メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

45 / 60
消せない罪

「私が死神になるのだ」

 

「お前!それは―――!!」

 

それは、黒崎一護と朽木ルキアの初めて出会った夜の事。

 

「私が斬魄刀を胸の中心に突き立て、そこに貴様が死(・)神(・)の(・)力(・)の(・)半(・)分(・)を注ぎ込むのだ!」

 

「ルキア……!!」

 

「死ぬかもしれぬ、それでもこの状況を乗り越える為にはそれしかない!」

 

おそらく護廷十三隊の隊長は機を窺っている、つまり藍染に一瞬でも隙が出来れば踏み込むはず。

 

「……分かった」

 

「一護……」

 

「お前に貰った力だ、お前に返すよ。―――絶対にだ!!」

 

「一護!!」

 

天鎖斬月を持ち上げて、己の胸に切っ先を向ける。

 

 

 

 

 

 

『ねぇねぇ、見てみてパパ』

 

「なんだい、ホワちゃん」

 

『朽木ルキアが死神の力を取り戻そうとしているよ』

 

「そうだね、勇気ある行動だね」

 

『でもさぁ、一つ気になるんだ』

 

「僕も丁度、気になっていたところだよ」

 

 

 

―――卍解状態の黒崎一護の霊圧の半分を注ぎ込まれたら、朽木ルキアの魂魄は弾け飛ぶのではないか?

 

 

 

 

 

 

「……いくぞ」

 

「……ああ」

 

かつての夜の再現、かつての罪のやり直し。後悔はしない、省みることもない。

 

遂に朽木ルキアの胸元に黒崎一護の天鎖斬月が差し込まれた、後は死神の力を注ぎ込むだけだ。

 

「―――俺の力、全(・)部(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)け(・)!ルキア!!」

 

「ちょっと待て!!?半分だけだと言って――――!!!!?」

 

 

 

「『あ』」

 

 

 

 

 

 

結果から伝えよう、

 

 

 

 

 

 

朽木ルキアの魂魄は―――――弾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

自分は先程まで双殛の丘で、黒崎一護から死神の力を受け取る筈だった。

 

しかし、気づけば青空を貫かんとばかりに伸びたビルの群れが無数に存在する場所に立っていた。

 

この横たわった世界で右手を天壌無窮に広がる青空に向ければ左には底の見えない永遠無限の闇が広がっている。

 

「珍しい客人だな、少女よ」

 

「誰だ!?」

 

「誰だと来たか、知らぬのも当然だがな」

 

全身を覆い包む黒色の外套、朽木ルキアにはその男に覚えが一切なかった。

 

「私の名前は      。ここは黒崎一護の心象世界だ、お前は何故ここに来た」

 

「私は……私は、私の死神の力を取り戻しに来た。ここが一護の世界だと言うなら、私の力の在処を知らないか」

 

「何故私に聞く。お前の影は、お前が目を背ければ何時だって影はそこにある」

 

男の腕が持ち上がって示指を伸ばし、ビルの壁面には追従して影が長く伸びていく。

 

振り向けば闇、水平に伸び行くビルの足元には地面がある筈なのに深い闇の中では果てを見る事は出来ない。

 

広大な世界に足音が響く、決して大きくない筈の一人分の足音が迫り寄ってくる。

 

ホワイトとは違う白染めの装い、一振りの斬魄刀を持ち、その瞳に宿る思いは凍えるよう。

 

「よくもまぁのこのこと、ここまで来れましたね。―――朽木ルキア」

 

「袖白雪……」

 

「そなたは最早、死神ではありません。そのような者が一体、何を求めてここに来たのですか?」

 

「私は……私は、死神に戻らねばならぬ!だからお前の力が必要なのだ!袖白雪!!」

 

「私を棄てた癖に……面の皮の厚い事」

 

「袖白雪……!?」

 

「私でなくても、構わないのでしょう。私が居なくても、困らぬのでしょう」

 

「私が黒崎一護に譲渡されてから、そなたからは一度も私を呼ばなかった癖に―――!!!」

 

「待て、袖白雪!?」

 

「次の舞、白漣―――!!!」

 

ビルの壁面から立ち上る冷気が、放たれる冷気を吹雪に変える。

 

死神の力を失ったこの魂魄では見た目通りの少女の力しかない、霊圧の守りのない今では冷気による体温低下すら致命的なのだ。

 

「……本気なのか!?袖白雪!!」

 

