【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫   作:流されそうめん

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弱き者が作る地獄

†戦士:リオット・ボージョレ

 突如町が崩落した。

 幸いにして、人的な被害はほぼ無かったと言っていい。

 それは事前に避難が住んでいたからだ。

 だが、俺の家も、噴水のある公園も、大きな時計台も全て奈落へと墜ちてしまった。

 

 原因は分かっている。

 町があった場所に存在する巨大な穴からは、耀く蒸気が舞い上がっている。

 

 邪獣デスプリンドラ。

 神に仇なす異形の大百足(オオムカデ)

 

 あの化け物の侵攻によって、俺達の町は消え去った。

 緊急避難用に、穴に落ちても暫くは浮かぶ構造の建築物ばかりとなっているが、今回は事前に逃げられたので意味はない。

 ただ、ゆっくりと溶かされて沈んでいく町が穴からは覗き込めるくらいだろう。

 

 デスプリンドラを信仰する、選民思想のエルフ共が追撃しにくるから、もうあの町があった場所には近付けない。

 

 嘗てデスプリンドラの母であるスコールペンドラを討った勇者ユーエィアが持っていた聖剣が何処かにあるという。

 天使シーブリールから託された聖剣は、あの化け物の親を討ったのだから、きっとあの化け物自身にも効くはずだ。

 俺の使命はその剣を見付け、新たな勇者へと授けることだ。

 俺達の町を奪った化け物を、俺は絶対に許さない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 母を喪った余は、己以外の存在に価値を感じられなくなった。

 意思を疎通するに値する相手は何処にもいなかった。

 ヴォルクリスタに勝手に湧いてきた餌代わりの有象無象や、時折落ちてくる餌と話す意味も特に無い。

 

 自問自答を繰り返す内に、自分自身を見つめながら意思疎通が出来ている事に気が付いた。

 その時、余の頭部は二つになっていた。

 

 尾が分かれたのは、極めて強度の高い危険生物達を屠った時だった。

 余の尾が縦に切り裂かれたのだ。

 其々の色に分かれた五体の危険生物の一体が、余の尾を大きく斬り裂いた。

 余であろうと、あれ程の強度の危険生物が五体もいると同時に対応が難しい。

 余は斬られた尾をヴォルクリスタの湯に浸すと、尾の中程から末端にかけて魔力を跳ね上げた。

 余が湯から尾を引き抜くと、尾は五つに分かれており、其々の尾の上下に渦巻いた針が着いており、先端は(あぎと)の如くへと変わった。

 変化したての尾は、確かに多数の外敵に対応するには適しているが、変化したて故にまだ柔らかい。

 母であれば毒の暴風を引き起こして纏めて殺したであろうが、当時の余にはその芸当は能わざるばかりであった。

 余は五つの尾先の顎から毒の霧を吐いた。

 直接当てられたのは一体のみであり、既に倒した一体を差し引いても、残り三体は活動可能と見積もれた。

 毒に斃れた危険生物にその三体が近付いている内に、余は頭部をヴォルクリスタ内の湯に押し込み、湯を飲み込んでは尾先の顎から霧にして吐き出した。

 周囲の大地は極彩色の霧に染められて近しい色へと変わっていく。

 そして霧は濃くなり、雲となり、雨となった。

 

 気が付けば危険生物達は消え去っていた。

 場には青・黄色・緑の()を纏った危険生物が蒸されて腐食していたので、中身を持ち帰って食した。

 

 赤と桃の殻を持つ危険生物も無事では無かっただろう。

 だが、何れは再び襲い掛かってくるやも知れぬ。

 とはいえ何時相見えるか分からぬ脅威へと怯え続けるのも、違うというものだ。

 

 楽観的に危険を見ない振りをするのではなく、危険があると知った上で悠々と安堵するのが、余の在るべき姿だ。

 

 余は安堵せねばならぬ。

 余は危険を排除せねばならぬ。

 故に余は、余に逆らう万物を滅ぼさねばならぬ。

 余は穏やかにあるために、過激に滅ぼすのだ。

 

 海を干上がらせ、大地を湯に浸す。

 素晴らしい世界を創造する。

 

 逆らうものがいてはならない。

 故に、逆らうものが住めぬ環境を拡げるのだ。

 

 

 

 

 

