幼馴染に裏切られたので、小悪魔な後輩の『誘惑』にあえて負けてみる。   作:

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1話 俺の天敵

 

 ――東京都立国嶺高等学校。

 

 俺の通うこの公立高校は、『自由な校風』なんて今の世間様の風潮とは真逆を行く、昔ながらの堅苦しい校則社会である。

 

 髪の色は、勿論黒色でなければならないし、パーマなんて掛けたらNG。例え地毛だと主張しても徹底的に改善するよう指導される。

 服装も、色からサイズから事細かに指定されている。スカート丈を弄ることは勿論、膝上を見せるなんて言語道断。即刻生徒指導だ。

 化粧やマニキュアも勿論NG。学生として、真面目で勤勉なありのままの自分であることが求められる。

 

 このように細かく厳しく定められた戒律を厳格に守らせる為、この学校には今だに『風紀委員会』なんてものが存在している。

 

 この現代社会。全国では形だけの活動をする『風紀委員会』も多い中、この学校では珍しいことに、活発に機能していた。

 

 ※ ※ ※

 

 月に一度の風紀週間。

 教師に代わり、俺たち風紀委員は早朝から、炎天下の中、汗を垂れ流しながら、挨拶運動や服装指導に励んでいる。

 

「スカート丈の違反で減点1ね。じゃ、生徒手帳見せてくれる?」

 

「はーい……」

 

 諦めを含んで、間延びした声。

 先程呼び止めた女子生徒が、学生鞄を探り、俺に生徒手帳を手渡した。

 学年と出席番号、氏名に目を通し、バインダーに挟まれた風紀チェック表に記入していく。

 

「……ねぇ。も、行っていい?」

 

「あ、ああ……。じゃ、生徒手帳返すから。減点5で生徒指導室行きだから、明日は直してくるように」

 

「はいはーい……」 

 

 受け取った生徒手帳を乱雑に鞄に放り込むと、校舎の玄関へと向かっていく女生徒。

 あの反応は直さないだろうな……。まあ俺の前で無ければどうだっていいんだけど。

 

 やっぱり女子は苦手だ。平気な顔して、裏では何を考えてるか分からない。出来ればあまり会話したくない。

 

 それにしても……暑い。

 記入し終えたバインダーを日傘代わりに頭の上に掲げながら、再び校門をくぐる生徒の流れに目を通す。

 

 すると、早速そこでまた1人。明らかにスカート丈の短い女生徒を発見してしまった。

 ソックスは明らかに規定のものでは無いし、服装も所々気崩し、ボタンを外してラフな格好にしている。スカート丈は勿論、膝上。風紀委員を前に余りに挑戦的な服装だ。

 

 溜息をつきたくなる。

 期間は事前に告知してるし、減点を重ねれば罰則だってある。せめて風紀週間の時くらい、校門前だけでも露骨な服装は慎んで欲しいものだ。

 

 まあ、あの様子だと常習犯に違いない。風紀委員として見過ごすわけには行かなかった。

 

 面倒だなと思いつつ、いつ声を掛けようか見計らっていると、しかし彼女とは別の風紀委員の方が距離が近いことに気づいた。

 

 内心よっしゃと歓喜する。あの露骨な服装なら風紀委員が見逃すはずもない。実際、彼女の違反に気づいたのか、その風紀委員はあちゃーと面倒くさそうに頭の後ろを掻いていた。

 

 よしよし。これで俺の仕事が一件浮いたぞ。

 なんて事を思いながら、ホッと一安心して。風紀委員から女子生徒に視線を戻すと、何を思ったか、クルリと方向転換した彼女。パタパタと俺に向かって一直線に歩いてくる。

 

 なんで!?と驚愕しながら、すぐにそれがよく見知った顔であることに気づいた。思わず深い溜息をつく。

 

「あのなぁ……。ホントお前な……」

 

「おはようございますセンパイ! どうしたんですかそんな辛気臭い顔して? ただでさえ地味なお顔が今日は一段と地味になってますよ? 」

 

 校則ギリギリに茶色く染めたツインテールを揺らし、ニコニコと満面の笑みで毒を吐く後輩。俺の一個下で、高校一年生の――星乃木葉。

 

 いつもは上手いこと風紀委員の監視の目から逃れる癖に、俺が当番の時に限って、声がけする前から嬉しそうに近づいてくる。

 それ以外にも、偶然会うと、ちょくちょく声を掛けてくるし、何なら帰りに校門で待ち伏せされていることもたまにある。

 何がしたいのかサッパリ読めない、俺が苦手な要注意人物だ。

 

 もはや生徒手帳を預かる必要も無かった。

 俺は手慣れた手つきでリストにサラサラと名前を記入していく。

 

「もう何回も言ってるし、分かってると思うが、一応言うぞ? まず、スカート丈は膝下まで下ろす。ソックスはその……ダボダボのやつじゃなくてちゃんと学校指定のものを使うこと」

