メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
「黒崎君!黒崎君!!」
落ち切った白道門に縋りつく少女、井上織姫の声は既に届いていない。
心が千々に裂かれる様な悲痛、己の代行者が意思に則り/反して世界を食い破らんと意を示す。
「私は貴方を『拒――――!!
「やめんかバカ者!!!」
黒猫の頭突き、それは見事に井上織姫の顎を捉えて体を崩した。意識も一瞬飛んだ。
「阿呆が!浦原からそれは使用を禁じられておるだろうが!!」
「だって!黒崎君が!!」
「井上さん、多分駄目だ。おそらくもう、この門の向こうは死神だらけだ。他の門に向かうしかないけど何処も状況は一緒だろう」
既に矢を
何故なら彼にとって僕たちも守る対象だから、いくら茶渡君に背後を任せたとしても命知らずが過ぎる。
「一護は狩りに出かけただけだ」
「狩りだと…敵陣営のど真ん中でか!?」
茶渡君は落ち着いている、だがその目は呆れを含んでいるような眼差しだった。
「アイツの力は未だ目覚めたばかりだ。腹が減っている、成長には食事が必要だ」
確かに黒崎は死神の力に目覚めて数ヶ月、しかも修行はたったの五日だけだ。
しかし黒崎と言えどもと考え脳裏を過ぎるのは、奇々怪々な浦原さんと共に何を企む白色の少女の姿。
「成程、これは浦原の差し金か」
「コロス…ゼッタイニコロス」
「井上さん!?待って見せられない顔になってるよ!?」
「大丈夫!流石に黒崎だって大人しくしてるさ!!」
『どうよ一護!隊長格と太刀を交わした感想はァ!!』
「危なかったよ!死ぬかと思ったよ!あぁ!?」
黒崎一護は瀞霊廷の通路を爆走中、結果的に市丸ギンの指した方向とは逆方向に進んでいた。
ハク様の案内に従って迷いなく道を突き進む、その先には死神が詰めるとある隊の隊舎があった。
「いいですか?黒崎サン、貴方が隊長に勝てる様になる方法をお教えします♪」
朽木ルキア救出に際して、何れは隊長格ともぶつかる。故に強くなるための秘策を授けられたのだ。
浦原喜助は上手くいくと踏んでいた、何故なら元々瀞霊廷は、護廷十三隊は己の古巣だったから。
護廷十三隊が積極的のようで消極的だと知っている、しかし決まりに従う過激さもまた知っている。
つまり相手の琴線に触れなければ予想通りに事が進むのも必然、打算に打算を重ねた道筋はいっそ狂気的とも言えた。
「まずは瀞霊廷に一人だけで侵入してください、お仲間にも内緒でね」
チャドとは付き合いも長い、上手い具合に俺達を放してくれた。
門が自ら開く事もないだろう、夜一さんもいる事で備えも万全、身軽なままで動くことが出来る。
たった一人の取るに足らない侵入者、全力を出すまでもないだろう。だからこそ放出される力をこちら側で操作できる、選択権を得る事が出来る。
例外は市丸ギン、しかしそれも浦原とハク様は織り込み済み。だからこそ黒崎一護は煽ったのだ、今後の展開のブレを最小限に収める為に。
「そうしたらハク様の案内に従ってカチコミをかけてください、そこが貴方の修行の場です」
まるで道場破りだ、地面を強く蹴って飛び上がり斬魄刀を解き放つ。
「目指すは
『ロックオン!』
「月牙天衝!!」
哀れ、十一番隊の修練場は残骸と成れ果てた。砂埃や塵芥が舞い上がって開戦の狼煙となる。
「何晒しとんじゃクソガキャアアアア!!!」
「旅禍じゃぁ!!旅禍がカチコミかけて来よったわ!!」
「十一番隊舐めてんのかコラァアアア!!!」
戦の魁にして戦の華、咲いて散るまでが漢の花道。強者を尊ぶ強面の集団がぞろぞろと湧き出てくる。
「お前ら全員ボコボコにしたらさぁ!俺強くなれるんだってよ!!」
「知るかボケぇ!!――――ぎゃああああああ!!」
「荒巻ーーー!!!」
「ギャハハハ!!荒巻死んだかぁ!!?―――ぎゃあああああああ!!」
「こんなペースでチンタラやってられるか!全員かかって来い!!」
平隊士とは言え二名を速攻で物言わぬ置物に転職させると挑発。この場所は分かりやすい、故にやりやすい、気負いもせずに暴れる事が出来る。
「おい!警邏の奴も呼んで来い!」
「いいのかぁ!?俺が先に貰うぞぉ!!!」
「三席!三席呼んで来い!!」
「隊長にバレたらただじゃ済まねぇぞ!!」
全ては一振りで薙ぎ払う、殺しはしない。しかしこれで本当に強くなれるのか?
