メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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君を見つめて

 

 

 

 

 

 

俺はお前だ お前は俺だ

 

俺はお前じゃない お前は俺じゃない

 

君に呼んで欲しいのは

 

たったひとつの僕の名前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「縛道の九十九・禁!!!」

 

元大鬼道長でもある握菱鉄裁が誇る縛道の中でも特に高位の縛道が黒崎一護を後ろ手に拘束して杭を穿つ、かつては仮面の軍勢に対しても行われた内在闘争の儀式の再現だ。

 

「ホワちゃん、一つだけ聞いていいですか?全ての魂魄は虚を持つ、虚は人間の無意識の象徴。貴女はそう言いましたね、では滅却師とは一体なんですか」

 

滅却師は虚にならない、何故なら虚に対する抗体がないから。滅却師にとって虚は毒そのものだから。

 

『アンタは虚化した仮面の軍勢達にワクチンとして神聖滅矢を使用した、知らねぇとは言わせないぞ』

 

「答え合わせくらいしてもいいでしょ」

 

『―――かつての世界において虚は恐るべき化物だったわけだが今はそうでもないよな、早期に対処すれば雑魚な訳だし』

 

『では何故虚はそうなった、何故世界の構造は変わったのか。滅却師は虚に抗体を持たない者が成る訳だが、死神は基本的に霊力さえあればなれる訳よな』

 

『それじゃあ人間ってなんだ、虚を抑制する理性を持った獣。理性とは魂であり心は神、そして虚は魄。東洋の五行思想においても魄(虚)は魂(人間・死神)を襲い、魂は神を補い、神は魄を抑えると解釈できる』

 

「じゃあなんですか、滅却師は神だと言うんですか?」

 

『その通り、ユーハバッハの聖別は五行思想における魂を神に補充する理を利用したものだ。実際滅却師には神に対する攻撃が効くらしいぜ、後は火とか熱に弱い』

 

『話は戻るが何故滅却師は虚に弱いのか。簡単に言えばⅠ型アレルギー反応が出るんだ、免疫が過剰に反応して起こるigE型の即時型アレルギー。ちなみにこのigE型の免疫をアナフィラキシー、このアナフィラキシーによって引き起こされる全身的ショック反応をアナフィラキシーショックって言うぞ*1

 

『つまり滅却師は虚に対して抗体を持たないんじゃない、むしろ抗体を持っているからこそ虚ごと死んでしまうんだ。とは言えデメリットだけじゃない、それを利用して滅却師は己の霊力に混じった虚の抗体を矢に乗せて直接打ち込む事で虚の滅却が出来るという訳だ』

 

「それじゃあ真咲サンが破面化しても無事だったのは」

 

『良くも悪くも聖別の仕業だな。ユーハバッハが余計な事をしなければ真咲は無事だったし、その余計な事のおかげで破面化しても死なずに済んだ』

 

「ちなみにこのままだと黒崎サンが死ぬのでは?」

 

『混血だし、死神の因子も交じってるから丁度いいだろ』

 

「そんな適当な」

 

『お前と話していると話が長くなるんだよ。まあ見てな、一護は出来る奴なんだぜ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだよ、ここは―――」

 

ここは黒崎一護の心象世界、青空を貫かんとばかりに伸びたビルの群れが無数に存在する場所。

 

この横たわった世界で右手を天壌無窮に広がる青空に向ければ左には底の見えない永遠無限の闇が広がっている。

 

「目覚めたか、一護」

 

「あぁ!!?」

 

先程まで存在した荒れ地のような勉強部屋から一転、まるで外の様な景色に驚愕するも突然の声にその身を跳ねさせた。

 

「誰だよ、アンタ」

 

「分からぬか、私だ。      だ」

 

聞き損ねていたわけでは無さそうだ。しかし彼の口が動き、呼気が音となって放たれたのにそれだけが塗りつぶされたかのように届かなかった。

 

「届かぬか、悲しい事だ。どうすればお前に届く、お前の事なら私は何でも知っているのに」

 

全身を覆い包む黒色の外套、一護はその男に覚えが一切なかった。

 

相手が一方的に自分の事を知っているのは恐怖でしかないが、一護はこの男を白様が用意した案内人だと理解する事にした。

 

「そーかい、オッサンには初対面で申し訳ねぇが聞きたい事がある。アンタが俺の事を何でも知ってるなら、俺の虚とやらは何処にいる」

 

「何故私に聞く。お前の影は、お前が目を背ければ何時だって影はそこにある」

 

男の腕が持ち上がって示指を伸ばし、ビルの壁面には追従して影が長く伸びていく。

 

