メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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小さな野望

薄紅の桜と黒染めの月が交わり、今ではその衝撃とは裏腹に静謐を湛えていた。

 

朽木白哉の手から千本桜の花弁が零れて空手となる、何もかも透明に思えて言葉が遂に零れた。

 

 

 

「何故、朽木ルキアを処刑するのかと兄は問うたな」

 

 

 

「掟だからだ」

 

 

 

「罪あれば罰し、刑とあれば処する」

 

 

 

「掟だからだ」

 

 

 

己の正当性を語る言葉ではない、それは掟と歴史こそが正当であるという事。

 

歴史を司る尸魂界の四大貴族の一、朽木家。

 

無法に正義はなく、正義無くして法は無し。

 

法こそは正義、そこに情念など無用。

 

ああ、ああ、そうだとも、知っていたとも。

 

―――緋真、お前と出会うまでは。

 

 

 

「……俺、ちょっとだけなら分かる気がするよ」

 

「……」

 

「雨が降った日に、妹が転んで泥だらけになった。俺が助けようと手を伸ばしたのに泣きじゃくるだけで転んだままで」

 

―――お兄ちゃんが、汚れちゃうから。

 

「お気に入りの服が濡れた事より、俺が汚れる事を気にして泣いていたんだ」

 

「その時俺は一緒に水たまりに飛び込んで汚れたよ。そんで笑って、一緒に手を繋いで帰った」

 

(けい)は、私も泥で汚れるべきだったと?」

 

「アンタはさ、兄と言うか親みたいな人なんだ」

 

「………親」

 

「俺が悪い事してたら、カッコ悪い事してたら俺の親父はキレる」

 

「それでも、俺の事を愛しているって分かるよ」

 

「ルキアがアンタに大人しくついて行って、大人しく処刑を受けようとしていたのもそうだろうよ」

 

「アンタに愛されていたからだ」

 

愛していた、私がルキアを。

 

愛していた、我が子の様にルキアを。

 

「アンタは間違ってない、それでいいよ。アンタの役割はルキアを助ける事じゃなかった」

 

「俺がルキアを助けるよ、俺が例外になってやる。それでいつか、アンタが自分を許せるようになった時に―――ルキアに、会いに来てくれよ」

 

「………」

 

この男は似ている、あの男に。

 

無鉄砲でお調子者、なにより疎ましく、歴史と伝統に蹴りを入れるその奔放な男に似ている。

 

―――私が朽木であるように、貴様もあの血筋であれば当然か。

 

「……黒崎一護、貴様の覚悟を認めよう」

 

「あ?」

 

「私の斬魄刀は貴様の覚悟に砕かれた。私はもう、ルキアを追わぬ」

 

「この勝負、貴様の勝ちだ」

 

そう言い残して朽木白哉は瞬歩でその場から離れた、随分と余裕そうな敗北だなとは毛ほども思わず。

 

「……勝った」

 

「勝った、俺が―――勝った」

 

「勝てた、勝てた。俺の、俺の―――」

 

 

 

「俺の勝ちだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

今や沈黙を湛える四十六室の部屋の中央にて藍染惣右介はただ待っていた。

 

計画の成就、そして己が天に立つと決めたその決意が形を成すその歩みの中で。

 

「それで?ここに日番谷隊長と雛森副隊長が来るのを待つんですか?」

 

「ああ、やはり利用していたからには謝罪の言葉でも伝えねばならないと思ってね」

 

「謝罪するぐらいなら利用しなければええんじゃないですか?」

 

「今は息絶えた四十六室の唐変木と違って僕はちゃんと謝罪できるからね、問題はないよ」

 

「マジで言ってるんこの人、謝ったからオッケーな訳ないでしょ……」

 

「それより何と言って謝罪しようか、日番谷隊長の大切な人と共に朝を迎えた時の鳥の声の真似でもしてみようか」

 

「遠回しすぎや……その声でいきなりスズメやらカラスやらの声真似してどうするんですか……」

 

「この鏡花水月の能力を使えば、僕の声をスズメやカラスの鳴き声にする事も可能だ」

 

「なんという無駄遣い!僕もう嫌や……堪忍してぇな……」

 

「さて、楽しみだ。―――それじゃあ、僕は隠れているからいい感じに頼むよ」

 

「ホンマに便利な外套やなぁ、ソレ」

 

「黒色だから、カラスにしようか」

 

「もう好きにしてください……」

 

 

 

 

 

 

「さよなら」

 

