【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫 作:流されそうめん
†戦士:リオット・ボージョレ
現在魔法鎧を使って戦えるのは、俺とロイネとマロスメールだけ。
マロスメールの部下のイクァクスァは、魔法鎧に喰われかけたので、使わせてはいない。
使わせるとしたら、此処一番の大きな戦いだろう。
魔法鎧は不適合者が装着していると、常に内側に無数の牙が伸び続けてくるという欠点がある。
逆に言えば、問題はそれだけだから、後の事を考えなければ、装着して戦わせる事自体は出来る。
替えの利かない人員を使えない制限は何とかすべきだ。
ふと俺は考えた。
俺達に逆らわず、命を使い捨てられる人材がいるのなら、魔法鎧に適合しない人間を、鎧に喰われる前提で毎回戦闘に使用出来るのではないかと。
師匠達もアイデアを褒めてくれた。
問題はそんな人材をどう集めるかだ。
俺達という正義への忠誠があって、その上で替えが利く程度の数も必要だ。
魔法鎧を持ち逃げられたり、攻撃されては堪らない。
そして戦闘の度に毎回補充しなければ、使い手がいなくなる。
ああ、そうだ。
宗教が良い。
チャレン人民平等国には、国教として総本山のヨモジ神教とは大きく
アレを真似しようか……いや、時間がない。
そのまま乗っ取ろう。
俺達は統一派教祖の家を襲った。
教祖の家の護衛として配置された信者を皆殺しにして、教祖を脅した。
魔法鎧で変身する俺達を、統一派の中では天使と認定させ、教徒に発表させた後、教祖を殺して実権を奪った。
これも正義の為に必要な事だった。
この時、師匠というかロイネの母さんが死んだ。
回復魔法でもどうにもならない毒の影響が、遂に命に届いたようだった。
俺と
元々統一派もチャレン人民平等国も周囲の国から危険だと睨まれていたので、統一派の一部を名前を変えて世界平和派として他国に忍ばせて保険としつつ、俺達が装着する三つを除く二つの鎧を使わせて、近隣の小国や大国の離れ小島を侵略する事にした。
大国が怒ってチャレン人民平等国が滅んでも構わない。
侵略している間に、統一派の教えを染み込ませるのが本来の目的であり、そのケースでしかないチャレン人民平等国が滅びても何の問題もないのだから。
寧ろ受け皿である国が消滅した方が、中身が流れ出て広がりやすいというものだ。
師匠も言っていた。
国を持たぬ民が国を求める結果は、他国の内部侵略だと。
弱者・被害者の立場を主張して、強者にタカるのは必然なのだと。
チャレンを侵略させるのなら、国土が広く国内の統制力の低い国に侵略されたい。
そう考えていると、チャレンの内政担当者が俺達に話し掛けてきた。
彼が優秀なら、その逆のことをチャレン人民平等国を消滅させた国でやらせれば良い。
だがそうでないのならば、彼をこの国を支配した国で上の地位に立たせる事が大切だろう。
無能が組織票を集める事は、強国の衰退原因の中でも大きなものだ。
さて、個人の才能で明確な優勝劣敗が行われる独裁帝国の中で、弱者の票を集める弱者の代表がどれだけ役に立つかは分からないが、正義の為に頑張って貰うしかない。
結局のところ、別に彼が成功しても失敗してもどうなっても良い。
俺達の目的は民主主義を広める事でも、共産主義を広める事でも、ましてや宗教を広める事でもない。
あの大ムカデを殺す事が最大にして唯一の目的であり、それ以外の全ては手段に過ぎないのだから。
大ムカデを倒せる独裁者がいるのなら、未来さえ含めた世界全ての民主主義だって、捧げても構わない。
チャレン人民平等国家代表:ウワ・アザッコ
我が国は国内の内政を行う国家代表である私と、外貨と国民の指示を集める実質的な支配者である教祖様の二人が統治している。
いや、統治していた。
アレは突然の事だった。
力の化身が神の使徒を名乗り、国を支配した。
国にとっては必要で、私にとっては目の上の瘤である教祖は消えた。
私は恥じる事なく媚び諂った。
彼等のやりたいように行うには、行政の実務者は必要であると説いた。
結果あの教祖は死んだが私は生き延びた。
ふはははは、やった!!
私は生き延びた!!
