メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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ハロー・グッドバイ

 

 

―――尸魂界、六番隊宿舎。その奥にある隊ごとに備えられた牢屋の一室にて朽木ルキアは椅子に腰掛けながら凪の様に過ごしていた。

 

朽木白哉と阿散井恋次によって尸魂界に送還され、厳しい取り調べを受けるかと思えばそうでもなく六番隊の隊士から簡単な事情聴取を受けた後にここへ幽閉されている。

 

出される食事には手を付けぬままだ。ここに来て数日は放置したままだが日に三度、常に新しく交換されている事を見ていずれ確実に死罪となる身にも尸魂界は寛容なようだった。

 

「しかしここは寂しい所だな、客人に茶も出さぬとは」

 

「……二番隊隊長殿?」

 

「そう不貞腐れるな、朽木ルキア。かつての様に砕蜂殿と呼ぶがいい」

 

護廷十三隊・二番隊隊長、隠密機動総司令官である砕蜂殿。

 

他人に厳しく、自分に厳しく。しかしその厳しさには死への諦念と生への渇望が入り交じる不器用な御仁だ。

 

本来は護廷十三隊の中で隠密を仕切る二番隊隊長である彼女と知り合う機会は中々ないのだが、尸魂界には女性死神協会という互助組織が存在する。

 

その中で女性死神協会の理事も兼任する砕蜂殿と顔を合わせる機会があった、彼女は舌鋒鋭い方だがそれでも人情に溢れた優しい方なのだ。

 

「どうして此方に……というかどうやってここに入ったのですか?」

 

「馬鹿者、隠密機動総司令官に入れぬ場所が尸魂界にあると思うな」

 

檻で区切られた牢屋の扉は一つ、少なくともその扉が開いた気配がなかった以上別の経路が存在するという事だろう。少なくとも牢を監視する隊士に気付かれずに侵入できる方法が。

 

「申し訳ございません、砕蜂殿に態々ご足労を」

 

「気にするな。お前が朽木家の人間だからではない、お前は今尸魂界でも特に重罪の極囚であるが故に堂々と私も動けるというものだ、しかしそれは唯の建前で本題は別にある」

 

「と言いますと」

 

「浦原喜助、お前の調書にその名前があった」

 

現世にて浦原商店を開き、尸魂界や死神の造詣に深く、そして尸魂界と交流を持つ謎の人物。

 

「あの男は一体何者なのですか」

 

「先代十二番隊隊長であり技術開発局創設者にして初代局長、私の元上司でもある。そしてかつては重罪を犯して現世に追放された男だ」

 

「その罪とは一体?」

 

「知るな朽木ルキア、極囚であり死罪となる身でも知ればその罪は()()()()()()()()()()()()

 

伝令神機に細工をしていたのも、一護に死神の力を渡していた後も暗躍していたのは何某かの思惑が在っての事だろう。

 

そして恐らく私の霊力が徐々に枯渇していったのは彼奴の義骸の仕業であろう、技術開発局の長であればその程度は容易い筈だ。

 

しかしその目的とは何か、浦原喜助が追放された罪とは何か。その疑念が私の心を離そうとしなかった。

 

「今言えるのはあの男が我らが敬愛する夜一様を攫って行ったという事だ!安心しろ朽木ルキア、アイツは確実に私が処刑してやるからな!!!

 

「それは―――」

 

 

 

それは私怨では?朽木ルキアは訝しんだ。

 

 

 

「しかしすまなかったな朽木ルキア隊士。本来は貴様の護送と聴取は我々の任務だった、状況によっては即殺処分を実行する予定だったが貴族の圧力を受けた」

 

「それは、朽木家からという事でしょうか」

 

「通達は形式上四十六室からになっているが、十中八九そうだろう」

 

「……砕蜂殿、私は死ぬのでしょうか」

 

「死刑は固いだろうな」

 

「はっきりと言われるのですね」

 

「色々と思う事はある、しかし貴様が重罪を犯したならば死罪も止む無しだ」

 

朽木白哉もかつての妻との約束に基づき出来得る限りの減罪の為に動き、四大貴族の汚点を拭う為と後ろ指を刺されている状況であるが事態は最悪の様相を示していた。

 

