メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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monkey magic

 

 

我は大地に生まれ、大空を知る

 

大空は流れて、我は大地に還る

 

大いなる空よ、空よ空、無窮の空

 

お前を支えるというのは、傲慢なのだと誰が知るのか

 

 

 

 

 

 

 

 

「喰らえィ!!!」

 

滝の如く、瀑布の如く真上から降り注ぐ一撃がチャドの剛腕に衝突すれば大地は驚き身を震わせた。

 

「……おお、いい硬さだべな。虚どもとは比べぼのにもなんね」

 

「俺を倒したければ、本気を出せ」

 

「――――応よ!!」

 

目下の前の男は、己が全力を奮える男だ。

 

現に右手が少し痺れている、力加減を誤ったからだ。斧を当てた時にはこの身体が少し浮いた程に相手は硬い。

 

「――――ヌゥン!!」

 

大きく振りかぶってからの右の薙ぎ払い、しかしそれも肘を曲げて左に向けられただけの掌で受け止められる。

 

―――再びの地響き、今度は音が左に抜けていった。

 

「……すっげ漢だ、吹き飛ぶどころかビグともじねぇ」

 

「もういいのか?」

 

「……いんや、まだだぁ」

 

一撃で倒せる敵も居れば、躱す事に長けた敵もいた。

 

十本兕丹打祭(じゅっぽんじだんだまつり)、一撃が駄目なら、当たるまで当てればいい。やはり死神の隊長ともなれば頭もいい。

 

異形の腕を持ち上げて、雨を弾く傘の様にただそこにある。何度も何度も男に斧を振り下ろす、何度も何度も硬質な音が鳴り響く。

 

「もう終わりか?」

 

自慢の斧が刃こぼれし、その幾つかは斧に亀裂を生じさせていた。

 

だというのに男はやはり不動。凪の様な、柳の様な自然ではない、不自然なまでの不変。

 

流石の兕丹坊もこれには冷や汗をかく、己の士気が揺らぐ事を感じた位には彼は焦っていた。

 

一歩の後ずさりもなく、変わらず男は不動の現し。見下ろしていた男が指を一本立てて見せる。

 

 

「お前は、一撃だぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶渡君はあんなに強く……いや強すぎないか?」

 

「当り前じゃ、誰が稽古をつけたと思っておる」

 

黒崎の頭に乗っかった黒猫の夜一さんが呆れたように語り掛ける。

 

「五日間、儂の攻撃を浴び続けて生き残った男じゃ。成程のう、()()()()()とはよく言ったものじゃ」

 

その言葉を聞いて井上と石田は想像を膨らませる、黒猫に只管猫パンチを喰らう茶渡の姿。

 

((か、可愛い…!!))

 

 

 

 

 

 

霊力を行使するモノや技術は、既存の物理法則から生まれる想像から大きく外れるものだ。

 

しかしそれでも一定の法則からは逃れられない。或いは己が克服したモノ以外には縛られたままというのが正しいのか。

 

霊子を以て肉体の枷を外したその兕丹坊の巨体は、器子を素とする現世の物理法則では維持できない。

 

彼の巨体は己の霊力を以て構築され、その巨体(988cm)質量(999kg)を維持している。

 

霊子を操る能力を持つ者、霊力としての格。霊子を己の支配下に置く力、霊圧。未だ解析不能、不可能を可能にする力。

 

尸魂界と現世はバランスを取る必要がある。可能と不可能は等価か?奇跡と当然は同等か?

 

器子には可能性があるのか?器子には奇跡が存在するのか?

 

逆だ、器子に求められているのは可能を不可能にする力。奇跡を当然にする力。

 

それでは茶渡泰虎は霊力を、霊王の欠片を、完現術者として目覚めた力は何を可能としたのだろうか。

 

その一片を、兕丹坊は触れて感じた。重いのは確か、硬いのは確かだ。

 

しかし何故こんなにも重いのだ、なぜこんなにも硬いのだ。

 

己の様に大きく重いなら分かる、己の様に大きく頑丈なら分かる。

 

死神の様に人の身に収まる強さとはまた違う、人の身に余る霊圧で防ぐとも違う。

 

奴はその身自身が重いのだ、その身自身が硬いのだ、―――それは最早、人間ではないかの様だ。

 

もしもこの男の背中がひび割れて、中のモノが引きずり出て来たとすれば、それは一体どれ程のものだろうか。

 

―――もしかして、この空を覆う程に大きいのか?

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ、こっちから行くぞ」

 

 

 

 

再びの油断、目下の男が遂に一歩目を踏み出した。

 

大きく突き出した足から大きく腕を引いた、物体を大きく加速させる為の滑走路を大きく作る。

 

茶渡が異形の拳が空間を圧縮する異音を響かせながら握り締める。

 

その有り余った漏れ出る霊力だけで空気が震え、着地した左足が大地を陥没させる。

 

 

 

―――ああ、死が迫ってくる。

 

全身を駆け巡る、原初の防衛反応。手にした斧すら忘れて兕丹坊は身を丸くして防御に徹する。

 

一秒が永遠に引き延ばされ、耳鳴りと悪寒に包まれながらその時を待つ。

 

それは己の経験したことのない感覚、圧縮された霊子をただ投げつける技も名前もない一撃が兕丹坊に激突する。

 

ふわりと冗談の様に兕丹坊の体が浮き、そのまま白道門に叩きつけられ意識を飛ばす。

 

その勢いたるや白道門が陥没して歪む程であり、瀞霊廷の絶対防壁の一角に楔を打ち込むその一端の力を見せつけた。

 

 

茶渡泰虎、再びのサムズアップ。

 

 

「門が歪んだら開かないじゃないか!!」

 

「もう一回アイツ叩きつければよくね?」

 

「普通に茶渡君に開けて貰えばいいだろ!?血も涙もないのか!?」

 

 

茶渡泰虎、大いなる異形、その腕を静かに降ろす。

 

沈んだ空気を、井上織姫だけが静かに眺めていた。




あたしのシフトに 休日出勤を入れないで


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今後とも評価と感想お待ちしております。

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  • コメディっぽい方が良い
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