そう喜んだのはひと時の間だけだった。
しかし、私は命の危険が寧ろ近付いたことを知ってしまったのだ。
『御使い候補生』という、実質的な生贄を国民に命じる役目を負わされたのだ。
私が形式的に任命するといっても、その権限は私にはなく、教祖を殺した男達にあった。
今は良い。
第三、第四の御使いになれると、熱心な信者達は盲目的に従ってくれている。
しかし、それは彼等を騙すための御題目だと知られたらどうなるのだろうか?
きっと私は国民に殺される。
奴等も私を助けてはくれない。
こうなれば、それを知って主張する者は、神に逆らう者としてみせしめに処刑して、国民に悪と知らしめる他はあるまい。
私は死にたくない。
その為なら幾らでも騙し続けよう。
事実を主張する者を異端として殺し続けよう。
そうしないと私が生きられないのなら、私にとってはそれが正解なのだから…。
†ユーシオレハイ帝国皇帝:サトゥリーク・ユーシオレハイ
一年前に解禁して法的に認められた奴隷制に、未だに反対している人権派共を根絶やしにしろ。
徹底的に見せしめにするのだ。
平民としての価値も無い者共を奴隷にするだけで、国家の運用効率が税金の収支で見ると25%も増加した。
思考を使えない、命じられた仕事をするのが限界の生物は、使い潰すに限る。
何故歴代の皇帝は、人権を与える価値も無い連中に、不必要な人権を与えたのか理解に苦しむな。
「陛下、お耳に入れたい事が御座います」
「俺の耳に入れる価値のある言葉なら申してみよ」
そうでなければ、無駄な報告は控えるべきだろう。
「チャレン人民平等国が我が国に殺害された人民と、破壊された国土について、謝罪と賠償を申し立てました」
はて、俺はチャレン人民平等国が統治力の無さ故に、ゴブリンに支配されてしまった土地を、武力で浄化した褒美として手に入れたまでだ。
「俺が何と答えるか解らぬ貴様では無かろう」
「そう答えられると思って、既に戦力は準備させております。
ですが、号令はやはり陛下のものでなければと思いまして」
流石は我が腹心キルオール。
良い仕事をする。
「聞いておこう。
何故俺が攻め入ると思う?
資源か? それとも土地か?」
「勘違いも甚だしく、陛下に対して謝罪と賠償を求めた礼儀知らず故に」
その通りだ。
俺に、俺の国に、逆らおうと思うこと自体が、死に値する失礼だと叩き込む事が必要だ。
武力こそは最高の外交手段である故に。
遺憾を示すことにさえ、滅びを与える事を続ければ、世界には俺に従順な国だけが残る。
そうすれば、我が国は他国に圧倒的に有利な条件での外交や貿易が可能となる。
問題はユーシオレハイより強い国に対しての態度だが、幸いな事に我が国を滅ぼそうとする国は、近隣には存在しない。
寧ろ我が国の在り方を見習って、敵を滅ぼし圧倒的に不利な条件を飲ませて、価値の無い人間は容赦なく奴隷にする。
その奴隷の選定条件も、能力値によって明確に示している。
間違って優秀な者を奴隷にはさせない。
価値ある者にだけ、価値ある人生を与える事で、適切に税金は節約出来るのだ。
俺の代になってから僅か三年で、先代の全盛期よりも国は富み軍は強くなった。
軍に関しては、数値にして三倍以上だ。
戦争の出費を含めてこれなのだから、圧勝出来る戦争はどんどん挑むべきだ。
例外としては、相手の国が一方的に優秀な人材と資産を貢ぎ、不要な民を受け入れる契約を結んだ時だけだ。
「後二つお話があります」
「何だ言ってみろ」
戦争に集中するべきとは思うが、キルオール程の男が言うのなら聞いてやろう。
「チャレンに呼応したのか、ヒコンコン人道主義国も逆らいました。当然此方にも戦力を用意しております。
一応の理由は、ヒコンコン人であることを理由に差別され続けたからだと」
「そうか、なら力で正しさを教えてやろう。
さて、最後は何だ」
もう一つ他国が戦争しようとしているのか?
