メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
「それで?誰だお前」
戦闘専門部隊とも血に飢えた無頼漢とも呼ばれる十一番隊に殴りこんできた命知らずの男にスキンヘッドの男が問いかける。
「黒崎一護、元死神代行だ。お前こそ誰だよ」
歴史を辿れば例外はある、その例外を固めた男こそ黒崎一護。しかしそれを知ったところで一体何になるというのか。
本来班目一角に敵の名への興味は無い、しかし面白い男に対して興味が湧いたのだ。
「更木隊第三席、斑目一角。てめえを殺す男の名だ」
「へぇ、ご丁寧にどーも」
「お前が倒した奴等は俺ほど強くはねぇが雑魚じゃねぇ、腕が取れようが足が千切れようが頭が捥げようが岩にも噛みつく十一番隊の隊士達だ」
「へぇ、凄ぇじゃねえか」
こっそり目を覚ましていた十一番隊の隊士達は初耳の台詞に身動ぎもせずに気絶したふりを継続していた。
強さとは千差万別、様々なカタチがある。様々な英傑揃う尸魂界の中でもその男は強い。
十一番隊第三席、戦に傾奇る班目一角。
「それで?やるか?」
「おう、やろうぜ。そっちは二人で来るか?」
「……僕は遠慮するよ、一角の敵を奪う訳にはいかないしね」
最早廃墟と化した修練場から距離を取るのは十一番隊第五席、綾瀬川弓親。
向かい合う一護と一角、合図は無し。先手は一角、大股一歩の踏み込みは誘い水。後の先、後の後は黒崎一護に譲られた。
黒崎一護は敵の動きを眼で捉えて動き出す、引き付けて躱す、そこにカウンターを当てる。それは今までの戦いの経験から導かれた動きだが。
―――遅すぎる?
強者とは速く、重く、鋭いモノだと思っていた。一角は右手に持った刀は鞘に納めたまま、柄に手をかけずに迫られるのがここまでプレッシャーを与えるものだとは。
攻撃の意思が伝わってこない、仕方なく一護は斬月を袈裟切りに振り下ろす―――前に
インパクトの瞬間に最大で発揮される握力は、そのスイング軌道においては脱力を旨とする。
しかし斬月が弾き飛ばされなかったのは、急加速した一角の踏み込みに体が反応して受けただけの事。
もしも一角が体のどこかを狙っていれば一護は傷ついたのだろうか、それこそ一護は的確に反応しただろう、だから反応が遅れたのだ。
伊達に幾度も殺意に身を曝されて、幾度も危機に襲われて、心臓に斬魄刀を刺されたり、破面の虚閃を受けたり、心臓に斬魄刀を刺されたり、死神の隊長格に襲われたりしていない。
一角は左手に持った鞘で斬月を打ち、置き去りにして抜刀していた斬魄刀を一護の大腿に向けて振り下ろした。
鞘の鐺の一点で斬月を抑え込まれた一護はそれを支点にしてバックステップで回避、息をも吐かせぬ一角の追撃。
刀と鞘の二刀流の相手は初めてだ、慣れない戦いにはどうしても一手が引ける。
「ハァ!!」
鞘で弾き、斬る。刀で払い、打つ。それが野蛮でありながらも熟した学びが見える。
一護は未熟、しかしそれでも斬月の質量は驚異的だ。事実、一角が正面から受ける事を避けている。
それでも一角の間合いを、構えを崩せない。足で捌き、体で躱し、二刀が一護を弄ぶ。
しかし一角の一撃が一護に回避され、振り回された体を地面に膝を突き、鞘で突いてなんとか堪える。
遂に一護の斬魄刀が一角の背を捉えようとしている―――そう思ったのは誰であったか。
一角は斬魄刀を
振り下ろしの一撃には勢いを利用して、担いだ斬魄刀の斬り上げで一護の腕を斬り飛ばす。
薙ぎ払いや突きも同様、地を突いた鞘を起点に体を回転させて、すれ違いざまの一撃で一護を切り裂く。
その全てを背中を晒し、敵を視界に納めずに完遂する。しかし勢いのついた斬月は一角を強く傷つけるだろう。
一護の刺突は、一角の右脇腹を割らせながらそれでも踏み込まれた。
一角の左からの横薙ぎの一撃は、一護の右腕を深く抉るに留まった。
「なあ、何でアンタは本気とやらを出さないんだ?」
一護のソレは侮辱ではない、それは純粋な尊重と懐疑。一角に付きまとう周囲の畏怖と侮蔑。
「俺からすれば、本当に強い奴なんざ幾らもいねぇ」
一角のソレは傲慢ではない、彼なりの人生の哲学、一角に付きまとう呪いと情景。
「本当に強いなら、こんな物なんか必要はねぇ」
そう言って掲げるのは死神であれば誰もが最初に授けられる斬魄刀。
「コイツは己の写し身、そして何よりも斬魄刀は己の弱さの暗示だ」
伸びる刀は欲したものに届かない、散った刃は欲したものに触れられない。
二刀は己の迷いを示し、条件付きは至らなさを示し、過ぎたる強大な力は己すら傷つける。
それが班目一角に焼き付いた、人生の歪んだ哲学。
「弱さを克服する為に努力もするが、俺の求める強さはその先に無いってだけだ。お前の弱さはなんだ、お前の斬魄刀は―――見せかけか?」
一護の斬魄刀はいずれ到達するであろう完成系からすれば確かに見せかけ、実際内面の完成していない今の斬月はスカスカだ。
一角のまるで空を悟ったかの様な達観した言葉に、一護は一角が薬で血を止めていた事に気づいていない。
一方で一角は、一護の腕を斬り飛ばせなかった事実に驚いた。放った一撃には確かに手応えがあった筈だ。
一護は骨を残して半分断たれた腕に柄布を巻きつけ無理矢理斬月を固定すると、そっと脇に差した穿月に触れて問いかける。
『ハク様よ、俺の本気はどれだけ出せる』
『もって数分』
脇差、そうだ脇差だ。一角の弄した策には派生があり、刺突に対しては懐に潜り込むか、外に躱しながら一撃を入れるかに分かれる。
脇差で防がれる事を嫌った一角が外に躱したのは確実に一護の腕を落とす為だ。
それが何故繋がっている、何故既に止血され、斬魄刀を振ることが出来るまでに回復している。
一体何故、脇差の斬魄刀の能力か?―――その考えは次の一護の動きで払拭される。
徐に左手を顔に翳した一護。その表情は伺い知れず、今まで感じていた霊圧が突如として膨れ上がっていく。
「アンタなら、本気を出しても死ななそうだ」
「―――延びろ鬼灯丸!!」
「アンタなら、本当の強さってもんを教えてくれそうだ」
「アンタには、我慢しなくていんだよな?」
巨大な霊圧、裾の解れた死覇装、なんの変哲もない一振りの斬魄刀。
それはまるで、あの人みてえじゃねぇか。
そう、何ものも わたしの職場の空気を 変えられはしない
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきをお待ちしております
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい