メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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茶渡泰虎

 

 

浦原喜助の生存が危ぶまれている事なぞいざ知らず、空座町の廃ビルでは二人の人影が向かい合っていた。

 

元護廷十三隊二番隊隊長、隠密機動総司令官及び同第一分隊「刑軍」総括軍団長、四楓院夜一。

 

死神の基本戦闘術である斬鬼走拳、その内でも移動術の歩法と格闘術の白打に秀いており、特に瞬神とも称えられる程の高速移動術である瞬歩の技術は他の死神と一線を画す。

 

そんな彼女と相対するのは黒崎一護と同じく先日まで一般の高校生だった男、茶渡泰虎。黒崎一護によって素質が目覚め、完現術の能力を宿した男。

 

「お主を黒崎一護に同行させる条件は、儂に一撃を与える事じゃ」

 

「……分かった」

 

元々口数の少ないチャドは仔細を聞かずに己の完現術を発現させるとチャドの右腕が人にあるまじき形態に変わる。

 

「そして―――ここでお主は終わりじゃ」

 

瞬神、その名に疑いはなく――――それは固きを砕き、それは疾きを遮る。

 

夜一が放ったのは瞬歩からの言うなればローリングソバット、チャドは攻撃に移る前の気配に反応して己の経験から正中線を晒さずに右腕で受ける事を選択した。

 

結果的に肩まで衝撃が抜けて胸郭の辺りまで余波で傷付いた、しかしこの場には井上織姫はいない、チャドのケガがすぐさま治る事はない。

 

「お主の強みがその右腕なら、それを満足に扱えぬお前はどうする?」

 

「関係ない」

 

チャドは己の右腕を引き絞る、痛みなど気にする事なくその剛腕は夜一に目掛けて振り下ろされて躱される。

 

「そんな見え見えの拳に当たる訳ないじゃろうが、頭を使え、足を使え」

 

「む…!?」

 

恐るべき勢いの込められた拳の躱しざまに放たれる蹴りがチャドの胴体に突き刺さる、手加減をされていると分かっていても思わず膝を突き込み上げる胃液を何とか堪える。

 

「当たらぬ位置と当たる位置、相手の動きを読めば分かることじゃ。お主の拳の先に儂はおらず、代わりにお前の体は隙だらけ、阿呆の如き振る舞いじゃ」

 

ネコ科の動物のように柔軟かつ素早い夜一の体術は喧嘩のみ経験して来たチャドとはまさにアマチュアとプロの対決であり、瞬神を捉えるには遅すぎた。

 

「歩様は素早く、体の捌きは鋭く。儂は踊りは得意ではないが、これぐらいは出来んとな」

 

「ダンスは苦手だが…アンタの胸を借りさせてもらう」

 

「そうこなくては!!」

 

チャドは前進する、信じられるのは己の肉体のみ。それを霊王の欠片が感応したのか右腕だけを変えた完現術が胸部を覆う様に浸食を広げていく。

 

チャドの拳の勢いを利用した夜一の投げ、受け身を取りながら飛び起きたチャドが後退すればすかさず間合いに踏み込み掌打を放つ。

 

それを再び右腕で受けて吹き飛んだチャドが痛みに呻きながらも右腕を盾にタックルを仕掛ければ夜一の膝が迎え撃ち、夜一の追撃を予想してカウンターを狙ったチャドには攻撃は放たれなかった。

 

「押さば引く、引けば押し、押さば押す、引けば引く。流れを掴めば簡単な事じゃ」

 

「――――ッ!」

 

遊ばれている、何もかもが通じない。自前の体格とタフネスが持ち味だったがそれも目の前の女傑には無に等しい。

 

「お主の力は完現術と呼ばれておる、己の思い入れが強い物質に宿る魂の力を引き出す能力。お主の力は肌を媒介にした力か?異人の血を引く者よ」

 

「……俺の肌にそんな思い入れはない、誇りとさえ思った事は無い」

 

スペインに住んでいた祖父に引き取られた俺は肌の色からか差別的な扱いを受け、来る日も来る日も只管に暴力に明け暮れる日々。

 

俺の祖父が何度も説教をしたのだ。お前の巨きな体は、お前の巨きな拳は暴力の為にあるのではないと。

 

お前に与えられたモノが、何の為に与えられたかを知りなさい。強いお前だからこそ優しくなりなさいと諭した。

 

そんな祖父も亡くなって俺は日本に帰国する、そこでもいざこざや争いは絶えなかったが黒崎一護が俺の巨きい体と拳が誰かを護る為に振るうものだと教えてくれた。

 

「俺の纏うこの肌一枚の向こうは全て敵だった。俺の誇りとは心の繋がり、俺の祖父や一護との約束を護る為に俺の力を振るえるのならばそれ以上に誇らしい事はない」

 

「成程、天晴な気概じゃ。だがそれでは唯の力不足、その言葉に嘘が無くば全力で来い」

 

瞬神は舞う、風に乗る木の葉の様に、川を流れる流水の様に、爆ぜて落ちる雷の様に。

 

チャドの拳が唸る、台風の吹き付ける強風の様に、城壁を吹き飛ばす大砲の様に。

 

しかし一方的に傷が増えていくのはチャドの方だった、振るう拳が掠りもせずに虚空を撃ち続ける。

 

「しかしお主には随分と舐められたものじゃ!何故に足を使わぬ!何故に拳のみを振るう!何故――――あの一撃を打たぬ!!」

 

「……別に、舐めているわけじゃない」

 

「あぁ!?」

 

「俺と一護が喧嘩した事は一度もない、俺と一護が喧嘩をしたらほぼ必ず俺が勝つからだ」

 

「巨大虚一匹にビビっていた小童が何をほざく!身の程を知れ!!」

 

素早く夜一が飛び付き腕十字を仕掛ける、筋力という点では他のフィジカルに富んだ隊長格に僅かに劣る彼女ではあるが完璧に極まればただでは済まない。

 

しかしチャドの腕があらぬ方向にへし曲がる事は無かった。大人の指を赤子が握る様に、まるで釈迦の手で弄ばれる孫悟空の様に、夜一は己が掴んだ物の本質を見誤った事を認めた。

 

「―――待て、何故関節を極めている筈の儂が動けぬ」

 

「俺は一護よりも強くならないといけない、でなければ一護の背を預かるなんて出来やしないからだ」

 

「これを狙っていたのか!()()()()()()()()()()()()

 

「夜一さんを過小評価しているわけじゃない、俺にはこれが一番合ってるんだ」

 

すばしっこいガキも居た、石を投げて来る奴もいた、ナイフを持ち出したチンピラもいた、幼い自分よりも体格のデカイ大人とやり合う事も少なくなかった。

 

それを全部親から貰った体と拳一つで超えて来た。近づいて殴る、近づかれたら殴る、只管に繰り返して来た日々は俺の完現術とやらを俺に最適な形へ変えた。

 

 

 

 

巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)

 

 

 

 

「すまない」

 

俺は腕にしがみ付いたまま動けなくなった夜一さんをコンクリートの柱に叩きつけた、一撃を与えたと言っていいかは微妙だが夜一さんの体を解放して構える。

 

「……合格じゃ」

 

 

 

 




この年末年始にかかる日付の全てが社畜の出勤領域だ

チャドについては色々書きたい事があるので最小限にしました、今後の活躍にご期待ください。

この二次創作の推薦文を貰うまでは書き続ける予定です、よろしくお願いいたします。


誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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