†戦士:リオット・ボージョレ

 アリマルアの村で俺は病に侵された若い夫婦にあった。

 彼らは祝福を受けた五人の戦士として、魔法の鎧を纏い、あの大百足に挑んだそうだ。

 幼馴染でもあった三人はその戦いで無惨な死を迎え、彼ら二人も大百足の毒による後遺症によって長くは無いそうだ。

 俺は彼らの娘と共に、修行をつけて貰う事にした。

 俺が赤い鎧を、師匠達の娘(ロイネット)が桃の鎧を受け継いで、何れあの怪物を討つ為に。

 ロイネットを初めて見た時、彼女こそ勇者の素質がある者なのではないかと直感的に思った。

 それ程までに、彼女は美しかった。

 

 土を食べて宝石の身体を作る化け物。

 馬鹿げた魔力を持つが故に、体内で土を宝石に変える事が可能であり、その際に莫大な魔力を得て存在している。

 馬鹿げた魔力を持つものだけが、更に馬鹿げた魔力を手に入れられる。

 人間には不可能で、エルフでさえ無理では無いだろうか。

 理不尽の極みと言って良い。

 そして、人間を食べなくても良いにも関わらず、戯れとして人間を欲するのだそうだ。

 師匠達は仲間の鎧と、デスプリンドラの破片を回収していた。

 百足本体の傷は再生しているであろうが、デスプリンドラの身体から取れた部位は、化け物自身を傷付けるだけの強度はあるはずだ。

 

 師匠達の仲間はデスプリンドラに持ち帰られ、墓に納める事さえしてやれなかったと言っていたが、死体は最早戦えないが、遺された武器はまだ使える分、回収に重きを置くべきは決まっていたはずだ。

 どの道、あの怪物が肉を欲していたのなら、奪い返す事は出来なかっただろう。

 

「ロイネとリオット君は、勝ってくれ」

 

 

 血の繋がった娘と俺が、致死性の怪物と戦う事を前提に話をする師匠達は、何処か壊れているに違いない。

 けれども──────

 

「任せて下さい」

「それが私の生まれた理由ですから」

 

 それに応じてしまえる俺達も、とっくに壊れているのだから運命とやらは上手く出来ている。

 

 先ずは近くの王都に行かねばならない。

 デスプリンドラの領域拡大に備えて、宗教(神聖)魔法にて天使ギャツビエルから、不壊の聖斧を授かった話を聞いた。

 一国の信仰では、天使様そのものに出向いて貰う事は難しいと判断した結果だそうだ。

 師匠達の話では、信仰による祝福の一部をインフラ整備や、目前の飢餓の救済と病魔根絶に使ったようだが、どうせ滅ぼされるのなら戦力上昇の為に信仰力の全てを注ぎ込むべきだったと俺達も師匠達も意見は一致している。

 シーブリールの聖剣とギャツビエルの聖斧、後はエートヨネルの聖槍とロアクティベルの聖弓を集め、鎧の適合者を少なくとも残り二人は集めたい。

 幸いロアクティベルの聖なる弓については、カベナマリオ連王国のヨキス・ナテクルデシ王が儀式を始めているらしい。

 何としてでも、エートヨネルの聖なる槍については何処かの国に創らせなければならない。

 

 デスプリンドラの脅威が近くなった国ばかりが、彼の脅威に対して対策するばかりで、遠方の大国は神聖魔法を未だに病魔根絶や飢餓対策やインフラなどに使っている。

 俺から見ても愚かな王ばかりで、何とか考えを変えさせないといけない。

 このままでは、デスプリンドラに全てが滅ぼされてしまう。

 

 避難する必要が無い国ほど、余裕を持ってより性能の高い武器を創れる筈なのに…。

 

 エルフがヒューマンより存在そのものに価値があるという選民思想は許してはならないが、優先順位を決めて選ぶことそのものは、絶対に必要なのだから。

 

 ゴブリンを人として受け入れたチャレン人民平等国がどうなったかを知らなくても、誰でも分かって然るべきなんだ。

 エルフもヒューマンもゴブリンも等しく人だと発布したチャレンには、エルフが入ってくる事は無く、ゴブリンに襲われる事を恐れた富裕層のヒューマンも逃げ、ゴブリンだけが入ってきた。

