【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫 作:流されそうめん
一応の共生関係にある危険生物の亜種達が、通常種を数十体連れてきた。
何をするのかは知らないが、余の安寧を妨げなければ良い。
ふと余は試してみようと思ったのだ。
危険生物の通常種と亜種の中から共に二十ずつの数を無作為に選び、余の魔力で染め上げてみた。
通常種は一体を除き爆散した宝石へと変わった。
生き残った一体も、血を吐いて倒れている。
亜種に関しては、徐々に身体が崩壊しては宝石へと変わる者が半分と言ったところか。
回復魔法をかけても回復する兆しも無い。
残り半分にしても苦しむ素振りは見せている。
──────ただ一体の亜種を除いて。
「ああ、我が王からの洗礼にして聖別に認められたのですね。
今ならヴォルクリスタの灼湯にも適応出来るのが理解出来ます。
…シリィ、私の側近でありながら無様な表情を為さらないで下さいな。
私達は
作り変えられるこの痛みを祝福と受け取りなさい」
亜種の一体が、別の亜種の顎を持ち上げて何かを話している。
余にとってそれは意味のない事だ。
山羊や猿同士がどのような会話をしているかなどは、危険生物も気にしないであろう。
余もそれに同じだ。
生き残った亜種達は、ガラスの様に透き通る不実態の翅を生やしていた。
何処か通常種が喚び出す
生き残った通常種には、先程から翅持ちの亜種達が回復魔法らしきものをかけている。
「死なせて…。もう…嫌…苦し…い」
何かを叫んでいるがどうでも良い。
通常種の背中からは、実態のあるガラス質の翼が生えて来たようだ。
見ればその翼を必死に折ろうとしているが、折れた先から翼は再生している。
当初はのたうち回っていたが、徐々に落ち着きつつあった。
通常種と亜種は実態と不実態という差や、形が違うが、光るラインがその中を休むことなく奔っているのが見て取れる。
余は戯れに光るガラスの破片を、他の通常種の近くに転がしてみた。
我ながら器用な事が出来るものだ。
するとその破片は芽の様に近くの通常種に向かって延びると、突き刺す様に触れた。
触れられた通常種は、捻れる様に干乾びた。
面白い事に、他の通常種はその個体から距離を取り始めた。
危険度故に群れから放逐されたのであろう。
「く、来るな化け物ッ!!」
「近寄らないで!!」
他の通常種から拒絶されている様子は余にも分かる。
だからどうということも無いが。
「な…ん……で、私は…姫なのに、ダーキャンの…お姫様なのに────どうしてよっ!!」
拒絶された個体は、拒絶した個体に逆上したのか、翼の先を伸ばして突き刺そうとしたが、寸前で亜種の中心となる個体に止められた。
「駄目ですよ。此処で殺しては。
貴方の役目は此処で他のヒューマンを殺すことではなく、死地でヒューマン同士を殺し合わせる事。
その時逃げる者だけを貴方の手で殺しなさい。
貴方はダーキャンの王族。
王族は国家全ての命を握る権利を持つ者なのだから、無駄遣いはするべきではありません。
少なくとも私なら────、効率良く使い潰します」
羽持ちの通常種はどうやら暴走を止めたようだ。
余はそこで興味を無くして寝ることにした。
‡ハイエルフの姫:ハイジレア
遂に私はエルフさえ超えた。
今ではエルフさえ下等生物に見える。
ヴォルクリスタの極彩色の瞳と澄み切った翼を持つ新人類。
でも私は、エルフは人間だと認めてあげます。
デスプリンドラ様が世界を滅ぼすまでの話ですけれど。
私は
これこそが、私が最も選ばれたと感じたもの。
私は王子様に認められたのです。
シリィの静止も聞かずに、靴を脱ぎ、服を脱ぎ、ヴォルクリスタの泉の中に身を投げました。
水底には私の王子様が微睡んでいます。
私の肌はこの灼熱の輝く湯に、少しも傷付けられてはいません。
痛みはなく、苦しささえありません。
眼の前を泳ぐ珊瑚魚も許せてしまいます。
私は珊瑚魚も泳がぬ水底へと進むと、デスプリンドラ様の角に触れました。
これが
世界は滅ぼしてしまいましょう。
新しい世界に生き残れる存在は、ヴォルクリスタに適応した存在だけで良いのです。
妹も
喜ばしい事です。
湯から浮上し、翼で羽ばたいて皆のところへと戻りました。
簡易な水魔法で宙に水球を生成した後、私はその水球に強く魔力を込めました。
透明の水が、一瞬にして極彩色へと変わる。
