メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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インザバックルーム

「ルキア、浦原さんに連絡してくれ」

 

「馬鹿な、たった一人に負けたのだ。貴様が一人で行って何になる!」

 

「その向こうで一人で泣いてる奴がいるなら、俺は行かなきゃならねぇ」

 

黒崎一護はもう止められない、朽木ルキアにも、それは既に分かっている事だった。

 

「分かった、援軍を請うてくる。急いて事を仕損じるなよ」

 

「おう!」

 

斬月を引き抜き、河原に浮かぶ光を貫いて、暗雲の様な闇を突き抜け、黒崎一護は叫谷へと突き進む。

 

昼の様な、夕方の様な。晴れているような、曇っているような。

 

乾燥しているような、湿っているような。無機的なような、有機的なような。

 

一言で言ってしまえば不気味な空間、その中心に茜雫が拘束されているのが見えた。

 

叫谷の収縮を利用した世界同士の衝突、それは如何なる結果を齎すかは不明だが好転する事はない。

 

すぐにでも助けに行かなくては、しかしルキアの静止を振り切って勢いのまま来てしまったのも事実。

 

「ハク様、どうする」

 

『ここで今更、俺に聞くのォ!!?』

 

「どうせまだなんか、俺に隠してるのがあんだろ。出せよ」

 

『わ、わかんないっピ』

 

「しらばっくれんじゃねぇよ、卯ノ花さん出してやろうか」

 

『ヤメテぇ!!』

 

原作では黒崎一護は己の虚を押さえつける事が出来ずに苦心していたが、今回はハク様の影響によって既に和解している。

 

しかし、なんの因果か黒崎一護に卯ノ花烈がインストールされてしまった結果、少々卯ノ花烈によって性格が汚染されている。

 

よってこれ以上汚染を防ぐ為にハク様と一護の虚が――オッサンは逃げた――必死に抑えているのに脅しとして出されるとは。

 

『う、うーん……今出せるのは虚パワー全開くらいしか』

 

「よーし、行くぞォ!!!」

 

『最近ほんとに思いっきりよくなったね!?』

 

ロクでもない力だろうが、後始末はハク様に押し付ければなんとかなるという信頼である。

 

「まったく、君というのはどうしていつも考え無しで行こうとするんだい?」

 

「お前は……!?」

 

眼鏡をかけた、クールで皮肉屋でしかし熱い心をもった男の声。

 

「ウム」

 

褐色の肌を持つ身長の高い頼れる友の声。

 

「そうだよ黒崎君!」

 

ロングの茶髪でいつも黒崎一護の事を心配する者の声。

 

「お前は……お前達は――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

藍染・東仙・市丸「「「助けに来たよ!黒崎君☆」」」

 

 

 

「なんでここに居やがるんだぁあああああああああ!!!!?」

 

 

 

『嫌あああああああああああ!!原作がぁああああああああ!!!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに当然のように黒崎君☆とか言ってるんだアンタら!?」

 

「何、君が困っているようだから助けに来たんじゃないか」

 

「絶対嘘だろ!絶対何か企んでるだろ!?」

 

「想像にお任せするよ」

 

『ウザッ!』

 

何となく石田雨竜の喋り方に寄せているのが性質が悪い。

 

わざわざ捨てた眼鏡をもう一度かけ、わざわざおちょくりに来た時点で察するモノもある。

 

ロングで癖のついたウィッグと胸元の詰め物を捨てる市丸にも一応確認する。

 

一応ポイントだけは松本乱菊と共通していると言えるだろう、胡散臭さは消せていないが。

 

「胸元から干し柿出てきたら面白かったのにね()」

 

「アホですか、乱菊は垂れとらんわ」

 

「……見たのかい?」

 

「黒崎くーん!一緒にこの人ぶっ飛ばそうな!」

 

「お前ら仲間じゃねえのかよ!?というか市丸……だっけ?なんでアンタ女装してんだ」

 

