【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫   作:流されそうめん

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小さな地獄と大きな地獄

‡エルフの姫:ハイジレア

 

 チャレン人民平等国が講和を申し出て来ました。

 エルフもヒューマンもゴブリンも平等な国へ是非おいでくださいとの事です。

 エルフにとっては全くメリットが無いとお断りしましたが、しつこく食い下がっていました。

 どうやらチャレン人民平等国が最初の講和締結国となる事で、降伏したい国々を傘下に治められると考えているのでしょう。

 最下位国家から、盟主国へと変わりたいのが透けて見えました。

 彼の国は世界のバランサーを自称していたので、そろそろ中身を伴いたいと考えていたのは分かりますが、能力が追い付いていません。

 世界のバランサーとは、世界の全てを上から平らに押し潰せる力があって始めて名乗れるものです。

 世界で最も強いことが最低条件なのです。

 その条件を充たすのは、デスプリンドラ様以外には存在しません。

 チャレン人民平等国如きが世界の調整役などとは、力不足にも程があります。

 

 それに何時の日にかヴォルクリスタに適応出来る可能性があるエルフと違って、デスプリンドラ様が世界をヴォルクリスタに変えた後にはヒューマンが生きられる場所なんて残りません。

 まさか、ヴォルクリスタの侵攻が収まるとでも勘違いされているのでしょうか?

 チャレン人民平等国で独自に変化したヨモジ神教統一派が、統一派独自の天使であるキムーチェルを召喚して、ヒガージア国の島を侵略した事があったと聞きますが、島人を皆殺しにして島を奪っても話を聞いてくれるヒガージア国は例外です。

 戦争恐怖症と有名なヒガージア国は、戦争と明言しない限りどれだけ侵略しても話し合いの余地があります。

 そんな隣国を持ってチャレン人民平等国は勘違いをしてしまったのかも知れませんね。

 唯一私達と講和できた国として、他のヒューマンの国を傘下に入れる際に、チャレン人民平等国の理念を強要することを夢見ていそうです。

 

 …どの国も何れは灼獄の湯の中に落とされるというのに。

 話し合いでどうにかなるという妄想は捨てた方が良いと思いますが、それを話してあげる必要もありません。

 何れにせよ、攻めてきた所でデスプリンドラ様が負ける未来はありません。

 

 エルフでさえ、デスプリンドラ様にとっては鉱物か生物か分からない珊瑚魚以下の存在なのです。

 少なくとも珊瑚魚は、ヴォルクリスタの湯の中で泳ぐ事をデスプリンドラ様に許された存在です。

 時折食べられてはいますが、些細な事でしょう。

 エルフの中でも下層の者は、デスプリンドラ様のお口直しとして御提供することもありますから。

 チャレン人民平等国にとってはヒガージア国民は自国のゴブリン以下であるように、ヴォルクリスタでは全ての人類は珊瑚魚以下なのです。

 

 ヒューマン同士の戦争であれば、旨味のない土地に過剰な防衛力があれば、永世中立さえ謡えるでしょう。

 しかし、環境を望むように変えてしまえるデスプリンドラ様にとっては、その前提は意味を成しません。

 

 デスプリンドラ様にとっては、人類など理想環境を拡げる事を邪魔をするかしないか以外の区別は無いのでしょう。

 そして未来のエルフ以外には、何世紀が経とうとヴォルクリスタに適応出来る人類は生まれないでしょうし、敗北の申し出も私達が跳ね除けます。

 嘗て天使を使ってエルフの血筋と財産を奪おうとしたヒューマンを許す理由はありません。

 

 しかし、デスプリンドラ様も間違える事はあります。

 恐慌状態で明らかな揺動のヒューマン達がやって来ましたが、デスプリンドラ様は簡単に引っ掛かってしまいました。

 とはいえ、それを止めることは出来ません。

 私もまだ食べられたくはありませんから。

 

 デスプリンドラ様は、ヴォルクリスタの王国そのものであり、参謀も兵士も王も全てを兼ね備えた存在です。

 例え参謀としての能力が低かったとしても、王でもあるヴォルクリスタ様を批判することが出来る者はおりません。

 

 もし私が謀略を図るのであれば、デスプリンドラに従わされているものの、内心ではヒューマンと融和を望んでいるという設定で、ヒューマンの国に潜り込んで暗躍する程度の事となるでしょう。

 ヒューマンの子を生んだエルフ(血を裏切る恥知らず)の子孫が暗躍しているようなので、上手くいく可能性は高いです。

 雑種やヒューマンは、純粋なエルフに認められると舞い上がりやすいですから。

 自分達を見下すエルフを嫌いつつも、やはり格上に認められると自分自身の価値が上昇したように感じられるのでしょう。

 ヒューマンの基準においては圧倒的に価値が高く、それ故にチヤホヤされる事に、喜びを感じてしまった血を裏切る恥知らず共は、生まれてくるべきではありませんでした。

 

 私なら、絆される事も無く入り込めます。

 試す価値はあるかも知れませんね。

 

 

 

 

 

 

 

†戦士:リオット・ボージョレ

 アイレージというエルフの女の子に会った。

 どうやら、あの化け物に心酔するエルフの群れが気持ち悪くなって逃げて来たらしい。

 それは正しい感覚だ。

 共に正しい世界のために戦おうと告げると、エルフとは敵対したくないが、デスプリンドラは滅したいとのことだった。

 

 アイレージはこれまで会ったどの女性よりも美しかった。

 どんな整形技術や化粧技術があっても、素顔のアイレージに美しさで挑んで勝てる者はいないだろう。

 

