【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫   作:流されそうめん

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地獄から逃げた先にあるもの

 小さな危険生物の巣を潰しながら進んでいると、一際大きな危険生物の巣が見えた。

 周囲を川で囲んである。

 余にとっては水は敵に非ず。

 

 川は巣の前で分かたれ、巣の後ろで一つとなっている。

 余は巣の後ろの川を埋めた後、周囲を囲むことにした。

 唯一水が流れ込んでくる上流のみは開けてある。

 余の身体を囲いとして、巣の中に溜まった水が流れ込んでいく。

 

 そして余は、その水に魔力を流し込んだ。

 

 水はヴォルクリスタに存在する湯へと変わる。

 (せき)を外してしまえば、元の水に押し流されるしかない湯ではあるが、危険生物の多くは湯を少し掛けただけで死ぬ。

 それならば効果はあるだろう。

 

 

 暫くすると、()が降ってきた。

 岩も落ちてきた。

 煮えた油もだ。

 最後の油に関しては、余には通用しないが。

 これらを落としてくる危険生物達は、湯が上がって来ない高所へと移動した、若しくは最初からいた個体群であろう。

 

 流石にただそれを受けるという訳にもいかない。

 チクチクとした棘が刺さり、体表に小さな凹みも確認出来る。

 いずれ脱皮する頃には完全に治るものではあるが、不快である。

 

 嫌な臭いが立ち込めてきたな。

 ふむ…、宗教魔法(集合妄想)か。

 余が忌避する空気を立ち込めさせるものか。

 挙げ句に巣の中から鉱物が擦れる音もする。

 

 雪まで降ってきた。

 寒さを嫌う余への嫌がらせであろう。

 

 雪は強くなり、雪と共に落ちてくる氷の針が、徐々に大きくなり始めた。

 

 雪が触れたヴォルクリスタの湯は、ただの川の水へと薄まり、氷の針は余の殻を削っていく。

 

 見上げれば巣の中から、茶色い石で出来た巨大な危険生物が立ち上がり現れた。

 天使再現(集合偶像)か。

 氷を降らせているのは、これなのだろう。

 

 余は不快である。

 よって罰は凄惨なものとしよう。

 

 完全に巣を囲み、上流から流れてくる川の水を遮断する。

 これにより流入する水によって湯が薄まることは収まった。

 余は囲んで溜めた水に対して魔力を流し込み、ヴォルクリスタ以上の熱と濃度の熱湯へと変える。

 

 余をしてピリ付く湯だ。

 この蒸気を浴びた危険生物の生が終わった事は、飛ぶ棘が収まった事から見て取れる。

 折角なので、この湯の熱と濃度を更に上げてみるとしよう。

 

 

 湯が全て蒸発した。

 危険生物の巣は全て溶けると同時に、ヴォルクリスタの湯の成分に置換されて、夜にあっても輝かんばかりの光を発している。

 巨大な危険生物も、その全てが置き換えられて停止している。

 悪くはない。

 構成物質がマトモになるだけで、危険生物の巣も、集合妄想の産物も少しはマシに見える。

 

 

 

 余は夜に光るヴォルクリスタの姿が好きだ。

 洞窟の中で光に充たされるのが好きだ。

 遠き地の高みから巣が輝く様を見るのが好きだ。

 ヴォルクリスタこそ我が興奮と安寧を両立させる至高の地。

 故に余は、此の世に全てをヴォルクリスタに変える事を欲す。

 

 

 

 

 

 

†公王の息子:マロスメール・ダーキャン

 

 僕は見るべきでないものを見た。

 父の命により、万が一の可能性を考えて従者のイクァクスァと共に僕たちは避難民を誘導する名目で逃された。

 

 僕たちのダーキャン公国が、聖書の化け物に蹂躙される様を、崖の上から見ていた。

 父や兄の戦い方に誤りがあったとは思えない。

 神聖魔法により、虫のモンスターだけを殺すガスを呼び起こし、熱を好むモンスターの天敵である氷属性魔法に長けた、天使マジピエネルを召喚した。

 