折角なので徹底的に痛め付けて、今後逆らおうと考えていた国の思い上がりも冷ましてやろう。
「内乱の予兆です。
奴隷が死んだ場合に、奴隷の家族に侘び金が支払われなかったと喚いています」
「キルオール、お前は家畜が死んだ日には、他の家畜の餌を豪華にしてやろうと思うか?」
「いえ、全く」
だろうな。
では、内乱を治めさせよう。
「どうせそれにも、
「当然です」
流石だ。
あの災厄デスプリンドラに近しい種を戦力とした我が国には、不可能は少ない。
本物のデスプリンドラとは比べ物にならぬだろうが、デスプリンドラをエルフとした時のゴブリン程度の力はある。
いや、足りぬかも知れぬが、それでも他国を蹂躙するには十分だ。
スパークペンドラ。
触れるものを感電させる殻を持ち、大地にしがみ付いて口から電撃を吐く。
成体で民家より大きな程度で、知能は犬猫と変わらない。
これの飼育に成功した我が国は、幾らでも驕れ、その上で勝てる。
二正面作戦と内乱鎮圧を同時に行える。
とはいえ、兵士共がムカデばかりに期待して怠けてはいかん。
故に、兵士は全戦力をチャレンに向けさせて、しっかりと敵の人間と殺し合う経験を積ませよう。
チャレンはエルフもヒューマンもゴブリンも平等だと主張していると聞く。
ならば望み通り、戦後はチャレンの国民を全てゴブリンとして扱ってやろう。
働かせても賃金は無く、殺しても罪には問われない
「キルオール。チャレン方面だけはムカデを使わず攻めさせろ。
命を捨てるのが仕事で高給を奉じている者が、死ぬ恐怖を耐えられぬのでは仕事にならない。
それに殺し合い勝利した人間が近くにいる方が、奴等に戦後の劣等感を味合わせ、服従させるには良い」
「つまり内乱に関しては、存分に使って良いとの事ですね。
しかし困った。
ムカデには喰っても良い人間と悪い人間の区別が付きません」
ならば貧民街でのみ、ムカデを使おうか。
貧民街での治安が悪いのは、安い家賃の貧民街でしか住めない稼ぎの低い連中が多い地区だから。
そして人は貧しいから悪に走るのではなく、悪に走る連中は元々その素養があるのだ。
†ユーシオレハイ帝国執務官:キルオール・ジェノサイダー
圧制は愚か者がすることだとか、恐怖による統治は臆病者のやり方だとか主張する者共が偶にいるが、陛下を近くで見てきた私はそれを完全に否定出来る。
陛下は常に民衆の意見を聞き入れ、逐次反映してきた前皇帝よりも、高い成果を出し続けている。
そして、以前陛下が「面白いものを見せてやるから着いてこい」と私に告げた後、私が連れられて来たのは、大きな民家であった。
周囲には兵士達が囲んでいた。
どうやら、反政府組織である『革命同盟』が立て籠もり、皇帝を連れてこいと主張しているようだった。
陛下は、「今からお前らが憎む皇帝が乗り込むぞ」と告げると、一人で家屋に入っていった。
私は陛下が説得に赴いたのだと思っていた。
この時まで、陛下は強過ぎて弱者の感情を理解出来ず、それにより相手の感情を逆撫でして、殺されてしまうのではと勘違いしていた。
そして陛下が扉を蹴破って入ると、中から怒声と悲鳴が続いた。
そこまでは私も兵士も誰もが想像していた。
私は早く助けに行かねばならないと考えつつも、弱者を顧みない王はどの道いずれ死ぬとも思っていた。
故に動かなかった。
五分程経った後だろうか、私は陛下が死ぬのではと不安でならなかったが、最初に陛下ではなく見知らぬ男が出てきた。
その男はよく見ると頭に剣が刺さっており、前のめりに倒れた。
背後には軽く微笑を浮かべた陛下が立っていた。
「思ったよりも手応えが無く退屈だった」
それを聞いた私は、獅子はネズミやブタの気持ちを図らずとも生きていけるのだと教えられた。
捕食者は物言わぬ躯が何を考えていたかなど知らずとも、殺して食えば明日の朝日を拝めるのだと学ばされた。
我が皇帝は偉大だ。
普通なら、二正面への戦力分散や、戦勝前からの相手に飲ませる条件を考えることに時間を費やす王は無能の代名詞だが、我が皇帝はそれをやった上で全て勝ってきた。
結果として複数の敵を倒して、戦後は速やかに敗北国から利益を吸い上げられている。
その理由は努力でも日頃の行いでもなく、我が皇帝が、我が国が単純に強いからだ。
私自身が陛下の様に強い訳でないので、驕るつもりはないが、陛下の基準で優秀な部下であれば、今後も勝者として生きていける。
私は幸せだ。
そして、私と同じ様に価値のあると陛下に認められた者は幸せだ。
ユーシオレハイ帝国万歳!! サトゥリーク陛下万歳!! 弱肉強食優勝劣敗の世界に祝福あれ!!