メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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猛き者たちよ

「お前、本気かもしれねえが、まだまだ隠してるな?」

 

「……」

 

「確かにお前は強いが、これで勝てるとは思ってねぇだろ」

 

「……温まってきた、って言っただろ」

 

半身で立つ黒崎一護、その瞳が徐々に黒みを帯びていく。

 

「本当は戦うのは面倒なんだ」

 

黒崎一護が持つ天鎖斬月から黒い月牙天衝が溢れ出す。

 

「だけど俺には、戦う事しかできない」

 

発勁に伴って霊力が流れるのであれば、今の黒崎一護はただ立っているだけで全身に勁が流れている事になる。

 

「俺はもう止まらない、止まれねぇぞ」

 

「おう、しっかり来いよ」

 

「オーケーだ」

 

黒崎一護の眼前に己が左手が翳される、覚悟を決めた。

 

―――やろうぜ、一護。

 

黒崎一護が左手を払う時、露わになる瞳は黒曜石の様に黒に染まる。

 

そして、遂に()()()()()()()()()()()()を左手で抜き放った。

 

「力を借りるぜ―――ハク様」

 

―――やっちまえ、一護!!

 

 

 

「『白鞘穿月』」

 

 

 

それは白、それは鞘、それこそが白鞘穿月。ハク様の真の始解、穿月の本当の名前。

 

白鞘穿月に一護の天鎖斬月が納められると、溢れ出していた霊力が静けさを取り戻す。

 

先程までとは違う、昨夜と同じ死境の領域。全方位に放たれていた霊力が研ぎ澄まされて更木剣八を狙うのが分かる。

 

故に更木剣八は躊躇わずに袈裟切りに振り下ろす―――前に刃区に一護の白鞘穿月の鐺が突き刺さる。

 

それは一護と一角の戦いの再現、戦いを知らなかった一護はあらゆる戦いを手本とした。

 

その勢いに更木剣八の斬魄刀は浮き、弾く勢いのまま白鞘穿月から天鎖斬月が抜き放たれた。

 

袈裟切りを弾いて、袈裟切りを放つ。その刀身から溢れる月牙天衝を纏ったまま更木剣八の斬魄刀と鍔迫り合う。

 

「月牙天衝!!!!

 

霊圧と霊圧の衝突、それはミサイルの着弾の様に爆発力を以て更木剣八に炸裂する。

 

それはやはり肌を軽く焦がすに留まるが、一護は間髪入れずに白鞘穿月の鯉口を更木剣八に向ける。

 

「盛大にやろうぜ」

 

『喰った分は働くぞー!!』

 

「月牙―――獅子吼(ししく)衝!!!!」

 

鯉口から放たれる霊力の光線が更木剣八に照射される―――それはまるで、虚閃。

 

しかし更木剣八が引き戻した斬魄刀で光線は一振りで切り払われる。

 

 

――――化け物かよ。

 

 

そう言えば、月牙廻天衝を容易くあしらわれていたなと考える間にも更木剣八は迫りくる。

 

白鞘穿月を順手に持ち替え、天鎖斬月と共に月牙天衝を纏わせて迫ってきた更木剣八と切り結ぶ。

 

黒崎一護は己の斬魄刀が触れる度に更木剣八の霊圧が徐々に高まっていくのを感じていた、その一撃が並みの敵なら一刀両断出来る程の力をぶつけても剣八が崩れる事はない。

 

「まだだ!まだいけるだろ!!」

 

「当り前だ!!」

 

切り札とは、切らない事でその力を発揮する。何故なら切り札を切って負けたら後がないからだ。

 

それは余裕を作り、安定を作る。しかし切り札を切らなければいけない時点でそれは最早切り札ではない。

 

(ハク様、まだ何かあるのか!?)

 

刀剣解放、常時月牙天衝、白鞘穿月と考えて既に切り札を三枚切らされている。

 

黒崎一護の余裕は紛れもなく殆ど剥がれかけていると言って過言ではなかった。

 

(あるけどもうちょっと待って!ガンバ!!)

 

(早めにな!)

