メゾン・ド・チャンイチの裏事情   作:浅打

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母ちゃん…仇は取ったよ

 

 

 

「―――何だ、その斬魄刀は。そんな『()()()』一本で儂を殺せると思っておるのか」

 

『一護、お前が今手にしているのはかつて母が握っていた斬魄刀だ。それ故に何事も恐れる事は一つも無し』

 

穿月、母の斬魄刀だと語るソレには鍔も刃金も鞘もない。見た目は白一色の木刀で身幅は厚く反りはあるが切っ先は無く、正しくそれは棒切れであった。

 

「お前を倒すにはこれで十分だってよ、毛むくじゃら」

 

「お前もお前の母も…悪戯に儂を苛つかせて何がしたいのだ!!!」

 

「カルシウムが足りてねぇだけだろ、歳ばっかり取ると骨粗鬆症になるっていうしな」

 

「殺す!!!」

 

「殺せなかった奴が、今更大口叩いてんじゃねえよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一護!流石に今のお前じゃ正面からは無理だ!回避に徹しろ!!』

 

グランドフィッシャーの体毛の様な触手が津波の様に押し寄せる、いつもの一護であれば己の強大な霊力に任せて斬魄刀で斬り払う事を選ぶだろうが穿月の言葉に従い距離を開けた。

 

『一護、俺の使い方を教えてやる。俺は斬る刀じゃねぇ、言わば「魔法の杖」だ!お前の霊力を少しばかり喰らって特大の霊力の刃を放つ!!』

 

一護を捉え損なったグランドフィッシャーの触手は止まることなく追い続ける、一護は後ろに飛びながら穿月を脇構えの位置から正面に向けて切り上げ一撃を放つ!!

 

 

『叫べ―――!!』

 

「―――月牙天衝!!!」

 

 

 

虚空に弧線を描いて放たれる月牙天衝、しかし破面の触手によって押し留められて次第に勢いを失っていく。

 

『手を止めるな!一撃で決まる勝負に夢を見るな!!一発でダメなら百発ぶち込みやがれ!!』

 

「―――ぉおおおおおおおおお!!!!」

 

動きを止めた触手とは別方向からもグランドフィッシャーの触手は伸びて来る、一護は足を止めて空から襲い来る触手に向けて穿月を振り回して月牙天衝を連続で放つ。

 

余波で周囲に存在していた虚が消し飛んでいく中、死神として経験の浅い一護の月牙天衝が仮にも破面の攻撃に対応出来ている事に疑問を覚えたのは石田雨竜だった。

 

(何故戦える、黒崎一護は確かに戦力としては強かった。しかし一の強さの虚を百体倒すのと、百の強さの虚を一体倒すのでは話が違ってくる!)

 

雑魚の虚であれば一匹ずつ倒せばいい事、しかし目の前の存在は虚を遥かに超える威力の一撃を連続で繰り出せるのだ。

 

とは言えども黒崎の放つ霊圧の一撃は巨大虚の攻撃と拮抗している、むしろ黒崎の一撃を攻撃と防御を兼任する触手が決して少なくない数で受け止める必要がある以上量はあれども攻撃に割ける数に限りが近づいていた。

 

『チャンスだぜ!アイツの触手が止まった!!』

 

「月牙天衝!」

 

地面を踏み砕かんとする猛烈な踏み込みと上段から振り下ろされる穿月の月牙天衝は先程までと違い、緩やかな曲線を描いていた月牙の弧が極端に鋭くなり鏃の形をとって鋭く放たれた。

 

「小癪な真似を!!!」

 

「月牙天衝――!!」

 

「がぁあああああああ!!!?」

 

惜しくも巨大虚の持つ斬魄刀で鏃の穿月が弾かれたものの、いつの間にか背後に回り込んだ黒崎が放つ別の月牙天衝が上空から幾つもの枝分かれした雷の様にグランドフィッシャーに突き刺さる。

 

この場にいる一部の者以外知らぬ事だが破面は堅い。そも破面そのものが強大な霊力を纏っており、その上で鋼皮(イエロ)と呼ばれる表皮に霊力を練り込んだ防御手段も持つ。そしてグランドフィッシャーの触手は体表から生えており、これが全身を包んで鎧の様に本体を守っていた。

 

そのグランドフィッシャーから、夥しい程の血が流れた。黒崎一護の放った月牙天衝はグランドフィッシャーに対して確かに通用していた。

 

