メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
朽木ルキア―――処刑当日。
白色の群れに連れられて、黒色の死神に見送られ、その身を無色の塵と還す。
双殛の丘にて無情、磔架に磔となり、双殛の矛に貫かれて浄罪とする。
ああ、すまぬ。ああ―――すまぬ。
私は裁かれるべきだが、ここまでして裁かれる程の身ではない。
私は、いつも誰かに生かされてきた。
海燕殿、白哉兄様、浮竹隊長、その他にも沢山。
この矮小で脆弱で下賤な命が、高貴な御方に泥を付けた。
ごめんなさい、ごめんなさい。
双殛の片割れ、双殛の矛が焔を纏う。
「死神の力の譲渡が問題ではない、死神の力を譲渡出来る存在そのものが罪」
「故意か偶然か、しかし一度たりとも護廷十三隊に背を向けた事こそが罪」
「その身の一死を以て償えること、まさに恐悦至極と知って去ね」
ああ、そうだ。それは私の罪なのだろう。
私が死ねば全てに於いて解決を図るという、一死を以て償えるという御言葉に。
理不尽にも思えるその罪に、極刑を処刑と言い換えて溢す総隊長の御言葉に。
やはり、私はいつも誰かに救われていた。
「ルキア!!!」
「恋次……」
阿散井恋次、貴様は私の、大切な―――。
「下げますか」
「よい、させておけ。奴一人では何も出来ぬ、最早手遅れじゃ」
双殛の矛が真の姿を露わにする、その名を
斬魄刀百万本分に匹敵する破壊能力を持ったその武威、燃え盛る不死鳥の如き偉容、まるで天罰が如く。
「ルキア!!」
「恋次……」
お前も、私が苦しめてしまった。
―――死神になろう。
私は一人だった、一人で死ねばよかった、そうすればこんな事にはならなかったのだ。
―――朽木家に、養子に来いと言われた。
一人は寂しい、一人は辛い、一人は悲しい、一人は嫌だ。
そんな私の卑しい思いが、自分勝手にお前を奪い、自分勝手にお前の手を払いのけた。
―――ありがとう。
ありがとう、ありがとう、ごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい、生きてきてごめんなさい、生きていてごめんなさい。
私の事など、虫に刺されたようだと忘れて欲しい。
私の想いなど、貴方には知らないままで居て欲しい。
貴方に伝えたいのはただ一つだけ―――
「さよなら―――」
貴方に伝えたいのはただ一つだけ―――
莫迦者があああああああああああ!!!!!!」
死神達は一斉に目を逸らした、居たたまれなくて。
「よう、ルキア。助けに来たぜ」
その背負った斬月で処刑の一撃を遮りながら。煌々と燃える燬鷇王を背にして、英雄が空に立つ。
「何故来た、一護……!」
「色々あるけどよ、お前困ってただろ」
「それがなんだ!それが理由になど―――」
乱暴で、ぶっきらぼうで、適当で、底抜けに明るくて、頼りになって、誰よりも早く走り出す。
「困ってるから助ける、理由なんてそれだけでいいだろ?」
―――まるで、あの人みたい。
「馬鹿な……斬魄刀百万本の破壊能力を持つ双殛の矛が、たった一人の死神に止められたと言うのか!?」
「何者だ、あの男は!?」
双殛の矛が斬魄刀百万本、一時的にその数十倍の破壊能力と言われているのだから少しだけ考えてみよう。
十人分のパンチ力は、十人集めてパンチして図った数値とはイコールではない。
人を六回斬れる刀と童子切安綱、人を七回斬れる刀と七ツ胴切落では格が違う。
IQが3だと言われるサボテンがIQ100になったとして、同じIQ100の人間と同じにはならないだろう。
それは生まれ持った元々の能力が違うし、元々の生物の格が違う。
億劫という言葉がある、面倒だとか気乗りがしないという意味合いで使われる事もある。
一劫とは四十里四方の大盤石を天人の羽衣で百年に一度触れて、その摩擦によって大盤石が消滅しても未だつきない長い時間とされている。
その一億倍で億劫、更には百千万億劫という言葉もあるのだ。考えるだけでも途方もない時間だ。
そして劫に限りがないという意味の永を加えると永劫となり、終わりの存在しないような時間の長さを示す。
膨大な時間である億劫と、限りの無い永劫では覆せない程の差が存在する。
数値とは実際に計測できる数値と、格や規模を現す数値がある。
ある程度であれば優劣が逆転する事もあるだろうが、格や差が開ければ開くほど絶対的となるだろう。
つまり双殛の矛は斬魄刀十万本の破壊力を持つ何かより強く、斬魄刀千万本を持つ何かより弱いという存在、ただそれだけの事である。
それでは、燬鷇王の一撃を止めた黒崎一護の格は―――一体どれ程の格を持つと言うのだろうか?
