メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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どぉなっちゃってんだよ

 

 

「邪魔するぞ、剣八」

 

『お邪魔するぞー!!』

 

「あー!ハッピー!!」

 

『ヤッピー!!来たよー!!』

 

「……何でお前ここに居るんだよ、一護」

 

元十一番隊隊舎、現時点においては黒崎一護と更木剣八との試合によって隊舎の殆どが吹き飛び更地となったこの場所では隊士達が復旧作業に当たっていた。

 

簡易のテントが建てられ、糧食の増産を行い、そして隊の再編成に慌ただしく動いている。

 

では―――そんな所に旅禍の首魁と思われる黒崎一護が現れればどうなるか。

 

「おう!一護さんじゃないですか!!お疲れ様です!!!」

 

「「「お疲れ様です!!!」」」

 

「さぁさぁ!こちらへどうぞ!!」

 

「まともな飯食ってんのか!?飯食え飯!!」

 

「あー……おう」

 

諸手を上げての大歓迎だった、椅子や飯まで持ってくる有様である。

 

十一番隊にとって、強さを求めるのは当然の事。そして更木剣八と正面切って戦う姿は十一番隊の男たちに火をつけたのだ。

 

そして彼らは黒崎一護に協力するべく動いている。十一番隊隊員の彼らが動いているのは旅禍討伐ではなく捕獲の為なのだ。

 

「おめぇ、四番隊に行ったんじゃねぇのかよ」

 

「……聞いてくれよ剣八。寝てたら卯ノ花さんが襲ってくるし、目が覚めたら井上―――仲間の女が襲ってくるしよぉ、散々だったんだ」

 

「……そうか」

 

戦えるのであれば更木剣八にとってこの上ない状況だが、どうやらこの強い男にとっては災難だったのだろう。

 

「しょうがねぇからコイツもここに連れて来たんだ、手当してやってくれ」

 

「へい、ただいま!」

 

「おい!晴蔵呼んで来い!!」

 

阿散井恋次を受け取った十一番隊隊士によってテントに運ばれている、雑だったのかうめき声を発していたが誰も気にしない。

 

春ヶ崎晴蔵と呼ばれた男に介抱を受けて包帯まみれにされた阿散井恋次だが、復帰には時間もかかるだろう。

 

仕方ない、あとで花太郎を見つけて四番隊からも人を呼ぼう。

 

そう思い立って立ち上がると更木剣八が不意に話しかける。

 

「そう言えばてめぇ、死神を殺したか?」

 

「あ?まだ誰も殺してねぇよ」

 

「そうか、気を付けろよ。昨日隊長が一人死んだせいで瀞霊廷が随分楽しい雰囲気になってるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

四楓院夜一は頭を抱えていた。

 

朽木ルキアの奪還、護廷十三隊を相手どるには隠密こそ最良の策だと考えていた。

 

それが黒崎一護の単独先行で全て水の泡となった、その結果が単独行動による瀞霊廷の警戒度の上昇だ。

 

浦原喜助は古い付き合いであり面白い男だが騒ぎを起こす、騒ぎを大きくする、騒ぎに便乗するというふざけた男でもある。

 

そんな男が仕組んだ事だ、しかもそこに悪ガキ(ハク様)が加わったと成れば極端に騒ぎが大きくなるのもまた必然。

 

「―――よって誅罰!!!」

 

「ぎゃああああああああ!!!!」

 

十一番隊隊舎に響き渡る絶叫、阿散井恋次との傷が治りきっていない状態での奇襲によって激痛に襲われる。

 

「ああ!黒崎がやられた!」

 

「女だ!女にやられた!!」

 

「おうおう!!好き勝手しくされおっておう!!?」

 

「ぎぃいいやあああああああ!!!?」

 

「一護、お前女に弱すぎだろ」

 

「女とかそれ以前の問題だろこれは!イタタタタタ!!!」

 

四楓院夜一による完璧な強襲は黒崎一護の関節を極める事に成功した、因果応報である。

 

「勝手に動くなと!騒ぎを起こすなと!伝えたよなぁ!儂は!」

 

「イタタタタ!御免なさい!ハク様が!浦原さんがやれって言ったんです!!」

 

「人の話を!鵜呑みにして!ロクな事にならんと分からんのか!!」

 

「身に沁みました!関節も分かったって言ってます!!」

 

「―――誅罰!!!」

 

「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」

 

人体急所の一つ、肩甲骨の天宗と呼ばれるツボに肘をねじ込まれて悶絶する。

 

