【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫   作:流されそうめん

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地獄の覚醒

 余は緩やかな覚醒(めざ)めを始めた。

 上が騒がしいが、今は羽化をしたばかりで表皮も柔らかい。

 

 面倒ごとには巻き込まれたくない。

 だが、放っておけば更に面倒な事になるのは、地上付近から感じる魔力反応から見て取れる。

 

 地下を動いては、危険生物通常種の匂いがする場所に穴を開け続けた。

 数ヶ所程開けた後、体表が充分に締まって来たのを感じたので、最も激しく魔力反応がある場所へと戻った。

 

 地上へと顔を出すと、久し振りの太陽由来の光を浴びた。

 偶に刺激として浴びるのはともかく、あまり好ましくはない。

 

「邪神蟲が出たぞ!!」

「エルフ達と挟み撃ちだと!!」

「隊長!! どっちを優先すればいいんですか!?」

「どっちもだ!! 良いから怯むな!! 戦え!!」

 

 だが、それ以上に不快なものが、目の前の危険生物通常種達だった。

 声からして騒がしい。

 身体を大きく背伸びさせて、背中にある翅を全て広げた。

 

 

「あの悍ましい翅何なんだ!? あんなものがあるなんて聞いてないぞ!?」

「蝶の翅みたいだが、一体幾つあるんだ!? それにあの腹の幾つもの眼!!」

「節毎に、バカでけえ翅と、バカでけえ眼を備えていやがる…」

「そんなことどうでも良いから矢を放て!! 腹にある眼を狙え!! 多分弱点だろっっ!!」

 

 何か尖ったものが飛んできたので、新しく出来た腹部にある幾つかの眼は閉じておく。

 尖ったものが何の材質で出来ているか分からないからだ。

 

 

 身体を大きく捻った。

 色んなものを弾き飛ばした。

 通常種と戦っているらしき亜種達に、被害が出たかどうかは知らないしどうでも良い。

 

 取り敢えずは頭上の眼を開き、不快な眩き太陽に向かって、全ての翅を羽ばたかせる。

 

 

「総員、息を止めろ!! アレはヤバいぞ!!」

「いったいどれくらい息を止めれば良いんです!!」

 

 羽ばたく副次効果として、鱗粉が落ちて危険生物達を潰し、鱗粉が砕けては広がっている。

 鱗粉そのもので危険生物は潰れているし、砕けた粉を吸い込んでも苦しんではいる。

 だが違う。

 余がしたいのは、それじゃない。

 別に地上でパタパタと羽ばたきたい訳ではないのだ。

 流石に二百以上の新たな翅を上手く使うのは難しい。

 

 なれない動きであったが、何度も羽ばたいていると、コツが掴めてきた。

 全部で百対の翅を効率良く動かしていると、身体が浮いて来た。

 

 そうか、これが空を飛ぶ感覚か。

 余は楽しいぞ。

 母が生きていたら、無駄に無理な危険はするなと、絡め取られて止められたであろう。

 しかし、これは楽しい。

 実に楽しいぞ。

 …少し恐くはあるがな。

 

 

 

 どれだけ飛べるかは分からないが、危険生物達の集まりが点に見える程には高く飛んでみた。

 

 初めて見る世界だった。

 腹部に出来た全ての眼を開いて世界を認識する。

 

 飛び地となったヴォルクリスタには、よくわからない植物が生えていた。

 そして、危険生物の通常種の列の先には、幾つかの巣があった。

 

 取り敢えずは一番手前の巣へ向けて、魔力を放出した。

 

 

 通常種の巣は、気持ちが良い程一瞬でヴォルクリスタの環境へと変わった。

 その向こうに見える巣へも魔力を放出した後に、そこから先程通常種が集まっていた場所まで、左右に動かしながら広範囲に魔力を流し込んでいく。

 

 素晴らしい。

 随分と広くヴォルクリスタを増やせている。

 

 とはいえ、地下深くまでは浸透していないだろう。

 やはり地下から染め上げる根本的な作業は必要だと考える。

 

 危険生物は地表に住む生物であるからして、それを滅ぼすには効果的だが、やはり余は地下深くに住むからして、深奥から染め上げなくては快適には過ごせぬ故に。

 

