メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
藍染との意図せぬ再会、そしてアランカルの存在を知った黒崎一護は新たな戦いの幕開けが近い事を感じていた。
困った時の浦原商店、浦原喜助に話を持ち込むも関係者だったので事情は把握済み。
「そもそもですねぇ、話が矛盾している上に私に話したら嘘丸わかりじゃないですか」
「そんな雑な隠ぺいしながら仲良く廃工場で生活してんのかアイツ!?」
『笑うの堪えるの大変だったんだからな!』
「お前どの立場で言ってんの!?」
当然の様に語るハク様に黒崎一護も困惑、浦原喜助を始めとして三人も苦笑いだ。
「というか何で藍染が二人居るんだよ」
「そもそもの話をしましょう、もう一人の藍染サンはブラックと呼ばれる存在なんです」
「……ブラック?藍染じゃなくて?」
「藍染サンの持っていた崩玉と藍染サンの霊力が融合して産まれた存在です」
「成程……黒い崩玉だからブラック。でも、可笑しくないか?」
「何がですか?」
「アンタ、手元に二個あったんだろ?いつ藍染は崩玉を手に入れたんだ?」
「それですか、実は藍染サンが最初に持っていた黒い崩玉がアタシの手元に転がり込んで来たんですよ」
「……はぁ?」
崩玉には意思がある、度々言われていた事だがここまで自由かつ勝手に動けるものなのか。
「藍染サンがまだまともだった頃、突然態度が変わった」
「何かを探している様でした、ですが私は私で大変でした。何せ、崩玉なんて物が偶然手元に転がり込んで来たのですから」
「転がり込んだ?」
「自分が作っている物が、別の場所からやって来たんです。チャンポンを作ってたらスーパーコンピューターが出来たようなものですよ、そりゃあビックリしました」
「ああ、そりゃあビックリするわ」
『錬金術もビックリ!』
「そんなわけで崩玉が手元に来て研究を進めていたら更にビックリ、なんと二個に増えていたんです」
「プラナリアかよ、勝手に増えるのかよ」
「しかも増えた時に藍染サンが来ちゃいましてね、どうせだから
「これはこれは……なんという物を作ったんだ浦原喜助」
「いやぁ、弁解だけでもさせて貰いたいですねぇ。これは作ったんじゃない、出来たんです」
「法を破る者の常套句だろう?」
いつも通りの気安いようで、何時しか遠くなった距離。
「私が崩玉を願い、崩玉が叶え、崩玉が完成する?卵と鶏が逆じゃないですか」
「つまり、鶏が卵を産んだ。崩玉は生成物であり製作者は別と言わざるを得ません」
「何かの理由で私の手元に現れた、そう言わざるを得ないんですよ」
それはつまり、黒い崩玉が白い崩玉を作った。そして黒い崩玉の意思が確実に存在している事の示唆だ。
「黒い崩玉と白い崩玉は互いに反発し、また沈黙する。そういう防壁をかけさせていただきました」
「成程、崩玉の意思を強固に呼び起こし、更には同一の意思を与え続けてオーバーフローを起こすのか」
「アナタ、随分と嫌われていたみたいでしてね。随分とすんなり受け入れてくれましたよ」
「別に構わないよ、後に傅くのであれば過程など些末な事だ」
藍染が斬魄刀を振るう、既に浦原喜助は鏡花水月の術中下にあるのだ。
「ところで、感覚ってなんだか分かります?」
確かに切った筈の浦原喜助が破裂する、精巧な人形、それは義骸のデコイ。
「釈迦に説法かもしれませんが思い込みなんですよ。封印したから崩玉が以前と違うと思いましたか?」
「崩玉は一つだけ差し上げましょう、アナタの粗末な過程にはそれだけで十分でしょうから」
黒い崩玉が砂の様に崩れ落ち、その場には白い崩玉だけが残された。