「えー、君のオトモダチが来ないみたいやからボク達が代わりに来たんやないか」

 

「え、もしかしてあんた織姫の代わりのつもりだったのか!!?」

 

「眼鏡と褐色取られたんやもん、ボクの分それしかあらへんし」

 

「別に恋次とかで良かったじゃねぇか!?」

 

「ああ、伸びるし(笑)」

 

「何の笑いなんだよ!?」

 

凄く後にして欲しかったし、もう少し遅く出会いたかった。

 

「何、私を差し置いて尸魂界の支配者を名乗る者が居るそうじゃないか」

 

藍染が斬魄刀を引き抜きつつ、その相貌には嘲笑の笑みを浮かべる。

 

「格の違いを見せに来たのさ、不遜な輩にね」

 

黒崎一護達を置いて先に飛び出していく藍染、非常に遺憾ではあるが戦力としては申し分ない。

 

「……俺達も行くぞ!」

 

『おー!』

 

「アカンよ、それは」

 

瞬歩で黒崎一護の前に出るギンと要、藍染は一人で敵集団に突っ込んで行ってしまった。

 

「何で止めるんだよ」

 

「アホか、藍染隊長が戦うって事は【鏡花水月】使う気満々ってことや」

 

「お前が始解の瞬間を捉えてしまえば、鏡花水月の影響下に入るぞ」

 

「敵に塩売ってどうすんだよ、実は俺の味方か?」

 

「アホな事ばっか言うなぁ。それじゃあ、つまらんって事や」

 

二人の間からは遠くで既に藍染がダーク・ワン一行を煽っているであろう姿が見える。

 

「ハイ、鏡花水月」

 

「あぁ……終わったな」

 

「うわぁ……」

 

煽って視線を集め、そのまま鏡花水月で人間の五感を全て支配する完全催眠のコンボは悪辣である。

 

ダーク・ワンは何をされたか分かってはいないだろう、しかし己の身に何かが起きた事は理解するだろう。

 

「どうした?君達に何かが触れたのかね?」

 

身体の各所に存在する急所を羽でなぞられる様な触覚。

 

「それとも、何かが聴こえたかね?」

 

洞窟を吹き抜けるような、耳の中に水が溜まったような聴覚。

 

次々と見えない何かに悪戯を受けたかのように辺りを見回しながら身を捩る姿に藍染は嫌らしく嘲り、笑う。

 

「君たちは()()()()()のに、見えないのは初めての経験かな?」

 

 

 

―――その言葉も笑みも既に届いていないとしても。

 

 

 

「………」

 

「何でちょっと嫌だな~って感じ出してんだこの人」

 

「ああ、()()()()()()()()()()()()を始解でいつでも簡単にノーリスクで発動出来るのやっぱりズルじゃない?って顔しとるわ」

 

「それは……まあ」

 

『ご愁傷様です!』

 

敵地の真っ只中、敵の首魁諸共が一瞬で鎮圧されて見せ場を失う中で黒崎一護は茜雫を回収するべく動こうとする。

 

しかし、突然の地響きが思考を中断する。これは、世界が震えているのだ。

 

「ハク様、何だよ一体!?」

 

『現世と尸魂界の境界が近づきすぎた!世界同士がぶつかろうとしてる!』

 

「あのダーク・ワンだか知らねえ奴は居なくなったのにか!?」

 

「彼らは既に準備を終えていたし、今更というものだ」

 

藍染は斬魄刀を収めてこちらに戻ってきていた、その上でその表情に抑えきれない愉悦を浮かべている。

 

「ホワちゃん、ちょっとこっちに」

 

『何々?』

 

無警戒に近づいてきたハク様に小声で耳打ち、それを聞いて理解したハク様は対称的に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

『趣味悪ゥ!』

 

「褒めても何も出ないよ。黒崎一護、君はそこの思念珠を連れて叫谷を出ていくがいい」

 

「……分かった」

 

「……君にしてはイヤに素直だね?」

 

直情型の黒崎一護にしては素早く引いた、彼を襲う事もなく疑う事もない。

 

「俺への嫌がらせは、今じゃないんだろ?」

 

「ああ、()()()()()

 

それを聞いた黒崎一護は茜雫を連れて現世へと走り出した。

 

 

「僕は今まで、君に嫌がらせなんてした覚えはないよ」

 

「事実が嫌がらせだなんて、そんな事があるのかい?」

 

そんなふざけた妄言を、聞き流しながら。

 

 

 

 

 

 

茜雫が力を使い果たし、今にも消えそうになっていた。

 

ダークワンの連中が溢していたように、茜雫を構成する欠魂が一気に吹き飛んだからだ。

 

一方で、茜雫の脳内はすっきりしていた。他人の記憶が混じっていた今までと違って残っていた記憶が自分を物語っていたから。

 

黒崎一護が茜雫を横抱きにしながら、茜雫は僅かばかりの平穏を甘受していた。

 

『茜雫を構成していた、茜雫の欠魂を俺が喰って保護している』

 

『だけど、もう一つだけ、欠魂を喰った』

 

既に夜が明けている、月の光が茜雫を照らせばきっともう一人が目覚めるのだろう。

 

「……そうか」

 

そう言う事だ、藍染がわざわざ訪れてまでちょっかいをかけてきた理由。

 

「とんだお節介だよ、クソ野郎」

 

穿界門が開き、地獄蝶を伴って朽木白哉が訪れた。

 

「黒崎一護、思念珠を渡せば此度の件は終了だ」

 

「危機は去ったんだ、渡す必要はないだろ」

 

「ならぬ、思念珠は殺す」

 

「殺す必要も無ぇって言ってんだよ!!」

 

黒崎一護は思念珠の、茜雫の中にルキアの姉であり、白哉の妻であった緋真の魂が存在する事を知っている。

 

その事を既に朽木ルキアに伝えている、その上で朽木白哉の決定が妻を殺すというのなら。

 

無辜の少女である、茜雫を殺すというなら黒崎一護はどうする。

 

「いい加減、学んだと思ったんだがな」

 

「私も、十分に学んだ」

 

互いに斬魄刀を引き抜き、共に切っ先を向ける。

 

「これは私の私情だ。死は滞りなく行われるべし、同じ生など存在しない」

 

「例え本物の記憶を持とうとも、故にその死は絶対だ」

 

「―――ふざけんな!!」

 

黒崎一護が斬月を上段から朽木白哉に向かって振り下ろす。

 

「ふざけんなよ朽木白哉、だったらテメェの本当の心は何処にある」

 

「本当の心だと?」

 

「そうだ!ルキアを助けたいと思ったお前には心があった!」

 

始解ですらない朽木白哉の斬魄刀が斬月との鍔迫り合いを弾き返す。

 

「ルキアを救うというのは、緋真の死に際の願い。その死を以って齎された契約だ」

 

「緋真の死が、私を掟を破らせる程に動かした」

 

「それが生きているというのは、道理が通らぬ」

 

「だからって、そんなんで自分の伴侶を殺せるのかよ!」

 

「無論だ、言っただろう」

 

 

 

―――私は、思念珠を殺す。

 

 

 

縛道の六十一・六杖光牢

 

鬼道の拘束が黒崎一護を縛る、いくら黒崎一護が鍛え上げられたとは言え拘束を破るには手間がかかる。

 

「再び、あの丘で兄と相見えよう」

 

茜雫を抱えて、朽木白哉が穿界門を潜っていく。それはまるでルキアを連れて行った時の再現の様で。

 

「またかよ……」

 

「俺、強くなって、誰かを護れるようにって……。なのに、まだ誰一人も護れないのかよ……」

 

「ルキアも、緋真さんも。茜雫も、()()も―――!!!」

 

「何で!俺は―――!!!」

 

 

「誰一人、護れねぇんだぁああああああああああああ!!!」

 

 




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