メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
強い、不良共とも何度も戦ってきたが大きいヘマを打つ事はなかった。
強い、こっちの行動が全て潰される、頼みの月牙天衝でさえ敵わない。
強い、俺よりも体躯は小さく、俺の斬魄刀よりも短い斬魄刀で俺はハク様に一撃すら当てられない。
『何で逃げるんだぁ?一護』
逃げていない、俺は戦っている。
『逃げてるだろ、目を逸らしてるだろうが。何故俺の名前を呼ばない』
お前の名前なんて知らない。
『お前は強くない』
お前の名前なんて知らない。
『お前は速くない』
お前の名前なんて知らない。
『お前じゃ届かない』
お前の名前なんて―――本当に知らない。
体格の乏しいこの腕と穿月の長さを合わせても黒崎一護のバカでかい斬魄刀の長さには届かないだろう。
それでもこうも一方的に黒崎一護が追い立てられているのは、それだけの実力の差が自分と黒崎一護の間にあるからだった。
一気呵成の唐竹割りは横にステップを踏んで回避、穿月の柄尻が一護の蟀谷にめり込んだ。
破れかぶれの片手の横薙ぎ、一護の上腕と手首を掴んで共に廻る、そのまま一護の足を蹴り上げそのまま遠心力を受けて浮かんだ体を地面にうつ伏せで叩きつけられる。
そのまま腕を絞って関節を極める、しかしそこから痛めつける事はせずに黒崎一護を地面に押し付けたままにした。
白様は膂力はあっても小柄故に体重は軽い、今も白様が全力で体を極めようとも覚えのある者と対峙すればいとも容易く跳ね除けられるだろう。
小柄故の速さもなく、死神故の逸した力もなく、穿月の能力は場面を選びすぎて使えない。
そんな自分に勝てるはずだ―――黒崎一護なら。
しかし白様に敷かれた少年は未だに己の力を満足に振るえない、自身の精神世界に存在する斬魄刀の本体との対話と同調は既に成したはずだった。
つまり愚弟である一護のホワイトが遊んでいるか、一護が未だに己を受け入れられないのか。
悟りの境地とも言えるそのゾーンに触れるには確かに、黒崎一護は若すぎる。
『一護、お前はもう帰れ』
「……なんだと」
『俺はもうお前の事は忘れる、お前の母ちゃんの墓石の前で頭を地面に擦り付けてお前の事を謝ってやる、意気地なしの息子を導けずにごめんなさいってな』
「……」
『それともお前が立ち上がるには犠牲が必要か?ちょうどいいのがいるぜ、朽木ルキアって言うんだ。お前の為に死んだ朽木ルキアの御髪の一房でも持って帰ってきてやるよ。そしたらお前は戦えるか?』
「……」
『意地とかプライドとか役に立たないモノは捨てろ、誰かを守りたいなら命を捨てる覚悟をしろ。どうせ死ぬなら戦って死ね、笑うのはお前以外の大切な誰かだけでいい』
確かに初めは興味本位だった、自分が観測した『BLEACH』の世界を追体験するべく遊んでいただけだった。
しかし今はもう違う、黒崎真咲を初めとして生まれた色々な人間との繋がり。虚としてこの世界に生を受けた俺には居場所が出来た。
白様としても黒崎一護を追い詰めるのは、辛い。しかし既に言葉は尽くしている、これで立ち上がれないのであれば最早計画を変更するしかない。
「―――好き勝手言いやがって」
『あぁ?』
白様の腹部に突如として現れる激痛と激しい熱感―――虚閃だ。拘束を逃れた左腕から、示指と中指を曲げた指先から放たれた。
黒崎一護は良くも悪くも自分が強者であると本能的に知っている、そして心優しい少年はソレを振るえば容易く相手を傷つけてしまう事も知っている。
痛みに一瞬藻掻いた白様を振り落とすと己の斬魄刀を地面に突き刺し蹴りつけて折った、すると残った柄と短い刃が捻じれる様に姿を変えていく。
その時、確かに白様は見たのだ。変哲もない一振りの斬魄刀に姿を変えた一護の斬魄刀を覆い包むようにして柄木地の無い大雑把な造りの斬魄刀へ姿を変えていく様を。
「一護、お前は強くない」
そういってオッサンは斬魄刀を黒崎一護に向けて掲げる。