 舞い降りては亜種が屯う近くに着地した。

 先程の余韻か、魔力が漏れ気味ではあるが、余としては大きく問題にはしていない。

 一度攻撃的な通常種の集団を追い払うのが先だと考えた余は、牙に発熱する体液を使って熱量を貯めた。

 

 二つある頭それぞれの牙を使って地面を荒らす様に掘り、地下水まで到達すると、それを一気に啜った。

 呑み込んだ水と体液を織り交ぜて魔力を充填して、危険生物通常種の集団に向けて放つと、予想した以上に勢いが出た。

 

 先程金属質の光沢ある虹色へと変化した、元通常種の巣があった所まで、水は届いた。

 寧ろ、水が直撃して割れたその巣が無ければ、もっと遠くまで飛んだ事だろう。

 

 余は少し楽しくなって、地下水を啜っては通常種相手に振り撒いた。

 簡単に石になって止まる通常種を、薙ぎ払うのは気持ちが良いものだ。

 

 少しカラフルな()を来た通常種が居た。

 明らかに他の通常種よりも動きが良かったので、緑色のそれを腹の眼に魔力を乗せて、強く強く睨み続けると、殻を残して砂金となって中身は溶け落ちた。

 

 殻は小さい輪の様な何かとなったが、他のカラフルな殻の通常種に回収されていた。

 そこまで興味があるものでは無かったので、どうでも良い。

 余の身体の大きさからして、その様な魔力素材があったとしても小さ過ぎる上に、余の肉体と比べてあまりにも脆弱な効果しか生まないものは要らない。

 

 

 余は逃げ出す通常種の群れを取り囲むと、体表の熱量を高めながらその輪を小さく窄めていった。

 当然ではあるが、通常種の群れは全て消し炭となっていた。

 確認するまでも無かったが。

 

 他にも逃げ出す集団が見えたので、五つ全ての尾の先に魔力で大量の土砂を付着させ、それを変質させると、大きく振り上げてそれぞれの集団へと叩き付けた。

 

 

 余は通常種の残りが散り散りに逃げるのを確認すると、そちらに向けて首を振りながら息を吐いた後に、いつの間にか植物が生えている巣に戻り、珍しくも地下深くではなくそのまま地表で眠る事にした。

 羽化する前程眠たくは無いが、脱皮直後はやはり眠たくなりやすいのだ。

 

 

 周囲には、危険生物の亜種共がいるが、…まあ、良かろう。

 特に余に害を為すとも…思…え……ん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‡ハイエルフの女王 ハイジレア

 

 ヒューマン共が攻めて来ました。

 騒ぎながら槍等を投げて来ています。

 下賤の民が正義や正当性を騙るなど…っ!!

 

 私達は、アイルマインスールという世界樹に、植物育成魔法を掛けました。

 樹木は過剰な魔力に適応して、それを受け容れる形へと成長していきます。

 元々アイルマインスールが周囲の魔力の影響を受けやすい特性は、植物に詳しいエルフ族なら多くが熟知しています。

 

 さて、世界樹は人間とは違い、成長と共に魔力量が増加していきます。

 その特性を鑑みて、目覚めが近いのか、デスプリンドラ様の体表の殻の一部が割れて、水底に沈んでいたものを私は見付けました。

 

 ヴォルクリスタに馴染んだこの身体なら、水中呼吸魔法のみで、水底まで行くことが出来ましたが、現状でそこまでヴォルクリスタに馴染んだエルフ族は私一人です。

 長くデスプリンドラ様が寝付いた事で、その瘴気が染み入った水底における、瘴気の濃度は水面の比ではありませんから。

 

 王子様の身体に直接触れて、魔力火傷で済むのは私ぐらいのもの。

 ふふふ、これは運命ですね。

 

 

 

 

 

 名残惜しくはありますが、私は充分に育ったアイルマインスールに、その破片を挿し込みました。

 最初は何の変化もありませんでしたが、数分後くらい経った後でしょうか、突然それは震え始めました。

 

 周囲の瘴気を掻き集める様に吸い上げた樹木は白く輝き、金属質特有の輝きを増して、まるで豪華絢爛なコテージの様になりました。

 それは魔力を与え続けると、縦に、横に増え、アパートメントの様に繋がったまま、その部屋を増やしていきます。

 