小指尺側爪甲根部に端を発する上肢後面の経絡に当てれば上肢の挙上も、肘関節の運動も、握力までもが阻害される。

 

ぽとりと腕が落ちて黒崎一護は静かになる、新たな強者に更木剣八の血が沸くが一度は堪える。

 

「てめぇが一護の師匠か」

 

「そのようなもんじゃ」

 

「黒崎一護はまだ強くなれるのか」

 

「勿論じゃ」

 

「―――たまらねぇな」

 

調理する前の食材を食べるよりも、調理した方が美味い。それは獣でも分かる事。

 

「黒崎一護を頼むぜ」

 

「……ああ、任せておけ」

 

「黒崎一護、十一番隊も協力してやる。必要なら呼べよ」

 

「おう」

 

「強くなって、強くなって、強くなって。そうしたらもう一度戦おうぜ、兄弟」

 

「今度は勝ってやるよ、兄弟」

 

「けっ、負けたのはこっちだよ」

 

四楓院夜一は驚いた、過去にこれ程まで剣八の名を持つ者と友誼を結んだ者が居ただろうか。

 

しかも最強を自負する剣八が自らの負けを認めるなど。

 

「―――まあ良い、行くぞ一護」

 

「行くって何処に」

 

「決まっておろう、修行の場じゃよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

『どっひゃーーーーーー!!!なんじゃこりゃーーーー!!!』

 

 

「あの丘の地下にこんなバカでかい空洞があったなんてーーーーーー!!」

 

 

「うるせえよ!もう前に聞いたよ!ていうかアンタも言うのかよ!あとここは丘の中だろ!地下じゃねぇ!!!」

 

 

態々丁寧に一つ一つツッコミを入れていく、黒崎一護に送られる拍手。

 

瀞霊廷の中心、双極の丘の中腹に隠れる様に存在するのはかつて浦原喜助が造り上げた修行部屋だ。

 

「さて、お主のバカ騒ぎの所為で計画が狂いはしたが大筋は同じ。朽木ルキアの奪還に尽きる」

 

朽木ルキアの処刑まで残り五日、そしてとある事情により残された期日は残り三日。

 

「して一護、お主の力は旅立つ前と比べて大きく成長した」

 

言葉通りの賞賛ではなく、異常な事態が起こった場合のヒアリングだ。

 

「お主は強い、だが強すぎる。何がお主を強くした」

 

「まるで、強いのがいけない事みたいだな」

 

「そうは言っておらん、しかし過程は重要じゃと言っておる」

 

「過程?」

 

「刀も槍も銃も盾も、使い方と言うものがある。今のお前は石を投げるだけの蛮族と大差はない」

 

「俺はまだ、力を使いこなせてねぇって事か」

 

「その通り」

 

一週間の特訓と二日間の()()()()の闘争は黒崎一護を強くした。

 

しかし何れも本質を知らずに振るわれるものばかり、問いを投げても遠ざかる己の光の様に。

 

「お主は強くなった。しかし恐れを知らぬ、恐れを知らぬは愚者以下の以下」

 

「故に恐れねばならぬ、知らねばならぬ、問わねばならぬ、その上で信じなければならぬ」

 

「ただ、信じるだけでは振るう刃が己を蝕むぞ」

 

「……」

 

―――強くなったお前の力が暴走する時、それが場合によっては恐ろしい事になるって事は覚えておけよ。

 

ハク様が溢した不安の心、四楓院夜一が告げる凶兆、それは俺自身の懸念でもある。

 

天鎖斬月がどんな力を持っているのか、俺は知らない。

 

虚化を試した時、全身の動きが縛られたように動けず斬魄刀を振るだけで精一杯だった。

 

限定解除しても、副隊長の阿散井恋次に動きを見切られていた。

 

俺が戦えたのは、俺が強いからではない。

 

知っている、分かっている。だから瀞霊廷に入ってからも強さを求めた。

 

朽木ルキアの強さを、石田雨竜の強さを、浦原喜助の強さを。

 

班目一角の強さを、更木剣八の強さを、卯ノ花烈の強さを、井上織姫の強さを、阿散井恋次の強さを。

 

その身で染みて、その上で強さを求めた。

 

「……俺が強くないのは、恐れを知らないから?」

 

「そうじゃ」

 

「アンタが、恐れを教えてくれるのか」

 

「否じゃ。因果応報、天罰覿面、天網恢恢疎にして漏らさず。己の業悪、己の身をもって知るべし」

 

「俺自身が、俺を裁くって言いてぇのか」

 

「左様」

 

「やってやる、どうすればいい」

 

