メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
『浦原、一護が向こうに行ってから何分経った』
「五十分ですねぇ、そろそろ限界かも?」
『大丈夫だ、いざとなれば俺が一護の虚を乗っ取って破面化させればいい』
「うわー本当に便利なホワちゃんだ、最初からやってくださいよ」
『一護は追い詰められれば追い詰められる程に輝くんだ、輝く一護はカッコイイぞ』
「うーん、これは親バカなのか児童虐待なのか分からないっすね……」
黒崎一護が己の心象世界で己の虚に襲われ、正真正銘の危機の真っ最中でも外の雰囲気は似合わぬ程の朗らかさを見せていた。
『「がああああああああ!!があああああああああ!!!」』
『アイツあんだけ叫んで喉枯れねえのかな』
「むせた瞬間に集中が途切れて虚化とかは止めて欲しいですねぇ」
虚の仮面に顔を覆われても虚化に抵抗する黒崎一護、それを見て浦原は仮面の軍勢の時とは違い一般の人間であった黒崎一護を虚にさせるという荒療治に困惑している。
浦原という死神は真咲のホワイトを信用していなかった。真咲のホワイトが黒崎一護を手荒に扱っても壊す様な真似はしないという点は唯一信用している。
しかしホワイトという藍染が生み出したであろう虚が黒崎一護をどのような理由で鍛えているのかが不明のままだからだ。
藍染惣右介に反旗を翻すつもりなのか、それとも自分の利益だけを求めているのか、その場合に目指す最終地点は何処なのか。
少なくともホワイトが知っている知識は自分や藍染とは一線を画している、浦原喜助は倫理観の外れた男ではあるがそれでも善性の男であり少なくとも世界の安寧を願う人間の一人であった。
「黒崎くーん、頑張ってるー?」
「『あ』」
「え?」
『「ガフッ…アアァ―――――アアアアアアアアア!!!!」』
『あ、むせやがった!!』
「―――啼け!紅姫!!!」
「え?ええぇ!!?」
彼等は知る由もない、黒崎一護が死神の力を手に入れる過程で自らの心臓に突き立った斬魄刀から月牙天衝を放った事などは。
黒崎一護は知る由も無かった、雑草を引き抜く為に土を除けるくらいの気持ちで放った月牙天衝がまさか体内で威力が増幅されるなどとは。
井上織姫は知らなかった、早速黒崎一護が修行を頑張ると聞いてウキウキと差し入れを用意して訪れた場所でとんでもない事が起きているなんて。
結果から伝えよう、
黒崎一護の魂魄は―――――弾けた。
黒崎一護に内包された霊力の内圧が上昇して外界へと解き放たれ、その勢いのまま天井近くまで打ち上げられると共に魂魄の器に限界が訪れて黒崎一護は空中で爆発したのだ。
勉強部屋に黒崎一護の血液が血の雨となって降り注ぐ、黒崎一護だったものがべしゃりと湿り気を帯びた音と共に地面に落ちる。
黒崎一護は生命活動を停止…死んだのだ。
『一護ぉおおおおおおおおおおお!!!?』
「嫌あああ!黒崎くーん!!!!」
「あららー、胸元に完全に穴が開いてますね」
『風穴どころか胸元抉れてるんだよバカ野郎!左の胸部吹っ飛んで頭と右腕と下半身が辛うじて繋がってる程度じゃねえか!!!』
「死なないで黒崎くん!!イヤ!イヤあああああああああああ!!」
『こっちもトラウマ発症してるーーーー!!』
「テッサイさーん、時間停止お願いしまーす!!」
ここは黒崎一護の心象世界、青空を貫かんとばかりに伸びたビルの群れが無数に存在する場所。
この横たわった世界で右手を天壌無窮に広がる青空に向ければ左には底の見えない永遠無限の闇が広がっている。
『いきなり帰ってきて偉そうだなぁ、姉貴』
メゾンドチャンイチの住人が揃って正座させられている、そしてその中には黒崎一護も交じっていた。
『誰が喋って良いと言った?貴様共のくだらぬ意思で物を言うな。私に聞かれた事のみ答えよ。
一護が自爆した、心臓に月牙天衝をブッパした。私が問いたいのは一つのみ、何故に貴様らはそれ程まで頭が弱いのか。
死神の力を手に入れたからと言って終わりではない、そこから始まりだ。より経験を喰らい、より強くなり、一護が誰かを護る為に立つ為の道のりの始まり。
ここは十年余り、メゾンドチャンイチの顔ぶれがあまり変わらない。やべぇ虚共を葬る為に頑張ったのは常に霊王の欠片やら俺やら一護の底力だ。しかしお前達はどうか?何を一体頑張った?』
単純にホワイトはブチ切れていた、斬魄刀持ってこいと言ったら何がどうなって黒崎一護が汚い花火になるのか理解不能であった。
