メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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決意を胸に

かつては高みを目指したものだ、そしてそこに至ると信じて疑わなかった。

 

勝っても負けても命が続けばまた戦う、治安の悪かった流魂街では当たり前だったソレ。

 

拾った刀で父の為、斬って捨てては母の為、血塗られた道は同郷の、兄弟我が身と回向す。

 

そうしていたら現れた、ガキを連れた修羅の鬼。強かった、というかそもそも刃が通らなかった。

 

アンタは堂々としていて、眩しかった。その強さに何もかもが平等になった。

 

 

―――ああ、強く成りてぇ、アンタみたいに。

 

 

 

 

 

「―――延びろ鬼灯丸!!」

 

 

 

目の前の男の雰囲気が変わった、裾の摺れた死覇装と一振りの黒色の斬魄刀、それに溢れる威圧的な霊圧もだ。

 

まるであの人みてぇだが―――。

 

「本当に強いかは別問題だろ!」

 

斬魄刀というのは不思議なもので、そもそも刀である必要が無いものも多い。

 

初見の戦いでは油断しないのは基本だが、しかし後手に回る必要はない。

 

基本的にどんな時でも対応できる、自分を最大に発揮できるカタチを以て相手に有利を作らせない事が肝要だからだ。

 

形を変えた鬼灯丸の、槍の間合いで一手に決める。

 

視線は外していなかった、それ故に、まるで影送りの様に。

 

―――チャリン。

 

鎖が鳴った先に、振り向いた時には既に奴はいた。

 

 

 

 

本来の形を強く現した偽・天鎖斬月は黒崎一護を強くした。

 

しかし速く、鋭い一撃は班目一角を追い詰める事は出来なかった。

 

 

「―――舐めるなよ」

 

 

各段に素早い一撃を身のこなしで躱し、高速で動き回る一護の頬を石突で打つ。

 

一角の持ち手が忙しなく動き、演武の様に槍が躍る。間合いを長く持つ穂先の一撃と、間合いに踏み込ませない石突のカウンター。

 

不用意に振るわれた天鎖斬月を躱し、一護の脇の間に鬼灯丸を通して腕を絡めとり、そのまま捻って上体を屈ませると顔面に膝蹴りをかます。

 

そのまま鬼灯丸ごと地面に叩きつけて極めようとすると、鬼灯丸ごと俺を逆に持ち上げ捕縛から抜け出した。

 

突き出し、振るい、払う切っ先は躱される。地面に穂先を突き刺し己の体重をかけて固定したカウンターの一撃は一護の腕で防がれた。

 

―――こいつ、遊んでやがる。

 

自分やあの人の様に斬って斬られての楽しみ方ではないが、有利な者が持つ傲慢な余裕だ。

 

だったら見せてやろう、俺のもう一つの本気を。

 

「裂けろ鬼灯丸」

 

いつもなら不意打ちの様に扱うのだが今は無用。槍が三節棍へと形を変える、棍棒に鎖を付けるのは遠心力と加速力を付けるためだ。

 

そしてその使い方は多様だ、何より叩きつけるだけでも威力が段違いだ。

 

「行くぜ、目を回すなよ」

 

三節棍を振り回す、それがどの様な動きを生むのだろうか。最早それは変幻自在、縦横無尽、あるいは如意自在。

 

速さに鋭さを加えた黒崎一護を以てしても間合いに踏み込めない、彼が踏み込んだ先には既に棍の節が迫ってくる。

 

死神の膂力と連接棍の加速力が合わさり、その一撃は容易く黒崎一護の体を砕くだろう。天鎖斬月で弾いて伝わる威力がそれを物語っている。

 

一角が突然上体をお辞儀の様に折り、手首で回した鬼灯丸が一角の背を撫でるように通り抜けて一護に横薙ぎの一撃で襲い掛かる。

 

反射的に天鎖斬月で石突側の節を弾く、その反動が一角の持つ反対側の穂先を前に向かせ、銛のように突き出した鬼灯丸の穂先が一護の体に突き刺さる。

 

その場から離れて追撃から逃げる。打撲、刺創、切創、微細な骨折は既に応急処置が施されている。

 

今の黒崎一護は獣、首を落としても動き続けるだろう。

 

――――もしもそうであれば、今の黒崎一護が獣だとするならば、今の彼は何者だろうか。

 

 

 

 

 

ジェンガに準えて考えてみよう、ジェンガは積み木の塔を崩さぬように高く積み上げていくテーブルゲームだ。

 

直方体の積み木の一つ一つには、己の欠片が刻まれている。

 

三つ並べては向きを直し、三つ並べては向きを直し、それは一つの塔になる。

 

基礎となる才の積み木を一つ抜いては高く積み上げていく。

 

そして積み上げた積み木を組み替えて、より高みへとジェンガを積み上げる。

 

 

―――そして崩れる。

 

 

大アルカナで示される【運命の輪】だ、しかしその時に気づくだろう。

 

