メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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ドーパミン

「おぇえええええええええ!!!??」

 

 

 

 

「逆賊藍染!死すべし!!」

 

 

 

 

 

 

 

ハク様の口から朽木ルキアが吐き出されて蘇る。藍染は驚愕して市丸ギンはげんなりする、なんかコレ見た事あるなと。

 

「初の舞、月白!!!」

 

丘の上に幾多にも展開される氷結領域が円柱の森を生やしていく。

 

「次の舞、白漣!!!」

 

氷の森を吹き抜ける風があらゆるモノから熱を奪い去る。

 

「寒い……」

 

「寒いな……」

 

「寒すぎる……」

 

「……」

 

凍土と氷の森が丘の上に形成されると、その余波を諸に受けていた黒崎一護達はその冷気に身を震わせる余裕すらなく呟くばかり。

 

氷雪系に属する斬魄刀として、しかし氷輪丸や他の斬魄刀とは違うその力。

 

「成程、斬魄刀の中でも最も美しいと言われるだけはある」

 

「……」

 

「君は脆く、儚く、繊細だ」

 

氷の森を駆けながら朽木ルキアが瞬歩で間合いを詰めて袖白雪を振りかぶる。

 

「君に、薄氷の海へ踏み出す為の希望は持ちえたのかい?」

 

「次の舞、白漣!」

 

「縛道の八十一、断空」

 

朽木ルキアの斬った空間から吹雪が藍染に向かって吹き付ける。

 

藍染は逃げることなく力を競う事を選んだ、そして数ある選択肢の中で断空を選んだのは確信を得る為。

 

吹雪が鬼道の壁に遮られる、しかし八十九番以下の破道を完全に防ぐ筈の断空に亀裂が入る。

 

「参の舞、白刀!!」

 

断空に浮かんだ亀裂に袖白雪を突き立て、その進みを半ばで止めた袖白雪の切っ先が冷気を伴って伸びていく。

 

氷雪系の斬魄刀に共通の認識として、対象を凍らせるという事が挙げられる。

 

大気中の水分を凍らせたり、傷口を凍らせたりと応用も様々。

 

しかし朽木ルキアが持つ斬魄刀は些か特徴が違う。

 

 

「成程、それが君に()()()()()()か」

 

 

白刀が藍染を貫いたかのように見えて、しかして声は別の場所から聞こえてくる。

 

浅打ちに己を転写したものが斬魄刀であれば、与えられた力ではない。

 

朽木ルキアの力。それは凍らせる力か、凍ってしまう力の違い。

 

「霊子レベルでの()()()()()。時間停止の技術は確立されているが、君は光すら凍らせるつもりかい?」

 

霊子が完全に停止に至るまでのタイムラグによって、霊子運動の静止による冷却が起こる。

 

それはつまり、朽木ルキアにとって冷気や凍結は対象の停止の成りそこない。

 

「断空が破綻している。霊子に関わる全てを停止させる、厄介な力だよ」

 

「だけど、君にとっては未だ付け焼刃でしかない」

 

「凍結は君にとって停止の成りそこない、つまり停止による影響は君の力による凍結に長時間晒されない限りは恐るるに足りない」

 

「それに、君も僕の鏡花水月の能力の影響下にある。本物の僕を捉える事が出来なければ誰かが犠牲になってしまうよ?」

 

朽木ルキアの形成した決戦場は希望も絶望も内包されている。

 

凍った地面と氷の円柱の森はヒートシンクのように表面積を広げて空間内の霊子の運動を徐々に抑えている。

 

しかし、それは同時に黒崎一護達の命を蝕んでいくと同じ事。

 

黒崎一護、阿散井恋次、朽木白哉、全て朽木ルキアに纏わる罪の形。

 

朽木ルキアが居なければ、黒崎一護の人生はまだ変わっていたかもしれない。

 

朽木ルキアと出会わなければ、阿散井恋次が死神の道に身を投じる事は無かったかもしれない。

 

朽木ルキアが拒んでいれば、朽木白哉は罪を重ねる事は無かったかもしれない。

 

その考えこそ傲慢、被害者ぶった驕りの思考。

 

故に袖白雪は己を嫌う、故に己は袖白雪を嫌う。自己嫌悪の無限ループ。

 

―――しかし、既にこの身の罪と罰は置いて来た。

 

 

 

「応えよ袖白雪!―――貴様の力の振るいどころだ!!」

 

 

 

「朋の舞―――雪月花!!!」

 

 

 

 

袖白雪が朽木ルキアの霊圧を吸収し、黒崎一護から頂戴した霊圧をも利用したその力を天に向けて解放する。

 

斬魄刀による天候を変えうる程の力、立ち上る冷気が空を凍らせ、雪が舞う程に冷却を完了させる。

 

 

 

「天相従臨か、君も一つ殻を破ったようだね」

 

 

 

「天、空、地、人、全ての冷却を完了した。全ては私の胸先三寸」

 

 

 

「貴様の鏡花水月の発動条件はさて置き、その効果の媒介は貴様の霊圧だ」

 

 

 

「私の周囲に存在する、貴様の斬魄刀の影響下にある霊子を停止させれば―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お前の鏡花水月の力は、私には及ばなくなる」

 

 

 

 

 

 

 

 

朽木ルキアから、恐ろしくも荒々しい霊圧が溢れ出す。

 

藍染にも経験した事はある、これは死を受け入れる力、死の先にある力。

 

 

 

 

 

 

「朽木ルキア、確かに僕の霊圧の影響下にある霊子を停止させれば鏡花水月の能力から逃れられるかもしれない」

 

「しかし、君にはまだそこまで袖白雪を制御する力はないだろう」

 