振り向けば闇、水平に伸び行くビルの足元には地面がある筈なのに深い闇の中では果てを見る事は出来ない。

 

広大な世界に足音が響く、オッサンの声は掠れて消えたのに、決して大きくない筈の一人分の足音が迫り寄ってくる。

 

その男は黒崎一護であった、同一なる姿をしたドッペルゲンガー。

 

黒崎一護の心象世界に黒崎一護の影。姿形は黒崎一護そのままに、その死覇装と全身を白く染めたホワイトが巨大な斬魄刀を一護に向ける。

 

『こんなところに何の用だ、一護』

 

「――――誰だ、お前は」

 

『俺は黒崎一護だ』

 

「違う!!俺が黒崎一護だ!!」

 

『俺より弱い奴が黒崎一護を名乗るっていうのは……我慢ならねぇな』

 

己の存在証明であるアイデンティティの崩壊を理性は容認できない、己という種の繁栄を否定される事を本能は容認する事はない。

 

「俺の名前だ、俺が両親から貰った名前だ!!名乗って何が悪い!!」

 

『何か一つのものを護り通せるように、だろ?お前は本当に誰かを護れたのか?』

 

 

『護れてねぇだろ!!』

 

 

『母親を死なせて!荒れて不貞腐れて喧嘩して家族を泣かせて!その家族だって朽木ルキアが居なかったら全滅だ!!町が虚に襲われても仲間や家族を護れず、その挙句に朽木ルキアを死神なんぞに攫われて!今度は井上織姫に庇われただと!?』

 

『そんな奴が名乗れる程に軽い名前じゃねぇんだよ。黒崎一護はすげえ奴なんだ、お前みたいな自殺志願者が名乗って良い名前じゃねぇ』

 

「うるせえよ!分かってるんだよ俺が誰よりも弱いって事は!!」

 

『だったらお前の体を寄越せ、俺が全部やってやる!尸魂界の死神共を全員ブチ殺してやるよ!!』

 

「……それは、ダメだ」

 

『―――だったら全部投げ出しちまえよ一護!誰もお前を責めないさ、朽木ルキアも言ってただろ、日常に帰れってさぁ!!』

 

「……それは、出来ねぇ」

 

『イヤイヤ言ってんじゃねぇよ!!何が出来るんだよお前に!!』

 

「俺が、護るんだ」

 

『アァ!!??』

 

「今度こそ俺が強くなって皆を護る!俺に死神の力を寄越せ、俺の虚!!!」

 

 

 

 

 

『何も分かってねぇな、一護』

 

 

 

 

 

ホワイトが怒りに任せて振るった剣圧が隣に浮かんでいたビルを容易く両断した。彼は怒っていた、今の黒崎一護の姿に対して失望していた。

 

 

『ぼうっとしてねぇで構えろ、一護』

 

 

 

「……は?」

 

 

 

『本当に、理解の遅いガキだ。俺が斬魄刀を手にしているという事は――――俺はいつだってテメェを斬れるって事だ!一護!!』

 

その瞬間、ホワイトが踏み込み斬魄刀を上段に振るう。今の一護にとって振るわれた一撃を回避出来たのは奇跡に違いなかった。

 

 

『俺はお前だって言ってるだろうが!死神の力はここにある、お前が死神に成れないのは覚悟が足りないからだ!!』

 

『死神の力が欲しければ俺から奪ってみろ!!俺が勝ったらテメェの体を貰うぜ、要はここで勝った奴が本物の黒崎一護って事だ!!!』

 

「ふざけんな!素手でどうやって戦えって言うんだよ!!」

 

『随分と余裕だなぁ!!死神と戦う時も同じ事が言えるのか!?喰らい付いてでも戦って見せろ!!』

 

黒崎一護のフィジカルは高く、また親譲りの強い霊力と霊感を持っている。ただしそれだけの子供であり、それだけの高校生でもあった。

 

傍から見ればホワイトが遊んでいる、逃げ回るだけの黒崎一護を甚振る為に斬魄刀を振っている。

 

『俺に勝てない奴が、死神達に勝とうなんざ二千年早えんだよ!!』

 

しかし今度こそ、ホワイトの握る斬魄刀が一護を袈裟切りにする為に振り下ろされる。

 

一護は逃げる事が出来ず、躱すには遅すぎた。しかし黒崎一護に蓄積された経験が構えを取らせた。

 

「こいつは―――!!」

 

『お前はそっち側に立つのか、袖白雪』

 

かつて朽木ルキアが握っていた袖白雪が、朽木ルキアを危険に晒した黒崎一護を護った。()()()()()()()()()ホワイトの斬魄刀と交差するように受け止めたのだ。

 