己のアイデンティティが崩れ落ちた先に、より多くの成長の積み木が広がっている事を。

 

大アルカナで示される【死神】だ、新たな自分へと生まれ変わろうとする暗示。

 

 

 

しかし黒崎一護は未だ、未熟。

 

 

 

辛うじて積み上げた積み木が精々高みに手が届く程度の有様で、高位次元の扉に手をかけた。

 

 

その代償、一身を以て償うべし。

 

 

 

 

 

 

『まだ分からねぇのか?一護。お前が誰で、俺が何で、黒崎一護とは何なのか』

 

『お前は今ここにいる、俺は今ここにいる。あの時もそうだ、お前が浦原サンの勉強部屋で暴れていた時もそうだった』

 

『お前は目、舌、肌、鼻、耳の全てを持っている。それは世界とお前を繋げる超自我(スーパーエゴ)の感覚器』

 

『俺は自我(エゴ)だ、本能(イド)を抑制する楔であり、お前である超自我(スーパーエゴ)によって支配される』

 

『だけどよぉ、俺はもううんざりなんだ』

 

『お前の本能は暴れたいと言う、お前の超自我は暴れてはいけないと言う、俺は一体どうすればいいんだ?』

 

『だけど我慢なんていつかは限界を迎える、だから俺が暴れてやらねぇとお前は壊れちまう』

 

『だけどお前は絶対に譲らない、理由を与えてやらないと動けねぇ』

 

悪童(ワルガキ)だった頃は良かったよなぁ、不良なんてやってれば正当性なんて関係ねぇ』

 

『いつの間にか、まともになったよなぁ?お友達が出来たからか?』

 

『お前は誰かを守っていたつもりだろうが、誰かに()()()()()()事で鬱憤を晴らしていただけに過ぎない』

 

『今のお前は、仲間や家族が犠牲にならないとエクスタシーを感じられないんだ』

 

『快楽殺人者とお前、一体何が違うというんだ?』

 

『実際、自我と超自我から解き放たれたお前のイド、虚の原型は暴れまくってる』

 

 

 

『黒崎一護は人間じゃない。社会に溶け込んだ、ただのバケモノだ』

 

 

 

『今のままなら、だけどな』

 

 

 

『全てに意味があり、全てを受け入れる。その全てに縛られず、その全ては無意味とする』

 

 

 

『お前なら、分かるだろ?』

 

 

 

 

 

 

このままなら勝てるな、一角はなんとなくそう感じた。

 

そもそも虚等を筆頭に、化け物退治は死神の領分だ。

 

ただ暴れてるだけの奴を仕留めるのは容易い、本当に面倒な奴っていうのは―――。

 

「ようやく分かったぜ、強さって奴が」

 

「あん?」

 

「アンタのおかげだ、助かったぜ」

 

「……何でもいいけどよ、止めるなんて言わねぇよな?」

 

「言わねぇよ、何故なら―――」

 

 

 

 

―――『残り10秒』

 

 

 

 

『「俺の勝ちだぜ」』

 

 

 

 

本当に強いっていうのは―――何も考えないで動ける奴だ。

 

本当に強い奴は―――後先なんて考えない。

 

本当に強い奴は―――自信満々なんだ。

 

 

「これが俺の全力だ」

 

 

霊子そのもので構成された世界で、霊力喰らって顕現し、斬撃そのものを発生させる。

 

 

「月牙天衝」

 

 

一閃駆け抜け鬼灯丸を真っ二つ、返した一閃で一角の胴体に深い一撃を入れると遂に一角が両膝をついた。

 

「……おい、俺はまだ生きてるぞ」

 

「あん?どう見ても俺の勝ちだろ、これ以上はいらねー」

 

「俺がお前に復讐するとか、考えねぇのかよ」

 

「俺は二百人ぶっ倒せって言われたんだ、殺しちまったら一人減るだろ」

 

「なんだよ、それ……」

 

「アンタは()()()()、ただそれだけの事だろ。傷は治しておけよ、本当に死ぬぞ」

 

それだけ言うと、黒崎一護は倒れた。地面に膝を突いていた一角に対して一護は完全にうつ伏せに倒れた。

 

それは力を解放した代償に加え、全身に刻まれた大小様々な傷によるものだ。

 

今なら欠けた鬼灯丸でも、一角でも黒崎一護を殺せる。しかし―――

 

「本当にツイてるのは、お前のほうだろ」

 

一角はそのまま仰向けに倒れた、もはや腕を持ち上げる事すら億劫な程の疲労困憊。

 

完敗だ、勝てなかったが、いい夢を見た。

 

先程まで激しい戦いを繰り広げていた二人は、今や対称的に地面に伏していた。

 

 

―――黒崎一護、十一番隊二百人斬り達成。

 




…後輩…余計な案件ばかり作りやがってと思っているかもしれないが…そんな事ないぞ。本社は頑張ってる…

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきをお待ちしております

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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