 しかし、戦争の最前線で無防備な居住区を作るのでは効果はありません。

 真価の発揮はここからです。

 ヒューマン達は火矢を放って来ました。

 

 金属含有量の高い樹木故に、燃えにくいのが利点です。

 ですがそれも真価とは言えません。

 世界樹アイルマインスールは、火を嫌い、水分を地中深くから吸い上げて常に豊富な保水をしています。

 

 ヴォルクリスタの環境となった場所には、豊富な温泉が湧きやすいことに加え、このアクアヴィータは元より豊富過ぎる湧き水で水路を作れる程の都市でした。

 

 そして、今ではこの湧き水は全てヴォルクリスタ特有の瘴気に侵された水。

 このアパートメントにも、それらが循環しています。

 私には少々物足りませんが、直接熱水に触れず、ヴォルクリスタの水を蓄えた木材の中に住まう環境は、他のハイエルフの魔力を引き出すには最高の環境です。

 

 先程アイルマインスールに魔力を注ぎ込んだばかりだというのに、もう魔力が回復しているのは周囲の表情から見て取れます。

 

 ですが、それも副次目的に過ぎません。

 嘗てエルフの上流階級は、アイルマインスールに住んでおりました。

 そして、アイルマインスールに限らず、世界樹が世界樹と呼ばれる所以は、その大きさのみならず、無知性にして有意識の魔力により構築された端末『ドライアード』を持つ事です。

 

「管理人さん」

 

 目の前に現れたそれに、つい懐かしい気持ちになります。

 子供時代に私がお世話になった管理人さんとは、別の存在ではありのですが、それでもとても懐かしい気持ちになります。

 私達エルフの貴族子女ならば、『世界樹の管理人さん』と呼び慕っていたそれは、世界樹の成長の為の世話や、腐った部分の除去などをしておりました。

 

 そして、世界樹が死ぬそれまでは、鉄壁の守護者としての側面もあるのです。

 あの日もそうでした。

 アイルマインスールが燃える中、ヒューマン達と最後まで戦い続けた管理人さんを思い出します。

 

 

 私達の先祖が、労働階級としてヒューマンを残したのは間違いでした。

 ヒューマンなどというエルフの完全下位互換は、滅ぼして滅ぼして滅ぼして、徹底的に絶滅させるべきであったのです。

 

 私がドライアードを見つめていると、人間でも何でもない半物質化した魔力の塊でしかないそれは、僅かにこちらに微笑んだ気がしましたが、きっとそれは気の所為に違いありません。

 

 ドライアードにそのような知能は無いし、そもそもそのドライアードを生んだアイルマインスールは、私の故郷とは別個体のハズですから。

 重ねるのは幼き日の妄想に過ぎません。

 

 

 

 

 ドライアードがヒューマンに向けて防護壁を構築しました。

 花が絢爛に咲いた蔓で構築される、ドライアードの防護壁は攻防一体で、敵の攻撃を受け止めながら、花から毒の花粉や蜜を飛ばします。

 それは、通常のアイルマインスールのドライアードの話ですが…。

 

「逃げろ!! あの壁から放たれる光を浴びたら、皮膚が朽ちてい───────」

「ひっ、アドリア…。死んじまった。

俺も死にたくない…。俺は死にたくないっ!!」

「怯むな行けぇーーっ!! 何としてでもあの壁を突破しろ!! 壁を越えれば何とかなるんだ!!」

 

 

 管理人さんの活躍で何とか一息を付けた私達でしたが、五人の魔法鎧を来た戦士たちが壁を乗り越えて来ました。

 

 鎧が作り出す力場で光を無効化しつつ、鎧による身体強化で跳躍のみで壁を越えて来るとは…。

 

 

 ですが管理人さん達だけが戦っている訳ではないのです。

 私の妹のコディネーと前線守備隊長であるシリィが、一段階上の戦闘へと移行しています。

 

「管理人さんも戦っているのに、憎きヒューマンを姉様の所へ行かせてはわたくしの名折れ。

禁忌術式規制解呪完了。魔力武装(G.R.E.E.Nシステム)────展開ッ!!」

 