『どうする一護、ソイツで俺と戦うか?』

 

「――――必要ない」

 

黒崎一護が弱かったから見て居られなくて力を貸したのだ、朽木ルキアはそういう奴だった。

 

ビルの壁面に袖白雪が突き立てられる。朽木ルキアの斬魄刀が目の前の虚に折られないように、傷一つ付けさせない為に黒崎一護は一歩前に出る、無手にして自然体で立つその姿は不動。

 

朽木ルキアがここに居れば見せてやりたかった、自分だけの力で黒崎一護は戦える。どんなに相手が強くても、どんなに傷ついても、お前を護ってやれる男なんだと証明したかった。

 

 

『良い覚悟だ――――!!』

 

 

再び目にも止まらぬホワイトの踏み込みが斬魄刀へ伝わり、黒崎一護の心臓を貫く為に切っ先が胸骨を砕きながら侵入する。

 

黒崎一護は前進する、体内を突き破って背中から斬魄刀が生えていく、ホワイトが斬魄刀を引けば黒崎一護がホワイトの喉元に喰らいつくだろう。

 

当然腕を伸ばしたままの姿勢であれば黒崎一護の牙は届かずの自殺で終わる、しかしホワイトは掴んでいた斬魄刀を手放し、黒崎一護から距離を取る。

 

 

 

『抜いて見せろ』

 

 

 

斬魄刀を奪われ、姿が崩壊していくホワイトが語りかける。

 

黒崎一護は覚悟を示した。逃げず、怯えず、脅威と恐怖に立ち向かい自らの力だけで反撃に出た。

 

ホワイトの顔には先程まで存在した嘲るような表情ではなく、むしろ黒崎一護を褒め称えるようなむず痒い顔をしていた。

 

 

 

『二度と手放すな』

 

 

 

そしてホワイトの姿が消え去ると同時に黒崎一護の心象世界が崩壊していく、斬魄刀として抑え込まれていた虚の因子が解放されたことで魂魄のバランスが崩れつつあるのだ。

 

数多の伸び行くビルすらも崩壊し、己の虚空に放り出される一護。何時の間に自分の傍に浮かぶオッサンがどこか誇らしげに一護を見下ろしていた。

 

「一護、良くやったな」

 

「オッサン、俺……」

 

「もはや時間がない。現実のお前の肉体が虚になりつつある、それを止めるには相反する死神の力が必要だ。早くその斬魄刀を引き抜け」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあの……結構グッサリ刺さって抜けないんだけど……」

 

「……」

 

「というか俺の心臓にガッツリ刺さってるんだけど、これ抜いても大丈夫なのか……?というか手遅れなんじゃ……」

 

「……」

 

 

 

 

「何をしている!崩れるぞ!!早く斬魄刀を引き抜け!!!」

 

「都合悪い事を無視して進めるんじゃねぇよ!!!畜生――――抜けねえ!!!!」

 

 

 

 

 

全長にして五尺*2はある斬魄刀を己の胸元から真っすぐ引き抜くのは困難であった。

 

何か使える物はないかと辺りを見回したその時目に映ったのは、ビルに刺さっていたが故に同じく虚空に放り出された朽木ルキアの斬魄刀だった。

 

そうだ、黒崎一護はかつて心臓を斬魄刀で貫かれている。朽木ルキアに死神の力である霊力を注がれた時、黒崎一護は死神の力に目覚めたのだ。

 

黒崎一護は考えた、そして思いついてしまった。己の斬魄刀の力、かつて扱った事のあるその能力。

 

 

 

つまり、自分自身に月牙天衝を放つのだ。

 

 

 

月牙天衝は己の霊力を僅かに喰い、それを巨大な霊圧の斬撃に変換して放つ技である。

 

想定される未来は壮大な自爆、しかしどの道失われる命であれば微かな可能性に賭ける無鉄砲な勇気を一護は持ち合わせていた。

 

微弱な霊力を吸い上げ放たれる幽かな月牙天衝、それは刃を伝わって黒崎一護の体内にて解放された。

 

心臓から肺動脈へ直接霊力が流れ込み、黒崎一護の体内に存在する霊王の肺がその霊力を盛大に増幅する。

 

それが巡り巡って霊力のブースターである鎖結に辿り着いた時、黒崎一護の魂魄は―――――弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

*1
例外や語弊があります、あまり鵜呑みにしすぎないように

*2
約1.5m




社会に出れば、死んだも同然


皆様の感想と評価に感謝を。

ちなみに私が初めて好きになったキャラは津村斗貴子です。

よって黒髪でセミロングっぽいなキャラは優遇される可能性があります、ご容赦下さい。



誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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