メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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ゆるぎないものひとつ

「朽木ルキアを置いて、退がり給え」

 

「断る、と言ったら?」

 

「成程、では腕ごと置いて退がり給え」

 

丘の上で阿散井恋次と朽木ルキアを見下ろす大逆の罪人、藍染惣右介。

 

「随分と上手く躱せるようになったね、阿散井くん」

 

「だが無駄な抵抗というものだ、君の元上官として死なせるのは忍びない」

 

「……何が”君の元上官として死なせるのは忍びない”だ」

 

「テメーが裏切らなきゃよかっただけの話だろうが!!」

 

「そうです……何故、尸魂界の歴史の中でも特別優秀と呼ばれた貴方が、裏切りなどと……」

 

藍染惣右介は悪人だ、しかし善にも悪にも道がある。

 

焦っていても、悪い癖というものは出てしまうもの。

 

彼が悪の道を進むと決めた事、それを知りたいと乞う者がいればつい喋りすぎてしまう。

 

「優秀か、君は僕をそう評価するんだね」

 

「では答えようか、これは僕の意見だが―――」

 

 

「優秀な者とは、裏切る者だとは思わないかね?」

 

 

 

その言葉に絶句する二人、それを見て気分を良くした藍染は言葉を重ねていく。

 

「先に言っておくが裏切る者が優秀か愚かなのかという話ではないよ」

 

「僕が優秀だとすれば、風習やルールに縛られるだけの君たちが愚かだという事だ」

 

「自らの意思を持ち、自らの道を行き、自らの覇を唱える。かつての初代護廷十三隊もそのような者達の集まりだったと聞いているよ」

 

「だったら何で―――」

 

 

阿散井恋次が体勢を立て直し、片腕でルキアを抱えなおして斬魄刀を引き抜くも隊長格三人を相手にするのは無謀。

 

 

「―――雛森を殺したんだ!!」

 

 

それでも、振るうしかない。かつての同期であった友を愚弄される怒りが阿散井恋次を突き動かした。

 

蛇尾丸が刃節を伸ばして藍染に襲い掛かる、しかし彼の翳した掌によって傷一つ付くことなく阻まれる。

 

「彼女の事は本当に申し訳なく思うよ。だけど僕と彼女の道は分かたれた、彼女を置いていく僕のこの偲びない気持ちの表れだと思ってくれ」

 

「分かんねぇな……だったら何で裏切るって分かっていて懐に入れやがった!!」

 

「別に裏切らなくてもよかった、だけど十五年前に全ては動き始めたんだ」

 

翻る刃がルキアを庇った阿散井恋次の背中を斬り付ける、しかし恋次はふらつく体に渇を入れて踏鞴を踏んで留まる。

 

「もう一度言うよ、朽木ルキアを置いて退がり給え」

 

「嫌だね―――俺はもう、ルキアを離さねぇ!!」

 

「……何か勘違いをしているようだね、僕としては君たちを助けようとしているんだよ」

 

「どの口が言いやがる―――ルキアを処刑しようとした張本人が!!」

 

虎徹勇音による天挺空羅によって、藍染の企みは護廷十三隊全体に知れ渡ることとなった。

 

「ああ、そのことかい。そこは心配していなかったよ」

 

「英雄が来る、そう信じていたからね」

 

次こそはその腕を切り落とさんと振り下ろされる斬魄刀を受け止める影が一つ。

 

「随分と、かっこいいじゃねぇかよ恋次」

 

黒塗りの斬魄刀、黒染めの死覇装、オレンジ色の髪。

 

「黒崎一護、君とこうして相まみえる日を心待ちにしていたよ」

 

「テメーがルキアを殺そうとした奴か!」

 

「その通りだよ、英雄」

 

「だったらテメェをぶっ飛ばす!!」

 

「待て一護!!」

 

黒崎一護はここにきて冷静だった、更木剣八と質は違えど明らかに強者と分かる霊圧を放っていたからだ。

 

鍔迫り合いとなった斬魄刀を弾いて両者ともに距離を開ける、こうなっては朽木ルキアを逃がす為の隙を作る以外に道はない。

 

「俺とお前で隙を作るぞ、ぶっつけ本番だがしくじるなよ」

 

「おうよ、やってくれ」

 

「それじゃあ行くぜ―――!!」

 

 

「 卍 解 ! ! 」

 

