メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
旅禍の首魁、黒崎一護。その姿を遂に護廷十三隊の隊長達は認めた。
朽木白哉と黒崎一護が結び合い、処刑対象の朽木ルキアは阿散井恋次と共に逃走。
「逃がすと思っているのか!!」
二番隊長の砕蜂が初めに動いた、隠密機動が誇る速度を以てすれば多少の距離は刹那の如し。
「行かせると思っておるのか」
「がぁっ…!!?」
それは完璧な奇襲、砕蜂が強く踏み出した瞬間に横からの体当たりが体をかち上げ横方向へと吹き飛ばしていく。
「貴様!何者だ!!」
信じられない、信じる筈もない。そんな思いが言葉を発する。
「儂の顔も見忘れたのか?砕蜂」
「―――四楓院、夜一!!!」
「旅禍が我が物顔で瀞霊廷を走り回るとは、護廷十三隊の名折れだな」
「左様、しかし奴らの命運もここまでよ」
石田雨竜と茶渡泰虎を待ち構えていたのは二人の隊長格、狛村左陣と東仙要。
「―――最悪だな、あの二人は強いぞ」
「ここで時間を稼げば一護の戦いは楽になる、願ってもないことだ」
石田雨竜は弓を構え、茶渡泰虎は拳を構える。それを見た隊長二人は同様に斬魄刀を引き抜いた。
「降伏せぬと言うなら問答は無用、儂からいくぞ!!!」
狛村左陣の巨体の持つ溢れんばかりの膂力が地面を踏み割りながらも斬魄刀を振り下ろす。
「―――ヌゥン!!」
「何!?」
更木剣八程とは言わぬが己の一撃を受けて吹き飛ばされなかった敵などほぼ皆無、しかも腕を上げただけの姿勢で止められるとは。
「二歩下がってくれ、狛村。四肢を潰そう」
清虫弐式・紅飛蝗、清虫の刀身が無数の杭の様に分かれて石田とチャドに降り注ぐも全ての杭が矢によって撃ち落とされる。
「数での勝負は願ってもない話だよ、死神」
戦いの機先を制したとは言えないが、アドバンテージは確保しておきたい。
故にチャドは合図もなく動き出す。地面が、風が、茶渡泰虎を
狛村左陣は見た、自分ほどではないにせよ巨漢が緑の光を纏いながら突き進む姿を。
蒸気機関車の様に突き進むチャドが放つプレッシャーはその破壊力を想起させる。
故に認めた、その身に秘める暴力と覚悟を。故に振るおう、己の力の一端を。
「―――天譴!!!」
避けない、躱さない、逃げ出さない。まるでビルのような大きさの一撃が己を襲おうとも構いやしない。
彼は生身で鉄骨を受け止める男だ、オートバイで牽かれても余裕のタフネスだ。
天で神が俺を罰すると言うなら、お前は地獄の悪魔に嗤われる。
天譴とチャドの右腕が衝突する、地面が再び緑色に輝きながらその一撃を受け止める。
今度こそ、狛村左陣と東仙要は驚きを露わにした。天譴の一撃を受け止められるのは隊長格でもフィジカルと霊力に富んでいなければ成り立たない。
「――――
チャドの左腕が白く染まり、血の紋様が左腕を走る。
「鳴け、清虫―――!!」
「させるわけないだろ、
汲めども尽きぬ程の矢の雨が東仙要を襲い、標的を変えて清虫の一撃が放たれる。
それを察知した石田は避けるが、矢の雨の一部が消し飛ばされてその一撃の正体を悟らせる。
「音?衝撃波?指向性を持つ空気の振動?―――厄介だけど躱せないわけじゃない」
「貴様…」
「いいのか?相方がお留守だぞ」
チャドの右手は天譴を受け止めている、その腕が狛村左陣に触れられる距離ではない。
しかし褐色の肌と黒鉄の腕の影に見える場違いな程に白蛇の様な白い腕が此方を滅ばさんと狙っている。
「俺とお前の相性はいいようだ」
天譴が弾き上げられ空に帰る。コイツは悪魔だ、断罪の刃を弾く不届きな存在。
「
「―――天譴!!」
新たに生み出された天譴の横薙ぎの一撃が、悪魔の左腕と衝突する―――筈だった。
「どうした」
「……不思議なものだ」
天譴は消えた、チャドと衝突するその前に。自分から斬魄刀を解除したのだ。
「お前のその身に合わぬその力に、この儂が一歩引いた」
「逃げるならば追わないぞ」
「真逆、その真逆よ。そしてお主には興味が湧いた。賊は賊でも、貴公には信念を感じる。何故ここに来た、旅禍よ」
「この命と体を預けた信じる友達の為、友達が信じる友達の為」
「そうか……そうか―――ならば!!」
狛村左陣が身を沈めて斬魄刀の更なる解放に備えて霊圧を高める。
「下がれ!要!!」
「下がってくれ、石田」
意図を組んだ東仙要が距離を開ける、しかし石田はチャドの言葉に戸惑う。
「下がれって、君一人で―――!?」
