メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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石田雨竜

 

『叫べ!お前の殺意を敵にぶつけろ!「出来る限り速やかに死んでほしい」という意思を全力で敵に叩きつけろ!!』

 

 

「月牙天衝!!」

 

 

『声が小さい!やる気あんのか!?どこにタマを落として来やがった!!?』

 

 

「月牙天衝ォーー!!!」

 

黒崎一護が手に入れた新たな斬魄刀である斬月、そこから放たれる月牙天衝を彼はついにモノにした。

 

元々白様の持つ穿月から放たれる多種多様な月牙天衝を経験していた事もあり、霊圧の量や振りの速さ、そして解放のタイミングの差異によって状況に合わせた一撃を放つことが出来るようになった。

 

遠距離かつ速度の乗った牽制の一撃から、接触状態かつ月牙天衝を乗せた一撃まで、まさに自由自在だ。

 

 

 

 

朽木ルキア奪還にあたって全員が一週間後に迫る尸魂界突入に向けての総仕上げに入っていた。

 

 

 

 

「そうじゃ!間合いを理解しろ!事を図り!理合いを制す!事理一致を成し遂げ敵の意を組み外せばそこはお主の独壇場じゃ!!」

 

「ム…!!」

 

乱打に継ぐ乱打、夜一と佐渡泰虎の修行はそれに尽きた。

 

嵐、雷、轟、穿、威、納、一撃一撃が決定打と成りえる暴力の応酬が周囲の土地を荒地に変えながらも繰り広げられていた。

 

佐渡泰虎が目覚めた完現術の一端である巨人の右腕は本気ではないとは言え夜一の瞬閧を乗せた白打を悉くを受け止める、受け止めて受け止めて―――その暴威を晒す。

 

 

巨人の一撃(エル・ディレクト)

 

 

「手緩い!!」

 

 

性質の違うチャドの一撃を反鬼相殺とまではいかないが雑に弾き飛ばす位であれば児戯の如し、夜一にとって鬼道は不得手ではない。

 

夜一の瞬閧は未だ不完全、それは四楓院夜一という人間が加減という概念に対して不得手という気質に由来する。

 

相手に合わせて遊ぶという一種の縛りはその気質を改善させる為に始めた事だ、しかし気まぐれでもあるので結局大人げなくなるのだが。

 

チャドは知るだろう、蓄積と解放に至るカタルシスを、己には未だに可能性というものが残されている事を。

 

 

 

 

 

 

「三天結盾!私は拒絶する!!」

 

襲い掛かる霊力の弾丸の掃射を三角形の盾を僅かに傾けて傾斜装甲のように受け止める、慣性によって突き進む弾丸が進行を拒絶する盾を食い破らんと爆散し、次々と威力を重ねて織姫に襲い掛かる。

 

「廻れ!!」

 

三天結盾を回転させる、防御ではなく受け流す為の回転、盾に接触した弾丸に僅かな別方向のベクトルが加わり見当違いの方向に爆発の威力が流れていく。

 

「孤天斬盾!私は拒絶する!!」

 

霊力によって構成された物質の結合を拒絶する円形の刃が三天結盾を躱して大外を回って滑るように襲い掛かる。

 

井上織姫の権能に恐怖した浦原喜助が用意した絡繰り人形を勢いのまま両断―――「はいざんねーん♡」―――する前に止められる。

 

「雑な攻撃は駄目ですよ織姫サン。孤天斬盾は切れ味こそ素晴らしいですが三天結盾のような防御力を持っているわけじゃない、霊力で構成されている以上は霊力を乱されただけで容易く無効化される」

 

「――――三天拘盾!!」

 

井上織姫から放たれた残りの二つの花弁が椿鬼と合流してトライアングルのような内側に空間を持つ『盾』を形成する。

 

「ホォ、内側からの攻撃を無効化しつつ対象を囲んだ三つの辺から三択の斬撃ですか」

 

「私は拒絶する!!」

 

「でも―――上下ががら空きですよ」

 

中空に存在する何かに引かれるようにして絡繰り人形は巻き上げられて三天拘盾の包囲を抜け出し、浮いたままで再び掃射を開始する。

 

「織姫サンの本質はどうしても防御に比重が偏ってしまう、攻撃に関しては……今後の課題ですかねぇ」

 

 

 

 

 

 

―――そして、彼もまた時を同じくとして。

 

 

 

 

 

「もう終わりか、雨竜」

 

「―――まさか!!まだまだここからだ!!」

 

 

 

 

 

己が楔から解き放たれんとする為、原点に立ち返り新たな己の芯を取り戻す為の戦いがここに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空座町における数多の虚、および巨大虚の襲来、そして朽木ルキアを巡って現れた隊長格の死神達。

 