 その結果が今の惨状だ…。

 先ずはデスプリンドラを討てる戦力を保有することは、絶対に必要なのを何故分からないのだろうか。

 

 もし、エルフも此方側についてデスプリンドラを共に討つのであれば、大いに助かるのだが、それはありえない。

 先ずはエルフが奪い取っていった莫大な資産をヒューマンに分け与える事なしに、友誼は紡げない。

 エルフがヒューマンから独立した時に持ち逃げした資産との返却無しにイーブンは為されない。

 しかしエルフの連中がそんな条件を飲むはずも無いのだ。

 何故なら奴らは自分勝手だからだ。

 支配者気取りのエルフは、向こうから歩み寄ろうとなんてしない。

 ヒューマンと交わる事を穢れや劣化だと認識しているからだ。

 俺達をゴブリンかのように扱うエルフ共。

 デスプリンドラがいなければ、今頃は天使様にお願いして倒していた筈なのに…。

 

 別に全てのエルフが悪いとは言えない。

 エルフという民族は悪でも、師匠達の様にエルフの血を引いたヒューマンもいる。

 師匠達の親であるエルフ達は、きっと立派なエルフだったに違いない。

 

 

 現在、ヴォルクリスタはカベナマリオ連王国方面に伸長しているようだ。

 

 ふと閃いた。

 デスプリンドラが別の方面に進路を変えれば、カベナマリオ連王国は聖弓を創り続けたまま、デスプリンドラの進路にある国がエートヨネルの聖槍を創り始めるのでは無いだろうか?

 

 ならば、カベナマリオに向かう怪物の進路を、別の国へ誘導しないといけない。

 きっと師匠達から良い答えを見付けてくれるはずだ。

 

 

 

 

 方針は決まった。

 流石は師匠達だ。

 

 デスプリンドラは、挑んでくる人間が多い方へと侵攻してくる性質がある。

 ならば、俺達が仕向けたい方向の村人達に、デスプリンドラへと攻撃させ続ければ良いんだ。

 

 そうと決まれば、すぐにその方面の村人達に戦わせないといけない。

 きっと上手くいくぞ。

 

 

 近頃余の眠りは浅い。

 危険生物共が騒ぎ立てては、やって来るからだ。

 故に薙ぎ払う。

 嗜好品として摘んで喰らうにも、頻度というものがある。

 しかもこれまで余に挑んで来た危険生物とは違って、これまでなら逃げ惑っていたような弱き危険生物ばかりであった。

 

 魔力の味も質が低い。

 これは飽きてしまう。

 

 故にヴォルクリスタの延長と同じ速度ではなく、余が単体で直接危険生物共の巣を破壊しにいく事にした。

 一応の共生関係を行っている危険生物の亜種共は反対をしたが、それは余の方針を変える理由にはならぬ。

 

 進路を上にある危険生物の巣を全て破壊し尽くした。

 食べる訳でも、ヴォルクリスタに作り変える訳でもなく、只々蹂躙した。

 

 そして余は己の領域をへと再び帰った。

 

 

 

 

 

†戦士:リオット・ボージョレ

 デスプリンドラをダーキャン公国へと誘き寄せる為に協力してくれと頼んだ村は、何処も当初断ってきた。

 折角自分達のいない方向に進む災害を態々引き寄せる意味が分からないという自分勝手な言葉ばかりが並べられた。

 俺は既に住む町を災害に壊された後だというのに…。

 

 デスプリンドラに殺される前に、俺が力を示してやると村は従う姿勢を見せた。

 

 とはいえ、反応は渋々というところであった。

 俺はデスプリンドラに一番近い村から、大砲を使ってヴォルクリスタを攻撃したり、デスプリンドラの近くへと行っては村へ向かって逃げたりした。

 

 その結果、シニウ村の方へとデスプリンドラはやって来た。

 上手く行った。

 後は何人かはダーキャンの方へと逃げさせつつ、残りはデスプリンドラへと向かわせれば良かった。

 

 俺だって督戦隊の様な真似はしたくないのだが、これも人類全体の正義の為だから仕方ないんた。

 

 

 一度方向を変えて、その方面に幾つか村があることを知ると、デスプリンドラは完全に進路を変更した。

 これで、ダーキャン公国も神聖魔法を怪物討伐の為に使うに違いない。

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