「悪いが、コイツは駄目なんだ」
【だめなの?】
「すまない、謝罪は今度する」
【わかった】
黒崎一護の言葉に応えて燬鷇王が距離を開ける、それを見て足元の死神達は慄いた。
「燬鷇王が引いた…いや二撃目の為に距離を開けたのか!?」
「何者だ、あの男は!?」
「―――すまない、待たせた!!」
「いいや、こっちも丁度
双殛の丘に上がってきた浮竹十四郎が四楓院家の家紋が刻まれた特殊な霊具を地に着ける。
二つの杭を結ぶ綱が燬鷇王と化した双殛の矛を結び、凧の様な多角形の板に存在する二つのスリットに隊長格の二人の斬魄刀が差し込まれた。
綱を渡って変換された霊力が燬鷇王を包み、元の双殛の矛となって丘に落ちる。
大質量の物体が巻き散らす衝撃と土煙が僅かなりとも混乱を生み、その隙に黒崎一護は双殛の磔架に降り立った。
「何をするつもりだ!一護!!」
「コイツをぶっ壊すんだよ」
斬月の柄布を持って振り回し、カウボーイの投げ縄の様に頭上で振り回される斬月の軌道をなぞる様に月牙天衝の光が渦を作る。
「……ちょっと待て、一護。その一撃に見覚えがある」
「そうなのか」
「ああ、私が捉えられていた懺罪宮を吹き飛ばした一撃にそっくりだ」
「……そうなのか」
既に空に放たれた黒崎一護の月牙天衝を斬月が喰らい、新たな月牙天衝として練り上げていく。
「……まさか、その一撃を放つとは言わぬだろうな!」
「俺はやる男だぜ」
「やるなと言っておるのだ莫迦者!」
磔架を蹴り跳び黒崎一護が双殛の丘を見下ろす、放たれるは更木剣八との戦いで見せた月牙廻天衝とは違う月牙天衝。
「喰らえ、『白鞘穿月』」
『よっしゃー!!おごごごごごごご……!!!げっふ―――おぇえええええ!!』
月牙天衝の渦を全て呑み込む白鞘穿月、呑気と共に吐き出される月牙天衝が螺旋を伴う円錐となって鞘から生えてくる。
「―――全てを貫け」
白鞘穿月を逆手に持ち替え投げ槍のフォーム、投擲された乾坤一擲の一撃が双殛の磔架に突き刺さる。
「月牙廻天螺旋槍!!!」
「『あ』」
黒崎一護が投擲した月牙廻天螺旋槍は見事に双殛の磔架を破壊した。
破壊したのだが双殛の磔架と衝突して拮抗し、溜め込まれたエネルギーが爆発力となって朽木ルキアを弾き飛ばしたのだ。
「――――イヤアアアアアアアアアアア!!!??」
「ルキアァアアアアアアアアア!!??」
物凄い速度で落ちていく朽木ルキアを必死の形相で受け止めた阿散井恋次、ルキアを二度と離すまいと強く抱きしめながら阿呆の面を仰ぎ見る。
目線が合った事に気付いた黒崎一護がルキアに傷が無い事に気付くと、朗らかな顔でサムズアップ。
「『ナイスキャッチ!!』」
「「ぶっ飛ばすぞ!!?」」
「落としたらどうするつもりだこの野郎!」
「言いてぇ事って、伝えてぇって事ってそれか?」
「あぁ!?」
場面が切り替わったかのように黒崎一護が瞬歩で地面に降り立つ、ルキアと恋次を背にして護廷十三隊と向かい合う。
「行けよ、まだ話せてない事があるんだろ」
「……すまねぇ!」
阿散井恋次が走り出すと共に行く手を遮る副隊長達の影、片手にルキアを抱えながらでは分が悪いが―――。
「行けよって言ってるんだから、アンタ達は黙って見てろ!!」
『エネルギー!全開!!』
「―――月牙震衝!!」
双殛の丘に突き刺された斬月が、大地に深く潜り込んだ月牙天衝が爆発する。
その振動に気を取られた副隊長三人に、白鞘穿月の一撃が意識を刈り取る。
「一護!後ろだ!!」
一撃と残心の間を縫うように振るわれた一撃に、黒崎一護が斬月を引き抜いて受け止める。
「前に会った時より遅いぞ、朽木白哉」
「後悔しても遅いぞ、黒崎一護」
一歩踏み出す 二度と戻れぬ
三千連勤の 血の海へ
誤字報告、とても感謝しております。
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石田、茶渡、織姫の戦闘シーンっている?
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