「手放される怖さを知りながら、そなたは私を手放した……」

 

追撃の吹雪が壁面を撫で、その悉くが凍り付いている。

 

ビル同士は離れていて飛び移る事も出来ず、身を隠す場所もない。

 

「そなたはいつもいつも!良かれと思ってした事が裏目に出る!!臆病で、惨めで、弱いから!!」

 

「笑いながら傷つき、泣きながら傷つき!傷つきながら笑い、傷つきながら泣く!!」

 

「だからいつも後悔ばかり……痛みに依存して諦観に没するそなたが大嫌いだった!!!」

 

「……」

 

「どうせ私の事なんて――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「志波海燕とイチャイチャする為の口実でしかなかったのでしょう!!?」

 

 

「なんという事を言うのだお前は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「思い出せ袖白雪!私とお前の絆は!絆は―――!!!」

 

「絆は?」

 

「絆は……」

 

朽木ルキアは一般的な隊士で、朽木白哉によって手回しをされて大きな活躍もない。

 

精々尸魂界に出没する虚退治に付き合うくらいで、戦闘に最前線で参加する頻度はとても少ない。

 

そして緊急時や修行の時以外では斬魄刀を持ち出す許可を得ることも出来ず。

 

ようやく勝ち得た現世派遣の任務も黒崎一護の一件もあって早々に死神の力を失なった。

 

つまり――――。

 

 

 

「…………暑い日に、とても便利だった」

 

「ぶっ殺します」

 

 

 

白染めの斬魄刀が柄布を伴って空を泳ぐ。

 

優雅かつ嫋やかに揺れる軌跡が一文字に振るわれて、朽木ルキアの足元に円形の結界を張る。

 

「これは!?」

 

「初の舞、月白」

 

袖白雪が地面をなぞり、その描いた円にかかる氷結領域が天地の全てを凍らせる―――筈だった。

 

「馬鹿な、何故私の足元に触れもせずに月白が―――」

 

「何故と問うなら答えましょう、そなたの知る月白は本物ではないから」

 

「なん……だと……」

 

「そなたが袖白雪を理解せず、ただその本質の肌をなぞるだけだったから」

 

再び袖白雪が振るわれて、幾多にも氷結領域が同時に展開する。

 

「請われるがままに舞い、言われるがままに踊る」

 

「それが惨めだと、何故いつまで経っても分からないのですか!!!」

 

―――次の舞、白漣

 

多数の氷の円柱がそそり立つ空間に自身のものとは比べ物にならない冷気が吹きつけられる。

 

朽木ルキアは必死に逃げ続けて何とかその内の一本に身を隠した。

 

「氷雪系最強と謳われる氷輪丸には水が必要ですが、袖白雪に必要なのは冷気です」

 

「……冷気?」

 

「ただ凍らせるなどまるで児戯のよう、袖白雪の真価の一つをお見せしましょう」

 

 

 

「八大地獄の六の層、嗢鉢羅(うばら)地獄の青い華」

 

 

 

「終の舞、白日」

 

 

 

凍った地面と氷柱が三次元空間の全てから熱気を奪い取る。

 

地面に触れていた足が焼ける様に冷たい感覚を覚えた次の瞬間には激痛。

 

そして神経ごと凍り付いて無痛となり、皮膚が冷気で引き攣っては割れていく。

 

己の体が、皮膚が捲れあがって足元から青い蓮のように咲いていく。

 

生きたまま凍っていく、命の灯が燃えたまま冷えていく。

 

 

 

 

 

―――なのに、寒くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

袖白雪、私を良く知るお前なら、良く知っているだろう。

 

生まれてより奪われ、日々の生活に追われ、己が持つ霊力に蝕まれた。

 

借り物の衣服、借り物の地位、そんな中でお前だけが本当の私のモノだった。

 

そうとも、柄にもなく舞い上がって海燕殿にも恋次にも見せびらかしたものだ。

 

お前は美しかった、それが私から生じたものだと思えば何より愛おしかった。

 

それはお前にとって酷く鬱陶しいものだったのだな、お前にとって私は酷く醜悪に映っていたのだな。

 

 

 

 

 

 

『四大を放って把捉(はしゃく)すること莫れ、寂滅性中随(じゃくめつしょうちゅうともな)って飲啄(おんたく)せよ』

 

 

『あらゆるものを駆使して捉えようとしてはならない。悟りの境地のまっただなかにいるのだからそこで飲み食いしていけばよい』

 

