メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
「君の父親と母親の名前を知っているかい?黒崎一護」
「あ…ああ…アァアアアア……!!!」
「それは怒りかい?それとも哀しみかい?」
「もしその感情が喜びだとしたなら……僕の人生の幾らかは報われるだろう」
「―――ア゛イセ゛ン!!!!」
「そうとも、家族の名前は正しく呼ばなくてはね」
腹を割られて地面に伏した黒崎一護をあえて踏みつけ乗り越えて、段々楽しくなってきた藍染は悠然と歩を進める。
「牙が欠けようとも大木の幹に噛みつかんとした君が、なぜ四肢が繋がっているのに諦めたのかね」
朽木ルキアを奪われ貶められて、精魂尽きたような姿で頭を垂らす阿散井恋次。
「君たち三人と初めて会った時、僕としては珍しく随分と期待した。護廷十三隊の隊長としてね」
「吉良君はギンも目を付けていただけあって死神として模範とも言える成長を見せた」
「雛森君は鬼道に優秀な才をみせ、決断と応用に優れた死神となった」
「それに比べて君はどうだ。鬼道には向かず、五番隊にも馴染めず、十一番隊でも中途半端。そんな君が朽木白哉の下で腐っていくだけ」
「だからこそ、私は君に―――最も期待していた」
「君こそが、三人の中で最も
「気づいていないかもしれないが、結果的に僕に一撃をいれる事が出来たのは尸魂界の死神では君だけだ」
いきなり手放しに誉められたところで、阿散井恋次の胸中に渦巻くのは裏切りに対する罵倒だけ。
しかし黒崎一護と阿散井恋次の卍解を受けてもビクともしない強者の圧に、足が竦んでしまっている。
「ああ、朽木ルキアを殺すつもりがないと言ったから気が抜けてしまったのか」
「これは僕の失態だ……君に詫びなければならないね……」
「君の成長を妨げる、朽木ルキアを処刑するとしよう」
その言葉に阿散井恋次の中で駆け抜ける悪寒が身震いを起こす。
「ま、待て――――!!!」
「殺していいよ、ギン」
「え、僕なん?」
しゃあないなぁ……とは口だけで、既に市丸ギンの脇差の切っ先は朽木ルキアに向けられている。
「射殺せ、――――神鎗」
空を貫き、緩い弧を描きながらも速やかに伸びていく致命の鎗。
血しぶきが飛ぶ、神鎗の切っ先は確かに胸元を貫いた。
朽木ルキアの元居た位置に、庇うようにして朽木白哉が立っていた。
たった一歩が遅かったのだし、神鎗の速度が速かった。
霊圧を使い尽くして千本桜も鬼道も使えない、しかしそれでもよかった。
朽木白哉の踏み出したたったの一歩が、身を挺して朽木ルキアを救ったのだから。
「兄……様……?」
「こんにちは、朽木白哉」
「兄様!兄様……!何で……!!」
「極刑が仕組まれたものだったと知れば、朽木ルキアを守る事に可笑しいことはないだろう」
「ごめんなさい、藍染隊長。見逃してもうたわ」
「君、眼が細いからね」
「お?喧嘩売っとるんか?」
肺の腑を登る血液は空気と混ざって明るい赤をしている、それが口腔で泡となり口の端から溢れている。
「朽木ルキア、君には感謝しているんだよ」
「君が阿散井恋次を苦悩と後悔へと導いた」
「君が自分の手で海燕君を殺した」
「君が黒崎一護を死と争いの道に巻き込んだ」
「君の為だけに、これだけの騒動が起こった」
「君を庇う為に、朽木白哉は傷ついた」
「君が崩玉を隠し持ってくれていたから、全ては上手くいったんだ」
「君のおかげで、崩玉の居場所が分かったのだから」
音叉の音の様に響く低音の声が、朽木白哉の傷口を抑える為に腕は上がらず、染み渡る様に耳に入ってくる。
「何だ、何を言っている……」
「崩玉という物質はね、持ち主の願いを叶える為に力を発揮するんだ」
「阿散井君と離れたくない、自分の手で止めを差したい、死神の力など無くしたい、こんな自分等滅んでしまいたい」
「そんな君の願いを、崩玉は叶えてくれるんだ」
「そんな、そんな事が―――」
「海燕君を襲った虚を作ったのは僕だ」
「―――え?」
「試作品の実験の為に虚を作ったが、それでも仲間であった死神を殺そうとは考えても居なかったよ」
「実際、雛森君達の実習の際には僕自らが助けに行っただろう?」
「君は不思議に思わなかったかい?都合よく彼の妻が死に、偶然発作を起こした浮竹隊長の事を」
「それは……それは!!」
