The Back Rooms Story 〜Fanmade〜 作:犬社長
しばらくは彼女の物語です。
20話〈放浪者③ジェニファー・ウィルソンはどうやってバックルームにやって来たか〉
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いつも通る道。
いつも見る景色。
その中に僅かに、しかし確かな違和感を感じたのはーーー。
◇◆◇
…みんなは、こんな体験をした事はないだろうか?
見慣れた景色の中に前まで無かった筈の扉を見つけたり、不自然に暗い場所や、謎の不快感を感じる場所など見つけた事が…。
そういう場所には気をつけた方がいいかも知れない。
……もしかしたらそこで貴方は、〈バックルーム〉への片道切符を手にする事になるかも知れないからだ………
◇◆◇
「…お客様?…お客様!」
誰かが私を呼んでいる…。
「…あ……うぇ…?」
眠りの沼に沈んでいた私の意識が急速に浮上する。
目を瞬かせながら、私は椅子にもたれていた体を起こした。
…首が少し痛む。…寝違えでもしたのだろうか。
私の前には車掌らしき人が立っていて、私の事を呼んでいた。
「お客様、終点に着きましたよ。降りて頂けますか?」
「…終点……え、終点!?」
慌てて私は周りを見渡した。
私は私以外誰も乗っていない電車の車両の中に居て、そして電車は深夜の闇に包まれた駅のホームに停まっている。
(あ〜あ…また寝過ごしたのね……)
私は状況を理解してため息をついた。
終電で寝過ごして、本来降りる駅で降り損ねるのは別に今回が初めてじゃない。
車掌に従って列車から降り、改札を通って駅から出る。
スマホを見れば、既に日付けが変わっていた。
「…明日の始発に乗れば家に帰る時間があるかな。」
そう呟いて駅前のビジネスホテルに向かう。…もうこの道も通り慣れてきてしまった。
ホテルに入って、もう顔見知りになってしまいそうなぐらい何度も顔を合わせている受付の人にチェックインを頼む。
「ーーーこんばんは。宿泊ですか?」
「はい。部屋空いてますか?」
「空いております。こちらにお名前をどうぞーーー」
差し出された名簿に私は名前を書く。
「ーーーーーーはい。」
「ありがとうございます。……ジェニファー・ウィルソンさんですね。ーーー308号室へどうぞ。」
渡されたキーを握って私はホテルの階段を上がる。
…割り当てられた部屋は廊下の一番奥だった。
(角部屋ね。…悪くないわ……ん?)
間接照明に照らされた廊下を歩いている時、ふと突き当たりに前は無かったドアが有るのを私は見つけた。
(…?こんな所にドアなんて有ったっけ?)
ただドアが増えただけなら、新しく部屋を増設でもしたのだろう、と思える。しかし、彼女にはどうしても引っ掛かるところがあった。
(…私の部屋が建物の一番隅っこで、ここから先は部屋が無いのに……何でドアがあるの?)
不思議に思いながら近づくと、ドアが少し開きかけていることに彼女は気づいた。
隙間を少し開けて中を覗いてみる。……ドアの向こうにあった部屋は、彼女の想像よりもずっと広かった。
…そして、全体が黄色に塗られている。
(な、なにこれ…いつの間にこんなに広い部屋が出来たの?)
そう驚きながら、彼女はその謎の部屋へと足を踏み入れた。
ーーーーー何故、自分は躊躇いなく謎の部屋の中に入り込んだのか…後から思い返してみても、それらしい理由を探す事が出来なかった。
ーーーーーそれはもしかしたら些細な好奇心だったのかも知れない。
彼女がドアの中へ入った時、ドアは背後で音もなく閉まった……
◇◆◇
ブーーーーーーン……
病的なまでに黄色一色で彩られた部屋には、常に耳障りな音が響いていた。
(何この音?蛍光灯の音かしら…?)
そう思って天井を見ると、等間隔で無機質な光を放つ蛍光灯が取り付けられているのが見えた。
(ーーーーーそれにしても、こんなに広いのにこの部屋には何も無いわね…。)
まだ、建設途中で何も置いていないのだろうか…と彼女は考えた。
(やっぱり、こんな所に入っちゃいけないわね…さっさと戻って寝ましょう。)
そう思った彼女は踵を返すと廊下に戻るドアを開けた………が、
「……あれ?」
思わず目を擦る。
いや、見間違いなどでは無い。
「ーーーーーーうそ?どうなってるのッ!?」
何度も自分が通ってきたドアを見ては、あまりの意味不明さに頭をかかえる。
(な、何がどうなってるのよ…私はこのドアからこの部屋に入ってきたのに…何でドアの先に同じ部屋があるの!?…ホテルの廊下は、どこに行っちゃったの!?)