現状朽木ルキアの罪状は死神の力を譲渡した事、そして死神に対して虚化実験を実行した浦原喜助に関与した事、そして重霊地において巨大虚出現に関与したと思わしき事。

 

一つだけでも特大の厄ネタだが、初めを除いて朽木ルキアに思惑があって出来る事ではない事は護廷十三隊の上層部において共通の理解を得られている。

 

その為に四十六室は護廷十三隊の暗部を務める二番隊に朽木ルキアの尋問を要求しているが、先述した通り現在朽木ルキアは六番隊が身柄を拘束し他の隊の干渉を防いでいる、防げてはいないのだが。

 

しかしそれを砕蜂は伝えない、彼女は職務を違えない。彼女は護廷十三隊、引いては尸魂界の為に動く死神なのだから。

 

「言い残した事、やり残した事があれば言え。置いて行かれた人間は、消えた人間よりも辛いのだからな」

 

「そうですね……それは、身に染みています」

 

「ふん……まあいい、貴様も元は死神。恥の無い最期を過ごせ」

 

「ええ、砕蜂殿もお元気で」

 

そう言い切る前に砕蜂殿の気配は消えていた、やはり隠密に相応しい神出鬼没の身のこなし。

 

朽木白哉は朽木ルキアを殺すだろう。ルキアが朽木家に拾われてから四十年余り経とうとも兄と呼ぶ男の心中は察せず、またルキアに寄り添う言葉等一つも無かったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「大前田。お前は死刑と現世への追放、どっちがいい?」

 

「何ですかその質問!俺何かやらかしました!?」

 

「いいから答えろ愚図」

 

「グッ…!?―――その二択なら俺は現世への追放を選びますよ、命はあるに越したことはないでしょ」

 

「隊長格七人、鬼道長格二人を尸魂界において犠牲にした男が現世に追放。死神の力を譲渡し、先の男に関与した女が死罪。これはどう思う」

 

「うわー思惑をビンビンに感じますね」

 

「大前田、私は現世で朽木ルキアを殺すつもりだった。例え朽木家が口を挟もうともな」

 

「四十六室が口挟みましたけどね」

 

「ああ、その通りだ。しかし朽木白哉が態々自分から現世に赴くとはそうそう思えん」

 

 

 

 

 

「――――ここからだぞ、大前田。時間が経てば経つほど、毒というモノは廻る物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『どっひゃーーーーーー!!!なんじゃこりゃーーーー!!!』

 

「あの店の地下にこんなバカでかい空洞があったなんてーーーーーー!!」

 

「うるせえよ!ワザとらしいんだよアンタ達は!!!」

 

浦原商店の地下に存在する通称『勉強部屋』、虚構の青空と枯れた木々のなれ果てという薄ら寒い空間は以前と相変わらずといった状態であった。

 

「まあいい、さっさと始めようぜ。アンタ達が言う勉強会って奴を!!」

 

「言い覚悟です黒崎サン、ではさっさと始めましょう♡」

 

朽木ルキアが装着していたグローブ――悟魂手甲(ごこんてっこう)――の様に、浦原喜助が杖の石突を黒崎一護に突き立てるとスルリと魂魄が肉体から乖離された。

 

『一護、テメェは最早死神じゃねぇ。あのワカメに霊力の源である「魄睡」とブースターである「鎖結」とを粉砕された訳だがなぜトドメを刺さなかったか分かるか』

 

「知らねーよ、俺が弱かったからじゃねぇのか」

 

『人間で言えば肝臓と心臓を壊されたようなもんだからだよ、普通ならその時点で死亡は確定だ』

 

言葉にされて初めて分かる恐怖、ゲタ帽子から渡された薬品により急激に塞がった古傷が疼いているような気すらする。

 

『しかしそこは織姫ちゃんが応急処置をかました訳だが完全じゃねぇ、傷は治ってもお前の魂魄に馴染んじゃいねぇんだ』

 

「どうすればいい」

 

『車で言えばバッテリー切れだ、それを治すには外部からの電力供給が必要なんだが魂魄はそう単純に出来てないから俺は考えた訳だ』

 