「偶然かもしれないね……そう、だから―――」
「偶々、自分のモノにならない海燕君を殺してしまいたいと思ったとして仕方がないかもしれないね」
「あ……あ゛ああああああああ!!!???」
「君が助けたいと思えば、助けられたかもしれないのにね」
「大丈夫だよ、朽木ルキア。安心してくれていい―――」
「君には、君だけに託されたモノがあるだろう?」
「……―――――!!!!」
壊れてしまいたくても、死んでしまいたくなっても、その願いを叶えてくれる存在は既に自分の中にはない。
その事が、なによりも滑稽で無様だった。
「朽木白哉、君には謝罪しなければならない」
「……外道が」
「ああ、本当に済まない事をしてしまったかもしれないと思ったんだ」
「……」
既にこの場は藍染の術中の中、聞けば後悔するだろうが全容を知る意義が彼にもあった。
「僕も実は僕なりのやり方で崩玉を作ろうと試みた事があってね、流魂街の魂魄を崩玉に吸わせて居た時期があったんだよ」
「大体百年前くらいから初めて、最近は忙しくなってきたから止めてしまったんだけどね」
「それが何だと言うんだ」
「今更言うのもなんだけどね…朽木緋真様の心よりのお悔やみを申し上げるよ」
「……」
「突然体調を崩して、そのまま流行り病にかかったと聞いて僕は驚いたんだ」
「詳しく聞いてみれば、驚いたよ―――」
「彼女は自分の妹を探して五年もの間、度々流魂街を彷徨っていたと言うじゃないか」
「貴様……!!」
「妹……?」
かつて朽木家の屋敷で見た事がある、自分にそっくりだった彼女の遺影を―――。
『いい加減にしやがれ藍染』
気付くと藍染の後ろに白一色の女が立っていた、背丈は藍染よりも頭一つ小さいくらいだろうか。
加えて特徴的なのは、一本の角が生えているという事。
「おや、もう出て来るのかい?」
『もう十分楽しんだだろ、とっとと出ていけ。話が
「もう少しくらいいいじゃないか、我が娘よ」
『うるせー!!〇ませておいて会いに来ない父親とか知るかボケェ!!』
「事情があったんだ」
『ハイクソー!とっととくたばれクソ眼鏡がぁ!!!』
本来の姿であるハク様の斬魄刀、匕首の形をした穿月を振り回して藍染に襲い掛かる。
「止めたまえよ、君では僕には勝てない」
『そうかもしれねぇな、だけどそれがどうした!!』
『姉が弟にかっこ悪いところ、見せられねぇんだよ!!』
「それなら、父の偉大さを知るがいい」
うつ伏せの黒崎一護から血だまりが広がっていく、阿散井恋次も肺が傷ついて呼吸もやっとの事。
胸郭を貫かれた朽木白哉も虫の息、ハク様とて藍染を無策で相手取るには力不足。
茫然自失となっていた朽木ルキアは漠然と不利を感じていた。
虎徹勇音による天挺空羅で藍染の企みを知った隊長格が戻ってくれば、それを感じた藍染隊長達が自分達に止めを差すかもしれない。
自分達はある意味で人質だ、藍染の真意と戦力の把握の為なら見捨てられる事もあり得る。
隊士須く護廷に死すべし、護廷に害すれば自ら死すべし。
―――それが、護廷十三隊だからだ。
心が苦しい、魂が悲鳴を上げている、思い出の全てがグチャグチャだ。
それでも、体は動かせる。この場で動けるのは自分だけだけだ。
―――足りない物は、一つだけ。
「ルキア……」
「兄様、喋らないで……命が危ういのです……」
「……後悔が罪ならば、反省こそが罰だ」
「兄様……」
「お前の事を、救うことは出来ないかもしれない。しかし、皆を救えるのはお前だけだ」
「全ては私が……いや、全ては私の罪だ」
「後悔はここに置いていけ。お前が為すべき事を……お前がしたい事を……」
「兄様……!!」
息は絶えていない、まだ兄様は生きている。だけど戦いが長引けば確実に死ぬ。
朽木ルキアが黒崎一護の下へ走る、必要なのは戦う為の力。
「一護、まだ生きているか」
「……指一本動かねぇ」
「構わん、私がやる」
「やるってお前……!?」
「そうだ―――」
「私が死神になるのだ」
挟んでおいたよ、【浦原喜助は信用できない悪い人物だった】。
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死神代行消失編いる?
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