メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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剣理殺人刀

ここは黒崎一護の心象世界、青空を貫かんとばかりに伸びたビルの群れが無数に存在する場所。

 

 

 

この横たわった世界で右手を天壌無窮に広がる青空に向ければ左には底の見えない永遠無限の闇が広がっている。

 

 

そして、ビルの群れの一つ。そこには静寂とは似つかぬ喧噪が響いていた。

 

『ハッハッハ!!吞め吞め!!英雄殿のお帰りだぁ!!』

 

『隊長格に一人も勝ててないけどな!ギャハハハハ!!!』

 

「うるせえぇーーー!!」

 

どんちゃん騒ぎである、無礼講である。家主の黒崎一護を肴にメゾン・ド・チャンイチの住人達が宴会を開いていた。

 

『で?で?どんな気分!?地獄の様な特訓を乗り越えてボコボコにされるのはどんな気分!!?』

 

『かーっ、辛いわー。人が必死こいて制御していた力が満足に引き出されないのは辛いわー!!』

 

『『ギャハハハハ!!!』』

 

「うざっ!というか酒臭い!なんで俺の心象世界に酒があるんだよ!?」

 

「これは麦茶だ、一護」

 

「麦茶がこんな酒くさい訳あるか!?というかオッサンも何呑んでるんだ!?」

 

「大人のぶどうジュースだ」

 

「ワインだろ!がっつりワイングラスだろ!配慮されんでも分かるわ!!……何酒飲んでんだ俺ぇ!!」

 

『あ?俺は姉さんの分身だし、姉さんはもっと長生きしてるだろ?セーフセーフ』

 

『17ちゃい!!』

 

『じゃあ駄目だ!』

 

『『ギャハハハハ!!!』』

 

「うぜぇええええええええ!!!!」

 

グダグダだった、あまりの面倒さに顔を擡げて上を仰ぎ見るが視界の殆どがコンクリートで造られたビルだった。

 

空は横にあるのを思い出して気を晴らすことも出来ないのかと、今度はガックリと頭を垂れた。

 

「大変ですね、黒崎様」

 

「……アンタは何を食ってるんだ?」

 

「ブルーハワイソーダ練乳金時です」

 

「…なんでそんなもの食ってるんだ?」

 

「好きなので……氷が」

 

「氷かよ!じゃあ氷喰えばいいだろ!?」

 

白の氷と小豆のコントラストが青色によって奇妙な色彩を現している。

 

元の主である朽木ルキアのセンスも一部受け継いだのだろうか。

 

「というか何で俺がここにいるんだよ!もういいだろ!寝かせろよ!何時間寝てないと思ってんだ!!」

 

『数十年分くらい?といってもリアルタイムじゃないけど』

 

『まあ八時間の二万五千倍って言っても、夢見てる時だってそんなもんだろ』

 

「俺はその八時間でいいから寝かせろって言ってるんだ!!」

 

『贅沢な奴だなぁ』

 

『じゃあここで寝れば?寝てもどうなるかは知らんけど』

 

「……そうかよ、じゃあ俺は寝るから起こすんじゃねーぞ」

 

『あいよー、おやすみー』

 

『お疲れちゃん』

 

再び麦茶を呷り出したホワイト達から少し距離を開けて眠る事にした一護は、一帯を眺めた。

 

「どうした一護」

 

「いや、枕くらいねぇのかと思ってよ。というか酒があるなら枕くらいあるだろ」

 

「膝枕しますか?多分凍りますけど」

 

「いや……遠慮します」

 

「そうか、それならこれを使うといい」

 

袖白雪の提案を丁寧に退けると、オッサンが枕を投げてきた。

 

やはりよく分からないが、この世界にはいろいろな物があるようだ。

 

「おー、ありが――――」

 

 

 

 

ぬちゃあ……

 

 

 

 

「ぎゃああああああああああ!!!!」

 

 

 

 

 

それは、肺であった。霊王の肺である。

 

 

 

 

「ふざけんなオッサン!!なんてもん投げてきやがる!!」

 

「美女の膝枕が駄目なら、それぐらいしかなくてな」

 

「アンタ酔ってるだろ!?」

 

【臥薪嘗胆とは屈辱を忘れぬ為、あえて苦汁を舐める事。一度の静寂の下に我に頭を預け、その闘志を高めるが良い】

 

「なんか肺がめっちゃ喋ってる!!?」

 

【特にあの髭は許さん】

 

「なんか肺がめっちゃ怒ってる!!?」

 

「今日は無礼講だ」

 

「無礼講はやらかした側が言う事じゃねぇ!!!」

 

 

ああ おれは 眼をあけたまま 悪夢を見てるんだ。

 

 

遂に頭痛までもが襲い掛かる中、しぶしぶ肺に頭を乗せてみる。

 

すると、ぷひゅうと気の抜けた音と共に肺がつぶれて真っ平になった。

 