「アナタが悪いことをするんじゃない、アタシがアナタを操るんです」
「随分と感傷的な事だ、そんなに藍染の事が大切かね?」
嘲るような、それでいて口元が緩んでいるような問いが空間に溶けていく。
「ええ、親友ですから」
「そういう訳で、崩玉は互いに一つずつ持っていたという事なんですよ」
『あー、記憶が無いと思ったらそういう事かぁ。そもそも記憶無かったのかぁ』
黒い崩玉によって生み出されたホワイトはまさに生まれたての状態だった、そして虚のホワイトによって黒崎真咲に埋め込まれて初めて起動したのだ。
「何で一個渡したんだよ、ルキアみたいに自分に隠すとか出来なかったのか?」
「やってもいいんですけど、それだと死ぬほど藍染さんに付き纏われるじゃないですか?黒崎サンなら受け入れます?」
「絶対嫌だ」
「でしょう?何せ崩玉は破壊出来ないですし、冤罪だって藍染サンの手にかかれば作り放題。だったら隠す事で時間を無駄に増やして悪辣な手を打たれるよりも制御しやすい範囲にコントロールするのが一番いい」
「それが、俺や尸魂界の皆を巻き込む事になってもか」
「世界規模の話をしてるんですよ?巻き込まれているのはアナタ達だけじゃない、既に世界中の人々が巻き込まれているんです」
「詭弁だろ」
「なんだか傍観者みたいなセリフですねぇ。アナタもプレイヤーの一人なんです、皆が無事でもアナタが負ければ世界が終わる。黒崎サンは世界を巻き込んでいる側の立場なんです」
ちゃぶ台を挟んでにらみ合う、味方の筈なのにいがみ合う。
「これは困った、想定外ですよ。黒崎サンは未だ燻っているとは」
『教育が足りずに申し訳ない』
「実際死活問題ですよ。分かってます?アナタに崩玉が埋め込まれているという事は、黒崎サンが負けると思ったら本当に負けるんですよ?」
願いを叶える為に誘導する崩玉、死神代行になって数か月の少年が尸魂界の死神相手に渡り合えたのは何故か。
一度は勝った相手に、無様な程にすんなりと負けたのは何故か。
「崩玉に逃げる事を願ってもいいでしょう、しかし同じ崩玉を持つ藍染サンから逃げる事は叶いません」
「そしてアナタが覚悟を決めないならアタシは手伝いません」
「だって足手まといですから」
どいつもこいつも好き勝手言いやがる、何度も罵詈雑言を浴びせたい気分だったがそうもいかなかった。
「ハク様、俺はどうすればいい」
『あ?戦えよ、お前の力はその為の力だろ』
「違う、強くなるにはどうすればいい」
『……へぇ?』
黒崎一護は茜雫を護る事は出来なかった、それは事実だ。
事実だからこそ、前向きに受け止めて歩き続けなければいけないのだ。
「茜雫を護る事が出来なくて、世界を護るなんて大それたことなんざ言えないと思ってたけどよ」
『うんうん!』
「足手纏いとか言われると、やっぱり違うなって思ったよ」
『いいねいいね!』
「だからさぁ、どうせなんかまだあんだろ?」
『あるある!折角だから、一護にピッタリな相手を―――!!』
「残念だが、そうはいかねぇな」
夜の空座町、空に突如として現れる黒腔、そして現れる人影。
「テメェ、今何時だと思ってんだ」
「夜行性だからな、虚圏には朝も昼もねえしよ」
「調子いいみたいだな、丁度いいや」
「ああ?」
「藍染の部下だかなんかだろ?丁度憂さ晴らししたかったところだ!」
「……だったら、さっさとかかって来いよ!」
野生の気配を身に纏うアランカル、グリムジョーが空を蹴って飛び出した。
「刀剣解放!天鎖斬月!」
黒崎一護が天鎖斬月を握りしめる、しっかりとした握り心地だ、あの日みたいに腑抜けてはいない。
「刀剣解放!白鞘穿月!」