重霊地と呼ばれる霊的な要素が集まる――あるいは霊的な要素が集まった事によるものか――空座町では騒動の外側でもそれぞれの陣営が動いていた。

 

その内の一つが空座総合病院、院長を務める純血の滅却師にして現世における数少ない滅却師の生き残りでもある石田竜弦だった。

 

彼が構える零子の弓から放たれる爪弾くような鳴弦の一射は空座町に跋扈する虚を違わず打ち抜いていく。

 

彼にとって不満なのは両手が塞がる為に愛用のタバコを吸えない事、そして己が子ながら馬鹿馬鹿しい行いに身を投じた事だった。

 

自らに跳ね返った罰に懲りたものかと思えば、再びの暴挙に竜弦は内心に最早呆れと驚嘆に似たものを感じた、仮にも洗脳の様に植え付けられた滅却師の教えに反して死神に与するとは。

 

それが『黒崎』に連なる血に惹かれているというなら分からないでもなかった、かつての若い自分に大きな転機を齎したあの日の夜は未だ忘れることはできない。

 

 

 

 

彼にとって重要な事は己の人生を正しく(よし)とすることである、故に彼は夫に見放されて捨て鉢になり、ヒステリーを患う母を見捨てられない。

 

両親を失い居場所を無くした従妹である黒崎真咲が自分の婚約者となった事で彼の母との険悪な関係になってしまった事に心を痛める。

 

石田竜弦にとって黒崎真咲は生意気な妹のような存在だった、親族の集まりで彼女を何度と顔を合わせた事があったし、彼女の朗らかな気質に心が揺れることも確かにあった。

 

しかし石田竜弦という男は無気力であり事なかれ主義であり、そして植物の様に達観しているが、平凡な感性を持つ人間だった。

 

当時の石田竜弦は滅却師としての在り方、そして小賢しい頭で考えた現状維持の心地よさに揺蕩うだけであった。

 

己の婚約者が黒崎一心の嫁となった事を機に石田の家から追放し、己の従者を娶り、そして石田家の権力を己の手にしてもまだ。

 

 

 

今では滅却師という自分の在り方に彼は嫌悪している、掟に縛られて滅却師としての本分を成さない腐った一族であった自分を。

 

 

 

そして愛する妻の死と元婚約者の死を知らされた時、この世界の大きな歪みを彼は己の父である宗弦から聞かされていた事を思い出した。

 

滅却師に伝わるおとぎ話、或いは聖帝頌歌(カイザー・ゲザング)として伝わる歌は父である宗弦から教えられていた。

 

 

 

封じられし滅却師の王は

 

900年を経て鼓動を取り戻し

 

90年を経て理知を取り戻し

 

9年を経て力を取り戻し

 

9日間を以て世界を取り戻す

 

 

 

年老いてなお滅却師として動く石田宗弦を捕まえてすぐさま問い質した、父はあっけからんと答えた。

 

「それはユーハバッハの復活によるものだ」

 

孫である雨竜の前では好好爺ぶる己の父もただ事ではない事態においては一人の滅却師としての態度を見せた。

 

「血塗られた歴史、千年前の悪夢、世界を蝕むキャンサー。復活の兆しが表れてしまった以上は私の夢は半ば潰えた」

 

「夢とはなんだ」

 

「滅却師の王、ユーハバッハを討つことだ。力を取り戻す前に一撃で屠る算段であったが、やはり甘すぎたようだ」

 

曰く、ユーハバッハは己の為に他者の力を奪う。真咲や叶絵が死んだのはそのせいであったと宣う。

 

「竜弦、ワシやお前が生き残った理由は想像できるが、しかしここで止めにするわけにはいかん。ユーハバッハが蘇る以上はこれ以上手を拱いているわけにはゆかないのだ」

 

「これ以上、何をするというんだ」

 

「静止の銀が必要だ、聖別で死んだ滅却師の遺体から掻き集めるのだ。医者という生業というのは誠に都合がよい」

 

それを聞いて、石田竜弦に湧いたのはたった一つの言葉だけ。それは己のこれまでを否定するが、別に気にすることではなかった。

 

 

 

「石田宗弦、あなたはクソだ」

 

 

 

祖父はそれを聞くと、まるで自嘲するかのように笑ったのだ。

 

 

今では滅却師という自分の在り方に彼は嫌悪している。

 

 

望みもしない宿命に巻き込まれて死んだ真咲や叶絵、名も知らぬ滅却師達、そして生を繋いだ我が子である雨竜。

 

 

呪われた業は私の代で終わりにする、その為には滅却師としての己を捨てる事は出来なかった。

 

 

石田宗弦は数年後に死亡する、私が見捨てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「雨竜よ、随分と無様な姿を晒したな」

 

「石田竜弦…」

 

「自分の親を呼び捨てとは、随分だな」

 

