メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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所業を背負えば現世に還る

 

「なんでグランドフィッシャーがいるんだよ!姉さんが倒したんじゃねえのかよ!!何で破面化してるんだよおおおお!!!」

 

ここはメゾンドチャンイチ、青空を貫かんとばかりに伸びたビルの群れが無数に存在する黒崎一護の心象世界。

 

そこには二人の人影以外に存在は無く、一方の壮年の男は横倒しのビルの壁面に佇み、もう一方の男は鎖に巻き取られて壮年の男の足元に転がされていた。

 

「オッサン!こうなったら『斬月』を抜くぜ!流石に今の一護じゃあ破面に勝てねぇ!!」

 

「駄目だ、一護が己の意思で斬魄刀の名を知らねば意味がない。無理矢理に渡したところで使いこなせないだろう」

 

「だったら俺が戦う、それで問題ないだろ!!」

 

「それでは一護の成長の機会を失ってしまう。虚よ少しは一護を信じろ、もう一体のお前が言っていたように一護はここで負ける様な男ではない」

 

「その姉さんが信用ならんから言ってるんだろうが!!!」

 

かつての己の半身であった真咲のホワイト、黒崎一心と黒崎真咲の因子にホワイトの虚の因子を混ぜた結果生まれたのが一護の中に潜む虚、一護のホワイトである。

 

ホワイトが持つ能力である『寄生』の力を用いて真咲のホワイトが一護に混ぜ込んだ因子とはオリジナルのホワイトの霊子の構成情報を分割したものである。

 

具体例で言えば将来現れるであろう十刃(エスパーダ)No.1(プリメーラ)であるコヨーテ・スタークとリリネット・ジンジャーバックと似ている。

 

というよりほぼそのものである。ホワイトが内包する無数の死神の魂魄やその霊力を分割して一護のホワイトを生み出した結果、真咲のホワイトの虚としての能力は最低限になってしまった。

 

故に真咲が破面化した際に起こり得た魂魄自殺の影響を最小限に抑える事に成功したが、その結果は戦闘力の乏しい破面の死神となってしまいグランドフィッシャーを倒しきる事が出来なくなってしまった。

 

その些細なバタフライエフェクトが墓地での一護とグランドフィッシャーの遭遇が起こらず、現在で破面化したグランドフィッシャーと当たってしまう事となった。

 

一方でオリジナルのホワイトの力はほぼ全て一護が受け継いでいる、しかしその力の使い方はホワイトとオッサンの間で意見が分かれていた。

 

 

 

―――しかし彼等の願いは一つ、黒崎一護の幸福である。

 

 

 

「俺は姉さんの複製みたいなもんだが、姉さんの知識は俺にはねぇ。姉さんはどうやらホワイトの頭と左腕を持って行ったみたいでな」

 

「お前に考えが足りないのはそのせいか」

 

「喧嘩売ってんのかテメェ!?」

 

「一護は死なん、真咲のホワイトも一護を殺すつもりはあるまい。ならばその思惑に乗るまでだ」

 

「その思惑っていうのが気に食わねぇ、まるで自分を神だと言わんばかりに全て知ってますなんて顔してる奴は特にな!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんじゃ、餌が集まりおるから気紛れによれば死神がおるではないか」

 

気怠く言葉を吐く様ですら今の一護達にとって脅威的な霊圧が放たれていた、グランドフィッシャーはおもむろに手を伸ばして強大な存在に祈りを捧げる虚を数体程鷲掴みにするとそれらを頬張り己の糧とした。

 

「儂は死神が嫌いじゃ、憎らしい、汚らわしい。傷など形も残らんだが死神がいるだけで虫唾が走るわ」

 

「そうかよ、お前の事なんざ知らねぇがここで暴れるって言うなら俺が相手になるぜ」

 

「お前が儂の相手だと…?抜かしよる!!矮小な存在の癖に死神はいつも思い上がる!!」

 

グランドフィッシャーは一頻り笑うと背に負ったビルほどの大きさを誇る斬魄刀を抜き放つ、互いに刃を持てば最早戦いが収まるという事は無くなった。

 

「死神、最後に聞いておくがお前も死神ならコイツを知らんか」

 

グランドフィッシャーは適当に虚を掴むと己の能力である脳写(トランスクライブ)の力で虚の造形をこねくり回して一つの面影を投影した。

 

身体は一枚布で隠されているが、しかしてその顔は黒崎一護にとって色褪せぬ己の最大の業。

 