 そんな彼女がいるだけで、男性なら誰もが目で追ってしまう。

 アイレージは生物として完成し過ぎているのだ。

 女性であっても化粧をしてさえ届かぬ相手には、屈服するか容姿以外の部分で批判をするしかない。

 ロイネでさえ、嫉妬を隠せないように見えた。

 

 

 アイレージが俺達と行動を共にするようになってから、補償派という存在が出来るようになった。

 デスプリンドラを誘導するために受けた被害を、誰かが補償しなければならないという意見の派閥だ。

 正直迷惑だった。

 被害の補償なんて、全てが終わってから考えるべきだし、そもそも正義の為の行いをしているのに、補償などと言い出すべきでは無いのだ。

 そんなことはエルフの連中から、資産を絞り出してから言えば良い。

 …流石に、何も持たずに逃げて来たアイレージは例外だが。

 

 そろそろダーキャン公国と接触しなければならない。

 神聖魔法で立ち向かわないといけないと伝えなければならない。

 俺と師匠達とロイネとアイレージで、公国へと向かう事になった。

 

 

 師匠達の名声もあり、二手に分かれて再び合流する川に囲まれた公国に入り、公王の代理としての大臣と会うことまでは出来た。

 国の一大事に代わりの者を寄越すとは、腑抜けた王だ。

 俺達は神聖魔法で聖槍を作れば、公国が滅ぼされても聖槍は残るから、後に続く者が助かる事を真摯に告げたが駄目だった。

 神聖魔法はダーキャン公国を防衛するために使うと意見を曲げない。

 ダーキャン公国を犠牲にしてでも、デスプリンドラを倒す手段を増やすことこそ正義と、正しい事を教えても、大臣は納得しなかった。

 大臣では話にならないから公王を出せと言っても、全く埒が明かない。

 俺達はアイレージを除いてそのまま追い出された。

 

 アイレージであれば、その類稀なる魅力で大臣の意見を変えさせられる気もするが、大臣と二人きりでアイレージを残してきた事にはモヤモヤが消えなかった。

 

 そこから、アイレージが帰ってくる事は無かった。

 そして、ダーキャン公国が俺達に従う事も…。

 心の痛みが消えない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

‡エルフの姫:ハイジレア

 最初はどう誘導してしまおうかと思いましたが、国の重臣としての大臣は良くも悪くもマトモで、世界平和の為に自国の平和を放棄する事は選びませんでした。

 眺めているだけで何とかなり、気楽なものでした。

 逆に世界平和の為にダーキャン公国を犠牲にしようとする彼等は、大臣を通じてこの国から危険人物扱いされましたね。

 そういえばつい最近、ダーキャン公国は軍隊を放棄した隣国のピースシップ共和国を攻め滅ぼした後でした。

 流石にその直後に馬鹿な真似はしないでしょう。

 世界の平和の為にと軍隊を放棄させる勢力を暗躍させ、既存の与党への悪意のある情報活動(ネガティブキャンペーン)を徹底して票を落とさせ、軍隊放棄党を与党へと押し上げた直後と聞いています。

 軍隊を放棄した上に、他国の平和の為に宗教魔法を使うなんて間抜けにも程があります。

 毎日少しずつ小麦が湧く壺を多く創って、それを貧困国に与えるだなんて…。

 貧困国には貧困となる国民の無能さがあるはずなのに、それを淘汰せずに活かす事の何が世界をより良くすることなのか理解に苦しむ事に関しては、公国の大臣に同意します。

 

 その大臣ですが、幻覚魔法でガラスの窓を私だと勘違いしたまま、ピロートークを気取って話しています。

 ヒューマン如きに純潔を散らすつもりは元よりありません。

 リオット・ボージョレは大臣と二人きりで説得すると告げた私に対して、不必要にソワソワしていましたが、彼相手であっても大臣同様に所詮ヒューマンとしか見ていないのに、何故自分なら良いと考えてしまうのかは想像するつもりにもなれません。

 

 それにしても大臣が国を犠牲にしてまで、聖槍を作ると言い出さなくて良かったですね。

 補償派を作らせた時の様に、色々と動く必要が無くなりました。

 軋む窓が外れて大臣が落下する前に、私も帰るとしましょう。

 これ以上は、此処にいるメリットも無さそうです。

 

 

 

 

 

 

 別に直ぐにダーキャン公国に辿り着くデスプリンドラ様をお待ちしても良かったのですが、私が潜入してデスプリンドラ様の為に動いているということを理解される知能は、デスプリンドラ様には期待出来ません。

 ダーキャン公国ごと、私も滅ぼされてしまったでしょう。

 ですので、私はヴォルクリスタに戻ることにしました。

 

 

 湯に指先を浸すと、熱に爛れて毒に冒されるました。

 すぐさま回復魔法で再生させましたが、まだ適応が出来ていない事が証明されました。

 デスプリンドラ様の宮に住まう権利を持ち(ヴォルクリスタへ適応を果たし)、悠々と泳ぐ珊瑚魚が憎たらしくなり、思わず湯で腕が再び傷付くのにも構わず掴み上げて叩き付けて砕きました。

 

 王子様の寵愛を請けるのは、()だけで良いのです。

 魚如き(有象無象)が勘違いするべきではありません。

 

 まだ生きていた珊瑚魚をそのまま加工して、指輪へと変えました。

 通す指は決めてあります。

 ヴォルクリスタの湯の成分を含むそれは、私の薬指を苛みますが、そこは回復魔法で何とかなる話です。

 回復魔法が間に合わず、指が爛れ落ちたとしても、私は願いのために捧げたと納得できたでしょうから、痛み程度なら、常に思いを再確認させてくれる利点とさえ思えてしまいます。

 

 さあ、エルフの平和の為に世界を壊してください。

 私の王子様。

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