メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
「黒崎一護、貴方は勘違いしています」
「盈月が泣いている」
「刀を喜ばせる趣味はありませんが、蔑ろにするのもまた違う」
黒崎一護の声に乗せて、剣鬼のおどろおどろしい嘆きが木霊する。
「私が教えてあげましょう―――本当の盈月の使い方を」
ゆらりと持ち上げられた盈月が剣鬼の声に従うかのように刀身を分け、その空間から霊圧が溢れ出す。
「盈月・眉月」
盈月の内側から溢れ出す霊圧は細い曲線を描き、そして盈月から分かれた刀身が距離を開けて刃長を伸ばす。
盈月の大剣の様な姿から、眉月の様な細さと長さを持った大太刀に組み替える。
それだけなら盈月の派生の形だと分かる、しかし先程までとは明らかに違う特徴があった。
「月牙天衝」
―――紅い、月牙……!!
柘榴の様に妖しく、地平線の月の様に美しく輝く紅の月―――ではない。
そんな雅や風流の欠片もなく、それはただ錆びた鉄の様な皆既月食のブラッドムーン。
一刀千刃桜颪の連続した散弾の斉射が月牙天衝を吹き飛ばす。
「成程、花火は出ませんか。これは黒崎一護の血によるもの、私の血には応えない」
音も静かにふらつくかのように黒崎一護の体がぶれて、次の瞬間には最高速度に達している。
朽木白哉は霊圧を盈月に流している間の黒崎一護は弱いと語ったが、それでも卍解によって大幅に身体能力が向上している。
確かに天鎖斬月の時の様に溢れ出す霊圧を纏ったままも強いだろう、しかし盈月の本質はそこにはない。
黒崎一護が大太刀と化した盈月を振るい、月牙天衝が追随する。
朽木白哉が千本桜の射出を交えながらも瞬歩で回避する。
黒崎一護がその全てを躱しながら最短の経路で距離を詰めて色即是空が朽木白哉に襲い掛かる。
朽木白哉が千本桜の斬魄刀で受け止めるが、盈月の刃筋が斬魄刀に割り入ったのを見て体を仰け反らせて回避する。
新たな斬魄刀を手にした朽木白哉の反撃を黒崎一護の斬魄刀が受け止める。
朽木白哉の動きが次に移ろうとした時にそれは起きる、地面が突然消えて無くなったかのように踏鞴を踏んでふらついた。
「……如何しましたか?」
「……」
惚けたような声に、黒崎一護が何かをしたのは明白。
答える事もなく再び斬魄刀を振るうも今度は盈月に触れた瞬間、黒崎一護を避ける様に斬魄刀が軌跡を逸らした。
「……如何しましたか?」
「―――柔の剣か」
「その通り」
全ての防御ごと断ち切るのが色即是空なら、全ての攻撃をいなす事こそ空即是色。
右に相手が飛ぶなら右に流す、縦に落とすなら少しばかし流して軌道を曲げる。
「枯れ木の千本、恐るるに足らず」
「……億の刃を見ても、同じことを言えるのか」
コロシアムの様に取り囲む殲景・千本桜景厳が一斉にその切っ先を黒崎一護へと向けていく。
「奥義、五ノ容・一日千刃桜颪」
同時ではなくタイミングをずらし、機関銃の一斉掃射の様に桜颪が降り注ぐ。
「盈月・上弦」
獣が顎を開くように、盈月が大太刀から更に身幅を厚くする様に刀身を組み替える。
それに呼応するようにその禍々しい程の霊圧を増していく、狙いは月牙天衝の強化だろう。
しかしどれだけ強烈な一撃で薙ぎ払おうとも追撃する花弁が黒崎一護を切り刻む、けっして逃がしたりはしない。
「喰らいなさい、盈月」
『おごごごごご――――っ!!!?』
盈月の大きく開かれた刀身が一瞬で朔と呼ばれていた大剣の状態に戻る、霊圧を全て身体能力の向上に切り替えるつもりか。
朽木白哉が手掌を黒崎一護へ向ける、千本桜景厳は手掌で手繰れば速度は二倍となる。
例えどれ程速くなろうとも全方位からの高速の散弾を、篠突く雨の中で濡れる事無く駆け抜ける事は不可能―――!?