「…母さん?」

 

「――――バハハハハハハ!!母か!貴様はコレを母と呼ぶのか!!!」

 

「テメェ!!何で母さんの事を知ってやがる!!」

 

「憎らしや…憎らしや…、儂に傷を負わせた女よ。死神、奴は今何処におる」

 

「……死んだよ、俺を庇って――――」

 

黒崎一護は一瞬の内に閉じていた己の記憶を垣間見る、己を庇って死んだ母、背中の大きな傷から血を流して倒れ伏していた母。

 

「お前か…?」

 

「オン?」

 

「お前が俺の母親を殺したのかって言ってんだ!!!」

 

それを聞いたグランドフィッシャー、二つに分かれた虚の仮面から覗かせる目元を歓喜に歪ませて嘲笑った。

 

「死んだか!あの女が死んだのか!!深く斬りつけてやったものなぁ、愉快愉快!!―――いや、それはそれで詰まらぬな。まあいい、儂はかつてあの女に言ってやったのよ。貴様は必ず殺す!身内も殺す!子孫も末まで呪い殺す!!とな」

 

いつの間にか祈りを捧げていた筈の虚が眼を一護たちに向けていた、虚たちは各々の持てる力で威嚇しこちらを害そうと見せつけている。

 

「あの女を殺せんのは業腹じゃが仕方ない、しかしお前と親族は皆殺しだ、お前は母のせいで苦しみながら死んでいくのよ」

 

「黒崎!今の僕達じゃアイツには勝てない!!一度体勢を立て直そう」

 

「コン、ルキアを連れて逃げろ。ルキア、こんな事を頼んで悪いが―――俺の家族を頼む」

 

「……まかせろ、お前の家族は私が守ってやる」

 

ルキアは己の力不足に苦渋を味わう面持ちでせめてもの気持ちで答えた、彼が家族を『誇り』に思っているから、それを止める事は誰よりも朽木ルキアには出来なかった。

 

「黒崎!!」

 

「石田、さっきお前言ってたよな。名前も顔を知らない人の為に復讐が出来るのかってな」

 

目の前の破面の図体に比べては頼りない己の斬魄刀をグランドフィッシャーの霊圧を跳ねのける様に振り払い戦闘態勢に入った。

 

「お前の気持ちが少しは分かったぜ。今日コイツを倒せなきゃ、俺は一生後悔する。母親の仇を討てずに生きるのは俺自身が俺を許さない」

 

「……僕でよければ手を貸そう」

 

「ありがとうよ、だけどコイツは俺がやる。俺がダメになったら、そん時は頼むぜ」

 

「話は終わったか?お前の最期の会話だぞ」

 

「最期じゃねぇよ、テメェを倒して俺は帰るんだよ」

 

「その減らず口が何処まで持つか、試してやろう!!!」

 

グランドフィッシャーの合図で数多の虚が一斉に一護に襲い掛かるが石田が放った霊子の矢が次々と虚を撃ち落とす。

 

討ち漏らした虚を一護が斬魄刀で切り裂いていくがキリがない、このままではグランドフィッシャーに辿り着く前に二人とも力尽きる。

 

貫く、斬る、貫く、斬り払う、津波の様に襲い掛かる虚の数には限りはなくキリがない。

 

「少しは持つようじゃな、褒美にこれをやろう」

 

「テメェの褒美なんていらねぇ――――!!?」

 

 

 

 

『止めて、一護。私を傷つけないで』

 

 

 

 

破面となったグランドフィッシャーからすれば今や児戯の様なモノでも甘さを持つ相手には未だ有効なソレ、黒崎真咲の擬態虚が一護に飛び掛かる。

 

復讐の最中にあっても甘えを曝け出し自ら手を止めた一護の姿に石田は驚愕した、この状況でそれは最大の悪手。

 

「―――――!!?」

 

「他愛もない、しょせん死神もこの程度になり下がったか」

 

「黒崎ーーーー!!!」

 

グランドフィッシャーが振るった斬魄刀は一護の斬魄刀ごと一護を真っ二つに胴を切り裂いた、致命傷どころかあれでは即死だ。

 

もはや目の前の虚の滅却は不可能だ。嵐が去るまで一旦退くしかない、なんとか逃走経路を開く為に虚に狙いを付けた時、眼前の景色が閃光で紅一色に染められる。

 

 

 

 

 

 

『啼け――紅姫』

 

 

 

 

 

 