 その媒体として、公国の生活住居全てを材料とした。

 材質故に見た目こそ、本来の御姿とは違うであろうが、その分大きさに関しては再現性は高かったはずだ。

 

 マジピエネルの溜息と呼ばれる、人を傷付けず、虫だけを皆殺しにするガス攻撃。

 マジピエネルの涙と呼ばれる、巨大な氷柱を落とし続ける奇跡。

 傷を付け熱を奪う氷属性最高位級の魔法。

 

 それらを持ってしても無理だった。

 今、崖の下にある公国には生きた人はいないだろう。

 悍ましくも美しく輝く、自ら光る宝玉の国へと変えられてしまった。

 

 

 

 

「ギャア」

「痛ェッッ!!」

「死ぬ…」

 

 離れたところにいた避難民から悲鳴があがった。

 矢であった。

 エルフの連中が避難民を追撃しに来たのだ。

 

「殿下、逃げましょう」

 イクァクスァの指示で僕は逃げ出した。

 避難民の悲鳴の場所からして、僕に矢が届くにはまだ余裕がありそうだった。

 

 避難民の平民達相手に、もう使わないものだからと告げて、母さんや姉さん達を始めとする貴族女性達が、パーティードレスなどを渡していたのが功を奏した。

 平民女性達は一生着ることのないドレスやアクセサリーを喜んでいたが、これらはエルフの軍勢から本当に高貴な人々を守る為のカモフラージュを作る目的もあったのかも知れない。

 恐らくは、父さんと共に城に残った母さんの発案に違いない。

 あの人はそういった賢さを持っていたから。

 

 僕はイクァクスァが何時の間にか用意していた質素な服に着替え直すと、彼女と共に逃げ出した。

 

 

 

 

 逃げ出した僕とイクァクスァは、リオットという少年に会った。

 彼は僕を見ると直ぐに、復讐する力が欲しいかと聞いてきた。

 僕は別に生き延びれば良かったのだが、イクァクスァに何度も説得された結果、リオットの話に乗ることになった。

 僕は彼から青色と黄色の魔法鎧を与えられた。

 一度に使えるのは一つだけだが、他の適合者が出るまでは二つを預けておくと言われた。

 

 魔法鎧は凄まじかった。

 当初は青い腕輪状の軽いものであるのだが、魔力を流すと僕の身体にあった鎧へと展開されて装着される。

 着ただけで魔力が外から吸い込まれて、僕の身体に流れ込んでくる。

 木よりも高く飛べ、飛ぶ鳥も掴む事が出来た。

 そして、籠手の指先を伸ばして魔力を込めると、指先を覆う金属が目視しかねる速度で飛んでいった。

 その上拳を握ると、再び指の覆いは再生されていた。

 

 途轍もなく強くなれた気がしたし、実際に強くなっているのだとも思う。

 しかしそれは、デスプリンドラという埒外の災害を知る前の僕であったならば、だ。

 

 天使さえ下す、あの厄災の恐ろしさを知っていれば、この程度ではとても敵わないと分かっていた。

 

 リオットは言った。

 仲間と武器を集める旅をしようと。

 

 僕は正直嫌であったが、イクァクスァの度重なる説得により同行することとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

‡エルフの姫:ハイジレア

 遥か昔、エルフとヒューマンが分かたれる前。

 高貴な身分の者は、人間狩りを愉しんだそうです。

 私には良く分かりません。

 私にとっては、同じ人型のヒューマンを狩る事で己の高貴さを再確認する行為としては楽しむ事が出来ないのです。

 害獣を駆除して安堵する感覚の方が近しく思います。

 

 ヒューマンを狩る事の楽しさはなく、ヒューマンを駆除することへの清潔感しかありません。

 

 だからこそ、効率的にやりたいものです。

 それなりの服を着たヒューマンや、周囲に指図して動かしているヒューマンを優先的に射貫かせました。

 

