メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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かつて霊王が造りたもうた虚圏、現世と並ぶ三界の一つである尸魂界・東梢局。

 

現世において死した人間、その魂魄が導かれる彼岸とも浄土とも死後の世界とも呼ばれる場所であり、各世界における魂魄の量を調整する任を負った死神が根城とする場所でもある。

 

流魂街、瀞霊廷を囲うように東西南北のそれぞれ八十からなる地域に分かれ、現世で死亡した霊が住まう場所である。

 

流魂街の一つである西一区潤林安は瀞霊廷に接しているが、二つの地の境界線を以て生活の質は大きく変わる。

 

貴族や死神の住まう瀞霊廷は文字通り世界が違う、傘を差すことすら許されない、装いや道具ですら全て使い古しで、飲食ですら困窮する生活。

 

それでも彼らは恵まれている、流魂街の生活の質はその数字が大きくなるほどに低下していく。

 

「案ずるな。地獄と違って気安い処ぞ」

 

かつて()()()()()死神の言葉は、どれ程の思いが込められていたのか。

 

既に一度死した後の世界で彼らは思い思いの日々を過ごしている、起きて明日を思う、暮らして今日を思う、寝床にて過去を思う。

 

そんな誰しもが過ごす尸魂界の日々に災いが訪れる、変哲もない空に孔が穿たれ異装の者たちがその地に足をつけた。

 

それは慣例として旅禍と呼ばれ、尸魂界の歴史において度々現れる不法侵入者である。

 

流魂街の歴史も長い、過去には流魂街の荒くれ者が何度か瀞霊廷から食料などを盗もうとした愚かの人がいたと聞く。

 

しかし帰って来たものは居なかった、瀞霊廷への無断の侵入はそれだけで重罪でありその場で殺され、まるで見せしめの様に瀞霊廷の外へ惨たらしく放り出される。

 

それでも彼らは行くと言うのか、瀞霊廷と流魂街の境界線に侵入者を拒む巨大な瀞霊壁が降って下ろされ、共に落ちてきた巨漢によって道を塞がれてもなお。

 

 

 

「通廷証も持たずにくぐろうどする奴は……久す振りだぁ……」

 

 

 

彼らの身の丈の優に五倍はあるだろうか、そして彼らの身の丈を超す程の刃渡りを持った斧の石突を地に叩き作ればそれだけで地が衝撃と轟音を伴って波の様に揺れる。

 

 

 

「瀞霊廷ば行ぐのに白道門を選ぶんは、大した度胸だど」

 

 

 

三百年だ、白道門を兕丹坊が守護するようになって以来の無敗。

 

 

 

「勇気あるやづから一人来い。ごの白道門は勇者の門だ、オラを倒せっだら通っていい」

 

 

 

それでも、彼らは挑むというのか――――。

 

 

 

 

「歓迎するど、小僧ども」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうする?黒崎」

 

石田雨竜はその一言を投げつつも状況把握に努めていた、特に外界の霊子を把握する事に長けた滅却師として。

 

背後にあるあばら家が並ぶ村からは微弱ながらも気配を感じるがおそらくは非戦闘員だろう、放たれる霊子が貧弱すぎて霊圧にまで昇華されていない。

 

一方で死神達が控えているであろう壁の向こうからは霊圧の欠片すら感じられない、夜一さんの言う通り瀞霊壁から放たれる波動が霊圧をも遮断している。

 

ここを突破したとして向こうの戦力は未だ不明、元々が無謀だと知ってなお危境に踏み込むべきか否かの判断は自分一人では決められるものではなかった。

 

「そりゃあ決まってるだろ」

 

そう言って黒崎が背負った斬魄刀の柄を握ると、まるで意思を宿しているかのように刀身を包んでいた飾り布が独りでに解けていく。

 

「喧嘩の基本は、先手必勝だ」

 

しかし斬魄刀の柄頭を後ろから、茶渡君のその大きな掌で抑え込まれて構えを途中で止められた。

 

黒崎と茶渡君との視線が交わり、姿勢は変わらずとも放たれる霊力のぶつかり合いが互いに譲らんとする意思の表れであった。

 

意外にも先に折れたのは黒崎の方だった、渋々とした面で柄から手を放すと黒崎の斬魄刀はその身を自ら納めて黒崎は茶渡君に道を譲った。

 

不貞腐れた顔で黒崎が後ろで胡坐をかいて座り込む、そのオレンジの頭に夜一さんが乗っかるもお構いなしだ。

 

一人で歩を進める茶渡君には気負いは無く、ふと立ち止まって一度振り返ると肩越しにこちらへサムズアップ。

 

 

 

―――正直、あまりに似合っていなかった。

 

 

 

「おめがらかぁ、オラに挑むのは」

 

「茶渡泰虎だ」

 

「名前ばしかと名乗るば見事、都会のまなーを心得えどる」

 

ガタイのいい茶渡君の身丈を遥かに超える長身、或いは山とも見紛うその体躯。

 

「遅れたがオラの名ば、兕丹坊。旅禍ば通ずなど言われでる」

 

「そうか、だが俺達はその門の向こうに用がある」

 

「―――そっだら、オラの斧の錆となれぇ」

 

その右手に携えた大斧、蟻と象とのようなサイズの差に苦戦を強いられるのではないかと一人、増援に迎える様に身構えておく。

 

 

「心配すんな、チャドはゼッテー負けねーよ」

 

 

それに気づいたのか黒崎がわざとらしく声を上げたものだから、つい黒崎の方へ振り向いてしまった。

 

傲慢不遜を地で行くこの男が、自らの親友とは言え表情一つ変えずに一歩譲るとは思わなかった。

 

それならばと、黒崎が信じる男の戦いを見届けんとして僕は、井上さんは、夜一さんは、そして兕丹坊ですら――――

 

 

―――皆、『空』を見ていた。

 

 

何もない空を眺めていた、尸魂界の空、大きな大きな蒼天の空。

 

「デケェだろ、アイツ」

 

「黒崎、お前は―――」

 

――――お前の眼には、何が見えているんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

「不意打ちは、都会のマナーでは反則か?」

 

「……おお、すばんな」

 

そう言って呆けたままの巨漢は未だ、その丸太を束ねてなお余るであろう両の腕を降ろしたままだった。

 

相対するこの男だったからこそハッキリと見えた、己が一体何を見たのか。

 

目下のこの男が、――――己よりも遥かに大きく見えた。

 

手を伸ばしたとしても、触れる事すら出来ないような遠近感が狂うほどの大きさだった。

 

「おめが、旅禍の頭目か?」

 

「俺は付き添いだ」

 

「…あぞこの眼鏡と女はちげぇ、あの橙色じた頭の男か?」

 

「ああ」

 

「おめより、強いのか?」

 

「ああ、強い」

 

腰を深く落とし、異形と化した右腕を脇を軽く開いて引き絞る茶渡のファイティングポーズ。

 

「そろそろ、いいか?」

 

「……ずまね、ベラベラ喋るのはいらんかった」

 

落とせば地を揺らすであろう程の質量の斧を巨漢は片腕で振り上げる、一撃で虚を三十体屠る兕丹坊の無敵の型。

 

巨大な滝を思わせるような一撃が兕丹坊から放たれ、これを以て遂に尸魂界における戦いの火蓋が切って落とされた。




社畜は皆、人のまがいもの

上司は皆、人のまがいもの

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今後とも評価と感想お待ちしております。

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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