 

「ダボダボじゃなくて、これルーズソックスって言うんですよ、センパイ。ほらここ見て、このシール可愛くないです?」

 

そう言って、タダでさえ短いスカートをギリギリまで捲り上げ、見せつけてくる。

 

「……っ。俺には分からないし、それ校則違反だから」

 

「……ちぇー」

 

「それと、ワイシャツの裾は捲らないこと。長袖が嫌なら半袖を着て来て。あと胸元のボタンはちゃんと第二までキッチリ閉めて」

 

「ええっ! そんな殺生な! そんなの絶対暑いですよぉ!」

 

「気持ちは分かるけど、校則だから駄目。俺だってこんな炎天下の中、我慢して閉めてるんだからさ……」

 

「センパイ……。もしかして、女性経験ないから男と女じゃ体の仕組みが違うって分からないんじゃないです? ほら、私とか、結構胸元とか蒸れちゃって大変なんですよぉ……」

 

そう言って、俺に向かってワイシャツの襟を広げ――。

 

「だから別に見せなくていいから! それにそういう苦情は俺に言われてもな……。学校側が決めてる事だし」

 

「なら、今から一緒に校長先生に訴えに行きましょうよセンパイ! この悪しき伝統に私たちが終止符を打つべきなんです!」

 

「えぇ……? いや、普通に授業あるからさ……」

 

「なら、放課後にしましょうか? 今日も帰り校門で待ってますね。えっと、そしたら――」

 

「待て待て待て待て!」

 

 キョトンと首を傾げる後輩。

 

「はい? なんです?」

 

「もういいよ。分かった。ボタンについては、教師や風紀委員に見つからなければ外しといて構わないから。減点も無しにしておく」

 

「……わぁ。臨機応変な対応ができるセンパイ、とってもカッコイイです! 私尊敬しちゃいます!」

 

「……そ、そうかよ」

 

 あからさまな持ち上げ。

 やっぱり、女子の考えてることはさっぱり理解できない。苦手だ……。

 

「じゃ、放課後は一緒に喫茶店でも回りませんか? 帰り校門で待ってますね。実は私気になってるお店があって――」

 

「待て待て待て待て!」

 

 キョトンと首を傾げる後輩。

 

「はい? なんです?」

 

「事ある事に校門で待とうとするな。それに大体、なんで俺とお前が喫茶店巡りするんだよ。 普通に友達と行ってくれ」

 

「あのですね。その喫茶店、カップル限定セットなんて特別メニューがあるんですよ。特別とか限定とかって聞くと、やっぱり食べたくなっちゃうじゃないですか」

 

「まあ……気持ちは分からなくもないけど。それで、なんで俺……?」

 

「え? だってセンパイ、放課後部活にも入ってないし、どうせ暇ですよね? ……それとも、彼女さんとデートの予定とか、あったりするんですか?」

 

「いやまあ、無いけど……」

 

 というか、俺の彼女って。コイツ知ってたのか。少し驚く。

昔の話なのに、誰から聞いたんだ……?

 

「なら、いいじゃないですか!ほら、 暇潰しだと思って行きましょうよ!」

 

「ううーん……」

 

「駄目、ですか……?」

 

 上目遣い。胸元がちらりと見える。狙ったような角度。

 俺は目を背ける。

 

 女子。しかも、風紀違反の常習犯と喫茶店なんて面倒な予感しかしない。出来れば遠慮したいところ……。

 

「あっ……」

 

 その時、星乃が俺の後ろに視線を向ける。

 そこにはいつの間に立っていたのか、俺たちを見つめるアリアの姿があった。なぜかその表情は呆然としているように思える。

 

 ……まさか俺たちを見て、じゃないよな?

 

「……っ!」

 

 何を話すでもなく、プイッと視線を逸らして校舎へと歩くアリア。

 

「あの……私、やっぱりマズイお願いしちゃいましたか? 彼女さんを差し置いて」

 

「いや……」

 

 俺たちは関係性自体は『恋人』といえ、何年も前から、会話すらまともにしない、半ば絶交状態に近い形だ。

 それにどうせ、俺たちの関係性なんてアリアが覚えてるはずがない。

 なぜあんな表情をしていたのかは気になるところだが、まあ別に俺には関係ないだろう。

 

「……じゃ、放課後。行くんだろ、喫茶店」

 

「は、はい!」

 

 と、そこでチャイムが鳴る。風紀委員の職務もこれで完了だ。

 

「あ、そうだ。星乃」

 

「はい、なんですかセンパイ?」

 

去ろうとしていた星乃を引き留める。

 

「今日で2点減点。これで5点溜まったから、後で生徒指導室行けよ?」

 

「ええーー!?」

 

 星乃の心底嫌そうな声が響き渡った。

 

 ……まあ、自業自得だ。

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