ロボメイドたちの恩返し【短編集】   作:おさくら

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詳細な舞台設定を考えるのがめんどくさいのだ
ガハハハ


ロボメイドたちの恩返し

 

 

 人工知能の開発技術は発展の一途を辿り続けました。 

 ロボットによる人類への叛逆だとか、高度に発達しすぎたAIの人権問題だとか色々ありましたが、なんだかんだ発展しました。

 激動の時代を乗り越えて実現した、

 

 ①文字通り人形のように端正な外観

 ②家事洗濯だけでなく人間とのスムーズな意思の疎通、有事の際の防犯行動などををこなす高性能

 ③一般的な新車くらいにまで抑えられた価格・維持費

 

 を兼ね備えた家庭用アンドロイドの開発・一般家庭への普及が成され始めたのはつい数年前からのこと。厳格な法整備やセキュリティの下運用されるアンドロイドは大きな問題を起こすこともなく、着々と現代社会へ溶け込んでいました。 

 

 そんな時代の中で、街から少し離れた立地で家庭用アンドロイドを始めとした機械類の修理店を個人で営む、薄汚れた作業着が妙に似合う二十代後半くらいの男性──―通称『作業着さん』──―は、その日の仕事を終え、翌日以降の依頼の納期をチェックした後に仕事場に併設された自宅の寝室へと入り、また忙しくなりそうな明日に備えるため就寝しようとしていました。

 しかしそこで、

 

 ぴんぽーん。

 

 と、家のインターホンが鳴らされました。

 現在時刻は既に深夜の一時。当然、とっくに店の方も閉めてあります。だというのにこんな時間に来客だなんてなんと非常識な! と作業着さんは一言文句を言ってやるつもりで玄関のドアを開きました。

 

 

『『『先日助けていただいた家庭用アンドロイドです。今宵は恩返しをしに参りました』』』

 

 

 開けたドアの先で綺麗にユニゾンした五つの女声が響き、作業着さんはあんぐりと口を開けました。

 五人、あるいは五体というべきでしょうか。

 細部の意匠は微妙に違えど一様に小綺麗なメイド服を身に纏い、インターホンの周囲にわらわらと集まっている彼女たちに作業着さんは見覚えがありました。

 そう、五体とも他ならぬ作業着さんが、一ヶ月前までの間にそれぞれ軽度の故障の修理依頼を受注し、クライアントの元へと返却したハズの家庭用アンドロイドです。

 なぜ彼女たちがこんなところに、しかも五体もそろって訪ねてきているのかと作業着さんは表情ひとつ崩さないまま我が家の前にたむろするアンドロイドたちに問いただします。

 

 

『別々のご主人様に所有される我々がそろったのは偶然ではあるのですが』

 

『皆、わたくしたちを修理して下さったあなた様に恩返しをしたく参上したのです』

 

『ご主人様方が寝静まった隙を突きました』『秘密の行軍です』『そろりそろりです』

 

 

 死ぬほど迷惑でした。

 修理したアンドロイドたちが所有者の方々の意思とは関係なく家を抜け出したなど、クライアントにバレれば彼女たちを修理した作業着さんの責任が問われかねないハプニングです。

 そう考えた作業着さんは今すぐ各々の所有者の家に戻るよう彼女たちに伝えました。

 

 

『まあまあ遠慮なさらず』

 

『すぐに済みますので』

 

『体で恩返しいたします』『わたくしたち何も持ち合わせておりませんので』『ぬぎます』

 

 

 五体のアンドロイドが一斉に玄関前でメイド服をはだけ始めました。恩を感じているとのたまう割に、作業着さんの言葉を聞き入れる様子が一切見られませんでした。

 彼女たちはアンドロイドゆえ服をはだけたところで修正が必要な箇所はなく、ただただなだらかかつきめ細やかな人工皮膚の色調が広がるのみでしたが、遠目から見ればメイド服姿の美少女五にんが作業着さん宅の玄関前でいそいそと裸になろうとしているトンデモ事案。

 時間が時間な上、そもそも人通りが少ない地域なので可能性は低いにせよ、誰かに通報されでもしたらそれこそ一大事だと、作業着さんは必死に五体を止めました。

 

 

『しかし、えっちなこと以外にわたくしたちに何が出来ましょうか』

 

 

 悩まし気な顔をして身だしなみを整えた五体のアンドロイドが首を傾げます。

 家庭用アンドロイドと銘打たれているくせに、なぜ彼女たちの本領である家事の手伝いをするという考えが浮かばないのか。作業着さんは修理の際に彼女たちのCPUの故障を見逃してしまっていたのかもしれないと不安になりました。

 家事手伝いにしても特に今必要なことではなく、さっさと帰って欲しいというのが作業着さんの本音なのですが。

 

 

『あっ、名案が浮かびましたわ。わたくし、明日のあなた様の朝食を作ります』

 

『ではわたくしは生活空間の清掃を』

 

『わたくしは今宵の安眠の手助けに添い寝を』『目覚まし時計の代わりを』『こけこっこー』

 

 

 しばらくしてから彼女たちもその発想にたどり着いたようで、それぞれが恩返しの内容を発案し出しました。……まだ若干名CPUのバグが修正されていないようですが、この際それは無視します。