私はシリィに聖別に生き残った者の数だけ、グラスを容易させました。
グラスに極彩色になった水を注ぐと、私に続くよう命じて飲み干しました。
喉への痛みさえありません。
あるはずなど無いのです。
だって、私達は王子様に選ばれたのですから。
きっと世界を滅ぼした後には、私達だけが生き残るべきなのです。
‡亡国の姫:マームシドリーク・ダーキャン
私は、もう国にも民にも価値を感じないかな。
私を化け物として怯えた者にも、私を殺して助かろうとした者にも、自分達だけ上手く逃げた者にも、最早価値は感じられないわね。
でも、ハイジレア様だけは特別。
ハイジレア様は、私を
あの人は私に、生きるべき仲間だと言ってくれたのだから。
あの人の為であれば、私は私の所有物である民を幾らでも捧げたい。
民は国の所有物であり、国は王族の所有物であり、私はハイジレア様の所有物。
私が実験材料確保の為に、ヒューマン捕獲隊長を任せて頂けた事は望外の喜びなのよ。
ハイジレア様の為に、幾らでもヒューマンを生け捕りにしましょう。
そして、私自身の近衛も必要よね。
私の翼で突き刺すと、極稀に直ぐに死なない者がいた。
私はハイジレア様にして頂いた様に、倒れた者に回復魔法を掛け続けた。
背中から生えた円刃状の羽が私を傷付けたけれど、そんなことは気にしてはいけないわ。
だって、この子にとっての私は、私にとってのハイジレア様になるのだもの。
ああ、不敬にもハイジレア様と同一になれたと思うと絶頂しちゃう…。
「自己の改変を願いなさいな。
より強く、より美しく、より賢く、特別に優れた己へと変わる事を心から願いなさい。
死屍累々の地獄でも笑って生きられる己を創造し直しなさい。
でなければここで────死ぬだけよ」
以前見込みがあった個体は、後少しの所で崩壊したわね。
これまでの経験則からすれば、平民やゴブリンではこの試練を乗り越える事は無いの。
だから、地方領主の子供らしき彼等で試してみたのだけれど、ひょっとして上手くいったのかしら。
いえ、上手くいったに違いないわ。
これで、この子達も私の戦力。
そしてハイジレア様から見た、私の価値も上がるというもの。
私が監督して、逃げる者や働きの悪い者を罰する、ヒューマンだけで構成された部隊。
そこに今回生き残った少年を副官として置いた。
「僕はお前らとは違うんだ。選ばれて特別になったんだ。
ただのヒューマンが僕に逆うとか、そういうの無しなんだよっ!!」
同じヒューマン部隊の、中央貴族であった成人男性を壊しながら、自分の力を試す事を楽しめている。
私は彼の羽化を肯定して祝福した。
「そうよ、貴方は特別。
私の大切な、弟の様な存在よ」
少年は一度動きを止めると、甚振っていた男性を真っ二つにしていた。
「僕は貴方の特別、ですよね」
私は少し考えた振りをすると、優しく抱き締めて肯定した。
「だから、しっかりと働いてね」
言葉を聞いた彼は嬉しそうに頷いた。
私の本当の弟は、何処にいるのだろうか。
私を置いて逃げた事は許してあげるから、早く私の試練を請けに来て欲しいわ。
そうすれば、代替品を愛でなくても構わなくなるのに。
でも、そうね。
私の試練を耐えられないのなら、マロスメールもそこまでだったということかしら。
それならば、それまで、ね。
私のヒューマン部隊は、ゴブリンの村へと辿り着きました。
ゴブリンの何匹かは、自分は他のゴブリンとは違ってヒューマン並に優秀だと訴えてきましたね。
他のゴブリンはどうしようもないけど、自分はヒューマン基準でも価値があると。
本人がどういうのも勝手だけれど、どういった所でゴブリンはゴブリンでしかないわ。
エルフはヒューマンとゴブリンを見下して、ヒューマンはゴブリンを見下すのは当たり前だけど、ゴブリンは他のゴブリンを見下すのね。
まーた要らない知識を得てしまったかしら。
ヒューマン相手では、自分も死ぬかも知れない殺し合いに怯える部隊員達も、ゴブリン相手ならそれ程心配なく狩りを楽しめる。
最近では珍しくホッとした顔で楽しめているようだわ。
ストレス緩和の為にも、イージーステージで無双気分を味合わせてあげるのも、上司の務め…かしらね。
それでも副官の少年には、一声掛けておきましょうか。
「ゴブリンさえ殺せない役立たずがいたら、八つ裂きにしていいわよ」
少年は、笑顔で任せて下さいと答えた。
ところで、あの少年の名前ってあったのかしら。