【人外モノ】百足の神獣と闇落ちエルフの姫 作:流されそうめん
余はこの世界の広さを知らない。
一体どれだけ
それにヴォルクリスタに適応する存在の中に、余を害するものが今後発生しない保証もない。
唯一断言出来ることは、世界全てがヴォルクリスタになったとしても、それが原因で余が生存出来なくなることは無いということだけだ。
本来なら余は他の生物を食わずとも生きていける。
生まれて直ぐに母から熱を与えられて以降、余は体内に疑似燃焼する臓器を持ち、その魔力炉心の中で取り込んだ鉱物に熱と圧力を加え、存在を変質させる過程で生まれるエネルギーを自己の肉体の維持・成長と、魔力生成に使っている。
環境改変能力は、その際の魔力によるものだ。
余の知能が他者に劣る…とは考えたくはないが、危険生物達とは知能を使う方向に違いがあり、分野によっては余を上回る事もあるのかも知れない。
ヴォルクリスタに適応して、湯に使っても破損しなくなった危険生物の亜種。
一見友好的ではあるので、その使い方の中に奴等の知能というものも無くは無いのだろう。
だが、余はたった一つの個体で完結出来ている。
他者がどう考えていようが、余の生き方を誰かに影響させる事を許すというなれば、それは既に亡き母のみであろう。
余は、余の思うがままに生き、余の思うがままに死なん。
最近の思考内容の多くは、余の魔力によって、危険生物の亜種の数割が翅持ちになった訳だが、それらの割合を増やすか否かということだ。
つまりは、友好的に見えるそれらを、ヴォルクリスタに適応させ、更に戦闘能力を高めた種族へと進化させて良いのかというものだ。
以前の余であれば即決していた。
翅持ちは、余の身体を傷付けられる程度の魔力を持っている。
身体能力も高く、飛行能力であれ申し分ない。
余に逆らい傷付ける理由が少しでもあるのならば、危険を排除し安眠を手にする為にも、滅ぼしておくべき対象であった。
余が今まで翅持ちを滅ぼさない理由は、これまで敵対行動を翅持ちが一度もしてこなかった事が理由だ。
危険生物の通常種は、逆らわれて戦えば、己を傷付けうるウシやウマを従えている。
今の余は、翅持ち達に対して、それに近い感覚を認識しているのであろう。
そう考えると、残り全ての危険生物亜種も、翅持ちに変えてしまっても良いのではないだろうか。
不適合者が宝石化して死ぬ故に、亜種の数そのものは減るだろうが、余には関係の無い事だ。
直ぐにはやらないが、何れ全ての亜種は余の魔力で染め上げてやろうではないか。
どの道、翅持ちが不実体の翅を危険生物亜種に長く触れさせていると、余が直接変化させた翅持ち程ではないものの、そこそこの翅持ちにはなってしまうのだから。
問題は通常種だ。
亜種は翅持ちになろうと、行動パターンは変わらない。
なれば、通常種が翼持ちになったとしても、行動パターンは変わらないのであろう。
余に敵対する通常種に翼持ちが増えるのは避けたい。
能力の上昇という意味では、翼持ちは翅持ちよりも弱い。
しかし、ヴォルクリスタの環境で損傷しないというのは、致命的に良くない。
余の縄張りにおいて最大の防壁は、ヴォルクリスタの環境そのものである故に、それを無効化されては堪らない。
通常種にとっては耐えられぬ熱と毒。
ヴォルクリスタにいるだけで致命的となる。
それこそが余にとっては大いなる守りであり、安寧といえた。
翅持ちの不実体の翅が、危険生物通常種に触れていても、極稀に翼持ちが発生する。
その意味では、翅持ちを増やし過ぎると、余に敵対する翼持ちが増加してしまう可能性が高まってしまう。
勿論、余の縄張りにおいて最大の防衛機構は余自身なのだが、だからといって無駄にリスクを高める必要もない。
逆らわぬ翅持ちは防衛機構となり得るが、逆らう通常種を翼持ちにはしたくはない。
ならばどうすれば良いか?