 そもそもの問題に作業着さんは気付いたからです。

 実は、作業着さんの生活空間は仕事場にスペースを圧迫されているため大変手狭です。こんなところに五体も一斉に押し入り家事を始めたらうるさくて寝られたものではなく、当然それは作業着さんの本意ではありません。

 よって、恩返しするにしても今日はせいぜい一人が残ってあとは帰って後日来て欲しい。これは物理的な問題であるので承諾できないのであれば全員帰れ! と作業着さんは少々語気を強めて言いました。

 それを聞いたアンドロイドたちは眉根を寄せました。まったくとことん人間らしい感情表現をするものだと感心します。

 

 

『わたくしのご主人様は明日から海外出張でして、わたくしも同行することになっております。今宵の機会を逃せば恩返しができません』

 

『わたくしのご主人様も明日引っ越しをなさるので今宵しか……』

 

『わたくしのご主人様もです』『同様ですわ』『きょうがらすとちゃんす』

 

『『『…………』』』

 

 

 アンドロイド五体、突然の沈黙。

 なんだか雲行きが怪しくなってきました。

 作業着さんが自宅の玄関周辺に突如渦巻き始めた謎の威圧感に腰を抜かしそうになっていると、アンドロイドたちはどこからかフライパンやモップなどの家事道具を取り出し、身体の前面に構えました。

 うち一体が呟きます。

 

 

『どうやらわたくしたち全員がこの方の恩に報いることは不可能なようですね』

 

『そのようですわね』

 

『残念ですわ』『無念ですわ』『しゃーない』

 

 

 …………。

 

 

『では今宵生き残った一体のみがこの方に恩返しをするということでよろしいですね?』

 

『望むところでございます』

 

 

 こっちはまったく望んでいないからやめろ! 

 そんな作業着さんの制止はもはや声にならず、ゆえに届かず。

 五体のアンドロイドは一斉にその場で跳躍し、香港スターも真っ青なド派手な3Dアクションをおっぱじめやがりました。

 作業着さんの動体視力では彼女たちの動きを追うことは叶わず、断片的にその戦闘の様子が視界に入ってきます。いわゆるヤムチャ視点というものを作業着さんが初めて体験した瞬間でした。できることなら生涯体験したくなかったものです。

 

 がつん。

 

 モップとバケツがぶつかり合い、鈍い音を立てました。 

 

 ずばん。

 

 裁ちばさみが翻り、メイド服のスカートが引き裂かれました。

 

 ばこん。

 

 フライパンに側頭部を殴打され、錐揉み回転しながら吹き飛んだアンドロイドが作業着さんの自宅に突っ込み、家の壁が破壊されました。

 

 まさに地獄絵図。目も当てられぬ大惨事。

 その後も戦いは続き、およそ15分が経過した頃。死闘の影響で辺りに巻き上がっていた砂埃が晴れたとき、作業着さんの目の前にあったのは無数のクレーターや瓦礫の破片、そして傷だらけ泥だらけになり機能停止した『五体』のアンドロイドでした。

 

 まさかの全滅。

 作業着さんの観測史上もっともくだらない理由で勃発したバトルロワイヤルは勝利者ゼロという虚しい結果にて終結してしまいました。

 そして必然的にこの壊れた五体のアンドロイドを各所有者の家に、今夜中に全員修理してバレないうちに送り返すという大きな仕事が作業着さんに発生することとなりました。しかも恐らくノーギャラで。なめんな。

 作業着さんが途方に暮れて跪き、両手を地面についていると。

 

 

『先日助けていただいた家庭用アンドロイドです。恩返しに……おや? 出遅れてしまいましたか』

 

 

 そんな声が頭上から聞こえてきました。

 

 

 

 ◆     ◆     ◆

 

 

 

 最後の刺客と言わんばかりに現れた藍色の髪のアンドロイドは、恩返しとして作業着さんの修理作業の手伝いを申し出てくれました。

 彼女は所有者の方にも了解をとって作業着さんの元へ赴いたらしいのですが、肝心の作業着さんは何も聞いていません。

 せめてアポの一つでも取れよと思いましたが、今この瞬間においては、まさに渡りに船といったところでした。

 

 疲労等でパフォーマンスが落ちず、なおかつ機械特有の正確さを発揮しミスを一切しないアンドロイドの働きに助けられながら、作業着さんは人外じみた手際で五体のアンドロイドの修理を終え、自分たちの足で各所有者の家へと帰らせました。

 ちなみに彼女たちに蓄積された今宵の出来事の記憶(メモリー)は消去済。当然の処置ですね。

 

 去っていくアンドロイドたちを見送った後、一日続いた激務に憔悴しきってデスクの上に突っ伏す作業着さんの傍に控えていた藍色の髪のアンドロイドは、折り目正しくお辞儀をして言いました。

 

 

『今宵は恩返しができたようで何よりです。わたくしを修理してくださった御恩、一生忘れませんわ』

 

 

 こちらとしてはただの仕事で行ったことでありますし、それにいちいち恩返しに来られるのもどうかと思うのですが、控えめな姿勢が好ましかったのと、仕事を手助けしてもらったことで彼女に情の移った作業着さんは彼女に謝辞を述べ、所有者の家へと戻っていく彼女の後姿を見送りながら思いました。

 

 ……ウチも藍色の髪のアンドロイドを買おうかなあ、と。

 

 





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