 途中で可怪しいなとは思いました。

 ヒューマンの貴族は、もう少し死に際の断末魔は見苦しくは無かった筈だと。

 まるで、首が千切れても這い蹲って逃げ惑うゴキブリの様な浅ましさ。

 

 私が気が付いた時から少し遅れて、周囲のエルフ達も訝しみ始めました。

 明らかにギラギラしたドレスではなく、地味だが丁寧な作りの服の者へと標的を変えると、これまで逃げるばかりであった男のヒューマン達が怒りの形相で襲ってきましました。

 

 成程。

 こちらが、価値あるヒューマンの方だったのだと私達は悟りました。

 

 ですが、価値あるヒューマンばかりを狙うのも良くありません。

 自分達は見逃されたとか、囮にした罰が当たったとか叫ぶヒューマン達も逃さず殺さなくてはなりません。

 

 秩序だった組織化する貴族のヒューマンも大変ですが、どんな環境でも生きようとする無秩序なヒューマンでは根絶が難しい事は、ゴブリンが何故生き延びているかを考えれば想像に難くありません。

 

 ゴブリンは生き汚さだけで、ヒューマンからの討伐による絶滅を凌いで来た生き物です。

 下級のヒューマンもそれに近い事はするでしょう。

 何故って、元は同じものなのですから。

 

 

 私は告げました。

 

「貴族のヒューマンよ、ヒューマンを殺しなさい。

十人の首につき、一人を逃してあげましょう」

 

 質素な服を着た騎士階級らしきヒューマンが、こちらに向けた剣を身体ごと別の方向に向けると、殺戮が始まりましました。

 

「やめろ!! 俺達は敵じゃない!! エルフの悪魔に騙されるな────」

 

 口々に叫ぶ平民ヒューマン達ですが、上手くはいきません。

 戦っても勝てないと判断したのか、逃げる者が大半です。

 逃げる平民達には、定期的に矢を放ちます。

 

 

 

 ヒューマンによるヒューマンの惨殺。

 とはいえ、一人につき十人もの首が対価では、平民以外の全員は助かりません。

 恐らくはヒューマンの中の序列順に、平民の首が捧げられていきますが、それでも足りません。

 騎士階級の者達は当然その数には入れませんね。

 

「元より主君に捧げた命」

 

 …あら、ヒューマンにしては見上げた志です。

 首の数が足りずに絶望したヒューマンの女を救う為に、家臣らしき者達が自ら首を削ぎ落としました。

 

 これにより、貴族階級らしきヒューマンはそれなりには残りましたが、何人かは取り零されていますね。

 

 約束は守りましょう。

 貴族を名乗る害獣(ヒューマン)の内、首を集められた者は逃します。

 

 ですが、それ以外は殺しましょう。

 

「まだ首をお持ちでない貴族の方、別に必要な首の数は騎士や平民でなくのも良いのですよ?

 幸いにして、標的を護る騎士階級は概ね死にましたし…。

 

 ────どうされますか?

 

 

 

 

 

 

「やめてっ!!」

 

「きゃあっ!!」

 

 貴族による貴族殺しが始まりました。

 まあ価値あるヒューマン(貴族)と言ってもヒューマンの貴族などでは、エルフの平民以下の存在ですが。

 

 護衛の騎士が残っている、最初の方に平民を殺して十の首を集めた貴族に、命を狙われている貴族達が戦力としての騎士を貸してくれる様に嘆願しています。

 

 惨劇の最中にも、誰を生き残らせるべきかという権謀術数が続く訳ですね。

 

「ワシはあいつらよりも価値がある。

だからどうか護ってくれ。あいつらの首をワシにくれ!!」

 

 そんな内容の話が違う声と違う口調で、周囲から聞こえてきます。

 ああ、これこそ本当にヒューマンらしい光景。

 

 

 

「姫様、生き残りは纏めて処分しますか?」

 

 近くに寄ってきた部下が聞いてくるが、嗜めましょう。

 

 

「駄目ですよ、シリィ。この場に生き残った者には、ヒューマンの敵として恨まれて貰うのですから」




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