ハク様の名前を叫び、慣れ親しんだ一刀一本の二刀流。黒崎一護の霊圧の上昇によって強化された膂力が凄まじい力となって放たれる。
「オラァ!!」
「舐めんな!」
天鎖斬月がグリムジョーの素手で掴まれ、白鞘穿月は左腕で払われる。
「そんなじゃ俺の皮膚一枚切れねぇぞ!」
「だったら、次はテメェを真っ二つだ!」
イメージに浮かぶのは卯ノ花烈のように滑らかで、更木剣八の様に荒々しいその一振り。
「これが……全身全霊のぉおおおおおおおお!!!」
「!!?」
天鎖斬月の刃筋がグリムジョーの鋼皮を捉えてめり込んだ、何とか身を捩って両断は避けたがそれでも深い傷を腕に刻み込んだ。
「これが……白い崩玉、願いを形にする力!」
『違うよ?思いっきり霊圧をぶち込んで鋼皮の霊子間構造を破壊してるだけだよ?』
清々しい程の力技である、そもそも白い崩玉のアバターであるハク様すら関係がなかった。
「……やるじゃねぇか、さすが藍染が目を付けているだけはある」
「あ?」
鋼皮は止血にも働いたのかいつの間にかグリムジョーの腕から流れる血は止まっている、腕を振るうと鈍いのか肩を回したが戦闘の継続は可能だ。
「違うか、藍染に目を付けられて可哀そうだよなぁ」
「テメェ、喧嘩売ってんのか?」
「んな訳ねぇだろ、流石に同情するぜ。テメェの生まれも育ちも知ってるんだよこっちは」
「そーかよ、いい気分じゃねぇな」
「申し訳ねぇとは思ってるぜ、知られたくない事とか分かりたくないって事はあるよなぁ」
風がグリムジョーの服の裾を捲って刻まれた数字を曝け出す。
「俺は
「最強じゃねぇのか、随分とその数字が気に入ってるみたいだな」
「実際に戦って決めたわけじゃねぇ、ある程度は強さに準ずるが数字の価値は強さだけじゃねぇ」
「……その価値を含めても六番目という事か?」
「まぁな、だからこそ俺は藍染が普段から気に入らねぇ。しかし他の奴等も似たり寄ったりだ、特にアンタや他の奴に企てた嫌がらせには辟易してる」
グリムジョーが片手を見せて指を一本立てる、そしてそれが数字を示しているのは後でわかった。
「子供の親と友達と恩人に酷い事するのは流石に駄目でしょ」
「生けるものは死ぬ、しかし悪辣が過ぎる」
「趣味が悪い」
「特に言う事はない」
「力ある奴が狡い事考えてるのが最高にムカつく」
「愛が足りない、というより愛がネジくれている」
「僕に一瞬でも謙虚さを感じさせるコイツには驚いている」
「ノーコメント、キレそう」
「あ?別に暴れられればいう事ねぇよ」
「これが藍染の評判だ」
「アイツ嫌われてるのか?」
「当り前だろ、俺達もある意味藍染の被害者だからな」
「何があったんだよ……」
「想像しなくていいぞ、ムカつくだけだからな!!」
再びの交叉、そのグリムジョーの有り余る力とは打って変わって刃筋は逸らされ先手を抑えられる。
「テメェには、特別に見せてやるよ。十刃にだけ許される力って奴を!」
「!?」
「
グリムジョーの傷ついた腕から滴る血が左手掌の霊圧と混じり合い、強大な閃光となって放たれる。
「ハク様!」
『おぼぼぼおおおおお!!!?』
白鞘穿月が王虚の閃光の一撃を時間はかかったが吸い尽くす、いくら全力では無かったとしても流石にこれにはグリムジョーも驚いた。
「俺の事知ってる割には迂闊だな!」
『喰らえ!必殺の――――!!!』
「
「なんだそりゃあぁあああああああああ!?」
ボロ雑巾の様になりながら吹き飛ばされ、後で仲間に回収されたグリムジョーは思った。
藍染の野郎、わざと黙ってやがったなと。
いくつか同時にSS書くと投稿が遅くなる。
誤字報告、とても感謝しております。
今後とも評価と感想とここすきと推薦をお待ちしております。