瞬き程の間に全ての虚を霊圧の奔流で滅び去った一撃は自分も知らないものだ、先程の女死神ではあるまい。

 

「黒崎君!イヤ!黒崎君!!」

 

「一護!!」

 

「君達は…」

 

自分と同じ制服を着た二人が黒崎一護に駆け寄り飛びつきその体が血で塗れる事も気にせずに黒崎一護の名を呼びかけ続ける。

 

「あらら……ホワちゃんに言われて少し待ってたら――これ手遅れじゃないすか?」

 

『井上織姫がいるから平気だろ。織姫ちゃん、一護を治してやって』

 

「は、はい!!舜桜!あやめ!『双天帰盾、私は拒絶する』!!!」

 

死神とも滅却師とも違う力、二つに分かたれた一護の体が修復されていく。信じられない、彼女程の存在を見落としていたなんて。

 

『浦原、一匹たりとも虚を近づけんなよ』

 

「ハイハイ……それで、アイツはどうします?」

 

『適当に痛めつけとけ、言っておくが殺すなよ』

 

「了解でーす♪」

 

それからというもの、謎の乱入者達がバットを振るい、霊子兵装と思わしき武装を打ち放ち、巨漢の腕が唸りをあげれば雑魚の虚達を恐るべき速度で瞬殺されていく。

 

「邪魔をするな虫けらガァ!!!」

 

「それは貴方の方ですよ」

 

そして和装の出で立ちの男がステッキから仕込み刀を抜き放つと細身の刀一本で巨大な虚に向かって踏み込んでいく。

 

『派手にやられたなぁ、一護。身体は治ってもおねんねのままか?しょうがないから姉ちゃんが手を貸してやるよ』

 

霊圧を隠蔽する黒色のコートを纏った真咲のホワイトが一護の胸元に掌を当てる。

 

 

『所謂ショック療法だが―――ビビるなよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激痛を超えて全身に走る衝撃、自分の下半身が離れて見えて血が噴き出すのを見た。

 

ああ、負けちまった。母の仇も討てずに、あっさりと。

 

死んだら幽霊になるのか?いや死神のままで死ねばそれは一般的な観念の死と同じだろう。

 

 

―――何も成さずに生きるのは死と同じ、一方で何かを成して死ねば永遠に生きる。

 

 

俺は何も出来なかったなぁ…母ちゃんも死なせちまったし、遊子も夏梨も泣いちまう。

 

気に喰わない奴と喧嘩して、ちょっとした怪我をしただけで遊子は泣いちまう。夏梨は何ともないような顔で俺を叱るけど、しばらく気分が沈んでいるのを知っていた。親父は…どうだろうな。

 

『一心さんだって、一護を心配しているわ』

 

分かってるよ母ちゃん、あのクソ親父の暑苦しい態度だってお道化て俺を奮わせようってしているのは分かってる。

 

『それじゃあ、立たなきゃ。涙を拭って笑う一護が皆大好きなの。一護はもう誰かに護られる子供じゃないのよ、護りたいモノがある人は大人になるの』

 

母ちゃん、だけど俺じゃあアイツに勝てない。俺じゃあ誰も護ってやれないんだ。

 

『大丈夫、あの子が貴方を強くしてくれる』

 

あの子?

 

『色々な事を知っていて、強がっていて、どこか抜けていて、でも「この世界」が大好きなあの子の事よ』

 

知らないよ…母ちゃん、それは誰なの?

 

『名前を呼んで』

 

分からないよ…名前を教えてよ…。

 

『本当に知りてぇか?』

 

教えてくれよ…本当にそれで強くなれるなら、それでみんなを守れるならば。

 

『出来るさ、お前なら世界だって護れる』

 

俺は大切な皆を護れるなら、それだけでいい。

 

『それは駄目だ、お前には英雄になって貰う。世界を救う力、世界の理を解く者、真なる王としてお前は立つんだ』

 

……それは皆を護れる力か?

 

『その通りだ』

 

だったらなってやるよ、『王』でも『英雄』でもなってやる。

 

『契約成立だな、まずは俺を使いこなせて見せてみろ』

 

 

 

 

――――我が名は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一月天に在りて影は衆水に印す』

 

 

 

穿月(せんげつ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「見送っちまったじゃねえか!終電を!」
「社中泊だな」


誤字報告、とても感謝しております。
評価と感想お待ちしております。

(追記)ちゃんと一護は斬月だから安心してね!!

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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