 

幾合と叩きつけて来た斬魄刀の拮抗が徐々に不利に傾きつつある、そして遂に黒崎一護の体に一撃が入った。

 

「―――!!」

 

斬魄刀の切っ先が黒崎一護の肩を掠める。血が噴き出すがまだ動く、支障はない。

 

「やっと捕まえたが……まだやれるよなぁ!!」

 

「当り、前だぁあああああ!!」

 

気合を入れ直して天鎖斬月を振り返す、傷が重なり動きが鈍れば容易く殺される。

 

必要なのは勇気、そして時間。黒崎一護は更に前へ出た。

 

 

 

 

 

 

『やばいよやばいよ!一護死んじゃう!!』

 

「落ち着け真咲のホワイト、勝てる算段があって挑んだのではないのか」

 

『さっきまではそう思ってましたー!!』

 

ハク様としては、三枚切り札を突っ込めば勝てる予定だったのだ。

 

しかしここで誤算が起きた、つまりは更木剣八に勝利する方法についてだ。

 

ご存知の通り、更木剣八には基本勝てない。しかし勝利する事は出来るのだ。

 

その条件とは、更木剣八が本気になる前に一撃で決着をつける事だがここに問題があった。

 

更木剣八の言う本気とは()()()()()()という状態であり、この状態であれば勝利する事が出来る。

 

つまりもっと楽しみたいと考えている時には無敵状態なのだ、というよりもっと強くなる。

 

『うわああん!OSRバトルするなら後出しするように指示するべきだったー!!!』

 

『でも余裕ぶっこいてたら勝てねぇだろ』

 

『うわあああああああん!!!』

 

「何か秘策はあるのか」

 

『……こうなったら、一護を信じるしかねぇよ』

 

「何?」

 

『心から信じる、それだけでいい』

 

 

 

 

 

幾合を超えて、どれだけ斬り合ったのだろう。コイツは面白い死神だ、面白いのはその強さ。

 

この俺の一撃が悉く弾かれ、流され、或いは切り返して来る。俺の体に走る傷は既に十を超えているだろう。

 

纏った霊力の黒い斬撃が壁と成り、目くらましと成り、衣のように黒崎一護を守る。

 

間合いが開けば斬撃が、間合いを詰めれば斬魄刀が襲い掛かる。

 

昨夜の時点で認めていたが、今新たに認めよう。黒崎一護は強い死神だ。

 

更木剣八は己の斬魄刀が触れる度に黒崎一護の霊圧が徐々に高まっていくのを感じていた。

 

どんなに追い詰めても、必死に食らいついて来る。こんなにも俺に向き合い死力を尽くしている。

 

故に歯痒く、なんとも勿体ないと思うのだ。

 

黒崎一護は己が持つ力を正しく理解していない、未だ人間の領域から逃れられずにいる。

 

「兄弟!!」

 

「……あぁ!?」

 

戦いの手は止まらない、だから言葉で高めあう。

 

「俺もお前も同じだ、己の中で獣が暴れている!!」

 

「何の話だ!!」

 

「獣を解き放てよ!」

 

戦いとは怖くないのだ、戦いとは恐ろしくないのだ、死など遠ざけるものではないのだ。

 

だから手本を見せよう、同じ魂を持つ兄弟として。

 

更木剣八の眼前に己が左手が翳される。更木剣八が左手を払う時、眼帯が外され両の瞳が露わになる。

 

天を貫く程の霊力の解放と歓喜のカタルシスが一帯を埋め尽くす、これこそが本気の更木剣八。

 

「昂る俺を、殺して見せろ!!」

 

「……分かった」

 

眼帯を外して顔を晒した更木剣八に対して、黒崎一護の顔には虚の仮面が浮かんでいた。

 

四つ目の切り札、虚化。

 

それは黒崎一護の、そしてメゾン・ド・チャンイチの総意の賭けだった。

 

「――――、()()()()

 

生まれて15年、そして三か月と一週間と二日、その答えだ。

 

朽木ルキアと出会って三か月、浦原喜助と鎬を削って一週間、尸魂界にて過ごした二日間。

 

貴方は短いと思うだろうか、それとも長いと思うだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

『一護、戦いに必要なものはなんだ』

 

「戦うのに必要って、斬魄刀じゃねぇのか」

 

「獣は牙で、爪で、尾で、体で戦う。斬魄刀はただの一つでしかない」

 

八時間の昏睡、その二万五千倍の時間が流れる無間地獄の中でハク様が問を示す。

 

『要は、どうやって死にたいかだろ?』

 

「……俺は、そう思ってるのか?」

 

『んー。俺はお前だが、お前は俺じゃねえ。そんな感じだな』

 

「どういう事だよ……」

 

無間地獄の中で、己の心の中で、微睡みの夢の様な世界でハク様の声が響く。

 

『人が骨となると書いて、死。わずかな骨と書いて、残』

 