「何故だ!何故この儂がこの程度の一撃で傷つく!!先の……あの男の仕業か!!」

 

「もう一発!!」

 

「ぶはぁああああああああああ!!!!??」

 

再び放たれた月牙天衝がグランドフィッシャーの左腕を吹き飛ばした。恐ろしい一撃だ、そこそこの実力を持つ程度の者では対抗すら出来ないだろう。

 

―――何故黒崎一護はそんな一撃を何度も放てるのか。

 

同じく霊力を操る死神と滅却師は、しかしてその戦いは真逆だ。滅却師の一撃は外界に散る霊子をかき集めて己の霊力でコーティングして放つもの、一方で死神は体内の霊力を表に放出して戦う。

 

例えば僕があの一撃と同等の霊子を扱うとしても精製に時間がかかり、尚且つ数発放つだけで限度が来るだろう。そんな一撃を黒崎は何度放った、十発は余裕で超えている筈だ。

 

それなのに何故余力を残している、何故霊圧が限りなく高まり続けて居る―――――!!?

 

「よくも儂の腕をおおおおおおおおお!!!」

 

グランドフィッシャーが残った右腕で巨大な斬魄刀を黒崎に向けて振り下ろす、空に飛んでいた黒崎は避けきれずに斬魄刀で防御するも勢いは消せずに地面に叩きつけられるが先程と違いピンピンしていた。

 

「痛ってえええええ!!!」

 

『油断すんなバカ一護!来るぞ!!!』

 

「死ねぇ!!死神風情がぁあああああああああああああ!!!!!」

 

虚の仮面から凝縮された霊子の光線――虚閃(セロ)――が放たれ、すぐさま身体を跳ね起こした黒崎が斬魄刀で受け止める。

 

「グッ…オオオ……―――――!!」

 

「受け止めた、いや弾いている!?」

 

よく見れば黒崎の斬魄刀は月牙天衝を纏っており、それが虚閃を防ぐ障壁となっている。

 

『これで分かっただろ一護。死神は切った張っただけじゃねぇ、こういう戦いだって出来るんだ!!仕上げだぜ、一護!!!』

 

「――――ォオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『月牙天衝ォオオオオオオオオオ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今までに見たどの月牙天衝とも違う、虚閃を弾きながらグランドフィッシャーに迫る大砲の如き一撃がグランドフィッシャーの腹を大きく抉り取っていた。

 

虚閃を弾きながらグランドフィッシャーの急所に当てるのは流石に出来なかったようだが、しかし今更の危機感を覚えたグランドフィッシャーは回避を試みたが一歩遅かった。

 

「あああああああああ!!!ふざけるなぁ、ブざけルなぁああああああああああ!!!!!」

 

己を蝕む痛みに身を悶えさせながらグランドフィッシャーは残った右腕で黒腔を開いて逃走を図ろうとしている。

 

『なんか逃げてばっかだなアイツ!?一護!!』

 

「石田ァ!!!手ぇ貸せ!!」

 

「は!?」

 

黒崎が持つ斬魄刀には刃は無いが、突然振り下ろされては警戒するというもの。黒崎の斬魄刀が僕の肩に触れた時、いつでも援護に移れるように展開していた霊子兵装『弧雀』がかつてない程に巨大化したのを見た。

 

「母親の仇を取るとは言った、だけど悔しいが今の俺だとアイツに月牙天衝を確実に当てられる自信がねぇ」

 

「―――いいのか、お前の仇なんだろ」

 

「―――頼む、やってくれ」

 

僕は一瞬の沈黙にあった思いを汲んで黒崎の斬魄刀から溢れ出る程に流れる霊力を只管に霊子の矢に変換していく。

 

師匠―――貴方は死神を憎んでいなかった。むしろ手を取り合い協力を望んでいた。

 

師匠、貴方を見殺しにしたのは死神ではなく僕だ。貴方は僕を守る為に逃げる事無く多くの虚と戦い続けて死んだ、弱い僕の為に命を投げた。

 

僕がもっと強かったら、僕が足手纏いじゃなかったら。こんな事をした僕を叱ってくれますか。

 

師匠、黒崎の死神の力と僕の滅却師の力、二つを合わせて僕は復讐なんて馬鹿馬鹿しい呪縛から死神を助けます。

 

「黒崎、全力を出せ!!」

 

「いいぜ、全部持っていけ!!」

 

