メゾン・ド・チャンイチの裏事情 作:浅打
精神を病んだ祖母、身を崩して死んだ母、それを解剖した父。僕の居場所は家にはなく、同じく家に居場所を無くした祖父だけが僕の寄り場であり、祖父から授けられた滅却師という在り方は彼に存在意義を与えるに至った。
―――滅却師の力を不用意にひけらかしてはならない、滅却師の力は護身の為に留める、滅却師の力を用いる時は大切なモノを護る為。
師匠の教えは子供には物足りなかったが実際に戦うつもりは毛頭なかった為に異論は特に挟まなかった。
師匠は高潔な人だった、そして色々な知識や昔話を教えてくれた。どんな偉人の物語よりも興味深く、目に見えない世界の構造を教えてくれた。滅却師が世界の均衡を崩す、師匠はそ
れを教えてくれた。
しかし祖父は常々死神や尸魂界に対して訴え続けた、『死神の対処が間に合わないならば、現世の滅却師が先行して対処する。共に協力して現世の安寧を守るべきだと』。
それが出来ていたなら二百年前の悲劇など起こらなかった、死神が現世の事を真に考えているならこの様な世界には成らなかった。
―――師匠が死神に見捨てられて虚に殺されるなんて、それを目の当たりにしてしまうなんて考えもしなかった。
「十三…十四…十五…」
一撃で虚を滅却しきれず、未熟故か疲れからか霊子の矢の奔流を御しきれずに指から血を滲ませながらも矢を放つことを止める事はない。
黒崎か先程の人造魂魄が、僕が虚を滅却するよりも先に虚の下に辿り着いている事を見せつけるかのように時折空高く虚が打ち上げられるのを後目に矢を形成しては飛ばしていく。
精々十体出てくれば多い方と考えていたが計算違いをしていた、愚かな自分の空想以上に虚は未だに湧き出し続けて空座町の各地で猛威を振るう様を滅却師の感覚で捉えていた。
「二十一…二十二…二十三―――!!!」
黒腔から湧き出る虚のスピードが上がった……!!自分や黒崎の一味以外にも虚を倒せる存在がいるようだがそれでも虚を滅却する速度を出現する虚の数が凌駕しようとしている。
しかも滅却師の撒き餌は砕いて使用するもので虚が好む霊子の反応を周囲に放出するものだ。放出と言うのだから外縁は反応が薄く、一方で中心は最も霊子の反応が強くなる。
虚の数が多くなればなる程僕を狙う敵が増えていくというのであれば好都合だ、僕の祖父を見殺しにしたのは死神だが手にかけたのは虚なのだから。
「……とはいえ、大分辛くなってきたか」
正直指の感覚がなくなってきている、霊子の矢の形成が乱れている、呼吸も既に荒くなっている、しかしそれだけだ。
虚の滅却を確認してはまた近くの虚を滅却すべく場所の移動を開始する。曲がり角を曲がってすぐに同じ学校の制服を着た女生徒と黒崎擬きが蹴り飛ばした虚の姿、弓を番えて即座に矢を放つと仮面を砕かれた虚はボロボロとその姿を崩して消え去った。
「―――よくよく考えてみれば、君と話をするのは初めてだね。死神の転校生」
「浦原が言っていた滅却師の生き残りとはお前の事か」
「その通りだ、それにしてもその傷……ああ、そうか。死神の力は黒崎一護に渡したんだったね、随分と無様な姿だ」
「貴様の引き込んだ虚のせいという自覚はあるか?私だけではない、今や空座町のあらゆる場所でこの様な事が起きているのだ」
知っているさ、僕のエゴで始めた事なんだから。
「オイ、クソ眼鏡。姉さん傷つけたらどうなるか覚えてるか?」
「後にしなよ、まだまだ戦いは終わってないんだ。それよりも、そこに居ると危ないよ」
「は?って、ウォオオオオオオオオオオオ!?」
いつの間にか黒崎擬きの後ろに回り込んでいた虚、そしてそれを一刀両断にした黒崎一護。
即死したであろう虚の死骸が黒崎擬きを押しつぶさんと倒れ込み、それをなんとか回避したが黒崎擬きは怒り心頭といった勢いで黒崎に突っかかっていた。
「テメェ一護!危ないだろうが!!」
「知らねーよ!油断したお前が悪いだろうが、感謝ぐらいしろや!!」
「やめろ馬鹿共!まだ戦いは終わっていないぞ!!」
朽木ルキアの一喝で一旦騒ぎを止める黒崎達、倒した虚の死骸を蹴り飛ばしながら黒崎は長大な斬魄刀を此方に向けて大声で叫び始めた。
「……ああ、そうだな。やっと見つけたぜ石田ァ!あっちこっちでやらかしやがってよぉ!!」
「黒崎、態々僕を探してここまで来たのか?虚はまだ町中にいるぞ」
「そんな事知ってるわ!第一探していたのはお前じゃねぇ!虚の場所が分かるルキアを探しに来たんだよ!!」
「オイ、一護!!上を見ろ!!黒いヒビが一か所に集まってる!!」
「アレは…何だ、虚が一点を目指して集まっている…!?」