「……」

 

【……】

 

『ガハハハハ!何やってだ一護!!?』

 

()()()()()枕にしないで、これ使えよ!!』

 

ポスン、と胸元に響く軽い衝撃。なんの変哲もないクッションが黒崎一護の脇に転がっている。

 

なんとハートマークだ、肺に合わせて心臓というジョークのつもりだったのだろうか。

 

 

 

「……」

 

【……】

 

 

 

「ああ、この酒はホワイトが持ってきた。現世で喰らったモノなら酒でも飯でもクッションでもここに持ち込めるようだな」

 

 

 

 

―――黒崎一護は斬魄刀を手に取った。

 

黒崎一護が背負った斬魄刀の柄を握ると、まるで意思を宿しているかのように刀身を包んでいた飾り布が独りでに解けていく。

 

 

 

「 てめぇら全員ぶっ殺してやる!!! 」

 

 

 

黒崎一護は激怒した。

 

 

 

 

 

 

「それで?用があったんだろ?」

 

『まぁな』

 

メゾン・ド・チャンイチのいつものメンツが逃げ回り、ようやく落ち着きを取り戻した頃にハク様が俺を誘った。

 

『まずは……うん、よく頑張った。勝てなかったけど頑張った』

 

「もう御免だ、って言いたいが。まだまだこれからだ」

 

『そうだな……一護、ここで報告があります』

 

「なんだよ、勿体ぶらずに言えよ」

 

親に怒られるような、後ろめたさを隠した振舞いを覚えるがどうせ面倒事だ。

 

『えー、その……先日の戦いを参考にした協議の結果。刀剣解放と虚化は封印という事になりました』

 

「あん?なんでだよ」

 

『刀剣解放の為の霊力を使い切った事、虚化については意識を保つのが難しい事。要は完成版をお待ちくださいって事だ』

 

「それで、どうやって隊長格と戦えばいい」

 

『安心しろよ、必要な時には手伝うさ。だが強くなったお前の力が暴走する時、それが場合によっては恐ろしい事になるって事は覚えておけよ』

 

それを言われてしまえば文句も言えない、ハク様は麦茶を呷ると感慨深げに息を吐いた。

 

『それでも、お前も大きくなったし強くなった』

 

「なんだよ、親みてぇな事言って」

 

『俺は真咲の斬魄刀だ、親みてぇなもんだろ』

 

「母さんは、死神だったのか?」

 

『違うが、そうだとも言える。だけどひとまず真咲の事は置いておいてくれ、俺も話しづらいんだ』

 

「そうか……悪い」

 

『いや、いい』

 

そう言ってまた麦茶を呷る、思えばハク様は不思議な存在だった。

 

自分を母さんの斬魄刀だと名乗るが、母さんの事を何一つとして教えてくれない。

 

だけど、その言葉には嘘は無い様に思えた。グラスを地面に置くと立ち上がって俺を見下ろすその瞳には慈愛があった。

 

 

 

『だが、胸を張って母ちゃんにも言えるだろ。黒崎一護は強くなったとな!!』

 

 

 

両の拳を腰に当てて堂々と胸を張るハク様の姿に、一護の顔にも釣られて笑みが浮かぶ。

 

 

 

―――それでは、見せて貰いましょうか。

 

 

 

声にならない音よりも先に、斬魄刀の切っ先がハク様の胸元を貫いた。

 

縮地だ、アイツは既にそこにいて、たった一歩で距離を潰して間合いに踏み込んで来た。

 

それも、()()()()()()()()出てきたんだ。

 

『い、ち……ご』

 

刀に刺さったままのハク様がゆるりと持ち上げられていく、それは獲物を誇る動作ではなく次の動きの為のモノ。

 

胸元から骨盤ごと縦に割り、そのまま返す刀の横薙ぎで腕を切り払えば四肢が体から離れた死体になる。

 

黒崎一護の会得した感覚は、その光景をありありと見せつけた。

 

身体が動く、時が止まったような-0.24秒のタイムリープの世界で黒崎一護は君の名前を呼ぶ。

 

 

 

「『白鞘穿月!!!』」

 

 

 

かくして奇襲を行った者の追撃は空振り、黒崎一護の手には白色の鞘が握られていた。

 

『危ねぇ……死ぬとこだった!!』

 

「なんだよ一体!!」

 

「……斬魄刀、ですか」

 

ビルを砕いた土煙が晴れるとそこに立つのは、護廷四番隊隊長、卯ノ花烈の姿。

 

「分からなくもない、しかしそれでは気配の数とは合わない」

 

「な、なんでアンタがここに」

 

「しかし私がここにいる以上、考えるのは野暮という―――」

 

斬術、白打、歩法、鬼道。いずれも死神が戦う為に必須の技術と言われる。

 

そして戦における技術には、話術も含まれる。

 