『死こそ絶望、骨とは死の形。しかし生きれば骨は体を支える基礎となる』

 

『人が死ねば臓腑は腐り、異臭を放ち、蛆が湧き、骨になる。それすらも食われて塵と化す』

 

『生きればこそ、絶望を跳ね返す力を持つ。生こそ希望、筋こそ生の形』

 

『生きているとは何だ、心臓が動く事か?肺が動く事か?体が動く事か?』

 

『それならば、戦いこそ生きるに相応しい』

 

「つまりはどう生きるか、それが戦いに必要な物だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

黒崎一護は天鎖斬月を白鞘穿月に納めた、それを見て更木剣八の脳裏に過ぎる鞘を当てるカウンター。

 

最早それは問題ではない、カウンターごと弾き返せばいい。

 

そうして放たれた更木剣八の横薙ぎが―――、

 

「遅ぇ」

 

黒崎一護の右手で止められると、そのまま蹴りが更木剣八の腹に突き刺さる。

 

抜群の霊力が込められた蹴りは更木剣八を滑らせながら大きく引き下がらせた。

 

最早カウンターもいらない、斬魄刀による防御も受け流しも必要ない。

 

「何だよ()()は」

 

更木剣八が強く斬魄刀の柄を握りしめる、そのまま斬魄刀を振るうだけで剣圧が大地が砕いて更地へと変える。

 

「最高じゃねぇか!!」

 

それ程の一撃であっても今や黒崎一護の皮膚を裂く事すら出来ない、更木剣八と黒崎一護の立場はここにきて逆転していた。

 

「頼むぜ!もう少しそのままでいてくれよ!!」

 

更木剣八の刀が幾度となく振り下ろされるも、その全てが一護の右手によって弾かれる。

 

「俺の獣は、俺だ」

 

「あぁ!?」

 

「それが分かった」

 

存分に味わうがいい、お前が欲していたものだ。

 

「構えろ、兄弟」

 

「お前は……」

 

「こんなもんじゃないだろ?」

 

「―――ああ!!」

 

俺が勝てば相手が弱い、俺が負ければ俺が弱い。

 

戦いたい、強者との死合こそが己の生きがい。

 

ずっと戦っていたい、血が流れたまま命が軽くなる。なんて楽しいんだ、生きているって感じがする。

 

痛みも苦しみも返り血の暖かさも何もかも、相手を殴り、斬り、潰す何もかも。

 

「兄弟、お前は強いよ。だけど俺には負けられない理由がある」

 

「へぇ、それがどうした!!」

 

「アンタにもあるのかなって、思っただけだ」

 

負けられない理由かぁ、そりゃあ負けたくないよな。

 

「俺は戦いてぇんだ、ずっとずっと戦いてぇ!!」

 

「そうかよ」

 

更木剣八による連撃に継ぐ連撃、斬撃に殴打に頭突きまでもが繰り出される殺戮空間。

 

しかし、血を流すのは更木剣八だけ。黒崎一護はビクともしていない、最早防ぐことすらしていない。

 

「兄弟」

 

「なんだぁ!!!?」

 

「またやろうぜ」

 

白鞘穿月から閃く天鎖斬月の抜刀、それは黒い月牙天衝を纏わず燕の様に舞う。

 

黒崎一護の逆一文字が更木剣八の肋を割って胴体の半ばまで割り入った。

 

遂に更木剣八が膝を突く、斬魄刀を突き立ててなんとか倒れる事を防いでいる状態だ。

 

「まだ、だぁ……。俺は―――」

 

「そうだよな、だから―――」

 

黒崎一護の体がふらつく、踏鞴を踏んでも最早その動きを止められない。

 

「……あ?」

 

「アンタの勝ちだ……」

 

黒崎一護は倒れる、最早その仮面は剥がれて素顔が露わになる。

 

苦しい顔だった、余裕なんて無かった、ただその全てを仮面で隠していただけ。

 

「―――ふざけんなよ」

 

 

常時月牙天衝を維持する余裕すらなかった、右腕を動かす位しかできなかった。

 

蹴りすら精一杯、最後の踏込みですら支えきれなかった。

 

最後の一撃が月牙天衝であったなら、更木剣八は負けていた。

 

 

「ふざけんな!!!」

 

更木剣八は勝利した、尸魂界の歴史の中でも異端の死神の全てを乗り越えた。

 

なのに心は晴れない、胸の奥で渦巻く雑念が大蛇のようにのたうち回る。

 