答えが彼女にわかる筈が無かった。ーーーーー廊下は彼女の前から、忽然と消えてしまったのだ…いや、
この日バックルームにまた1人、新たな放浪者が迷い込んだーーー。
◇◆◇
…古臭いカーペットの香りがうっすらと空気中に漂っている。
天井の蛍光灯は耳障りなハム音を立て続け、その光と音に満たされた黄色い部屋は、無限に続いている様に思えた。
(何よこれ…夢を私は見ているの?いったいここは何処なの?)
額に手を当てながら、彼女は黄色い世界を彷徨い続ける。
…何処かに座って休みたい。彼女はそう思った。
一日中仕事をして疲れた体は、この狂気じみた黄色い部屋を彷徨う事に早くも根をあげ始めていた。
(もう1時間も経ってしまった…早くここから出ないと…。)
彼女は焦っていた。焦りは視界を狭め、集中力を削いでいく。
少しずつ、彼女には余裕が無くなってきた。
自然と歩く速さが早くなる。
(…出口…出口は一体何処なの!?)
探せど、探せど、出口は一向に見つからない。奥へ行けば行くほど元の場所に戻れなくなっていくーーーーーそんな気がした。
「…いったい何だって言うのよ…もう!この場所は何なのよ!」
思わず独り言を口走るジェニファー。
応えるモノ無く黄色い世界に消える独り言……
…いや、その独り言に、
ーーーーーただし、
『…ォォ……オオオオオオオオオオ!!!!』
「ーーーッ!?何!!誰ッ!?」
突然、
黄色い廊下の奥から漆黒のナニかがこちらに走ってきている…
少なくとも…ヒトでは無いことは確かだ。
「ーーーーーー!!ナニよあれ!!怪物ッッ!?」
ジェニファーはその姿を見た瞬間、凄まじい悪寒を感じてその場から走り出した。
(…アレは…!アレに追いつかれたら…!)
初めて見る得体の知れないモノ……しかし、アレをひと目見た瞬間から、本能が叫んでいるのだーーーーーー
(ーーーーーアレは私を殺す!!!!)
ーーーーーと。
『オオオオオオオオオオオオオオオオォォォォ!!!!』
轟く叫びの主ーーーーー〈
凄まじい殺気を放ちながら、ジェニファーを追う〈
死の追走劇は唐突に始まり、そして…唐突に終わる事になる。
◇◆◇
ーーーーージェニファーが逃げ場を求めて走り込んだ部屋は、不思議な場所だった。
(何よこの部屋!!四角い穴だらけじゃない!?)
ーーーー広い部屋全体に四角い穴がいくつも空いていたのだ…。
床に空いた穴と穴の間はヒト1人がやっと通れるぐらい細くて狭く、穴の中は真っ暗で、底があるのかどうかすら分からない。
部屋の反対側には扉があるが……
(…こんな所…落ちたらお終いじゃん!!)
ーーーー怪物の足音は直ぐそこまで迫って来ていた。
…追いかけられながら、この狭い足場を渡って行くのは現実的では無い。しかし、最早手段はそれしか無かった。
『オオオオオオオオオオオッッ!!』
遂に部屋の扉を蹴破って彼女の前に姿を表す〈
ジェニファーは狭い足場を渡り始めた。しかし、穴に落ちないようにする為には慎重に行かなければいけない。
そして、〈
『オオオオオオオオオオオッッ!!』
伸ばされる漆黒の細長い異形の手。
「ーーーーーーあッ!!」
伸ばされた手はジェニファーの背中に当たりーーーーー
ーーーーーギリギリ届かなかったのか、〈
…が、手が背中に当たった事でジェニファーはバランスを崩して穴の中に落ちていった……。
「いやァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」
叫びながら穴の中を落ちていくジェニファーが最後に見たのは、こちらを穴の上から見下ろす、〈
やがて、ソレすらも見えなくなり、ジェニファーは落下していく中で自分の意識を手放したーーーーーーーーーー。
to be continue