一瞬姿がぶれた夜一が隠密機動の特殊霊具である転神体を持って立ち戻る。

 

「始解に必要なのは対話と同調、これは一度成し遂げておるな」

 

「ああ」

 

己の中に存在する世界に足を踏み入れ、斬月を名乗る男と出会った事。

 

「しかしそれでは名前を知るだけ、斬魄刀の本質を知るには浅すぎる」

 

「斬魄刀の本質とは、卍解。斬魄刀解放の第二段階の事を示す」

 

一癖も二癖もある斬魄刀だが、斬魄刀とは己の霊力を馴染ませて産まれる己の写し身だ。

 

 

―――コイツは己の写し身、そして何よりも斬魄刀は己の弱さの暗示だ。

 

伸びる刀は欲したものに届かない、散った刃は欲したものに触れられない。

 

二刀は己の迷いを示し、条件付きは至らなさを示し、過ぎたる強大な力は己すら傷つける。

 

 

「そして卍解に必要なもの、それが具象化と屈服。自らが斬魄刀の中に入るのではなく斬魄刀をこちらの世界へ具象化させ、それを屈服させる事で卍解を行えるようになる」

 

「へぇ、斬魄刀の中身をこっちの世界に呼び出す。そういえばハク様も母さんの斬魄刀―――!?」

 

『あん?』

 

腕を組んで仁王立ちしていたハク様、そういえばハク様は自分で言っていたではないか。

 

―――己は『黒崎真咲の斬魄刀』だと。

 

「ハク様、あんた斬魄刀だったのか!?」

 

『いやいやいや!今更何言ってるんだお前!!?俺は最初から言ってただろ!?じゃあ俺の事なんだと思ってたんだ!!?』

 

「煽る、食べる、吐きだす、スーパーツヨツヨ棒の妖精」

 

『酒癖悪い奴みたいに言うな!!しかもニチアサのDX玩具みたいな言い方するんじゃねぇ!!?』

 

「だって名前を呼んでも木刀だっただろ!今だって鞘じゃねぇか!アンタが斬魄刀だっていう認識が無かったんだよ!!」

 

『テメェ、俺のアイデンティティを全否定か!!?』

 

「大体、初めてアンタの名前を呼んだ時だって自分を『魔法の杖』って言ってたじゃねぇか!!」

 

『物の例えだろぉおおお!!?じゃあ朽木ルキアの斬魄刀から出てた吹雪を何だと思ってたんだ!!?』

 

「え?あれ死神の魔法じゃなかったのか?鬼道だっけ?」

 

『じゃあエクスカリバー出してるお前の斬魄刀は何なんだよぉ!!!』

 

ハク様が介入した世界で、実は黒崎一護は実戦において殆ど直接攻撃系の斬魄刀しか見ていないのだ。

 

「ああ、ハク様も俺のも斬魄刀で良かったのか。いやぁ、他の奴等とは随分毛色が違うからさ」

 

実は僕ペットを飼ってるんだ。え?君もペットを飼ってるの?同じだね!!そんな感じの曖昧さ。

 

死神の斬魄刀=特殊な力を持った刀だが、特殊な力を持った刀=死神の斬魄刀ではない。

 

斬魄刀には浅打ちと死神の霊力が必要だ。一方でハク様と黒崎一護の斬魄刀はどうだ。

 

黒崎真咲と黒崎一護のホワイトの力を斬魄刀として固め、浅打ちを不要としながらも斬魄刀を完成させた。

 

『……ソウダヨー、ザンパクトウダヨー』

 

つまりは破面の斬魄刀そのものである。

 

「そっかぁ斬魄刀かぁ」

 

『ソウダヨー』

 

「それじゃあ気になった事があるんだけど質問してもいいか?」

 

『イイヨー』

 

「夜一さん。始解ってさぁ、斬魄刀の世界に入るんだよな?」

 

「その通りじゃ」

 

「だけど俺が入ったことがあるのは―――俺の心象世界だ。これって一体なんなんだ?」

 

『……それ質問?俺、質問嫌いなんだよね』

 

「……知らねぇのか?」

 

『はぁ~!?知ってるし!話が長くなるから言わないだけだし!!』

 

「話を要約してくれよ」

 

『それを語るにはこの世界の誕生よりも前の話になるけどいい?』

 

「長いってそう言う事かよ!!要約してそれなのかよ!!!」

 

「……話に戻っていいか?アホども」

 

「『はい』」

 

「まったく……どこまで話したか。ああ、卍解の習得方法じゃったか」

 

