メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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MEMORIES OF NOBODY
アフターダーク


藍染の反乱が尸魂界に齎した混乱と傷跡は決して浅いものではなく、またそれらを鎮静化させるまでに数日を要した。

 

吉良イズルを初めとして各隊の関係者は軒並み拘束の上取り調べとなり、この度反乱を起こした三人の管轄の隊士は軒並み謹慎となった。

 

護廷十三隊、一番隊隊長室。時に執務以外にも各隊長格を集めて会議を行う部屋には戦場とは違う濁った空気に支配されていた。

 

「これで全員、かの」

 

「フン、幾つか席が足りないようだがネ」

 

護廷十三隊の隊長の内、集まったのは造反を起こした三人と負傷と諸事情により欠席した朽木白哉を除いた九人。

 

「それでは、始めるとするか」

 

そして隊室の入り口に現れたのは三人、朽木ルキアと阿散井恋次、そして――。

 

「……」

 

手枷を付け、目元と口元を布で塞がれ、両の腕を縄で縛られた黒崎一護だ。

 

 

 

 

「話し合う事は多々あれど、今必要なのは貴様の処遇よ黒崎一護」

 

「……」

 

「貴様に例え悪意が無くとも、思惑が無くとも、此度の騒動のきっかけは貴様じゃ」

 

「……」

 

「四十六室が機能していないが故に貴様を我らが裁く。私情も事情も考慮無し、貴様の弁明も聞き分けぬ」

 

「順に述べよ、黒崎一護を殺すべきか、生かすべきか」

 

黒崎一護の生死を決める裁判、事前に聞かされていたとしても朽木ルキアと阿散井恋次の心は平静では居られなかった。

 

しかし意見具申は愚かの行為だ、いかなる背景があろうとも関係ないという宣言に楯突けば即刻死罪すらあり得る。

 

それでも、動く事は出来た。それでも、動く事をしなかったのは黒崎一護が不自然な程に静かだったから。

 

「黒崎一護は生かしておく価値がある。現世へ逃亡した者達との繋がりもあり、藍染とは無関係ではないのだから囮にでも出来よう」

 

二番隊隊長、砕蜂は生かして情報を吐き出させて囮にせよと言う。

 

 

「黒崎一護は私の血を継ぐ大逸材、失う事など以ての外。そしてその業物の切っ先は藍染に届きうるでしょう」

 

四番隊隊長、卯ノ花烈は生かして藍染にけしかけよと言う。

 

 

「生かす事に異存はない。黒崎一護も藍染惣右介も停滞した尸魂界に広がる新たな波紋、我らを試す鑑となり得よう」

 

六番隊隊長、朽木白哉は生かして護廷十三隊の意義とあり方を検めて示せと言う。

 

 

「法に則れば、逆賊には死罪。不義不調に仁義を通すは真の義者だが、我らにも通す義理がある」

 

七番隊隊長、狛村左陣は規則に則り殺すべしと語る。

 

 

「んー、僕は生かすべきだとは思うよ?何せ彼には恩があるし、死なせるまでは行き過ぎじゃないかなぁ」

 

八番隊隊長、京楽春水も同意見の様で死なせては勿体ないと言う。

 

 

「藍染の関係者だっていうなら殺しても問題ないだろ、無自覚な疫病神は性質が悪い」

 

十番隊隊長、 日番谷冬獅郎は藍染の関係者は殺すべしと言う。

 

 

「生かすなら俺と殺りあうだけだし、殺すなら俺が殺す。どっちでも俺は構わないぜ」

 

十一番隊隊長、更木剣八は黒崎一護と戦う事にしか興味はない。

 

 

「フン、旅禍など殺してしまっても誰も文句など言わないヨ。ああ!もし私に協力してくれるというなら慈悲を以って赦しを与えようじゃないか。特別な待遇を用意しておくよ」

 

十二番隊隊長、涅マユリは己の利益に沿って動く。

 

 

「もし彼を生かすのであれば異論は挟まない、しかしそれは今殺すべきではないという事だ」

 