 

 

 

 

袖白雪、お前の名前だ。

 

袖白雪、私はお前の事を知らなかったのだな。

 

こうして恨まれ、疎まれる事となって初めて知ったのだ。

 

お前にも心があり、お前には矜持がある。

 

私とは大違いだ、私には矜持もなく、心など役にも立たない。

 

私はお前だ お前は私だ。私はお前じゃない お前は私じゃない。

 

 

 

私とお前に、絆などなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「終わりです、朽木ルキア。――――ぶっ殺しました」

 

「―――誰が、誰を殺したと?」

 

「!?」

 

立ち上る冷気によって空気中の水分が靄の様に浮かぶ中から声が聞こえてくる。

 

「馬鹿な、マイナス百度の領域に閉じ込められて脆弱な魂魄が無事でいられる筈が……」

 

「温い事を言うな、袖白雪」

 

「なんですって……!?」

 

 

 

「マイナス百度如きで、私が死ぬものか」

 

 

 

「あり得ないと言っているのです、死神でもないそなたが!!」

 

「確かに、霊力さえあれば袖白雪も能力を振るえるだろう」

 

「逆に言えば、霊力を食えぬ斬魄刀は力を振るえぬ」

 

「お前は確かに袖白雪だが、お前は袖白雪ではない!!」

 

その言葉に応える様に、白染めの女が持つ斬魄刀が震えた様に見える。

 

「初の舞、月白!」

 

斬魄刀を握らぬ朽木ルキアが空手を振って冷気の檻の中で舞う、すれば白染めの女の足元に映るは多数の円形の氷結領域。

 

「馬鹿な、そんなことが!ありえない!!」

 

袖白雪がその場を飛び退いて氷結領域から逃れると入れ違いに立ち昇る幾多の冷気の円柱。

 

「次の舞、白漣!!」

 

白色の死装束が翻り、神楽を舞うかのように腕を振るうと吹雪が嵐の様に吹き荒れる。

 

「何故、何故そなたが袖白雪の力を使える!!」

 

「斬魄刀は確かに袖白雪、それを振るえるお前は私の死神の力そのもの!」

 

「お前は私だ!私の中に眠るエゴ!否定しようのない私の一部だ!」

 

「来い!袖白雪!!未だ燻る私の心に一分でも許すならば、お前に恥じぬ私になろう!!」

 

 

 

「私はもう、誰かに踊らされる私にはならない!!!」

 

 

 

白染めの女から袖白雪が離れて、朽木ルキアの胸元に突き刺さる。

 

物理的にも精神的にも胸元を襲う激しい痛みに一瞬だけ呻くも、両の手で厳かに袖白雪を抜き放つ。

 

 

 

「朽木ルキア!!」

 

「お前は私が嫌いだろうが、私もお前が嫌いだ!いつまで経ってもうじうじと、惨めな私に腹が立つ!!」

 

「お前も私もここまでだ!共に死ね!!」

 

朽木ルキアと白染めの女が作った二つの極死の檻が、朽木ルキアと白染めの女とを直線上に並んでいる。

 

 

 

 

 

「終の舞、白白(しらじら)!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朽木ルキアは爆発して死んだ、もういない。

 

黒崎一護の力を受け止めきれずに死んだ、その事に誰もが現実を受け入れきれずに居た。

 

ハク様もあまりの出来事に口に手を当て、膝をついて呻いていた。

 

「……これはまあ、想定外だな」

 

藍染も流石に手を止めて驚いていた、しかし随分と遊んだだけあってやり残したことは無い。

 

最後に護廷十三隊の隊長達を煽って帰ろうと思っていたのにと考えた矢先、口元を抑えて震えていたハク様が面を上げた。

 

「――――おえぇえええええええええええ!!!!?」

 

次の瞬間、あまりの光景に誰しもが眼を剥いて驚いた。

 

 

 

「逆賊藍染!死すべし!!」

 

 

 

ハク様の口から、朽木ルキアが出て来たなら誰でも驚くだろう。

 

 

 

 

「応えよ袖白雪!―――貴様の力の振るいどころだ!!」

 

 

 

 

 

「朋(とも)の舞―――雪月花!!!」

 

 

 




罪深きもの(PC)を見続けると、眼が乾くなあ〜〜〜〜〜!!

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

死神代行消失編いる?

  • いる
  • いらない
  • どっちでもいい
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。