そして話術にも挑発、ハッタリ、屈服、詐欺、様々な種類があるが重要なのは一点。

 

0.01秒よりも速さを求められる世界で、呑気に話す人間はカモだ。

 

相手の話を無視してテンポを崩す奇襲を仕掛けた黒崎一護、話して隙を誘うという囮を仕掛けた卯ノ花烈。

 

黒崎一護は見事に二刀を重ねて卯ノ花烈の一撃を止めた、しかし卯ノ花烈の蹴りが飛んでくる、斬魄刀の接触面を接点にして飛んで回転しながらの回避。

 

白鞘穿月の鯉口を卯ノ花烈に向けての月牙獅子吼(ししく)衝は躱されるも距離を開ける事に成功する。

 

二刀を構え直した黒崎一護は卯ノ花烈の追撃に備える、卯ノ花烈も瞬歩を溜め込む、しかしそれは戦場に割り込んだ気配によって足が止められた。

 

 

「次の舞―――白漣!!」

 

 

地面から立ち上る冷気を巻き込んで、袖白雪の斬魄刀から吹雪の様な一撃を打ち放つ。

 

卯ノ花烈の強烈な一振りでビルの壁面が捲りあがり、即席の盾となって吹雪を防ぐが更に足を止める事に成功する。

 

 

 

『テメェ、人の庭で何を勝手な事をしてやがる』

 

 

 

ビルが乱立する黒崎一護の心象世界、一護のホワイトが天を指し示すと一棟のビルが解けるようにして巨大な斬魄刀が姿を現した。

 

 

―――このバカでけぇ斬魄刀でもの凄い月牙天衝を放てば、大抵の奴は塵になる。

 

 

「『おい馬鹿やめろ!!!』」

 

 

『吹っ飛べ!!!』

 

 

 

 

『月牙天衝!!!』

 

 

 

 

ホワイトの並外れた膂力で蹴り出された巨大な斬魄刀が一護達の立っているビルに向かって墜ちてくる。

 

黒崎一護はすぐさまビルの壁面を蹴って隣のビルに脱出するも、巨大な月牙天衝の衝撃からは逃れられなかった。

 

平衡感覚を揺さぶられながらも改めてビルの壁面に着地した、遠くには吹き飛ばされたビルの群れの成れの果て。

 

「アイツ……俺ごと殺すつもりかよ!!」

 

『というか、あっちってオッサンとか居たような?』

 

「居たとも、おかげで酔いは覚めた」

 

「オッサン!無事だったのか!!」

 

黒崎一護の死角に斬月のオッサンは立っていた、どうやら袖白雪も回収していたようで地面に手をついて息を整えていた。

 

「派手に派手、しかし滑稽ですね」

 

当然の様に無傷、隣のビルから飛び降りた卯ノ花烈が自然体で斬魄刀を構える。

 

『マジかよ…マジかよ!ありえねぇ!!』

 

『アイツもアイツも、アイツらにも出来ない事なんだ!まさか卯ノ花烈がこんな事を仕掛けてくるなんて!!!』

 

「何だよ!一体何を焦ってるんだよハク様!」

 

『この世界に入れるのは一護、お前が取り込んだ奴だけなんだ!』

 

「それがなんだよ!!」

 

『分からねぇのか!?ここはお前の心象世界だ!お前がここで死んだら体を乗っ取られるぞ!!!』

 

その言葉に、一瞬遅れて背筋がぞっとする。

 

『お前が取り込んだ力に卯ノ花烈が外から霊力を更に注ぎ込んで卯ノ花烈を実体化させた!!!』

 

『自分自身ではない者を送り込み、それがお前の中で暴れると確信を持ってやがる!!』

 

 

 

 

 

 

 

『これは心象世界のハッキングだ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

 

「おい、相手が理解してないぞ」

 

『まあ、本人は戦いたいだけだろうしね』

 

「でも負けたら?」

 

『乗っ取られるよ?』

 

「最悪だな!!」

 

斬月を構える一護、刀剣解放が封印されている為天鎖斬月が使えないが今の一護は一人ではない。

 

「もう一人の俺、ハク様、斬月のオッサン、ルキアの斬魄刀。力を貸してくれ」

 

「ええ、ルキア様を救うには貴方の力が必要です」

 

『任せろ!』

 

『ド派手にやってやるぜ!!』

 

「………」

 

斬月のオッサンを除いて一同の士気は上がっている。

 

これまでも強い奴等と戦ってきた。俺達なら誰とだって戦える、決して諦めたり逃げたりなんてしない!!

 

 

 

「……良く分かりませんが、ともかく―――」

 

 

 

 

「 貴方、どこかで会いましたね? 」

 

 

 

 

「すまない一護、私はここまでだ」

 

 

 

 

さっそく一名離脱した。

 




残業してる
上司を
跪かせたくて

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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