大見得切って黒崎一護の恩人に与した結果、死神達に手も足も出ずに惨敗した姿をこの男に見られるのは何よりも癪だった。

 

滅却師の一族に生まれ、滅却師は金にならないと吐き捨てる男。

 

そんな男に戦いの結末を上から語られるのは只管に癇に障った、戦いもしない男に生き様を否定された事に憤慨する。

 

「滅却師でもないお前に!無様だと詰られる謂れはない!!」

 

「滅却師でもない…か、お前にはそう見えたか」

 

白いスーツの胸元から何かを取り出し見せつける、五角の特徴的なそれは紛れもなく滅却師十字(クインシー・クロス)、正当なる滅却師の証。

 

「何も分かっていないのはお前だ、雨竜。お前は滅却師を語るだけの門前の小僧でしかない、未だ入門すら果たしていないのだ」

 

「貴方は…貴方は一体何なんだ!滅却師でありながら滅却師を否定する!否定する癖に滅却師としての在り方を見せようとする!」

 

「滅却師の在り方?そんなものはない。雨竜よ、逆に聞くが滅却師とは何だ、何のために存在する」

 

「滅却師は……人を助ける為の力だ」

 

「死神に疎まれてもか?くだらん、お前も石田宗弦と同じ戯言を語る積りか?」

 

「戯言じゃない!」

 

「戯言だ、お前は滅却師を全く理解していない。虚を滅却する?現世と尸魂界の魂魄のバランスの崩壊?笑わせる、そんなものは建前に過ぎない」

 

建前?それが原因で滅却師は実質的に滅ぼされたのに?困惑する石田雨竜に気にも留めずに語りは続いていく。

 

「雨竜、私が滅却師を嫌うのは滅却師そのものが害でしかないからだ。滅却師がお前に何を齎した、血塗られた結果だけだ」

 

「叶絵が死んだのも、滅却師だったからだ。叶絵が死ななければ、生きていてくれれば。お前が模試で一番を取った時に自慢の息子に対して私は「当然だ」としか言わない、そうしたら叶絵が言うのだ「お父さんは貴方の模試の結果を額縁に入れて飾ろうとする位、嬉しかったのよ」とな」

 

「止めろ!今まで……今まで褒めてくれた事なんてなかった!滅却師になりたいって言っても否定ばかりで理由も言わずに!!」

 

「言っただろう、金にならんと。滅却師は職業ではない、人が生きるには金が要る」

 

頭に浮かんだ感情を追い出そうとせんとばかりに頭を掻いて身をよじる、己の父親だというのに言っている意味が分からない。

 

「雨竜、お前が何処ぞへ行こうと構わない。だが、お前が死んだと聞かされたなら、―――私は悲しい」

 

「今更親のフリをするのは止めてくれよ!病死した母さんを切り刻んだ時だって当然みたいな顔してたじゃないか!!」

 

「当然だ、それがお前の母の望みだったからだ」

 

「何で…!?」

 

「死んだとしても霊魂は残る、叶絵はその遺体にメスを入れる事を了承した後に自決した」

 

「相変わらず言葉が足りない…!ちゃんと説明してくれよ!」

 

「………本来事件性のない病死であれば、特殊な事情を除けば解剖の必要はなかった。しかし解剖する必要があった、叶絵の体内からある物を摘出する為にだ。そして滅却師の霊魂を尸魂界へ送るわけにはいかない、だから死んだ滅却師は自決する、そういう慣習だった」

 

「聞いても分からない事をペラペラと…!」

 

多分分からないのは、己の父が言う建前の裏に存在する真実を知らないから、事情を知らない自分から見れば理屈が通らないのは当然だった。

 

「それじゃあなんだ、結局は態々僕を止めに来たのか。僕は行くぞ、尸魂界だろうと地獄だろうとも!」

 

「好きにしろ、ただし条件がある。お前が石田宗弦から受け継いだ散霊手套があるだろう、お前にはそれを完全に扱えるようにしてもらう」

 

「……元々そのつもりだ」

 

「そして私がそれを妨害する、無駄死にと分かって送り出すつもりはない。もし散霊手套を扱いこなせるようになったなら好きにするがいい。しかしもしもそれすら出来ないようなら―――」

 

「何だ、腕の一本でも持っていくつもりか?」

 

元々散霊手套を扱えるようにするつもりだった、それに今更並大抵の条件では揺らがない自信があった。

 

 

 

 

「仕送りをカットする」

 

「嘘だろ!!?」

 

 

 

 

滅却師は金にならない、常々父が言っていた言葉だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ぼくたちは ひかれあう
好待遇のように 高収入のように
ぼくたちは 反発しあう
ボーナス残業のように 低賃金のように


よくよく考えなくてもブラックな企業で働いています。
投稿が遅くても許してください。

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想お待ちしております。

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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