「残月」
それは幻影か、錯覚だったのか。千本桜の雨が自ら道を開けたかのように広がり、そして黒崎一護の姿が消えた。
訪れる幾つもの衝撃と焼かれた様な鋭い痛み、そして辺りに飛び散る己の血液。
「重き無き花の刃など、まるで羽毛のよう」
黒崎一護も朽木白哉も知らなかった、盈月の性能。
盈月は身体能力か月牙天衝を強化する卍解では無かった、本来の盈月とは黒崎一護の霊圧制御を補助する為の卍解である。
つまり月牙天衝を強化していると思われていた形態は、黒崎一護の霊圧制御のギアを上げる為のチャージ形態。
つまり物理で殴りながら月牙天衝をブッパする斬魄刀ではない、レベルを上げて物理で殴る斬魄刀なのだ。
後は大地を深く抉り取る程の力の全てを速度と膂力に振り分け、その全てで朽木白哉を滅多切りにしただけの事。
「見えずとも、本能的に霊圧を防御に回しましたか」
「……今のは、なんだ」
「強烈な光を見た後に残像が残る事があります、故に残月」
「見えずとも影の様に、見ても狂わしの月ように。随分と厄介な卍解だ」
単純明快なその言葉、そして特別不思議な事ではない。
既に一度、黒崎一護が月牙昇竜残月千輪菊錦先飛星天衝を放った後に強化されているのを見ていた。
しかしそれは油断から来るものだと思っていた、だからこそ今度は千本桜の雨から消える直前も目を離すことは無かった。
「―――重さにも速さにも慣れました」
次の瞬間には足元に獣の如く低姿勢のまま脇に構える黒崎一護が現れ、朽木白哉は迎撃として最速の突きを放つ。
黒崎一護は斬魄刀の背を噛んで受け止めた―――空即是色の真剣白歯取り。
刀だけでは斬れない、体だけでは斬れないように。
それは裏を返せば刀とは体、体とは刀。全身全てが刀とあればその歯ですら殺しの刃。
斬魄刀を手放せばよかった、勢いは無くとも黒崎一護の口腔内で千本桜を暴れさせる事も出来たかもしれない。
しかしそうはならなかった、ならなかったのだ。
理由など後でなら幾らでも考察出来るだろうが、その時に至っては考える余地などなかった。
そして斬魄刀を奪われまいとした朽木白哉の抵抗が戦況を不利へと傾けた。
黒崎一護の噛んだ斬魄刀は下向きに引かれ、朽木白哉は上向きに抵抗する。
下向きの力は一瞬だけ、それを朽木白哉の上向きの力が修正される前に重ねて大きくする。
結果的に朽木白哉は僅かながらも浮いた事で、そのまま黒崎一護のすくい上げるような体当たりで腕を掴まない一本背負いの様に完全に足が地から離れた。
瞬歩の弱点は低い高さで上下が反転すると、瞬歩で地面に激突する恐れがあるという事。
しかし不覚を取られてもこの距離なら近すぎて黒崎一護が盈月は振るう事も叶わない。
その前に白打を打ち込み脱出しようとするも、待ち構えて居たのは白染めの鞘。
「月牙獅子吼衝」
黒崎一護が盈月に流してしていた霊圧を白鞘穿月へと渡し、その鯉口から紅い光線が放たれると朽木白哉を大きく吹き飛ばした。
隊長羽織はおろか死覇装すら無残にも血に塗れ、土埃に塗れ、切り裂かれている。
「さて、朽木白哉。未だ無様にも這い蹲るままならその首を落とします」
朽木白哉の頭がもぞりと上げて、紋様を浮かばせる白塗りの仮面が黒崎一護の顔を覆うのを見た。
吹き荒れる霊圧、死神、死を司る神。
僅かばかりの骨となる運命、それを空を走るイナズマの様に不可避を告げるもの。
「―――何故、邪魔をするのです」