背中に触れる掌の熱さ、心音すら届く懐の中。

 

背中から抜けていく自らの熱と、心音すら消え去る胸の中。

 

「嘘」

 

全ての事がひっくり返ったかのように、愛染隊長の顔から笑みが消える。

 

支えを失って倒れる私の体。最後に聞こえた、そう信じていたいその声は。

 

「ごめんね、雛森君」

 

「藍染―――隊長」

 

何故……謝ったのですか、藍染()()

 

 

 

 

 

「だから何で謝るのに刺すんですか、というか刺さなきゃええやないですか」

 

「僕はね、僕が悪いことをした時の人の顔を見るのが好きなんだよ」

 

「ただの異常者やん……」

 

 

 

 

「憧れは、理解から最も遠い感情だよ」

 

「卍解―――大紅蓮氷輪丸!!!」

 

氷は冷たく、心は熱く。吐息は白く、血潮は熱く。

 

四方八法のその悉くを、三千世界を氷に閉ざす。

 

「藍染、テメーを殺す!!」

 

「あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ」

 

紅蓮地獄と同じ名に、雪の華と血の蓮が地面に咲いた。

 

どんな寒さよりも、どんな冷たさよりも、こんなにも―――恐ろしい。

 

「すまないね、日番谷隊長」

 

藍染、テメェだけは、テメェだけは絶対に―――。

 

許せ、ないのに―――。

 

―――寒い。

 

 

 

 

 

「カラスの鳴き真似しないで安心しましたわ」

 

「怒るよ、ギン」

 

「え?僕が怒られるんです?」

 

「僕はやるべき事をしっかりやるタイプだよ」

 

「へぇ、雛森副隊長は実は()()()()()のに?」

 

「―――おや、気づいていたのかい」

 

「アカン、口が滑ってもうた」

 

「君の洞察力に感心するばかりだよ、僕の本質を見極めようとするその姿勢は嫌いじゃない」

 

「その本質かて、意外と適当で杜撰で行き当たりばったりですよね?」

 

「世界の方が、行き当たりばったりなのさ」

 

「いい性格しとるなぁ、この人」

 

四十六室の居住区画を抜けて、目的に向かって歩みを進めている時が好きだ。

 

自分の思うようにいかない事を解決する、その事がなによりも好きだ。

 

「大逆の罪人、藍染惣右介」

 

「どうも、卯ノ花隊長」

 

私が歩みを進める度に困難は訪れる、その事がなにより喜ばしい。

 

「惜しいな、読みはいいが間違いが二つ―――」

 

「ここかぁ!!!」

 

突如として地面に巨漢の影が落ち、途轍もない霊圧と共に降りて来た。

 

「どいつもこいつも好き勝手に戦いやがって、俺の獲物はテメェか?」

 

「ほう?僕は君と同じ隊長だよ?」

 

「ああ、そうだな―――」

 

 

 

「斬り甲斐がありそうな、隊長だろ!?」

 

 

 

「………」

 

「おや、どうしました?藍染惣右介」

 

「いや、間違いの数より予想外の数が多くてね。要はどうしたのかな?」

 

「知らねぇ」

 

「私も知りません」

 

「………」

 

東仙要は暴走したチャドと争う事を優先した事で更木剣八がフリーになった。

 

それがこの結果、二大剣八が一か所に集まるという事態に陥った。

 

「ほらーやっぱり行き当たりばったりですやん」

 

「………」

 

「ほらほら、とりあえず謝りましょう?ね?」

 

「君もいい性格をしているよ、ギン」

 

ぶっちゃけここで剣八二人に藍染隊長をボコボコにしてもらいたい気持ちをぐっと堪える。

 

ここで藍染隊長をやられても目的は達成できない、その為ならなんぼでも泥をかぶる。

 

「それではここで失礼するよ、二人とも」

 

「君たちとは、もう二度と会う事もあるまい」

 

空を旋回して舞う布に辺りを覆われてその場を離れ去る、次の瞬間には双殛の丘の上に転移していた。

 

そこには冷や汗をたっぷりとかいた藍染と市丸、そして傷だらけの東仙と連れ去られて来た朽木と阿散井の姿があった。

 

 

 

 

(((なんとかなった!!!)))

 

 

 

終焉が近付き、開演はすぐそこ。

 

黒崎一護が辿り着くまで、残り―――。




職場に於いて足手まといなのは “やる気のない者”ではない “能力のない者”だ


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死神代行消失編いる?

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