答えは簡単であった。
余に逆らう通常種が翼持ちになる前に、余に逆らう通常種全てを滅ぼしておけば、その危険性は無くなるのだ。
故に危険生物の巣を迷うことなく、積極的に駆除していかねばなるまい。
ある程度大きな巣は、気が付かれる前に即座に滅ぼさねば、
あれは、翼持ちが敵対した場合よりも単体としては危険なものだ。
救いは、
何時も余という脅威に合わせて召喚される。
元からその地に増えている
余は北へと進軍した。
土の中を掘り進み、北へと向かった。
途中から、地下水脈が多くなり、その辺りでグルグルと掘りながら回っていると、水脈が束になって上へと昇っている場所があった。
余はその水脈が集まる根本で、強く強く魔力を発露させ、土地そのものを染め上げて、ヴォルクリスタへと変質させた。
余の情報に染まった魔力が、周囲の土と水を染め上げる。
大地の情報そのものを、地下深くから改変していく。
水は輝き始め、石は虹色へと変わっていく。
今日起きてから此処に移動までには、土地の改変など意識せず、兎に角速度を最重視して進んで来たのだ。
その分、此処で意識的に染め上げておこう。
幾つもの水脈がぶつかり、上に向かって昇る。
その手前にある、円状に並んだ八の水脈全てに、身体を浸す様に石を砕き土を彫って、身を横たえた。
再度、余はこれまで以上の濃度で魔力の発露を行った。
水の輝きが更に眩しくなり、余は目を閉じた。
そしてそのまま眠りに着くことにした。
† 水の町アクアヴィータ町長の息子 フラン・ボヤーン
あの日のことは一生忘れないだろう。
俺様が生まれた町は、神に愛され地下水に溢れる豊かな大都市であった。
人が生活していく上で最も大切なのは清潔な水だろう。
その水が、至る所から湧き続けるアクアヴィータは、正しく神の寵愛を受けた土地だった。
計算されて作られた水路により、都市の汎ゆる場所へと船を使って移動出来る。
川の水と違って、下から湧いてくる水故に、その後どの方向に動かすかは水路次第で、制御しやすい事も大きかった。
どの家にも地下水による生活用水が用意され、恵まれた土地であったが故に、他国から酷く狙われた。
だが、俺様の父親は、一つの町でしかないアクアヴィータで、幾度となく大国を退けて来た。
それが我が町を攻めるのには、必ず水路で濡れる必要がある敵兵に対する電気属性の魔法師団によるものだった。
魔法師団の訓練は厳しく、自分も含めた小隊全員が水の中に入った状態で、近くにある目標物だけを電撃で焦がす訓練をしていた。
己や仲間が電撃に対する耐性がなく、その上で水の中で無秩序に拡がる電気を制御出来なければ、己と仲間は死ぬ。
そんな訓練をしていた故に、雨の日であっても防衛に失敗した事は無かった。
俺様は師団の幹部候補生として、親のコネではなく一から師団長になると、幼馴染に誓って、それを実現すべく力を尽くしてきた。
あの町では、水は何時だって俺様達の味方をしてきた。
そう…、あの日までは。
あの日、町から水が消えた。
水が一度地に沈み込んで、水路の底が見えた。
急いで町民に井戸を確認させた所、井戸の中にも水は無かった。
これは深刻過ぎる自体であり、生活面においても、防衛面においても、直ぐに解決しなければならない問題であったが、その原因がさっぱり分からない。
もしかすると再び水が湧き出るかもしれないし、そうならないかもしれない。
町の方針としては、暫くそのまま待って様子を見る事であった。
高台から、町の外の川を見ても、徐々に水位が低くなって来ている。
待つだけで、水位が回復しなければ終わってしまう。
取り上げる、応急的に今残っている水を市民に確保させる事だけはさせた。
取り敢えず様子を見る為に、町の中央にある、水が湧き出る大穴に、調査員を行かせた。
その三十分後、勢い良く水が湧き出た。
石の様な何かが吹き出て来た。
地面に落ちて砕けたそれは、穴の調査員として行かせた者達であった。
俺様達はそれに驚いている暇は無かった。
水が見たことも無い輝きを放っていたからだ。
町の歌姫がその水に手を触れると、
俺様はそれに喪失感を感じると同時に、町長の息子としてこれ以上被害者を増やさせてはならないと感じた。
「水に触れるな。石にされるぞ!!」
そう叫んだ直後、町の至る所から悲鳴があがった。
その騒音のせいで、歌姫の像が水路に落ちていった水音は掻き消されてしまった。
俺様達は必死に逃げた。
美しき地獄へと変えられた、神に見放された都市を捨てて。
町の半数近い民が、今も町に残っている。
物を言わぬ石像となって。
俺様達は旅を続け、その原因が邪悪なる大蟲にある事を知った。
町で佇む物を言わぬ市民の為にも、幼馴染の歌姫との誓い為にも、俺様は必ずあの大蟲を斃す。
そして俺様を喰らおうとした魔法鎧を逆に屈服させて、無理矢理適合させた。
常に体表面に電気を纏わなければ、内側に向けられる鎧の牙は俺様を食い破るだろうが、知ったことか。
俺様には、今更我が身可愛さを嘆く資格などない。