幼馴染に裏切られたので、小悪魔な後輩の『誘惑』にあえて負けてみる。   作:

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2話 告白

 

 あれから風紀チェックリストを教師に提出し、教室に戻ってきた俺は、少し憂鬱な面持ちで窓の外を眺めていた。

 

(降ってきたか……)

 

 先程まで透き通るような蒼一色の『The夏』といった晴晴した天候だったのに、いつの間にやら、灰色の雲に覆われ、ポツポツと雨粒が降り出していた。ゲリラなんたらというやつなのだろうか。

 

(不味いな……傘持ってきてないんだよな)

 

 学校から徒歩圏内とはいえ、濡れながら帰るのは勘弁願いたい。

 そんなことを考えていると、ふと隣から視線を感じた。

 

「?」

 

 振り向くと、バッと視線を背けるアリア。

 珍しい。普段は意図的に俺に目を向けないようにしているはずなのに。

 さては……アリアも傘を忘れたのだろうか。まあ意外と鈍臭い性格してるからな。大雑把というか。何と言うか。

 

 と、いけない。そんなことより、次の授業は確か小テストがあったはずだ。慌てて、教科書を机の中から取り出す。

 

(アリアなら友達も多いし、簡単に借りれるだろ。問題は俺だな。雨、止んでくれないかね……)

 されど祈りは通らず。

 結局、雨は止むことの無いまま、放課後を告げるチャイムの音が鳴り響いた。

 

 ※ ※ ※

 

 チャイムの音と同時に、俺は鞄を持って席を立った。

 今日は星乃との約束がある。それに傘の確保も必要だ。

 取り敢えず、鞄を傘替わりに使って校門前の停留所の屋根下まで行くかと算段をつけながら、教室の出口に向かおうとして――。

 

「あ、すまん青柳。ちょっといいか? 一つ頼みがあるんだが……」

 

 担任の教師に、声を掛けられた。

 しかし、いつもの俺は確かに暇だが、今日は用事がある。

 

「すみません、先生。今日は俺、実は用事がありまして……」

 

「あー、そうなのか? 青柳にしちゃ珍しいな。だが大丈夫だ、別に時間のかかる仕事じゃなくてな――」

 

 やけに押しが強い。結局断りきれずに説明を聞かされてしまっていた。

 少し遅れると星乃に連絡しようとして、そういえば連絡先を知らないことに気づく。まあ、時間の掛かるものでは無いし、終わったらすぐ行けば問題ないだろう。

 

 上履き入れのある玄関口から校舎の外に出ると、屋根の下に潜り込みながら、校舎裏へと向かう。

 日陰ゆえにシダ植物やらコケ植物やらが生えてジメジメとしている、普段は一般生徒が立ち入ることのない場所。

 お目当てのスコップはすぐに発見した。教室にいる担当教師に渡して、さっさと帰ろうと思っていたところ、その少し奥で話し声が聞こえた。

 

「すみません、九条さん。こんな雨の日に呼び出してしまって……」

 

「ううん。気にしないで……。私も雨降ると思わなかったから」

 

 どうやら告白の真っ最中らしい。相手は制服から他校の生徒だと分かる。わざわざこの学校まで来て告白しに来たのか。今までアリアとろくに会話したことすらないだろうに、根性のあるやつだな、と思う。

 

 俺は視線を外して背を向けると、物陰に身を隠した。

 邪魔することもない。終わり次第、さくっと取って教室に戻るとしよう。

 

「あの、俺。一目見た時から九条さんのことが――」

 

 それにしても、人の告白を見るのなんて初めてかもしれない。

 それも相手が、自分の知り合いなのだ。どうせフラれる結末が見えているのだとしても、若干の興味が湧いた。

 

 物陰からそーっと身を乗り出し、様子を見る。

 告白は丁度クライマックスを迎えていた。

 

「――俺と、付き合ってください!」

 

 目をつぶって、アリアに向かって頭を下げ、手を差し出す男子生徒。

 それをアリアは少し視線を伏せて、見つめていた。

 

(どうせなら、もうちょっと近くで……)

 

 歩みを進めて、パキッと小枝を踏み抜く音が響いた。

 

(あ……やべっ) 

 

 気づいたときにはもう遅い。男子生徒には聞こえていなかったようだが、アリアはバッチリ俺の姿を捉えていた。

 

「一真……?」

 

 随分と久しぶりに名前を呼ばれた気がする。

 だがまあ、それは今どうでもいい。

 

(悪い……邪魔したな)

 

 ジェスチャーで何となく伝えて、その場から去ろうとする。

 その時、アリアがおもむろに差し出された男子生徒の手を掴んだ。

 

(……はっ?)

 

「うん。こちらこそよろしく。えっと……名前は?」

 

「へっ、えっあの。高藤連です」 

 

「あっ高藤くん、だよね。うん、これからよろしくね」 

 

「あっハイ! あの、本当に自分でいいんすか! 嬉しいです! ありがとうございます!」

 

「あっ、うん……」

 

 チラッと視線が俺に向いた。動揺したような、何かを俺に問いかけるような、なんとも言えない表情。

 

 俺は女子が苦手だ。何を考えているのかわからない。これまでも、その筆頭がアリアだった。今何を考えているのか、長い付き合いのはずだが、やはり全く分からない。

 

 ただ、一つ言えることがあった。

 今この瞬間に、俺とアリアとの曖昧な恋人関係は終わりを遂げたということだ。

 

(おめでとう)

 

 口パクでそう伝えると、アリアが目を見開く。

 俺はすぐにその場をあとにした。

 

 雨粒が少し熱を帯びた体を冷やす。サーっと波が引くように、己の感情が驚愕から自身への呆れに変わった。

 

 俺たちの関係など元から無かったようなものだ。アイツが誰と付き合おうとアイツの勝手だ。遅かれ早かれ、こうなるだろうなとは思っていた。

 

 ただ、いざ偶然にリアルタイムでそれを目撃して、ちょっぴり驚いてしまっただけだ。何れにせよ、これは良い“タイミング”だろう。

 

 スマホの画面を開いて、LINEを開く。

 そして何年ぶりかに、アリアとのトーク画面を開いた。そして文章を打ち込む。

 もう3年ぶりくらいのLINE。その前のメッセもクラスの事務連絡みたいな奴だ。我ながら長い割に希薄な恋人関係だったなと自嘲しながらスマホをポケットにしまう。

 

 これでいい。最初からこれで良かったのだ。どの道俺たちの関係に先などない。もっと早くこうするべきだった。それが名ばかりとはいえ、『彼氏』の責任だったはずだ。

 

 途中で教師からの頼みごとを忘れたことに気づいたが、今更戻る気にはなれない。まあ忘れたと言えばいい。これも優等生キャラを剥がす良い機会だ。

 

 ふと思う。俺と彼女の10年間は一体なんだったのだろう。

 

 長いこと背負っていた重荷を一つ降ろせたにも関わらず、どうしてか、もやもやと鬱屈した気分のまま、俺は傘も差すのも忘れて校門へ向かった。

 

 

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