愁を感じる様な何処かを遠く、俺の向こうに何かを見る様な目をしていた。
「生きてくれ、一護」
本当に悲しい事は、雨と一緒にやってくる。
失くしたものを
奪い取る
休暇と残業代と消えた同僚と
あとひとつ
皆様の霊圧で龍紋鬼灯丸(評価バー)が紅くなりつつあるので連日投稿しました。
皆様の評価と誤字報告、とても感謝しております。
引き続き、評価と感想お待ちしております。
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい