メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
朝焼けの茜色を、覚えているか
夕焼けの緋色を、見送った事はあるか
その日、気付いていた人間はそう多くないだろう。
空座町の死神代行、黒崎一護ですら気付いていなかったその異変に。
空に町が逆さまに浮かんでいる、そんな都市伝説染みた噂が広がりつつある中で。
少女は気ままに、行く当てもなく街を散策していた。
時を同じくして黒崎一護は息を吹き返したように斬魄刀を振るっていた。
白い柄布を翻しながら、木々を跳びぬけ虚に飛び掛かる。
「何してんだテメェ!!」
『!?』
その地に心残りを抱えた少女が居た、地縛霊となっても解き放たれる事の無い哀れな少女霊。
少女の命日まであともう少し、多忙な少女の家族がもう一度この場所に訪れる事を待っていた少女。
家族が揃う事が出来るのが少女が待っていた家ではなく、少女の命が失われた場所というのが皮肉ではあったが。
ほんの少しだけの小さな祈りを、見過ごす事だけはしたくは無かった。
死線を超えた死神の、紫電一閃、真っ二つ。いっそ哀れな程に作業の様に虚は浄化された。
「大丈夫か?」
「ありがとうお兄ちゃん」
「そろそろだろ、確か」
「うん……。最後だから、ちゃんとお別れをしたかったから……だけど―――」
「面倒でも迷惑でもねぇ、親御さんだってきっと来てくれるさ」
もし彼女の両親が来たとして、彼女は満足して尸魂界へ向かう事が出来るのだろうか。
黒崎一護にはどうしても、母の存在がチラついてしまう。
肉体的な死を迎えたらしいが、現世には留まっているらしい母。
少女とは違い、一般的な霊になった訳でも、虚になった訳でもない。
かつて斬魄刀であったハク様を振るっていた死神の母、死神という存在は立場上煩わしい部分があるのは分かる。
だから分かるよ、たった一度でも、もう一度会いたいって気持ちは。
「じゃあ俺は行くから、気を付けろよ」
「うん!じゃあね!お兄ちゃん!!」
これで暫くは虚は出てこないだろう。まっすぐに帰宅しようとしたその時、それは訪れた。
大気に満ちる零子越しに響く振動が、黒崎一護を通過していく。
しかし死神とも虚とも―――滅却師や霊王とも―――違う共鳴が違和感の警報を鳴らしだす。
だとしても、黒崎一護は勇気を以って、己の矜持を以って踏み込んでいく。
一般霊とも虚とも違う謎の白衣の存在と
「夕闇に誘え、【弥勒丸】!!」
見知らぬ死神の存在と
「時は来た」
そして未だ邂逅せぬ新たな事件と。
「それで?叫谷だか何だかでアンタが来たのか」
「ああ、そうだ」
場所が変わって浦原商店、その居間には砕蜂が訪れていた。
「他の隊長や席官は調査には向かなかったり、他の仕事があったりと都合が悪くてな。付け加えるなら、そろそろ私もそこの男に用事があったしな」
「ああ、確か砕蜂は浦原さんの妹分だって―――」
刹那、黒崎一護の眼前に示指が強く向けられる。
「百歩譲って、砕蜂”さん”だろう!それに妹分ではない!決して!」
「でも砕蜂サン、ボクの事あんなに「喜助兄さま♡」って呼んでくれたのに」
「―――殺すか」
「じょ、冗談ですよぉ」
ああ、これは蒸し返すと話が進まないなと苦労性な己が出た黒崎一護が話を切り出す。
「それで、いったい今、何が起きてるんだよ」
「フン、まあ簡単に言えば世界の危機だ」
「世界の?―――藍染か」
「分からん。少なくとも目的が、だがな」
「目的?」
「このような事態を起こすのに、尸魂界での事件を起こす必要は無かったと言えば分かるか」
「世界を支配しようとする男が、世界を壊そうとする。別人だったとしてもこの事態を以って何をしようとしているかも未だ不明だ」
「まあ、こういう事態も度々起きる。今回もその一件だろう」
「世界の危機の割には、随分と悠長なんだな」
「後手に回ったなら、先手を待たなければならん。既に一手目を指されて居ても、出方次第ではこっちの手を変えねばならんのだ」
「出たとこ勝負って事か」
「そうだ、しかしこちらを優勢に傾ける手もある。それが思念珠だ」
「しねんじゅ?」
「尸魂界と現世に挟まれた叫谷は、思念珠によって急激な収縮を起こして世界同士を近づけ衝突させる事が可能になる」
世界と世界の衝突、スケールの大きい話に頭が付いていかない。
『惑星同士の衝突みたいなもんだ、隕石の比じゃねえって事だよ。それにこれは藍染は関係ない』
「ほぉ、ホワちゃんには心当たりが?」
『ホワちゃん言うんじゃねぇ。藍染だったら多分、現世と尸魂界だけじゃなく虚圏もぶつけるだろうよ』
「……成程、三界の融合という事ですか」
『あ、分かっちゃう?浦原たんってば悪いんだ~!グヒヒヒ』
「イヤイヤ!ホワちゃんこそ!ウフフフ」
厭らしい笑いと共に眼は一切笑みが浮かんでいない、二人って実は仲が悪いのかと疑ってしまうような関係性。
「まあ、そういう訳で怪しい者を見かけたなら報告しろ。黒崎一護」
「怪しいって、特徴はないのかよ」
「怪しいのが特徴だ、ではな」
「怪しいのが特徴って……何も分からねぇよ」
「どしたの一護、実はお腹すいてた?」
「ああ、そうじゃねぇよ」
「あげないよ?」
「冷める前に食べちまえよ」
「いひひ~、さーんきゅ!」
謎の少女、茜雫と再会した一護はショッピングモールにて遅めの昼飯を取っていた。
さっきまでまるで御上りさんのように落ち着きなく歩き回っていたこの少女も腹は空くし、喉も乾くようだ。
しかし実態として、死神の能力を持っている。
幼少期から霊が身近な存在であった黒崎一護をして初対面であり、仮にも死神代行である自分や空座町を根城にしている浦原も存在は知らないようだ。
怪しい人物、しかし悪意は感じられない。
―――むしろ放っておいたら、簡単に消えてしまいそうで。
「……やっぱり、考え事?」
「ん、すまねぇな。別に大したことじゃないんだ」
「今日はもう帰ったら?」
「茜雫の事を聞く為に飯奢ったんだろうが」
「あー、そうだったそうだった。でもさ、もう遅いよ?」
気付けば太陽が地平線にかかり始めている、夕焼けの空、サンセットの光。
「お礼なら今度するからさ、私もそろそろ帰ろうと思ってたし」
「帰るって、何処に」
「そりゃあ、家でしょ。まさか初対面の女の子の家に上がるつもり?」
「ばーか、んな訳あるかよ」
「大体、ウチのパパは―――」
茜雫の脳裏に走る、現実味の無い光景。
「……どうかしたのか?」
「ううん……私も体調悪いみたい。ここで解散しよっか」
「おう、今度は話してくれよ」
「任せといて~」
バイバーイと、ある程度の場所まで送ると二人は分かれた。
黒崎一護も自宅に向けて歩いている途中でふと気づいた、次に会うとして何処でだ?
すぐに踵を返して茜雫を再び探し始めた、分かれてまだ時間はそう過ぎてはいない。
太陽が隠れてもまだ、この季節の夜は明るい。しかし茜雫の姿はそうすぐには見つからなかった。
「もしかして、バスにでも乗ったのか?」
もしこの近所に住んでいなければ、再会が何時になるかも定かではない。
もう少し探して見つからなければ諦めよう、そして歩を進め続けて見つけた。
「……ルキア?ルキアじゃねぇか、なんでここに居るんだ?」
砕蜂が来たのだから、朽木ルキアは留守番だと思っていたのに不意な再会だ。
「……ルキア?じゃない?」
「……貴方は?」
目の前の少女が、いや女性が纏う雰囲気が朽木ルキアじゃない。
だけど、ルキアから感じる何かをこの女性は纏っている。
「アンタ…、いや、貴女は―――」
「すみません、その前に一つ、よろしいでしょうか?」
そうだ、勝気な朽木ルキアから所々から感じる、上品な気配。
朽木の家で身に着けたものだと思っていたのだが、もしかしたら―――。
「私にそっくりな、ルキアという子と会ったことがあるのですか?」
プラグマタが発売されたら更新止まります。
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死神代行消失編いる?
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いる
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いらない
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どっちでもいい