「お前を信じていないわけじゃない、お前も俺と一護の友達だ」
チャドの影が伸びる、影が墨を撒いた様に広がる。影が石田雨竜の顔にかかる、空を仰ぎ見てソレを探す。
「だから俺を止められるのは、今はお前だけだ」
地面を染める影が、影送りの様に空に浮かぶ。再び石田がチャドの姿を確かめようと振り向くも既にそこにチャドの姿は無かった。
「おお、それがお主の覚悟か」
「――――」
「ならば儂も相応の覚悟を見せるとしよう!!卍解―――!!!」
巨大な甲冑を纏った鎧武者が形を成す、己と武者の二組の眼で敵を捉える、護廷に捧げた正義を体現せんとする為。
空に浮かぶ影のカーテンをくぐる様に、二次元のような平面から湧き出る様に三次元に悪魔が現れる。
それは、虚の様に異形。それは巨大虚の様に巨大な異形。唯一違いがあるとすれば、胸に孔が開いていないだけ。
それだけの、それが象徴であるが故に別物と分かっているのに脳裏に警鐘が鳴り響く。
チャドの得た完現術は肌を基点とする力、では肌の持つ能力とは何だ。
肌は薄いが丈夫で伸縮性が高く、なにより汗と触覚の存在は人間を支える重要な器官である。
それでは悪魔の腕とはなんだ、そこから放たれる悪魔の一撃とは何だ。
―――君の完元術は肌だけじゃないね、君の力の本質はそこじゃない。
肌の本質とは、―――世界を分ける力。
世界で意識は繋がっている、集合的無意識とか、形態形成場仮説とかでもいい。
それを分け隔てるのは、肉体なのだろう。個としての己を持つが故に人と人は離れようとする。
逆に己と相手を結びつける為に、肌と肌は触れ合うのだ。
それではチャドの本質とは何か、―――それは世界を反転させる力。
黒崎一護の様に、或いは普通の人間であっても己に虚を内包している。
普段はスーパーエゴによって抑制されるが、チャドの肌は世界を分ける。
環境的外因を排除され孤独になって力は暴走する、無視をされたら報復するように。
つまりは世界から否定される力、世界から無視されるスタンドアロンの力。
チャドの中で抑圧された、虚の力が解き放たれる。生と死が入れ替わり、世界に抑圧される名も知らぬ者の嘆きが解き放たれる。
お前の声は届かない、俺の声も届かない。―――世界に弾かれた者の悲境を見るがいい。
「これが、お主の力……!?」
――――!!!!
「ならば、黒縄天譴明王!!!」
巨大な鎧武者が振るう刃がチャドであった者に打ち込まれるも、その身を割ることはない。
振るわれる正論に、暴徒が従う筈もなし。齎される圧政に、暴徒が屈する事もなし。
幾度となく斬撃が、幾度となく打撃がチャドに浴びせられるが揺らぐだけで堪えた様子は見られない。
「これが……これが、認められるか!こんなものが!!」
正義の反対を悪とするなら、善の反対を悪とするなら、悪の反対とは一体何を示すのか。
人は皆地獄に詳しく、人は皆天国に疎い。人は皆絶望を知り、人は皆希望に鈍感である。
勇施、重を犯して無生を悟り、早時、成仏して今にあり。
獅子吼、無畏の説、深く
悪を許さぬという心、悪を許すという心。
悪を許さぬというのが正義であるならば、悪を患って泣くがいい。
悪を許すという心があれば、悪を祓って見せるがいい。
人は繋がっているから絶望だけを見て嘆くのだ、人の曇りや穢れを許すことが出来ないのだ。
もしこの巨大な悪に止めを差すことが出来る者がいるならば、この悪魔を認め許す事が出来る者でなければならない。
正義を最も体現するならば、悪意を最も体現する悪魔の一撃を受けるといい。
これは相性だ。狛村左陣にとって相性が絶望の様に悪く、チャドにとって希望の様に良かっただけの事。
「―――歌匡」
君ならば、この様な悪意にも立ち向かっていけるのだろう。
「故に、私は正義で在り続けると決めた」
相手が正義に対して最も能力を発揮するのであれば、それは逆説的に最も正義を証明する力である。
それ即ち、負けるが勝ちだ。来るべき時が来るまでの間、己の覚悟をここで見通そう。
「卍解―――清虫終式・閻魔蟋蟀」
上司の指示に
抗い続ける
己の心に
牙ある限り
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております
石田、茶渡、織姫の戦闘シーンっている?
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いる
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