 

「 狒 狒 王 蛇 尾 丸 ! ! 」

 

 

刀と言うべき軛を超えた、大蛇の骨格を模したかのような卍解が現れた。

 

「素晴らしい、やはり君は三人の中でも特別だった」

 

対話など既に必要はなく、阿散井恋次の意図を汲んだかのように狒狒王蛇尾丸が、卍解の膨大な霊圧と鈍重な質量が、筆の調べのようにその身をうねらせながら突進する。

 

手出しは無用、そう聞いているのだから市丸ギンと東仙要は距離を取って観戦にまわる。

 

藍染の実力と鏡花水月の能力があれば受けるも躱すも容易い事、その中で藍染は面白そうな選択肢を選びがちだった。

 

「せっかくだから、君の成長した姿を見せて貰おう」

 

先の始解と同様にではなく、斬魄刀で狒狒王蛇尾丸を受け止める。

 

弾かれた勢いを乗せて狒狒王蛇尾丸がその牙を、その図体をぶつけんと襲い掛かるも一本の斬魄刀に捌かれる。

 

「空即是色と呼んでいたのかな、先人の心得に触れるのはなんとも面白い」

 

「ふざけてんのか!!」

 

「君こそいい加減に狙いを吐き出したらどうだい?黒崎一護は何処へ消えたのかな?」

 

「探してみなぁ!!」

 

「蛇を解体するのは、初めてだよ」

 

藍染の腕のブレすら見えぬ程の斬撃が幾条も幾条も振るわれ狒狒王蛇尾丸の刃節を切り落とされる。

 

「おや、体の中に隠したわけではないのか」

 

「隠す暇なかっただろうが!!」

 

「それでは、何処に隠れたのか―――」

 

いっそ裏返って臆病な程に周囲に気を配る藍染が見落としたという事実に、遅れて自分でも気が付いた。

 

「月牙旋遍万花衝!!!」

 

盈月・朔によって奇襲を打った黒崎一護に流れる燃える血が、月牙天衝と共に花火を散らす。

 

それに合わせて恋次の霊圧によって組みなおされた狒狒王蛇尾丸の口腔に霊圧が集中している事に藍染は気づく。

 

ハク様の鞘は二本ある、黒崎一護ごと光線を打ち込もうとも彼なら無事か。

 

 

 

「狒骨大砲!!」

 

 

 

「うおおおおおおおおお!!?」

 

 

 

自分ごと藍染に光線を放ったなら分かる、しかし実際には()()()()()()()()狒骨大砲が放たれた。

 

「ハク様ァアアアアアアアアアア!?」

 

『おごごごご―――!!!?』

 

どうみても自分に向けて飛んでくる光線にビビった黒崎一護、いきなり狒骨大砲を飲まされたハク様もこれには驚いた。

 

「何やってんだぁああああああああ!!?」

 

「うるせえ!俺は藍染に撃ったのになんでテメェがそこに―――!?」

 

「僕はここだよ」

 

右腕に大きく走る切創から、血を吐き出すと共に痺れと痛みが昇ってくる。

 

そのまま背中を斬られて遂に阿散井恋次が膝をついてうずくまる。

 

「藍染――――!!!」

 

盈月を刀剣解放する事で放たれる、天鎖斬月による全力の月牙天衝を纏った一撃。

 

 

 

 

「四楓院夜一に言われなかったかい?」

 

 

 

 

黒崎一護の色即是空が、藍染惣右介の空即是色に流される。

 

 

 

 

「君は恐れを知らなすぎるとね」

 

 

 

 

呆けた意識と浮いた刀と空いた腹、隙と呼ぶには烏滸がましいその空間を撫でる様に藍染惣右介の一閃が振り抜かれた。

 

内臓ごと体幹の殆どを割られれば勁の流れは霧散する。為す術もなく地面に倒れて最早立ち上がる事も出来ない。

 

「落ち着いたかね?君たちは勘違いをしているんだ」

 

首輪に指をかけて朽木ルキアの体を引きずりながら、藍染はとうとうと語り出す

 

「朽木ルキアを殺す意図は僕にない、尸魂界を滅ぼそうとも考えていない」

 

「僕はむしろ君たちを助けようとしている」

 

藍染が薄く笑みを浮かべたまま黒崎一護を見下ろしている、その瞳に宿る感情を黒崎一護には理解できていない。

 