「これはお前の虚栄のカタチ、見せかけだけの鈍ら、芯なき愚者の象徴」
オッサンが振るう斬魄刀の一太刀が黒崎一護に触れるが黒崎一護には傷一つ付かず、むしろ斬魄刀の方が刀身を曲げてしまう。
「恐れるな、怯えるな、お前は一人ではない」
そう、ここにはオッサンともう一人の自分がいる。
『一護、俺達は強い』
白い一護が黒崎一護の後ろより現れて一護の斬魄刀を掴むと斬魄刀が砂のように崩れ落ちていく。
『本能は理性の乗り物、正しく制御された暴力はお前を正しく導くだろう』
暴力を振るう事は彼にとって日常に紛れ込む為には不要なものだった、誰かを守るという大義名分は捻くれた彼にとって鬱憤と暴力の捌け口としてよく機能した。
彼の中に秘められた暴力が力の行使を待っている、ソレは仮面となって黒崎一護の顔を覆い尽くす。
『俺とお前で最強だ、あのムカつくハク様をやっちまおうぜ兄弟!!』
間違いない、あれは斬月だ。刀と鞘で一組とする黒崎一護の斬魄刀における始解。
黒崎一護のホワイトの力を斬魄刀として固め、浅打ちを不要としながらも斬月を完成させた。
それってさぁ、破面の斬魄刀だよね。分かってたけど黙っとこ。
『フン……イレギュラーもあったが、やっと始解を覚えたか――――!?』
あらゆる戦闘や競技における訓練とは、特定の状況において最適な行動を取る為に行うものだ。
黒崎一護の仮面は未だ剥がれていない、故に引き絞られた弓の様に統制された暴力が放たれるのは自明の理。
だから動けた、黒崎一護の唐突な一撃は白様の意を外して放たれた、対してすぐさま防御を選択してタイムロスもなく動けたのは白様の鍛えられた六感の賜物だ。
右手に握った穿月と左腕を交差して生まれたばかりの斬月を受け止めたのはしかし正しくはなかった。
一度放たれて行き場を無くした膨大な霊力の塊を叩きつけられた白様は一瞬たりとも堪える事は敵わずに弾き飛ばされ岩肌に叩きつけられた。
――――そして虐殺が始まる。
『無理無理無理!虚化月牙天衝は無理!掠っただけで死ぬわ!!』
『虚閃も駄目!なにそれライト○ーバー!?そんな器用な使い方出来るの!?滅却師の血のおかげ!?』
『何その斬月の使い方!?怖ッ!!』
『イヤぁあああああああああああああ!!!?』
尋常ではない速度で放たれた斬月の一撃が白様の身に突き立てられようとしている、これで自分の命が終わるんだなんて他人事のように考える。
「啼け――――突ッ撥紅姫!!」
白様と黒崎一護の間に割り込んだ浦原喜助の持つ斬魄刀『紅姫』が斬月と衝突して互いに弾き飛ばされた。
あまりに突然の出来事に虚化した黒崎一護とは言え呆けた一瞬の隙を生み出した。
「五天衰盾、私は『拒絶』する」
そして生まれた一瞬は引き延ばされ致命的な更なる隙を生む、分かれた六花が黒崎一護を頭部を囲んで結界に閉じ込める。
浦原との修行で目覚めた井上織姫の五番目の盾、それは存在の拒絶。
ただしこれは破壊ではない、対象を死に至らしめるものではなく発生のキャンセルを行う力。
「後で遊んであげるから、今は黒崎君の中に帰って」
一瞬だけホワイトの仮面が抵抗を見せるがソレが己を害するものではないと分かると自ら抵抗を止めて仮面が砕け散る。
場に満ちる静寂、斬魄刀解放していた上で紅姫を弾き飛ばされたその事実と黒崎一護が見せた圧倒的な暴力に手が痺れて震えている。
「……随分回りくどい様に見えましたが始解に加えて虚化まで達成するとは、これも貴女の計画の内ですか?」
手際よく紅姫を拾いながら白様に問いかける。元より怪しい破面の虚、やはり藍染の手駒かと尋問も考慮しなければと数々の手段を思い浮かべる。
『……想定外デス』
しかし白様は情けなく呟き、これは多分他にも面倒ごとがありそうだと浦原は空いた左手で顔を覆った。
職に就かなければ 生活を守れない
職に就いたままでは 家に帰れない
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい