メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
「ようこそ、メゾン・ド・チャンイチへ。歓迎いたしますよ」
ここは黒崎一護の心象風景、その横倒しのビルの上にはいつものメンツが勢揃いしていた。
我が物顔で来訪者を迎え入れる卯ノ花烈、その先には一人の少女が立っていた。
「お世話になりまーす、茜雫でーす!!」
「何さらッと入ってきてんだ!?俺もう多重人格とかそういうレベルじゃ収まんねぇだろ!」
茜雫は無事だった、少しだけ特別なカタチで、いつもよりもずっと傍にいる事になった。
『乾杯!乾杯していい!?』
「どうせいつも飲んでるだろうが!」
『かんぱーい!』
「躊躇もしねぇのかよ!?」
やはりいつもの面子が酒盛りを始めたので一護は距離を開けて茜雫を呼ぶ、共に並んで座るがその距離はどこか遠かった。
「……茜雫、お前、本当にいいのかよ」
「んー、何が?」
「本当の…
本当は顔も見たくないのではないかと、ナイーブな気持ちを引きずったままだ。
茜雫は間違いなく朽木白哉に連れ去られ、そのまま白哉のかつての妻と共に消滅した。
「あー、何?そんな事気にしてたの?」
「気にするわ!……気にしないわけないだろ」
かつて茜雫と呼ばれた少女が居た。
死んだ後に思念珠の一部となり、無数の記憶と共に再構成された。
そして、ダーク・ワンとの決戦の後のどさくさに紛れてハク様が茜雫の記憶を取り込み複製したらしい。
「言ってたよね、朽木さん。記憶が同じなら、魂が本物なら同じなのかって」
「……ああ」
「私は違うと思う。一護に手紙を書いた記憶があっても、私には過去の記憶としてでしかないの」
「だから気にしてないよ、例え私が死んだとしても私にはその実感がないもん」
「多分連続する何かが、必要なんだと思う。意識の共有というか、そういうのが」
そう言って拳一つ分だけ、茜雫が一護に近づく。
「だから、好きに喋りなよ。私に言えなかった事」
「好きになんて、言えねぇよ」
「言わないとだめ、一護は弱ってる。強がりは弱さだよ」
「言えるわけねぇだろ!」
一護は立ち上がる、茜雫に体を向けて、それでいて視線を合わせる事も出来ずに。
「……護れなかった」
「うん」
「誰も、皆も、お前も、護れなかった」
「うん」
「だから、言えねえ……」
「そっか」
黒崎一護の言いたい事は分かった、伝えない言葉も分かる、だからこそ言わねばならない。
「だけどね、一護。今、アンタかっこ悪いよ」
「……そうか」
「言い返してこないのもかっこ悪い!!」
俯く一護の目線に、仰ぐ茜雫の視線が重なる。
「強くなるって言ってよ」
「……」
「俺が皆を護るって言ってよ!!!」
「……」
「お願いだから言ってよ!嘘でも本当にしてよ!」
「……悪ぃ、やっぱ、言えねぇ」
「一護!!」
黒崎一護の心象風景から、彼は消えてしまう。逃げたのだ、全てから。
「君は辛くなると、いつもここに居る。黒崎一護」
「……最悪だ」
空座町の河川敷、辛い思い出としょっぱい思い出の集まる地にて彼は黄昏ていた。
藍染は未だに眼鏡をかけていた、黒いコートを羽織って、髪型も下ろしたままで。
「僕は君の事をずっと見ていた、君が産まれる前から」
「……お前は、俺の母さんに何をした」
「ホワイト、君の言うところのハク様を君の母君に預けたんだ」
「預けた?」
「ホワイトは危険だった。それは勿論、ブラックにも同じく」
「思わせぶりな言い方は止めろ、もう俺は関係ない」
誰も彼もが放っておいてくれない、こんなにも無力なのに、役にも立たなかったのに。
「君のプライドは何処にあるんだい?」
「プライド…?」
「大いなる百獣の王、ライオンの群れをプライドと表現する事は知っているね?」
「知らねーよ!?」
「プライドとは本来、誇りや矜持を示す。ではライオンのプライドとは何か」
「ライオンのオスはプライドの王、メスに獲物を狩らせて自分は動かない、子供に獲物を分けない事もあるそうだよ」
「そして、オスのライオンは群れを追い出される。放浪するオスのライオンに負けた時にプライドを乗っ取られるのさ」
「君は負けた、メスを奪われ居場所も失った放浪する敗北者の王だ。改めて聞こう、君のプライドは何処にあるんだい?」
「……さあな」
「実感がわかない、腑に落ちない。ならば自分の実体験として受け入れる事が出来れば共感もしやすいかい?」
「例えば」
「君の友達や番いを」
「全員、僕が奪い去ったとしたら」
「君は、ライオンになれるのかい?」
黒崎一護の握った代行証が魂を抜き取り、そのままの拳に斬魄刀が握られ藍染に向けられる。
「それだ、君の捨てられない物。なぜ代行証など未だ持っている?」
「外し損ねたんだよ」
「違うね、君は忘れられないのさ。喧嘩に明け暮れ、死闘に浸かり、己が生を実感できる瞬間を」
「君を形作る事となった一つとして、君に一つだけ大切な事を教えよう」
藍染の掌が黒崎一護の斬魄刀の切っ先を捉える、しかし沈む事なく突き当てるだけ。
「君に近しい誰かが危機に陥ったとする、あるいは苦難が訪れるとする」
「どうすれば、護れる。どうすれば、失わずに済むのか。その答えは簡単だ」
「―――奪い取ればいい」
黒崎一護の斬魄刀、斬月が藍染の手に奪われる。もしこれが戦闘であれば黒崎一護の腕ごと持っていかれただろう。
「そもそも、君にとって大切なモノは君のモノではないんだ。勘違いしてはいけない」
「しかし君のモノではないのに奪われる、随分と理不尽だと思わないかね?」
「であればどうする?誰のモノではない物を、自分のモノだと示せばいい」
「君は失う事に囚われ、恐れ、慄く。だから護れない、覚悟が足りないからだ」
斬月が投げ返される、確かに斬月は黒崎一護の斬魄刀だが黒崎一護ではない。
「それでは黒崎一護、再び相見えるその時までに覚悟を決めるがいい」
「覚悟なんざ……そう簡単に決まるかよ」
「そうかい?簡単だと思うのだが」
藍染は不思議そうに頭を傾ける、意外だなーって表情が語っている。
「井上織姫を抱けば一発ではないのかね?」
「何言ってんだこのオッサン!?」
余りにも下世話な話につい素が出る黒崎一護、どこからかハク様の笑い声の幻聴が響く。
「……おやおや、君も日番谷君と同じか。駄目だよそれは」
「何で井上なんだよ、あと日番谷と一緒にすんじゃねぇ!!」
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております。
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