「止めたまえ。先に君が死んでしまうぞ」

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何も成さずに生きるは死と同じ、何かを成した死は永遠に生きる」

 

「生きるに熱く、死に寒く」

 

「この身には希望もなく、絶望もない」

 

「故に、たった一つがあればいい」

 

 

 

痛覚を感じるほどの冷気が既に藍染にも届いている、既に引き金を引ける状態にあると思っていいだろう。

 

 

 

 

―――(つい)の舞、白日。

 

 

 

 

黒崎一護の心象世界でこの身で味わった一定の空間内を急速に凍結させる一撃は、前もっての準備もあってあらゆる霊子を一瞬で停止させるだろう。

 

 

それが例え、その代償に朽木ルキアの命をも停止させる事になろうとも。

 

 

―――その筈だった。

 

 

 

 

「何故だ」

 

 

 

「何故だ、何故今更!?」

 

 

 

「何故止めるのだ、袖白雪―――!!?」

 

 

 

 

 

終の舞は不発、辺りを凍らせる事も停止させる事も出来ずに朽木ルキアは不動のまま。

 

「君の斬魄刀は鬼道系か概念系か判断するのは難しかったから、アプローチを変えたんだ」

 

「君の能力は、必然的に冷却の過程を必要とする」

 

「だったら、弄ってみるべきだろう?―――君の温度覚を」

 

「馬鹿な!そんな事で!?」

 

「君のその言葉は紛らわしいが、主を思う朋の心を無碍にするものではないよ」

 

冷却そのものは温度覚を鏡花水月によって狂わされていても可能だ。

 

それを袖白雪が主の意思を超えて止めたのは、能力の暴走を抑えんが為。

 

「物質の温度というものはたかが氷点下の氷を用意したところで瞬時に打ち消せるものではないし」

 

「あらゆる霊子を全て抑え込むという事は、あらゆる霊子が動き出す力がどこかで発生する」

 

「その基点と成るのが、あらゆる物質を瞬時に凍らせる事が出来る君だ」

 

「冷却によって停止を行う時、君にはその八十倍の熱波が襲うだろう」

 

「君はあらゆる物を停止させる代償に、あらゆる物を焼き尽くす力に襲われる」

 

「態々自分の領域を作るんだ、恐らく自身や周囲を急速に冷却する為の仕掛けだろう?」

 

「それを器用に相殺できないなら、辺り一帯を焼き尽くす焼夷の力となるだろう」

 

「僕だけを殺すわけにはいかなくなる、そう判断して君の斬魄刀は能力を止めた」

 

自分の考察した仮説が証明された事でとても気分が良い藍染は朽木ルキアを嘲笑う。

 

「簡単な話だろう?」

 

そう、簡単な話だ。鏡花水月の能力を用いれば、朽木ルキアの動きを止める事が出来るという事。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、簡単な話じゃ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

鏡花水月の能力の対象は選択した一つのみという仮説、それが朽木ルキアという爆弾を抑え込む事に使用されている。

 

それはつまり、自分を偽る使用方法と併用できないという事。

 

仮説は仮説、斬魄刀という能力は一振りで世界の法則を捻じ曲げる常識が通じなくなる異物だ。

 

しかしその脆く、儚く、繊細な賭けに全てを賭けた。

 

全てが胡散臭い、全てが悪趣味な男の()()()()()()()()()()()

 

己の先達であり、強大な力を持つ仲間達をもう一度信じてみた。

 

姿の誤魔化し様のない藍染に目掛けて瞬紳の飛び蹴りが突き刺さる―――様に見えた。

 

「そう、全ては簡単な話なんだ」

 

「馬鹿な!?」

 

「最初から、僕は遊んでいただけなんだよ」

 

 

反膜(ネガシオン)と呼ばれる異空間を発生させる力、空間を引き裂いた黒腔から齎される力。

 

 

「いつもいつも……逃げ足だけは一級品じゃな!」

 

「君の速さはいつも遅いね、四楓院夜一。早くしないと浦原喜助にも逃げられてしまうよ?」

 

「余計な話じゃボケェ!!!?」

 

 

光の円柱に囲われて藍染達三人が黒腔に向けて飛んでいく、今更隠れても無駄と判断した隊長格が現れるも後の祭り。

 

 

「また会おう諸君。次にまた出会う時は、新たなサプライズを用意しよう」

 

「きっと素敵な素敵な一日になるだろう。ああ、楽しみだ」

 

「外道に落ちたか、藍染!!」

 

「外道など、道でしかないよ浮竹。そして僕は新たなる道を切り開く者」

 

()()()()()()、その偉大な日に―――君たちの世界は再構築されるだろう」

 

「その日まで、己の身を振り返るといい」

 

藍染達の姿が消えたあと、誰もが何も言わずに茫然とした姿を晒していた。

 

様子が違うのは黒崎一護だけ。あれはきっと風の音だ、自分にしか聞こえない幻聴なんだ。

 

 

 

 

 

「黒崎一護」

 

 

「私を楽しませてくれた君に礼をしようじゃないか」

 

 

「もしも、君の母親に会いたければ僕の下に来るがいい」

 

 

 

 

「黒崎真咲は―――君が来るのをずっと待っている」

 

 

 

 

あいつの性質の悪い冗談なんだ、誰かジョークと笑ってくれ。

 

 

 

 

母さんは死んだんだ、もうどこにもいないんだ。

 

 

 

 

―――そうなんだよな?ハク様。

 

 

 

 




メゾン・ド・チャンイチ 飛翔編 完

次は多分、MEMORIES OF NOBODY

誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

死神代行消失編いる?

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