「黒崎一護、君が朽木ルキアを必ず助け出せると知っていた」

 

「黒崎一護、君が西流魂街から来ることを僕は知っていた」

 

「黒崎一護、君が虚の力を得る事を僕は知っていた」

 

「黒崎一護、君が死神の力を得る事を僕は知っていた」

 

「僕は、君のことなら何でも知っている」

 

「何でだ……」

 

黒崎一護の背筋を駆ける悪寒、そして一抹の不安。

 

「何でアンタが、夜一さんとの会話を知ってるんだ……」

 

「ああ、そうか。全てを語る前に、君に聞いて欲しい話がある」

 

朽木ルキアを持ち上げて、藍染は特殊な術式を解放する。

 

「ある日の事だ、尸魂界における危険な物質が持ち去られている事が分かった」

 

「それは死神の虚化を可能とする物質で、実際に当時の隊長達が犠牲になっている」

 

「僕はそれを回収しようとしたが、行方が分からなかった」

 

朽木ルキアと藍染を囲うように飛び出す白骨のような棘が飛び出す。

 

「やはりまたある日の事、僕は失われた物質の在処を突き止めた。そして見つからなかった原因も分かった」

 

「特殊な術式によって、魂魄そのものの中に隠されていたからだった」

 

 

―――オン・ハンドマ・シンダマニ・ジンバラ・ウン。

 

 

藍染の手が、ピンセットを思わせるような特異なカタチへと変わって朽木ルキアの胸元に差し込まれた。

 

「朽木ルキアから危険物質を抽出する方法は二つ、魂魄そのものを蒸発させるか、その隠した方法をもって回収するかだ」

 

藍染は目的のモノを抜き取ると、用済みとなった朽木ルキアを優しくそっと降ろした。

 

「この物質の名前は【崩玉】、面白い名前だとは思わないか?」

 

「そして、この危険な物質を作り上げた男の名前は」

 

 

 

 

「―――浦原喜助と言う」

 

 

 

 

黒崎一護に注ぎ込まれる情報の理解が追い付かないまま、藍染の話は続く。

 

「君は浦原喜助の狂言に乗ってここまで来たようだが、彼の事をどれだけ知っている?」

 

「都合よく表れ、都合よく話を進める彼の何を信じる?」

 

「僕の記憶が正しければ、君が虚の力に目覚めたのは」

 

 

 

「君が、虚の因子に満たされた空間に落とされたからではないかね?」

 

 

 

黒崎一護に注ぎ込まれる情報の理解が追い付かないまま、藍染の話は続く。

 

 

 

「浦原喜助は、君がいずれ死神の力に目覚める事を知っていた」

 

「浦原喜助は、君の虚の力を暴き立てた」

 

「浦原喜助は、己の拠点であった西流魂街へと君たちを送り込んだ」

 

「浦原喜助は、君が朽木ルキアを助け出せると思っていたか―――は分からないな」

 

「しかし、それらの事を僕は知っているという事だ」

 

「だから、なんでそれを知っているって聞いているんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

「―――本当に、知りたいのかい?」

 

 

 

 

 

目の前に突如として突き刺された斬魄刀、一見すれば変哲のない刀に見える。

 

しかし、その刀身を見つめる度に全身を突き刺すような恐怖と突然真下に穴が開いたような浮遊感に襲われる。

 

「僕の斬魄刀、鏡花水月の能力は()()()()。五感の全ては、僕の思いのままだ」

 

「ハエを龍に見せる事も出来るし、君の声や体や姿を僕だと思わせる事も出来る」

 

「―――やめろ」

 

「ああ、君にも教えてあげたかった―――」

 

「やめろと言ってるんだ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕が君の母親の首筋に歯形を残し」

 

 

 

 

 

「白いモノを彼女へ注ぐ時の感覚を」

 

 

 

 

 

 

 

時間が止まったかのように、誰もが動く事は無かった。

 

目は潤み、耳は鳴り、鼻がツンとして、酷い頭痛が現実を拒もうとする。

 

 

 

 

 

 

「さて、ここで君に質問だ」

 

 

 

 

 

 

 

「君の父親と母親の名前を知っているかい?」

 

 

 

 

 

「 黒 崎 一 護 」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




RATATANのデモ版でめっちゃ遊んでました、故に侘助。

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

死神代行消失編いる?

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