「姫様ッ!? そんな」

 

Generator 生成器

of

Recoillful 反動型

Exploded 圧縮

Energy 魔力

from

Nature 自然・才能

 

 第一級圧縮連動禁忌魔法式・自然吸魔力自己内加圧式反動型。

 通称G.R.E.E.N。

 圧倒的なエネルギーを生む代わりに、普通のエルフならば使うと死にます。

 ハイエルフでも無事では済まないでしょう。

 

 世界を循環する魔力。

 その粒子を極限まで圧縮して、その一粒を完全にこの世から消滅させる。

 エルフの戦闘における最終手段。

 

 安全策に安全策を重ねるために、魔力支援力場(アイルマインスール)を構築した上での、ハイエルフによるグリーンシステムの発動。

 これが私達のもう一つのとっておき。

 

 二人が足止めをしている間に、私は他の者へと指示を出していました。

 粗方各行動の責任者に対して命じた所で、ヒューマン特有の穢らわしい声が聞こえてきました。

 

「アイレージッ!! いたら手伝ってくれ!! 俺は君の仲間だ!!」

 

 

 何事かとそちらに出向けば、赤い魔法鎧のヒューマンがいました。

 

「アイレージ……?」

 

「…死に絶えなさい」

 

 不意打ち気味に切断効果を付与した魔力鞭を向けましたが、運悪く躱されてしまいました。

 

 

「エルフ達は間違っている!! こっちに力を貸してくれ」

 

 …ああ、潜入した時のヒューマンですか。

 さて…、殺しましょう。

 

 

「何か誤解があるはずだ!! エルフは間違っているのは明らかだろ──うっ!?」

 

 腕一つ、しかも切り落とせてもいませんか。

 鎧越しでは効果が薄いですね。

 鞭を薄くして、鋭さを上げましょう。

 次は首などの露出した場所を狙うと良いでしょうか。

 

 

「クソッ 操られているのか?」

 

 都合の良い頭ですね。

 思考力の低いヒューマンらしくて滑稽です。

 結果を見て考えるのではなく、自分の考えに結果を当て嵌めるとは。

 まあ、良いでしょう。

 ならば、合わせてあげても良いかも知れません。

 鞭を手落として、下を向きましょう。

 

「私だって本当は…」

 

 ヒューマンは何か期待したように、剣を下げました。

 そして何か喋りながら此方へと近寄ってきます。

 耳障り、臭い、目障り。

 そんな気持ちを表に出さない様に耐えました。

 

 ヒューマンが私の至近距離に来て、悍ましくも抱きしめようとした時、私は───────

 

「もっと早くヒューマンは絶滅させたかった」

 

 足元の鞭を自律起動させて、ヒューマンへと向けました。

 

 

 躱そうとしていましたが、反応が遅かった為に肩から片腕を落とせました。

 首からも大きく出血させています。

 

 

「嘘だ…。

そうか、許せない。

それが本性だったのか…っ!!

やはりエルフは邪悪!!

お前達が始めた邪悪な戦争は、いつか俺達の正義で滅ぼしてやる!!」

 

 

 そういって緑色の魔法鎧のヒューマンを壁にして、赤色の魔法鎧の持ち主は逃げて行きました。

 後少しで殺せたのに、残念です。

 

 

 ヒューマン達は大きく火が広がる兵器を持ち込んで来ており、魔力を纏った金属を射出する新兵器まで導入していた為に、魔法鎧装着者を一人戦線離脱させたからといって、それほど有利にはなっていませんでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こちらが盛り返していたのに、再び戦線が拮抗し始めた時、あの御方が現れました。

 長き眠りから醒め、暴虐の嵐を巻き起こしています。

 周囲には濃密な瘴気を撒き散らしながら、圧倒的な破壊力でヒューマンを壊滅させています。

 

 何て美しく心地良いのでしょう。

 世界が掃除されていく様に快感さえ覚えます。

 この絶対的な清潔感を約束される事による安堵感と、高揚。

 達してしまいそうな激情と、母に抱かれた時の如き冷静さを同時に与えてくださるなんて、やはり誰よりも素敵な私の王子様です。




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