『いい加減にしろよ、一護の体を返しやがれ!!』
「成程……仮面は、己を隠すモノ……私を、封じるつもりですか……!!」
『コイツは俺が連れていく……!!後はテメェで何とかしやがれ―――【黒崎一護】!!!』
絶対の死、その運命すらこの男は覆す。
先程までの鬼神の様な気配とは打って変わって、仮面が砕けて現れた素顔は疲労と汗に塗れながらもあどけない顔をしていた。
「ワリィな……邪魔が入った」
「兄は……何故戻ってきた」
盈月の切っ先が朽木白哉に向く。刀とは体、その全身から迸る覚悟の気迫。
「俺はここに来る時に誓ったんだ。俺は強くなる、ルキアを絶対に助ける、アンタは俺が倒すってな」
「…そうか」
―――この男も何かに誓い、誓いを果たす為に戦っていた。
「既にお互いに余裕もなかろう、次で仕舞いにする」
「上等だ」
千本桜が朽木白哉の手元に吸い込まれていくように収束していく、それは己の霊圧と共に濃縮されて一振りの御剣と罷りなる。
「終景・白帝剣」
「アンタはスゲェよ」
「アンタはこんなにスゲェのに」
「なんでルキアの事を守ってやらなかったんだ」
黒崎一護が盈月を大上段に構えると盈月の刀身が分割され、今の自分に出来る最大の霊圧を解放する。
延びた刀身の側面から溢れるその月は、まるで真っ二つに斬られたかのようにも見える。
「盈月・
「その問は、貴様が私に勝てば教えよう」
「忘れんじゃねぇぞ、その言葉」
鸞の如き神々しい霊鳥を思わせる翼と斬魄刀と、十五夜の月を思わせる風雅と狂気の斬魄刀が走り出す。
終景・白帝剣がその全てを費やして、自らそのものを終わらせんとばかりに突撃する。
盈月・宵待がその刀身を閉じて、最大の霊圧を全て黒崎一護に還元する。
身体能力の最大解放、そんなものは圧倒的な力の前では鎧袖一触だ。
しかし朽木白哉は黒崎一護を
終わると言う事は、また始まるという事である。終わったなら、もう始まる事もない。
終景・白帝剣を前にして躊躇いも無く前に踏み込んだ黒崎一護、今こそ大上段に構えた盈月が振り下ろされて衝突する―――筈だった。
何度も聞いた筈だ、盈月は黒崎一護の霊圧制御を安定させる為の卍解。
では何故安定させなければならないのか、それは黒崎一護が天鎖斬月を上手く扱えていなかったから。
黒崎一護の遥かに無駄の多い霊圧制御は、天鎖斬月をただ振るだけで燃料切れを起こす始末。
故に、
己の霊圧と本来の力を刀の形に封じる破面の斬魄刀を、全て解放して元の形に戻すのが刀剣解放。
それは盈月によって制御される霊圧を喰らい、膨らました風船が風を吐き出すように、そのまま別の何かに変換する事が出来るという事。
盈月の【鞘】が砕けて内から天鎖斬月が現れる、それは双殛の矛の解放である燬鷇王ですら遥かに超える黒色の霊圧を纏いながら振り下ろされる。
斬魄刀百万本の防御能力を持つ双殛の磔架を始解の一撃で破壊する黒崎一護だ。
そんな黒崎一護の卍解における正真正銘の全力、一から十まで正しく行使される全身全霊の一撃を受けるがいい。
バカ野郎……”休みてえ”んじゃねえよ…“休む”んだ!
誤字報告、とても感謝しております。
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石田、茶渡、織姫の戦闘シーンっている?
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