瀑布の如く己に流れ込む霊力に『弧雀』が悲鳴を上げている。頼む、【友】の頼みだ、最後のこの一射だけはなんとか撃たせてくれ。

 

引き手を離して霊子の矢を放つ、バリスタの様な巨大な一撃が巨大虚の頭部を目掛けて放たれ、遅れて空気を震わす程の轟音を響かせる。

 

 

 

 

「何故だ!何故儂がこの様な仕打ちを何度も受けねばならぬ!!!」

 

『それが分からないから、お前は死ぬんだ。年貢の納め時だぜ』

 

 

 

 

意外な程あっさりと巨大虚の頭が吹き飛び、その体を崩壊させながら黒腔の中へ消えていった。

 

そして師匠から授けられた霊子兵装、十字架を象った『弧雀』が遂に限界に達して砕け散る。それが赦しを請う対象が無くなってしまったようで、なんとも言えず悲しくなった。

 

「石田…」

 

「黒崎…僕を殴れ」

 

「―――助かったぜ、じゃあな」

 

只管に醜態を晒した僕を、自罰出来ない自分をどうか罰して欲しかった。だけど黒崎は僕に背を向けてこの場を去ろうとしている。

 

「待て黒崎!!僕は無関係な人間を傷つけた、お前にもだ!僕は許されない事をしたんだ!!」

 

「俺は死神代行だし神じゃねぇ、誰を裁ける程偉くもねぇよ」

 

「しかし!!」

 

「お前は確かに誰かを傷つけた、だったらそれ以上に誰かを助けろ。お前の力は、誰かを護る為に使うんだ」

 

再び黒崎一護に師匠の姿が重なって見えた。きっと師匠なら、そう言ってくれるだろうと素直に思えた。

 

―――滅却師の力を不用意にひけらかしてはならない、滅却師の力は護身の為に留める、滅却師の力を用いる時は大切なモノを護る為。

 

「……分かった、心に刻もう」

 

師匠、貴方の為に命を捨てられず、罪なき人々を傷つけた僕はこの命を贖罪に捧げるでしょう。

例え貴方に許されずとも、見放しにされたとしても僕は誰かを助ける為にこの命と力を使います。

 

僕を助けてくれた、貴方の様に――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たかったものは見れたか、真咲のホワイトよ」

 

「見て来たぜ、予感は当たってた。黒崎一護はやっぱりすげーよ」

 

死神と滅却師の子、死神と滅却師と虚と霊王の欠片を持つ者、しかしそれだけでは説明出来ない黒崎一護の力。

 

「一護の霊力は精々死神の隊長クラスなもんだろ、その力の余波だけで滅却師が強くなれるなら尸魂界や虚園なんて行ったら今の何倍強くなるんだよ。一護は()()()()()()()、数百年に一度産まれると言われる滅却師の王である()()()()()()()()()()()

 

一護の家族を筆頭に茶渡泰虎、井上織姫、有沢たつき等の霊感が異様に向上し、斬魄刀に触れた石田雨竜の力が増幅され、茶渡と井上に至っては完現術者として覚醒している。

 

「それに一護の霊力が異様にデカくなるのは霊王の欠片の影響か、候補としては―――」

 

「霊王の肺だろうな」

 

「あれ、気づいてた?」

 

「何年も一護の中に住んで居れば分かる。本来霊王には自分よりも強大な相手と対した際に肉体を強化する心臓、そしてそれに伴い霊力を強化する為の肺が備わっていた」

 

「まあ傷付かないと強くなれないから狙って強化出来るもんじゃないな」

 

五大貴族の末裔、純血の滅却師の末裔、数多の死神の魂魄の結晶である改造虚、そして強力な霊王の欠片。

 

「いやぁ、サラブレッドでも中々こんなロマン配合はお目にかかれないぜ。ん?なんかもう一人の俺が居ないな、いつも喧嘩売ってくるのに」

 

「出番が無かったから拗ねているのだ、今頃何処かで斬月を弄っているのだろうよ」

 

「ああ、そう……」






社畜が 定時帰りをするものじゃあ無いよ。




今回のホワちゃんは鈴虫や神剣・八鏡剣等に代表される自分の物ではない斬魄刀として力を貸しておりました。

斬月の出番と言えばやっぱり尸魂界編だよね!

今後の方針

  • コメディっぽい方が良い
  • 今まで通りでいい
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