メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
―――探してください、世界の敵を。
「そんな事を言われてもよぉ」
『ギュゥウウウウウウウ!!!』
浦原さんの家から悶々としながらもあっさりと家に帰り、あっさりとお帰りとただいま。
ヒゲ親父と顔を合わせても何だか馬鹿らしくなって就寝した。
そして新学期が始まり、日常に戻った自分に待っていたのは未だ消え去る事の無い虚の出現だった。
虚を見つけては浄化する日々、こんなのが日常になったのはいいのか悪いのか。
「虚だけでも十分化け物だし、というか死神の方がもっとヤベェし」
『ポォオオオオオオオオオオオク!!!』
虚を感知した死神代行証が叫ぶと共に町へ飛び出して虚を倒す、その繰り返し。
石田だったら遠距離でも楽々倒せるだろうが消滅させてしまう為に大人しくして貰っている。
「そもそも世界の敵って藍染じゃねぇのかよ、正直今でも嫌悪感が有り余っているんだけどよぉ」
『ポォオオオオオオオオオオオオオオオオオオク!!!』
「さっきからうるせぇなぁ!お前なぁ!?」
『ギョァアアアアアアアアアアアア!!!?』
さっきから五月蠅いハク様をしばく。大まかな位置を教えてくれるのはいいが、精度が今一つなのだこの代行証は。
『ち、違うんだ!(原作だと)確かこの辺にギュウ!とかポーク!とか叫ぶ虚が出るんだ!!』
「出ねーよ!そんな馬鹿みたいな虚は!出るとしても馬鹿みてぇなハク様ぐれぇだよ!!」
『うわぁあああああああん!!見たもん!本当に見たんだもん!!!』
「居ねーよ!少なくともト○ロよりはねーよ!」
『いるもん!だって―――覚えてる!』
『誰も知らなくても、誰も見た事が無くても!誰も触れた事が無くても!』
『俺は、その声を覚えてる!!』
「……そーかよ、良く知らねぇけど」
やっと捕まえた虚の霊圧の方向へ飛び出していく一護、その顔には嘲るような色はなく。
「大事な奴だったのか?その虚」
『別に?ティッシュ配ってるオッサン位の存在』
「何なんだよ!!?」
危なげなく虚を倒し、襲われていた魂魄を慣れた手つきで魂葬する。
尸魂界の隊長格ともやり合える黒崎一護にとっては苦戦する程もない。
黒崎一護の心に流れるのは、焦燥すらも置き去る程の気もそぞろな感覚。
やるべきことはやり切った、その上で日常に戻った筈の自分。
安心も余裕も安堵もすり抜けていく、どこか冷えていく感覚。
そんな自分が休まる瞬間、ずれている現実との齟齬や違和感が鳴りを潜める瞬間。
それを求める様に、戦いの場へ自分が繰り出している事は自覚している。
「黒崎君!」
「一護」
「黒崎」
「イッチゴー!!!?」
「お兄ちゃん!」
「兄貴」
品薄だった商品を見つけたような、迷子の動物を見つけたような、そんな声で俺を呼ぶ気がする。
挨拶という慣習に慣れた自分に響くのは、どうやら自分の名前を呼ばれる事に忌避感を覚えているようなのだ。
もう少し微睡んでいたい、そっとしておいて欲しい、だけど居なくなっては困るという気持ち。
誰かが俺を目覚めさせる時、それはきっと――――明確な敵の出現であってほしい。
うんざりだ、迷惑だ、面倒だ、だけど周りには非が無いのだ。
そうだ、世界の敵だ。もし黒崎一護に対して非があるとすればソレなのだ。
だから今日もそっと己の深くへ潜る、もっともっと深く、己の心象世界へ。
『現実逃避、そのものだな』
「そうだな」
黒崎一護の虚と斬月のオッサンが見つめる先、そこには黒崎一護が一心不乱に斬魄刀を振るっていた。
「遅い、遅すぎる」
「ぎゃあああああああ!!?」
卯ノ花烈、嘗ては剣八とも呼ばれた苛烈な烈女の斬撃が流麗さを湛えながら振るわれる。
「貴方の力は力任せ、それに己の中心を斬魄刀に置いている。それは斬魄刀に貴方が振り回されている事と同義」
「刀とは振るものであって、己こそ振るう者」
一撃一撃の重さが違う、遂には根負けまでして――ハク様に発勁と呼んで誤魔化されていた――
「黒崎一護、貴方の力は骨格の力。腕力や握力のような単発の力」
「だから貴方の霊圧は常に損耗が激しく、無駄が多いのです」
バッタの様に跳ねる一護と水の様に流れる卯ノ花烈の動き。
更木剣八や朽木白哉との戦いではもっと反応出来た、しかし今ではギリギリでしか動けない。
「雷を切り裂く者が何故、童の石礫を恐れるのでしょう」
敵意か殺気か、それとも反射神経の速度なのか、ハク様の言った-0.24秒のタイムリープか。
「貴方は信じている、相手は挨拶をすると心のどこかで信じている。だから挨拶をされないと不安や不満を覚える」
人は読む、いっそ目の前の会話など切り捨てて本題をぶつける為に距離と角度とを測る。
「構えがあれば振られると分かる、故に構えなどなくてもよい」
二拍よりも四拍、リズムを刻めば見切られる。リズムを乱しても相手は既に構えている。
「故に―――『無拍』」
構えさせずに斬る、バッターがボックスに立った瞬間、或いは立つ前に投げる。
「辛いでしょう、苦しいでしょう。黒崎一護にはいつも艱難辛苦が訪れる」
「貴方は斬魄刀どころか、他人にも世界にも振り回される」
「それならば、答えは一つ」
「自ら踏み込む勇気を持ちなさい」
「勇気とは、壁を背にする事。勇気とは、束縛からの解放。勇気とは、最後の一押し」
さぁ、と卯ノ花烈は両の腕を広げる。我が子にハグを求める母の様に―――生まれる拍の隙。
「天鎖斬月!!」
貴方の心臓も肺も脳も、既に守られている。臓物の事なぞ戦いが落ち着いた時に考えればいい。
人の中枢とは脊椎、頭も肋骨も肩甲骨も腕もただ脊椎にぶら下がっているだけに過ぎない。
重心は常に低く中心、重心ごとずれるから切り返しが遅くなる。
馬に跨る騎士の様に、上半身に武器を携えて、下半身が疾駆する。
足首と脹脛から生まれる捻りが地面を噛み、股関節と体幹が生み出す捻りが肩甲骨で切り返す。
衝撃の瞬間まで脱力、手首と肘には決定権を持たせず支点と作用点を結ぶための経路とする。
下半身が固定され、振り子の様に上半身が斬魄刀を振るう。
躱されるが勢いによって上半身は固定され、上半身から生まれる捻りが一拍ずらした下半身を既に動き出させている。
「―――そうです」
つまり拍とは手順であり、それを細分化して行う事で一連の流れとする。
構えて振れば、それだけで一拍が生じる。それならば、無拍とは―――。
「つまりは、――――それです」
右と左、上と下を―――切り離し、逆回転を加える。
「引けば老いるし臆せば死にます」
左足から右腕を振れば、左腕ごと右足を引く。
「常に攻め、常に迎え撃つ」
「敵と立ち向かうには、それしかないのです」
しかし負けた、黒崎一護の無拍にはまだムラがあったから。
「また迷ったなら、相談には乗りましょう」
「しかし自分の答えを知りたくなったなら、斬魄刀を抜きなさい」
「斬魄刀の切っ先が、本当の敵を示すでしょう」
急な運動に肉体が悲鳴を上げて、仰向けに倒れて動けない。
「それでは、今宵はここまで」
卯ノ花烈の斬魄刀の切っ先が、黒崎一護の胸元に突き刺さる。
「愛していますよ、黒崎一護」
あれも欲しい、これも欲しいと手放せない。強欲で、我儘な心。
母と女と鬼の心、全ては血を伴って卯ノ花烈の魂を縛る。
「ああ、なんて、―――悪い女」
目覚ましと共に置き、体は汗で濡れている。
シャワーを浴びよう、眠気眼を擦りながら洗面所へ向かった。
「きゃー!お兄ちゃんのエッチー!」
『エッチー!!』
黒崎遊子が投げた石鹸を躱す事も出来ずに眉間に受けた、そんな今日の始まりだった。
本当は聖文字P『PATAPON』をSSとかで書こうとして止めました。
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております
死神代行消失編いる?
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いる
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いらない
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どっちでもいい