「卍解は本来であれば死神であっても10年以上の修行が必要となる、それをお主には三日で習得してもらう」

 

「その為にソイツが必要だって言うのか」

 

「左様、この転神体は斬魄刀をこっちの世界に引きずり出す為の隠密機動の特殊霊具じゃ。ただし効果は三日のみ、それを過ぎれば―――」

 

「失敗した時の話なんて聞きたくもないね、さっさと始めようぜ」

 

「―――いいじゃろう。しかしお主の斬魄刀は二振りある。まずはそこの白いのから始めるか」

 

『え?』

 

「え?じゃないわ阿呆、斬魄刀から勝手に出てきておるのだからさっさと屈服せよ一護」

 

「屈服って……一体どうすればいいんだよ」

 

「斬魄刀で斬れ!斬魄刀で叩き伏せろ!それで斬魄刀が屈服する!」

 

『イヤ、ヤメテ……一護!私を傷つけないで……!!』

 

「そういう時だけ母さんの声真似するの止めてくれないかなぁ!?」

 

ハク様は斬魄刀だが見た目は少女であり遊子や母さんの面影がある、なんともやり辛い。

 

『ハッ!言っておくが一護!俺はそう簡単に屈服するつもりはねぇぞ―――!!』

 

「斬魄刀もねぇのにか?」

 

『ちょっと悪いなって思うなら返せよ俺の穿月!まあいい、それよりも気付いているか?』

 

「何?」

 

『俺の斬魄刀を解放する時、刀の方は鞘になるわけだが―――元々鞘だった方はどうなるのか!!』

 

「―――まさか!」

 

黒崎一護は白鞘穿月を抜いて名を呼び斬魄刀を鞘の形に変える、一方で元々鞘だった方も腰から抜いて見比べる。

 

「ちょっと長くなってる!?」

 

『両手に棒切れ持ってる馬鹿発見!―――死ねぇ!!!』

 

 

 

「ダブル月牙獅子吼衝―――!!!」

 

 

 

『ぎゃあああああああああああああああ!!!!』

 

 

 

 

『成長したな……一護。これでお前に……穿月の本当の名前を渡せる……』

 

「やめろよ!実感が無いのに上手くやったなって言われるのプレッシャーすげぇんだよ!!」

 

『どうせ今は使い道のない力だし、今覚えても後で覚えてもいいよ……』

 

「どうせそういうスキルは先に取得しないと後で習得に手間がかかるから今習得しないと面倒な奴だろそれ!!」

 

『俺の卍解は能力が殆ど変わらないが、霊圧が十倍になるぞ』

 

「おまけの方がスゲェ気がするんだが」

 

『ちなみに斬月の卍解も霊圧が十倍になるけど効果は重複しないぞ』

 

「クソスキルじゃねぇか」

 

『どうせクソみたいな力だし、今覚えても後で覚えてもいいよ……』

 

「拗ねるなよ!分かった!ちゃんと使うから!!」

 

『自分で言っててへこんだから、ちょっと寝るわ……』

 

そう言って勉強部屋の隅っこで丸くなるハク様、あまりの悲壮感と身内に似た姿のせいで居たたまれない気持ちになるが放置する。

 

「待たせたな、夜一さん」

 

「……ああ、ここからが本番じゃ」

 

転神体に斬月を突き刺すと、小規模の爆発と共に斬月のオッサンが姿を現す。

 

「……」

 

「……」

 

黒崎一護の心象世界の中に存在した黒崎一護の始まり、黒崎一護を導く者。

 

「よくぞ私を呼び出したな、一護」

 

「アンタ、卯ノ花さんと戦ってるとき逃げたよな」

 

「―――今は関係ないだろう」

 

「過去の積み重ねが今に繋がっていると思うんだ」

 

「一護。私は卯ノ花烈を目の前にして戦うのは、辛い」

 

「逃げたんですね?」

 

「はい」

 

 

 

 

「テメェを屈服する」

 

 

 

「やってみせろ、一護」

 

 

 

 

浦原の勉強部屋に様々な形をした斬魄刀が辺りに突き刺さる。

 

「この部屋の中にある斬魄刀の中で私を倒せる、真の斬魄刀を探し出せ」

 

「どれを使っても構わないんだな?」

 

「ああ」

 

黒崎一護は徐に二十数本ある内の一本の斬魄刀を手にすると、斬月のオッサンは呟くように言った。

 

「一護。今お前が持っているその斬魄刀には名前がある。その名は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

the Superstar

 

『英雄』

 

 

 




残業なき仕事は 太陽のよう

残業ありの仕事も 太陽のよう


誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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