「何故哭くのですか、更木剣八」

 

「うるせえ!」

 

「黒崎一護は負けたのだから敗者であり、更木剣八は負けなかったのだから勝者である。それだけの事でしょう?」

 

「黙れ!そんなんじゃねぇ!!」

 

卯ノ花烈が黒崎一護をあお向けに変え、汗で張り付いた前髪を整える。

 

「この子は最初から本気でした、圧倒的な力を持つ貴方に対して力を隠す事なく振舞った」

 

「そうだ、強かった、黒崎一護は強かった!!」

 

 

「こんな勝ち方があるかよ!!!」

 

 

 

黒崎一護の呼吸はある、一時的な霊力の枯渇状態。これなら治せる、卯ノ花烈が回道を操る。

 

「殺す気がないのに殺し合う。なんという傲慢、なんという脆弱」

 

「………」

 

「だから貴方は、弱いまま」

 

「弱くたっていい、俺は戦いたいだけ―――」

 

「戯言をぬかすな、更木【剣八】」

 

卯ノ花烈が立ち上がり、更木剣八に刺さったままの天鎖斬月を無理矢理引き抜いた。

 

「貴方が強ければよかった。貴方が弱いから、黒崎一護が手加減した」

 

「……痛ぇ」

 

「貴方が望む死闘とは、強者と強者が交わる事。黒崎一護の器を知りなさい、次に貴方が黒崎一護と戦う事があれば負けるのは貴方でしょう」

 

最低限の傷は塞ぎましたと言い残して、卯ノ花烈が黒崎一護を抱えてその場を去る。

 

足跡を強く残した瞬歩は、先程までの死闘が見るに堪えないものだった怒りを示すのだろうか。

 

最早周りには隊士は残っていない、建物すら吹き飛んで更地になっている。

 

「―――分かってんだよそんな事は!!!」

 

誰も居ない場所で、誰にも届かない声が轟く。

 

戦いたい、それだけなのに。外野がいつも訳知り顔で持論を押し付ける。

 

 

「なんで戦いたいの?剣ちゃん」

 

 

草鹿やちる、護廷十一番隊副隊長。

 

奇妙な縁で交わった、更木剣八の世界に佇む事を許された存在。

 

 

「ハッピー言ってたよ。生きるって戦うことだって、だからなんで戦いたいのかが大事なんだって」

 

「誰だよ、ハッピー……」

 

「さっき友達になったの!イッチーの保護者なんだって!!」

 

黒崎一護の仲間か、それはどうでもいい。しかし戦う理由か、戦いたいだけじゃダメなのか。

 

「……初めは、生きる為だった」

 

「うん」

 

欲しいものは殺して奪う、流魂街の中でも最低最悪の修羅の場所。

 

「次に、誰もが認める名前が欲しかった」

 

「うん」

 

名前の無い苦痛、自分と言う存在が否定される傷は何よりも己を蝕んだ。

 

「……戦うのが、好きだった」

 

「うん」

 

名前を得て、居場所を得て、それでも必要以上に己を動かしたこの感情。

 

「……安っぽい自尊心だ」

 

「……」

 

最強を自負した時から、最強でなければならないと思った。

 

戦う事しか知らないから、戦う事でしか対話が出来なかった。

 

自分が自分である為に、自分が生きていると実感するあらゆる活動が戦闘の一部だった。

 

「確かに、それで負けましたっていうのはダサいよなぁ」

 

「……負けてないもん」

 

「いや、アイツが最初から本気だったら今頃は真っ二つだ」

 

「剣ちゃんは負けないもん!本気の剣ちゃんなら負けてないもん!」

 

「本気だったさ……手を抜いていたのは、確かだけどな」

 

世界の中で、世界の殆どが敵だった。世界からまるで見捨てられた気分だった。

 

久しぶりに会えた同類に、昂る興奮が抑えられなくて一方的に食って掛かった。

 

殺したいが、死んでほしくない。俺の話を、ただ聞いていて欲しい。

 

―――そんな思いが、許されるはずもなく。

 

「戦う理由?そんなもんは決まってんだよ……」

 

「俺より強い奴がいる、俺はもっと強くなれる」

 

「強くなりてぇ……」

 

「剣ちゃん……」

 

 

 

 

 

「強くなりてぇ!!!」

 

 

 

 

強くなれば、きっと―――

 

 

 

「なれるよ、剣ちゃん」

 

 

 




ずっと都市伝説解体センターやってました、故に侘助。

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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