『黒崎一護、何故心臓に月牙天衝をブッパした』
「あの白い奴に刺された斬魄刀が抜けなかったからです!!!」
『それが何故月牙天衝をブッパする事に繋がるのかを言えと言っているのだ馬鹿者があああ!!!』
「ぎゃああああああ!!!!」
白様の拳によってビルにめり込む黒崎一護、最終的に斬魄刀を抜く事が出来なかった為に通常の魂魄のままであった一護は堪える事も出来ずにそのまま吹き飛んでいった。
『オッサン、何故黙って見ていた』
「黒崎一護なら大丈夫だと思っていた」
『監督不行き届き!及び最重要機密事項の漏洩の恐れ!処刑執行だ馬鹿野郎!!』
「ぐおおおおおおおお!!?」
『弟よ、何故黒崎一護の心臓に斬魄刀を刺した。私は黒崎一護と対話と同調の指示を出した筈だが』
『そんなかったるい事出来るか、男は殴り合いで上等だろ』
『だったら斬魄刀で刺すんじゃねぇ!一護の悪い所ばっか見習いやがってええええ!!!!』
『ぎゃあああああああああああ!!!』
「………」
「………」
『……許す!!!』
馬鹿共三人以外の連中はむしろ黒崎一護の生存に貢献している、黒崎一護の利になる者には白様は甘かった。
一方で這う這うの体でめり込んだビルから帰って来た三人を捕まえた白様はホワイトとオッサンの胸倉を掴み上げ揺さぶりながら叫んでいた。
『時間が無ぇって言ってるだろうが!!さっさと死神の力を出せ!名前を名乗れ!!』
『一護が月牙天衝をブッパした時に斬魄刀がどっか飛んで行ったんだよ!』
『だったらさっさと探して来いよぉ!何ボサっとしてんだお前!?』
『もう袖白雪でいいんじゃね?』
「……!!?」
『止めろよ!袖白雪が困ってるだろ!!』
袖白雪は斬魄刀のままなので一護のホワイトの様に喋る訳ではないが、微振動により鞘の中で震える音で異議を申し立てた様だ。
「名乗っても一護が聞こえぬのではどうしようもない」
『お前の名前じゃねぇ!斬魄刀の名前だ!!というかお前の名前を一護が知ってみろ!一護が一瞬で蒸発するわ!!』
え?このオッサンの名前ってそんなにヤバイの?とビビる黒崎一護、名前を言ってはいけないあの人なの?と距離を空ける黒崎一護。
「正直届かぬと分かってはいるのだがな。一護よ、『おいしさは、やさしさ』や『ユニーク・ヒューマン・アドベンチャー』の信念を掲げ、純露等を代表に製造する製菓会社と言えば?」
「株式会社 味覚糖?」
「ドイツの作曲家でバロック音楽の重要な作曲家と言えば?」
「J.S. ?」
「やはり私の声は届かぬようだな」
『遊んでる暇があったら斬魄刀探して来てよぉ!時間が無いんだよぉ!!!』
「あそこのビルに刺さっているぞ、ホワイト」
『あーあったわ、ちょっと一護抜いてこいよ』
「無理に決まってるだろ!!さすがにあそこまでは素で届かねぇよ!」
黒崎一護、高校生である。故にその能力は一般的な人間のソレであり、空を飛ぶというのは不可能であった。
『うだうだ言ってないで…とっとと抜いてこい!!』
「うわああああぁああああああああああ!!!!」
一護のホワイトに投げられ再び空を飛ぶ一護、斬魄刀を掴み損ねれば己の虚空に落ちて生還の望みはないだろう。
―――故に手を伸ばした、己の分身でもある斬魄刀、大切な者を護る為の力をその手に取り戻す為に。
再び黒崎一護は爆発する、自己のイメージがそのまま投影される魂魄の姿が死神の力を取り戻すとともに己の姿形を最適なものに作り替える。
その身を死覇装に包み、その手には斬魄刀を持つ。顔を覆う虚の仮面を外し、仮面を地面に叩きつけ、仮面を踏みつけ、ついでに斬魄刀を刺した。
「……黒崎サン、大丈夫ですか?なんだか大層ご立腹の様な……」
「何でもない、ただ悪夢を見ただけだ」
「あぁ、そうですか……」
浦原喜助は何も聞かない事にした。斬魄刀というのは己の陰であるからして一癖や二癖はある物だ、折り合い付かずに何かが起こる事も有るだろう。
ついでに瞳からハイライトを失った井上織姫が、黒崎一護を笑みを浮かべながら見つめているのも無かった事にした。
恐れることは ただひとつ 疲れを知らぬ 社畜と為ること
皆様の感想や考察が沢山でとても歓喜しております、今後の展開までバレやしないかと冷や冷やもしております。
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい