メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
我ら 不撓不屈の輩となりて
二十一夜の月を仰ぎ
我ら 無知蒙昧の輩となりて
二十一夜の塔で待つ
「四楓院―――夜一!!!」
「応とも、久しいなぁ砕蜂!壮健か?」
「何故今更戻ってきた!貴様は罪人だろうに!自ら首を晒しに来たか!!」
「戯けが、この瞬神・夜一の首を落とせるとでも?」
絡む様にして地面に叩きつけられる前に砕蜂は夜一に白打を打ち込み拘束から逃れる。
「なぁに、年貢の納め時という事じゃ。ただし、倍返しじゃぞ」
「何の話をしている!少なくとも貴様は自業自得だろうが!!」
「そりゃあそうじゃ!!」
落下する自分達が地面に着地する時、その瞬間を二人は待っていた。
風の様に、雷の様に、打つ。
地面が爆ぜる、つむじ風の様に舞い、雷の様に跳ねる。
速さ、疾さ、逸さ、迅さ。速度を現す言葉は幾つもあるが、何れも何かに劣るという事もない。
衝撃を分散しながらも勁をしなやかな蹴りに流し、衝撃を反発力に変えて放つ蹴りと当たる。
「貴様はここで死ね!四楓院夜一!!」
「生でも死でも遊んでやるぞ!砕蜂!!」
ジャブの様にバラ手、同じく手の甲で払い、中段に掌打、腕で払って相手の体を開く。
互いに打って流すその動きは大きな二輪の円を描くように見えるだろう。
しかし打った速度を、払った速度を乗せて次の一撃は確実に鋭くなっていく。
体幹を通して加速する猛撃の応酬に、弧を描いていた一撃は鋭い楕円へと変わる。
そうして遂に一撃は点と線となり、その矛先は互いの急所を狙う致命的な一撃となっていく。
私たちはすれ違う、互いに拳を交わし、心を躱したまま―――私たちは殺し合う。
「―――ふむ、埒が明かぬか」
「何だ、もう音を上げたか!」
「いや?どうやら砕蜂も随分と組み手が上手くなったと思っての」
「ふざけているのか!!?」
砕蜂の抜き手が夜一を捉える前に躱され、身を沈めた夜一の突き上げる様に肘打ちを放つ。
「―――肘鉄砲!!」
「がぁ…っ!?」
直前にブレーキをかけて直撃を防ぐも両の足が宙に浮いた、その瞬間を瞬神が見逃す筈もなく。
「―――大鐘音!!!」
「がぁああああああああああああ!!?」
人間の胸郭を釣鐘と例えて渾身の飛び蹴りを放ち、人間の中に存在する胸部の空洞に衝撃を叩きこむ。
その神髄は胸郭内で圧縮された空気を利用して肺と心臓のみならず自律神経幹や中枢たる脊髄までもを中から破壊する白打の一撃である。
「「―――隠密歩法《四楓》の参、『空蝉』」」
同時に零れる言葉、伝わる不自然な感触。夜一の足先には二番隊の隊長羽織に包まれた丸太が一つ。
時間を取り戻したかの様に丸太が弾けるように飛んで行った。
人間はアナログで流れる世界をデジタルに変換し、補正をかけてアナログに修正している。
そして一秒間におよそ十枚の以上の表示される画像を映像として修正して認識する。
ちなみにフラッシュ暗算の上級者向けの問題で表示される速度は一秒間に五枚程だ。
一秒間に一回示せば画像だが、ストップウォッチの様に高速で表示される数字は映像として認識される。
しかし全ての秒数を画像としては捉えきれない、その画像と画像の隙間を突く。
今の画像と次の画像を結んで処理するために残された残像、フィルムとフィルムの間を補完するように。
人間の時間分解能である約0.1秒以下の隙間、意識の空白である0.5秒の隙間よりも狭い領域を突く。
それが身代わりの術、隠密歩法《四楓》の参、『空蝉』。
勁を放ち切り、空に飛びあがったままの四楓院夜一には致命的な隙。
「――――尽敵螫殺」
「雀蜂!!!」
砕蜂の斬魄刀が暗器のような姿へと変わる、その能力は弐撃決殺。
「終わりだ!四楓院夜一!!!」
空で溺れる四楓院夜一へと一撃目が放たれる、しかし―――。
「―――空蝉!?なん―――ぐぅうううううううう!!?」
「鯖折」
上半身と下半身をそれぞれ上向きと下向きの斜め回転を加えて自身の体を反転させる。
空蝉に釣られた者へ向かい合わせで上下逆さまのヘッドロック。そのまま縦に回転しながら互いに落ちていく。
例え雀蜂で攻撃を試みようならば、そのまま二撃打たれる前に空いた首がへし折られる。
そのまま回転を続けて勢いが付けば、地面に叩きつけられても死ぬ。
「―――!!」
上下の間隔が消え去ったまま、頼りになるのは皮肉にも首を拘束するこの二本の腕だけ。
どんな技にも完璧はない、完璧であるなら技ではない。あるのだ、鯖折にも隙がある。
片手を外して雀蜂を構える、重要なのは二撃目で一撃目はどこでも構わない。
それを知覚した夜一が鯖折の〆に入る、高速の縦回転からの急停止だ。
一人が止まり、一人が慣性で前に飛ばされた際のせん断応力で首を圧し折る。
それを空中で行おうとすれば霊子の足場を作る必要がある、つまりそれはタイミングを合わせて両者が足場を作って停止すれば抵抗する余裕が出来るという事。
砕蜂の左手の手刀が夜一の肘を叩いて拘束を抜け出し互いに距離を取る。
危うく首を折られかけ、そうでなくとも血管や気道を強く抑えられていたのだ。
呼吸は乱れ、意識は若干なりとも朧げに。顎が緩んで涎が垂れる、夜一を睨んで涙がこぼれる。
「もう音をあげたか?砕蜂」
「……っ!」
「それじゃあ次は何で遊ぶかの、隠密機動総司令官殿」
遊び?遊びと言ったのか?大鐘音も鯖折も確実に殺意が込められていた。
空蝉や鯖折崩しも知らなければ一線を退く事態にもなりえたのだ、それが遊び?
「何故だ…」
「ん?」
「貴様が、何故……」
「んん?」
「何故だ!!!」
激情が形を成し、肩と背中から立ち上る。瞬閧だ、鬼道と白打を織り交ぜた四楓院家に代々伝わる必殺の構え。
「おうおう!瞬閧か、これは久しいものを見た!!」
「夜一!貴様は一体何なのだ!!」
「何が言いたいのかさっぱり分からんが……とりあえずお主の力を見せてみよ!」
夜一の衣装もはじけ飛び、互いに瞬閧のまま向かい合う。
攻撃は続く、先程と同じような点と線の応酬。
先程と違うのは、その一撃は確実に命を奪い去るであろうという事だ。
夜一の拳や蹴りと共に尋常でない程の雷が放出される。
砕蜂がそれを払う度に共に吹く風が雷を散らしていく。
雷と遊び、風の戯れ。互いに空蝉を交えて立ち替わり、破壊の怒涛が一面に開く。
手刀を躱して肘を狙う、空いた足を払われる。
回りながらの廻し蹴り、受けた腕に足をかけてもう一方の足を振り下ろす。
払う手を掴んで捻り上げ、共に廻って受け流し。
喉を引き裂き、顎を砕く空手の一手は肘を振り回して撃ち落とす。
大腿に振り下ろされる掌打の一撃を、膝で掬って受け流す。
鎖骨を狙った手刀の一撃を、肩を使って体当たり。
足刀が側頭部を狙い、足を掴んで胴を蹴る。
浮いた体を振り回して地面に叩きつけられ、そのまま無防備な腹に膝が沈みこむ。
ゼロ距離での風と雷の乱舞。こんなに五月蠅いのに、貴方の声は全て聞き取れるだろう。
「何故だ!!!」
「……」
「どうして!!!」
「……」
「なんで!!!」
「……」
なのに何故、あなたはいつも何も話してくれないのだ。
あなたはいつもそうだった。
二番隊の隊長として、隠密機動総司令官として、かつて憧れたあなたはいつも自由で。
私は遠く、あなたを眺める事だけが許されていた。
「砕蜂!!」
四楓院家に仕えるのが代々蜂家の使命。そしてこの命は代々四楓院家の為にある。
姉も兄も死んだ、任務に殉じて死んだ。
私の番が来た、せめてもの慰めに祖母の号をねだったのだった。
あなたは気さくで豪放磊落、距離も近いし顔も近い。
それでいて強く、大きく、綺麗で―――。
私は、自分でもどうしようもなく惹かれていくのが分かった。
「お困りですか?砕蜂サン♪」
ああ、そんな時だったな。
お前と初めて顔を合わせたのは。
あなたはいつもそうだった、いつもそうだからよくわからなかった。
「随分と瞬閧を使いこなしているようじゃな、日頃の鍛錬の賜物か?」
「貴様が聞きたいのはそんな話か!夜一!」
「……フムン」
「私は……私は!!」
「―――向こうもそろそろ落ち着く頃か。そろそろ遊びも仕舞いにしよう」
「―――貴様ぁああああああ!!」
ドドンと太鼓が鳴る様に、雷光の球が夜一の背後に浮かんで並ぶ。
ごぉごぉと風が走る様に、圧縮された空気の球が砕蜂の背後に一つ浮かぶ。
「瞬閧・雷神戦形!!!」
「瞬閧・風神戦形!!!」
雷光の球が幾条もの線となり、一つの束となって降り注ぐ。
空気の球が開かれて、嵐の様に吹きすさぶ。
空気が乱れて雷は逸れるが、衝撃で風は散り散りとなる。
土と空気の焼ける匂いに包まれて、それも全ては風が拭い去る。
全力を出して負けた、最早そよ風一つも起こせまい。
「どうして―――なのですか」
「どうして夜一
「どうして喜助
「どうして―――私を、連れて行って下さらなかったのですか……」
もしもたった一つの思い出を持っていけるとすれば、それはこれ一つだろう。
夜一姉さまは自由なお人で、仕事やしがらみを嫌になってすぐに抜け出してしまう。
素早く、巧妙に、誰にも気づかれずに居なくなるのだ。
例外はただ一つ、喜助兄さまの存在だ。
喜助兄さまは夜一姉さまを探すのが得意だった。私一人では夜一姉さまを見つける事が出来なかった。
例外はただ一つ、たった一度だけ私は二人を見つける事が出来たのだ。
二人で競い、高めあっていたのだろう。二人は随分と疲れた様子で並んで眠っていた。
未熟だった私はムッとして、喜助兄さまをどかして二人の間に割って入り夜一姉さまと腕を組んだ。
太陽に触れる事の烏滸がましさ、その事を当時は何も知らなかった。
そして私は喜助兄さまとも腕を組んだ、これでいいのだと瞼を閉じた。
草原の上で五体を広げるような解放感と安心感に、当時の私は何も考えていなかった。
二人の間は何とも居心地がよく、この世の何よりも満たされているのだと錯覚していた。
眼を覚ますと、私は一人きりで眠りこけていて。
私は、置いてきぼりにされていた。
私の胸に深く突き刺さるその声は
鳴り止まぬ着信音に似ている
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております
石田、茶渡、織姫の戦闘シーンっている?
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