十三番隊隊長、浮竹十四郎は全面的な肯定を示さなかった。

 

 

 

「ふむ、概ねの意見は出そろったか。よかろう、護廷十三隊として黒崎一護の処分は一部無免とする」

 

 

玉虫色の答え、その一文を残して護廷十三隊による裁判と撮影を終了する。

 

「黒崎一護の拘束を解け」

 

「ハッ!」

 

ルキアと恋次により拘束を解かれた黒崎一護が窮屈にしていた関節を動かす。

 

「茶番は終わりかよ」

 

「まさか、これからが本番よ」

 

四十六室が藍染によって虐殺され、一時的に機能が止まっている今であればこそ茶番の様な裁判は成り立っている。

 

藍染が黒幕とは言え、尸魂界にカチコミをかけたのは事実。

 

それを無罪とするのであれば四十六室の機能再開までに裁判を終わらせてしまおうという事だった。

 

「監視を付けるがお主ら一行は現世に返すうえ、周囲には危害を加えんと約束しよう」

 

「故に吐け、お主が知る全てを――――」

 

 

「俺が知りてぇよ!!!」

 

 

首魁と思わしき少年の無責任ともとれる言葉に総隊長たる山本の視線が刺さる。

 

千年を超えて尚、覇気というものが衰えることは無い。

 

しかしその全てを気圧するような眼光を受けても黒崎一護は怯える事も無く叫んだ。

 

 

―――君の父親と母親の名前を知っているかい?黒崎一護

 

 

「俺って、何なんだよ……!!」

 

 

自己を形成する核とは殻でもある、未だ十代の少年におけるアイデンティティの崩壊は死に繋がるほどに酷く重い。

 

 

「……知らぬというなら、教えてやろう。無知は罪とは少々陳腐だがの」

 

「初めに、お主の父について」

 

 

「貴様の父は、元護廷十三隊の隊長。当時の名をして志波一心という」

 

その言葉に、朽木ルキアが震えたようだがあまりにも突飛な発言によって黒崎一護が気付くことはなかった。

 

「…あのヒゲ親父が、死神?」

 

「そうじゃ、しかし重要なのはそこではない」

 

 

「何故お主が生まれたのか、そこに尽きるのよ」

 

 

話が止まらない、一枚ずつ衣を剝がすようにして再び黒崎一護の核をむき出しにしようとする。

 

 

「義骸というのはネ、現世において仮初の肉体の事を言うんだヨ」

 

「なぁに、仕組みとしては難しいモノじゃない。枠の中に絡繰りを詰めて、表面にたった2mmの組織を張り付けるだけダヨ」

 

「使い捨てにした方が却って安くつく、つまりは見た目だけは人間そっくりの人形と同じだ」

 

「少なくとも、現世の人間を孕んだり孕ませたりなんて考えられていないんだヨ!―――まぁ、似たような前例はあるのだがネ

 

「という訳で、如何に寛大たる私と言えども全部を喋るのは面倒だから結論を言おう」

 

 

 

「逆賊藍染の大親友、浦原喜助の特製の義骸によって産まれた君を怪しむのは当然の事だと思うのだがネ!?」

 

 

死神の父と、浦原の義骸と、藍染の作った虚。

 

 

「しかも、尸魂界に襲撃をかけたのは藍染と忌々しい浦原の手引きとくれば君は黒ダヨ」

 

 

「………」

 

 

もう、言葉も出ない。

 

 

「して、確認したいのはお主の存在意義よ」

 

「役目を終えた道具なのか、藍染をおびき寄せる餌たりうるのか、それとも再び我らに牙を剥くのか」

 

好き勝手言ってくれる。俺の人生は、俺の存在意義はそれが全てだと言わんばかりに。

 

 

「疾く答えよ、黒崎一護」

 

 

こんなの、適当に言って、適当に帰ればいいんだ。

 

 

俺の家に帰って、―――どうする。

 

俺は親父に、家族になんて言えばいい。

 

 

ただいまって、言えるのかよ。




エンジョイ勢、 浦 原 喜 助。

久々なので短くてすいません。
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております

死神代行消失編いる?

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