メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
母ちゃんが死んだ、俺のせいで。
遊子も夏梨もすっげえ泣いた、親父は何も言わずに俺の背を軽く叩いた、結局は誰も俺を責めなかった。
母ちゃんが火葬されて白い骨になるのを見た、子供の俺でも抱えられるくらいの骨壺に納められて母ちゃんはとても小さくなった。
俺は幽霊が見えるから、母ちゃんがまた一目会いに来るもんだと信じていた。
母ちゃん、俺の事嫌いになったかな。
学校を早退して虚を昇華する、虚はデカいし暴れるが後ろから一気に頭を刀で斬れば大抵カタが付く。
「随分と虚退治に慣れてきたな一護」
「そりゃあこんだけ戦えば慣れるだろ、痛いのは御免だしな」
俺の身の丈程もあるデカイ刀を納めて被害を確認する、傍から見れば不審者の筈の俺の傍を通りすがりの人間は一瞥もせずに通り過ぎて行った。
「今日のお前の活躍で今通り過ぎた住人が襲われる事もなく、周りの被害は無くなった。お前の見事な功績だよ」
「他の町でもこうやって現世の人間を守っているのか?」
その言葉にルキアは苦虫を嚙み潰したような顔で気まずさを湛えながらも俺に教えてくれた。
「―――私の任務は尸魂界で重霊地と呼ばれているこの空座町で問題がないかを確認する事、そして虚を見つけ次第昇華する事。通常であれば虚が出現次第尸魂界へ連絡が入り現場へ急行する事になる」
「何で他の町にも最初から死神を派遣しないんだ?虚が出現してから向かったんじゃ間に合わないだろ」
「理由は幾つかある、そもそも死神の素養を持つ者が少ない事と虚の出現数の違いだ。お前は他を知らないだろうがこれだけの頻度かつ強力な虚が出現するのは異常な事なのだ、他の地で我々が備えようとも虚が現れるのは本来はごく稀だから効率が悪い」
「へー、そんなもんか」
そう呟いて初めの質問の答えをはぐらかされた事に気付く、ルキアとしても答え辛かったようだ。
「通常の魂魄であれば虚に転じるまで数ヶ月から数年かかる、ある程度の頻度で現世に赴き周囲に浮かぶ魂魄と一緒に回収するのが最も効率的との結論だ」
「放置されているって訳じゃないんだな」
「そうだ、この前の廃病院の様に残留思念の強い魂魄は虚へと転じやすい。そういう優先順位の高い魂魄はすぐさま魂送して、そうでない魂魄は緩やかではあるが確実に尸魂界へ送られる」
「そうやって原因を取り除いているって事が消極的ながらも守る事に繋がるのか」
「例外と言えば尸魂界の探索から逃れたり隠れていたり紛れてしまっていた時くらいだ。しかし虚となればすぐに尸魂界は気付く、こうして現世の安寧を保たれている」
実感は湧かないが俺は今その一端を担っているらしい。家族を傷つけたから、井上を悲しませたから、無辜の少年を虐めていたから俺は虚を斬った。
死神代行、俺がやりたい事かと聞かれればNOだ。俺は別にスーパーヒーローになりたいわけじゃない、バケモノと態々戦うなんて御免だ、しかし知ってしまえば動いてしまうのが一護という少年だった。
あの時からルキアの口車に乗って虚が出れば戦うようにしているが実際はルキアの仕事なのだ、しかし身の回りの人間にいとも簡単に不幸が訪れる事もまた知ってしまった。
「なあルキア、何でお前死神やってるんだ。怖くないのか?」
「戯け!虚が怖くて死神が出来るか!!」
「でも初めて会った時ボロボロだったじゃねぇか、ああいう事も普通なんだろ。死神じゃない道もあったんじゃないのか?」
それは一護の純粋な疑問、それに対してルキアは一護を嘲る様な、怒ったような、しかし愛おしい者を見る様にして語った。
「そうだ、極論で言えば死神にならない道もあった。しかし今では違う、私に『生きる事も死ぬことも同じ』と教えてくれた人が居た」
「なんだそりゃ、禅問答か?」
「私も初めは分からなかった、後に機会が巡り真意を訪ねてみた。『何も成さずに生きるのは死と同じ、一方で何かを成して死ねば永遠に生きる』だそうだ」
「分かんねぇな、死ねば終わりだろ?」
「いずれ嫌でも分かる時が来る。その人は私に『誇り』を遺してくれた、あの人の教えは未だ私の中にあり生き続けて居る。私が死神であるのはその誇りを引き継ぎ次の者へ渡す為だ」
そう言ってルキアは俺の胸元に拳を柔らかく当てた、痛みもない軽い拳が何故か人生の中で何よりも重く感じた。
「一護、お前はいつか日常へ帰るだろう。だが覚えておいてくれ、簡単に消えてしまう命の儚さを、それを護り育む事の尊さを」
石田雨竜という男が見慣れた服装で話しかけ、決闘を申し込まれたのがほんの少し前の話。
元々地毛の色や面倒な噂で絡まれる事も多かった黒崎一護は安易にそれを受けようとした、一対一の喧嘩であれば掛かる迷惑などたかが知れているからだ。
しかし石田はとんでもない事を言いだした、虚用の餌で街に虚を呼びその討伐数で決着を付けようと言うのだ。
俺は虚の撒き餌なんて物をばら撒きやがった石田の胸倉を掴んで捩じり上げ壁に叩きつける、とんでもない事を仕出かしやがった!!
空座町はルキア曰く重霊地と呼ばれていて虚の出現数が多い場所だ、そんな所で真昼間から撒き餌をばら撒くコイツは馬鹿なのか!?
「何だい黒崎一護、僕は今忙しいんだ」
「今すぐ虚を追い返せ!早くしろ!!」
「無理に決まってるだろ、虚が言う事聞くはずもないし」
「テメェ…!!」
「言っておくけど虚が何処から現れるかは不規則だ、僕に掴み掛っている暇が在ったらさっさと虚を倒しに行った方が賢明だよ」
説得の余地もない石田を投げ出すと俺はともかく走り出した、俺には虚が何処にいるかは検討が付かないから手当たり次第に斬りまくるしかない。
走り去っていく一護を傍目に石田は毒を吐いた、己の中を満たすやり場のなかった暗い胸中をぶつけるかのように。
「君はここで見ているつもりか、僕の邪魔をするなら先に始末するよ」
魂魄が抜けた筈の黒崎一護の体は自ら動いた、恐らく何某かの代替になる魂魄を肉体に入れてあるのだろう。
かつて尸魂界で考案された
当然道徳的な問題、或いは技術の流出を防ぐ為、或いはそれを製造管理出来るものが居ない為か計画は中止され廃棄物として処理された過去を持つコンは逆に石田雨竜を睨みつけるもすぐさま彼に背を向けた。
「誰だか知らないが最低だよお前、命はそう簡単に奪っていいモノじゃねぇだろ」
「何とでも言えばいい、どうせ僕が虚を全て滅却すればいいだけの話だ」
「そうかよ……でもな、もしも姉さんに傷の一つでも付いていたら――――お前の頭蹴り飛ばすからな」
そう言い残すコンは現実ではありえない速度で走り出しその場を離れていった、
空に黒色のヒビが入り様々な方角から虚が這い出て来るのを元よりコンに備えられた感覚が察知していた、コンは最も信じられる己の嗅覚を頼りに姉さんと慕うルキアの元に急行する。
空座町の住人でこの惨状に気付ける者は一握りであろう、しかし虚はその一握りの素質ある魂魄を狙って動き出す。
空座町は直に地獄と化すだろう、そして数多湧き出る虚の反応の影に隠れて暗躍する一体の虚。
黒崎一護の物語が群像劇へと変わるその瞬間を、白色の虚であるホワイトは上空から眺めていた。
二次創作の作品で〝筆が止まって見える〟などと言う事があるだろう?
時間感覚の延長だ。仕事が極限まで詰め込まれると稀にああした現象が起こる。
これはその状態を強制的に引き起こす薬だヨ。
つまり、誰でも簡単に〝社畜の感覚〟を手に入れられる薬という訳だ(瀕死)
評価と感想お待ちしております
今後の方針
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コメディっぽい方が良い
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今まで通りでいい