そう言うとホワイトは俺と俺の肉体を繋ぐ『因果の鎖』を斬魄刀で切断した。

 

「――――なっ!!?何しやがる!!コイツを斬られたら俺の肉体に戻れなくなるだろうが!!」

 

『死神にそんなもんは要らねぇだろ。そして一護、今からお前が完全に虚化するまでおよそ―――、一時間だ!!』

 

「待て待て待て!俺は死神になりたいんだ、虚じゃねぇ!!!」

 

『一護、虚とは何だ』

 

「何ってそりゃあ、バケモンじゃねえのかよ」

 

『井上織姫の兄もバケモンだったか、織姫を想って自らの命を絶ったあの男はバケモンだったのか』

 

井上織姫を想い、虚となって空虚な思いを抱えて唯一の頼りであった井上織姫を憎んだ兄である井上昊。

 

『人は誰しも虚を持っている。外界によって抑圧された非道徳的なる己の影!生命の原初的な集合的無意識の象徴!』

 

『肉体の枷を解き離れて(エゴ)となった時、魂魄を抑圧していた因子(スーパーエゴ)が取り除かれると内圧が上昇して魂魄は(イド)と化す!』

 

『魂とは意識の象徴、魄とは無意識の象徴!魄とは魂の基礎!魂は魄を導く者!分かるか一護!死神の象徴であり、己の魂の写し身である物が何故斬魄刀と呼ばれるのか!』

 

『つまり死神の力とは己の精神の影!死神の強さとは即ちエゴの強さ!お前の欲する力はずっとお前の中にあるんだ!!』

 

「分けわかんねぇよ!俺はどうすればいいんだ!!」

 

『己の虚と対話しろ!一護!!!』

 

「はぁ!!?」

 

斬魄刀の名を知る、つまりは始解に至るまでは斬魄刀との対話と同調が必要であり時には刃禅と呼ばれる精神統一の構えを取る事もある。

 

己の内面を知る事、それを認める事、それは言う程簡単な事ではない。また性善説や性悪説と二分出来る程容易でもない。

 

人には瞬間的に欲求を満たそうとする本能と、それを抑圧して社会性を構築する理性で構成されている。

 

理性や社会性を順守する必要が無くなった魂魄は、本能のままに動く虚へと変わる。本能を満たす為に最適な形と能力に己の姿すらも変えてしまう程の力を己に秘めている。

 

死神と虚は根幹を同じとする力であり、自己を強く保てば死神となり、己の理性を失った者が虚になる。

 

斬魄刀の能力とは、虚の能力でもある。始解や卍解は、帰刃(レスレクシオン)刀剣解放第二階層(レスレクシオン・セグンダ・エターパ)と同じモノなのだ。

 

尸魂界に存在する流魂街には魂魄であっても文化や社会が存在する為にスーパーエゴが作用するが、尸魂界に虚が出現するというのはそういう事なのだ。

 

自らが塞ぎ込む時こそ己の内面は語りかけ、自らの内面を語る時は真なる内面は遠ざかる。

 

人は既に完成している、新たに何かを得る事は出来ないし、己の何かを捨てる事は出来ない。それをした者は即ち己を滅ぼすであろう。

 

故に己の内面との対話と同調は難しく、現世では禅を以て語り合うのだ。

 

 

 

 

 

『一護、今からお前の心象世界にお前を送り込む。いいか、決して逃げるな!絶対に慄くな!お前の力はその先にある!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『姉貴も馬鹿だなぁ。対話とか、同調だとか。そんな面倒くさい話じゃねぇんだ』

 

 

 

 

黒崎一護の心象世界に黒崎一護の影。姿形は黒崎一護そのままに、その死覇装を白く染めたホワイトが巨大な斬魄刀を一護に向ける。

 

 

 

 

『要はここで勝った奴が、本物の黒崎一護って事だ!!!』

 

 

 

 




ぼくは ただ きみに
退職しますを言う練習をする



後半の文は簡単に言うとOSRは強いというだけの事ですね。
オサレポイントバトルはつまり我の強さの競い合いでもあった。



想像以上の評価に身が震えております。(歓喜)

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。


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