「黒崎、遊んでいる暇があるなら君はここで見物していろ。そして勝負は僕の勝ちだ!!」
死神の女、朽木ルキアからしても異常な事態の様だが一か所に集まると言うなら好都合だ。
「こっちを見ろ虚共!!最後の滅却師、石田雨竜が相手をする!!」
「最後の滅却師…?アイツは一体何を」
「一護、滅却師は滅亡したのだ。二百年前、我々死神の手によってーーー!!」
「石田ァ!!!テメエの戦う理由って奴を聞かせて貰ったぜ。傲慢とか復讐とかよく分かんねぇけどよお!!」
「それは違うよ黒崎一護、二百年前の事件なんてただの昔話だ、滅却師は滅んで当然だったのさ。君は名前も顔を知らない人の為に復讐が出来るのか?」
そう言われてしまえば俺は何も言えなかった、俺は家族を両親と妹達位しか知らない。復讐なんて重苦しい事なんざ考えた事もない
「滅却師が滅んでも僕には関係ないのさ、むしろ死神の方が正しいと思っていた。僕も祖父が死神によって見捨てられるまではそう思っていたさ!!!馬鹿馬鹿しい、死神の傲慢さを君は知らないだろう。分かるか黒崎、死神が祖父の言い分を聞き入れていれば祖父は死ぬことは無かった!僕は死神の前で滅却師の存在を認めさせる、その存在の必然性を認めさせなければならないんだ!!」
徐々に集まってくる虚共を切り捨てながら石田の叫びを受け続ける。ルキアも話していた限りある命、それが簡単に消えてしまう命の儚さ。
コイツは辛かったんだ、苦しんで悩んで結局こんな事までしてしまう程に追い詰められていた。だけどたった一つだけ、分かる事があった。
「お前馬鹿じゃねえのか!?」
「は、ハァ!?話を聞いていなかったのか!僕は師匠の意思を継いでその存在を―――!!」
「そこが違う!!死神が傲慢だっていうのは分かった!!だけどお前の師匠が本当にしたかった事は!!」
「――――お前を護る事だろうが!!!!!」
「……それは―――!」
「お前の師匠は監視だってされてたんだろ?死神が滅却師を殺すんだろ!?実際お前の師匠は死んだ、お前の師匠はいつか殺されると分かっていた!だから死んだ後もお前の事を護りたくて死神達に滅却師の不干渉を訴えていたんだろ!!?」
「じゃあ何だ、師匠は僕の為に死神に盾突いて死んだって言うのか!そんな事!!」
「勿論それだけじゃなく、現世の虚による被害に頭を悩ませていたのも本当だろうよ。だから共闘の道を訴えていた、違うかよ」
石田の爺さんは言葉が足りない人だったのだろう、人に尊敬される程立派だったのにその思いが石田には伝わっていなかった。
「俺は死神だがそんな事はどうでもいい、どうせ元は唯の一般人だしな。俺はただ虚を倒したいだけだ」
「何故だ、何故お前は戦う」
「俺の母親は俺のせいで死んだ、すっげぇ辛かったよ。だから俺は俺の同類を作りたくない、誰であれ悲しい顔を見るのは、俺は辛い」
奇しくも石田雨竜の祖父と同じ言葉、家族を失う苦しみを知る黒崎一護に諭された石田雨竜は死神への復讐心が揺らぐのを感じた。
「俺は家族だけ無事ならいいとか、そんな事を考えられる人間じゃねぇんだ。最初は不満だらけだったけどよ、俺は山ほどの人を守りてぇ」
荒削りだが高潔なる意思、そんな彼の背に祖父の姿を幻視した石田は死神の全てを憎むことが出来なくなっていた。
今となって、今更ながら彼にも分かっていた。これは師匠の意思を継ぐことではない、自己満足でしかない戦いであった事を。
「―――僕が、間違っていた、のか」
「分かったならボケっとしてないでさっさと虚を片付けるぞ!!」
滅却師と死神の背中合わせの共闘、祖父の願いが叶っていればこういう景色も十分あり得たのだろう。
むしろ祖父の意思を継ぐのであれば例え自分だけでもその思いに殉ずるべきだ。黒崎一護と石田雨竜の共闘は型に嵌ったように周囲の虚を続々と倒していったが遂にその時が訪れる。
「待て黒崎、虚達の様子が変だ」
「何だ、コレ。虚がまるで祈りを捧げているかのような……」
知性在るものが祈る時、それは絶対的存在に対してのみ行われる。空の黒腔が寄り集まって扉を開き、現世に
何処かであり得たであろう突然の邂逅、少年にとっては己も知らぬ母親の仇。
―――その名を、グランドフィッシャー
それでは登場して頂きましょう!
新世代のカリスマ第二号被保険者!!地獄の現場からのメッセンジャー!!
ミスター・ドン・残業時です!!
『ワーク・アー・フォーエバー・ウィズ・ユー!!』
(仕事はいつも貴方と共に)
『ボハハハハー!!』
僕「ボハハハハー!!」
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