「喰らえぃ!!」
ああ、そっか、成程―――『格下相手は久しぶりだろ?』
ルキアから預かった力で戦った時はいつも我武者羅だった、全ては考える前に体が動いていた。
今は体を動かしながら考える事が出来る、こんなにも遅い、躱しながら斬魄刀を撫でる事すら出来そうだ。
この男達は戦士だ、戦う事に疑問を持たない。―――俺は何故か戸惑う、目的はハッキリ分かっているのに。
「アンタ達は何故戦う?」
「あぁ!?敵の陣地に特攻かます馬鹿がいりゃあ戦うだろうよ!!」
「そりゃそうだ!!」
この男たちは考えていない、それで戦えるのだ。―――俺は未だ戸惑う、答えを教えてくれているのに。
「なぁ!何で俺ここにいるのかな!!」
「ふざけんな糞ガキぃ!!頭おかしくなってんのかお前!?」
教えてくれよ、全てを投げ出してぇよ。考えたくねぇ、何も分からねぇのに。
やっぱりコイツ達は弱い、戦う理由が、その濃度が薄いのだ。しかし何よりも純粋だ。
『禅とは凪の境地、無念無相を立て無住を本質とする。お前の斬魄刀は迷いの表れ、強くなりたかったら二百人倒しきる前に答えを見つけろ。ただ見て、ただ感じて、ただ戦うだけでは駄目なんだ』
―――ああ、なんて難しい事を言う。確かにこれは修行だ。
『全てに意味があり、全てを受け入れる。その全てに縛られず、その全ては無意味とする』
―――まるで植物だな、それで何故戦えるんだ。
『その答えが、お前に必要なモノなんだ』
―――俺に必要なモノ?
結局自分の思考の海に沈んで、見渡す限りの死神を打ちのめすまで意識は現実に無かった。
考えているのに考えていない、迷っているのに迷っていない。
思考のカオス的空間から引き出されるフィールと肉体を神経の集積回路で繋ぐ。
言語に形はない、形に言語は無い。言語は順番が狂ってはいけない、形は座標が狂ってはいけない。
自分で何をしたいのかも分からない、大人の理屈を理解できない子供の癇癪と同じだ。
「オイオイオイオイ!十一番隊が壊滅かぁ!?」
「これは……勝っても勝ちきれないかな」
スキンヘッドとおかっぱの死神が遅れてやってきた、その佇まいや霊圧からして文句なしの強者だ。
「アイツ達で何人目だ?」
『やっと二百人目だ、ゴールは近いぞ!!』
「そうかよ」
もう少しで何かを掴める、必要な物は手を伸ばせば届く場所にある。しかし手を伸ばすから遠ざかる、何ともそれがもどかしい。
「アンタなら教えてくれるのか?」
「あん?」
「本当の強さって奴をだよ!!」
残業は我が友
夜は我が僕
ストレスにこの胃を啄ませながら
朝のオフィスでお前を待つ
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきをお待ちしております
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい