The Back Rooms Story 〜Fanmade〜 作:犬社長
[ジェニファー視点]
ーーーーーー私の前に、銀色に輝く電車が滑るようにやって来た。
決して駅などでは無いただのショッピングセンターの中に、当たり前の様にやって来た電車に戸惑いと驚きを隠せない。
(…何コレ!?いったい如何いう事なの?)
私の目には、電車の後端は壁にめり込んでいる様に見えた。
…しかし、壁は壊れていない………壁と電車…どちらも、お互いに干渉していない様に見えた。
「…すげぇ…奇跡起きたじゃん……。」
横でジョンが呆然と呟く声がした。
その声は、まるでこの電車を知っているかの様な口ぶりでーーーーーー
「…ジョンさん?この電車を知っているんですか?」
その問いにジョンは頷くと、座らせていたピーターを背負って歩き始める。
「ーーーああ、知ってる。レベル11で言わなかったっけ?コレが〈the metro〉へ繋がるただ一つの道だよ。今の俺達の望む物全てがこの電車一本で叶う……奇跡とはまさにこの事さ…。」
…そうジョンが言った時、電車の先頭車両のドアが開いて紺色の制服に身を包んだ車掌らしき人が此方にやって来た。
如何やら、車掌らしき人は驚いているらしく、こちらに向かって足早にやって来て叫んだ。
『何と!ーーーーーーーーこれはこれは!!…ジョン・ドゥさんじゃあ無いですか!?………やっぱり、生きていらしたのですね?』
そう言う車掌に向かって、ジョンが軽く片手を上げて挨拶した。
「ーーーどうも、久しぶりです車掌さん。今貴方が此処に来てくれて本当に良かった……実は、助けて欲しい人がいるんです。」
…そう言って、背中に背負ったピーターを見せるジョン。
車掌の顔がピーターの方に向く。
『……ふむ。コレなら、今の私でも何とか出来ますね。ちょっと待ってて下さい。』
…そう言って、車掌は電車の中に引っ込んでいったかと思うと直ぐに一本のアーモンドウォーターを持って戻ってきた。
「アーモンドウォーター…ですか?それなら、さっきもう…。」
『ただのアーモンドウォーターじゃ無いですよ…コレは
「…失血にも対応出来るのか?」
ジョンの疑問に車掌は頷いた。
『スーパーアーモンドウォーターに不可能は有りません。なので大丈夫です。』
「…何でもありだな…ソレ。」
もはや呆れてしまったジョンの前で、車掌は栓を開けたスーパーアーモンドウォーターをピーターの口の中に流し込んだ。
………ゴクリ。
ピーターの喉が一回動いたかと思えば、次の瞬間彼の閉ざされていた目が、カッと見開かれた。
「ーーーーーーーー!!!!」
その場から飛び跳ねる様に起き上がるピーター。
「…ピーター!?」
「ーーーーーー俺はこの世の全てを理解したッ!!!!」
「「ーーーは?」」
起き上がったと思ったら、いきなり訳のわからない事を口走り出したピーター。
ジョンとジェニファーの2人は呆気に取られてしまった。
「…いきなり何なの?」
「…と、取り敢えず元気になったみたいで良かったが……どうした?刺されたショックで頭でもおかしくなったか?」
ピーターが今までで見た事もないぐらいの明るい顔でこちらを振り向く。
「ああ!おかしくなったかも知れねぇ!!今最ッッッ高に頭が冴えてんだ!!まるでヤバい薬でもキメた気分だぜ!!!」
『…スーパーアーモンドウォーターヲ飲ンダ影響デ、精神ノ昂リガ抑エ切レナクナッテ居ルンダナ。……単純ナ奴。』
そう〈
「おお!喋ってるのは猫か!?すげぇ!この世の全てを理解したら、猫の言葉すら解る様になるんだな!?」
『ソンナ訳ナイダロウ……。』
それを聞いていた車掌が軽く笑った。
『フフ……ふむ。…少し効きすぎたみたいですね。4分の1量で良かったかも知れないですかね……。』
…まぁ、兎に角ピーターが元気になったのは良い事だ…ちょっとうるさくなったが。
◇◆◇
ジョン、ジェニファー、そして元気になったピーターは電車に乗り込み、ジョンにとっては二度目、ピーターとジェニファーにとっては、初めて会う車掌さんに挨拶をしていた。
「助けて下さり、有難うございます。…ホントに。」
ちょっと落ち着いたのか、ピーターが車掌さんに頭を下げる。
『…別に構いませんよ。ジョンさんのお友達なんでしょう?助けない理由は無いですからね。』
そう言って車掌さんは笑った。
一方、ジェニファーは不思議そうに電車の中を見渡している。
「……中はただの電車って感じね。出発は未だしないのですか?」
ジェニファーがそう呟いた。ーーーーーーー確かに、みんなの挨拶が一通り終わっても電車が出発する気配は無い。
車掌さんが腕時計をチラリと見て答える。
『…そろそろですかね。ちょっとこの場所で停車する時間が有りますので。』
「ーーーそうなんですか…。」
ジェニファーは取り敢えず待つことにした。横でジョンが車掌さんに別の事を尋ねている。
「ーーーーーーーー車掌さん。この電車って〈the dark metro〉に行けますか?トムさんが多分未だそこにーーーーーー。」
車掌さんは少し焦っている彼を安心させる様にジョンの肩を軽く叩いた。
「ーーー??」
『それに関してはもう、大丈夫です。ーーーーーーーートム・マクフライ君は既に〈the metro〉に辿り着きました。』
それを聞いた瞬間、ジョンは椅子に崩れ落ちる様に座り込むと、大きな安堵のため息を吐いた。
「…………あぁ……そうだったんですか…彼は無事に……。」
『ええ、今は〈the metro〉で私の帰りを待っています。ーーーーーーまさか人間が3人増えて戻って来るとは思いもしていないでしょうけどね……私もまさか、このレベルで貴方を見つけるとは思いませんでしたよ。』
ジョンは驚くトムの顔を思い浮かべて微笑んだ。
「……良かった…。じゃあ、早く帰って安心させないといけないな。」
呟いたジョンにピーターが横から話しかけた。
「ーーー俺も会ってみたいよ。ジョンの新しい友達に。」
「多分、仲良くなれるよーーーーー君ならね。」
ーーーーーーそう、話をしている時だった。
……ギャリギャリギャリギャリギャリ……
…工具売り場で聞いた、あのバールが床を擦る音が…
それは、後ろの車両からゆっくりと近づいて来ている。
ーーーーーーこんな音を立てて動く奴は1人しか知らない。
……そう、〈シャドウフェイスリング〉が重いパールを引きずって歩くときの音だ。
「ーーーーー!?嘘。アイツ、電車の中にーーーーー?!」
ジェニファーが思わず立ち上がって、後ろの車両に続くドアから素早く離れた。
『…おや?珍客ですね。』
ーーー車掌さんの言葉が合図になったかの様に、車両間を繋ぐドアがガラリと開いて、あの漆黒の〈
手には大きなバールを持ち、全身に溢れんばかりの殺意を漲らせている。ーーーーーーーー最初会った時よりやっぱり殺意が二割増しになっている気がした(主にジョンに対する)。
「ーーーッ……なんだよ…キン○マ潰された仕返しでもしに来たか?今度はパイプ喰らわすぞ…?」
微かに声が震えたのは仕方ない。怖いものは怖いのだ。しかし、ジョンは勇気を出して、鉄パイプを構えようとしてーーーーーー
『ーーーーーーーー車両の中、およびホームでの暴力行為はおやめ下さい。2人とも…ですよ。』
車掌さんの手で、構えかけた鉄パイプがそっと抑えられた。
「ーーーーー車掌さん!でも、コイツ俺たちを殺す気ですよ!?」
『ーーー理解しています。ですが、コレは電車内のルールなので。貴方もですよーーーーーー〈シャドウフェイスリング〉。』
車掌さんはゆっくりとした口調を崩さずに、シャドウフェイスリングに向き合った。
シャドウフェイスリングは答えない。
『凶器を捨てなさい。ーーー今すぐに。』
…それでも、シャドウフェイスリングは応じなかった。
そして、返事の代わりに、車掌さんの顔面に向かって重たいバールを振り下ろして来たのだ。
「「「車掌さんーーー!!」」」
3人が慌てて車掌さんを守る為に駆け寄ろうとするがーーーーーー
…パシッ
…なんとも、拍子抜けのする軽い音が響いた。
「ーーーーー!!」
シャドウフェイスリングが残像が見える程勢いよく振り下ろしたバールを、車掌さんは片手で受け止めていたのだ。
車掌さんに軽く受け止められている様に見えるバールは、シャドウフェイスリングが必死に押しても引いてもびくともしない。
……完全にガッチリと捕まえられていたのだ。
バールを握ったまま、車掌さんが口調を一切変えずにシャドウフェイスリングに話しかける。
『ーーー最後の忠告ですよ?…凶器を捨てなさい。ーーーーーー私にも、乗客の安全を守らなければならないと云う義務があります。これ以上、続ける様でしたら、私もそれなりの対応をしなければいけなくなります。ーーーーーーーーご理解頂けますか?』
シャドウフェイスリングは返事の代わりに蹴りを放って来たーーーーーが、その蹴りも空いている方の手で軽く払われて不発に終わる。
『…そうですか。なら、仕方ありません。』
車掌さんが小さく呟いた瞬間、シャドウフェイスリングの体がフワリと宙に浮いた。
「ーーーーーッ…片手で…持ち上げてやがる…。」
ピーターが呟く。ーーーーーーそう、シャドウフェイスリングが車掌さんのバールを握っている方の手だけで、持ち上げられているのだ。
そのまま、電車の外に放り投げられるシャドウフェイスリング。
そしてーーーガラァン、と音を立てて床を転がっていった。
唖然とする3人の前で、車掌さんが電車から降りてシャドウフェイスリングにツカツカと歩み寄る。
シャドウフェイスリングが床から飛び起きて、車掌さんに再びバールで殴りかかった。
ーーーが、軽くいなされる。2回目も、3回目も、どれだけバールを振り回そうが、決して車掌さんに当たる事はなかった。まるで、バールの方から車掌さんを避けているかの様にーーーーーーーー
ーーーーーーーーそして、バールの攻撃を全て避け切った車掌さんが、シャドウフェイスリングに近づいてその胸元に軽く拳をコツンと当てた。
たったそれだけで、シャドウフェイスリングの体がくの字に曲がって吹き飛ばされる。
そして、後ろにあった店の降りているシャッターに激突すると、けたたましい音を立てながらシャッターごと床に崩れ落ちた。
「……なんだありゃ…戦いにすらなって無いぞ。」
ピーターが呻く様に呟いた。
ジョンも静かに頷く。それは実に圧倒的な強さだった。一回も危うい目に遭う事なく、あの3人を苦しめたシャドウフェイスリングを無力化してしまったのだ………
『…さて、コレで大人しくなりましたね。』
気絶したらしきシャドウフェイスリングを持ち上げて、車掌さんが言う。
「…凄い!凄いわ、車掌さん!?」
『……流石ハ〈上位者〉ダナ。』
ジェニファーがそう言って拍手した。〈
『…少し、時間を掛けてしまいました。今から出発致します。揺れるので、気をつけてください…ここは駅が無くて直止めなので特にお気をつけを。』
次の瞬間ドアが閉まり、電車がガクンと揺れると、ゆっくりとLevel 33から離れ出したーーーーーーーー……
◇◆◇
『ご乗車ありがとうございます。58時996分発、〈the metro〉行き急行です。途中、Level13、Level 22、Level 21、Level 11、Level 9、Level 400に止まります。』
…少しノイズ混じりの車内アナウンスと共に、ガタンゴトン、と音を響かせながら電車が疾走して行く。
久しぶりに聞くその音に耳を傾けていたジョンだったが、ふとピーターが肩を突いて来たので、そちらに顔を向けた。
「なんだ?ピーター、どうかしたのか?トイレなら前から二両目の車両だぞ。」
「おう、そうかありがとう………じゃ、無くてだな。車掌さん、あの黒いフェイスリング…どうするつもりなんだ?電車に乗せてるけどよ…。」
そう言ってピーターが車両の隅を指差した。そこには気絶しているシャドウフェイスリングが椅子に寝かされている。
「ああ、あれなぁ…如何するつもりなんだろう?どっかに連れてくのかな?」
そう疑問に思ってジョンが首を傾げると、運転席から車掌さんが顔を出した。
『あの方はレベル11で降ろします。…本来、レベル33に居るべき者じゃ無いですからね。大方、貴方達を狙ってレベル11からレベル33にやって来たのでしょう。ーーーーーーレベル11では、無力化されてしまいますからね。』
それを聞いたピーターが首をひねった。
「ーーーーー無力化?レベル11にいる事がアイツをなんで無力化させる事につながるんだ?」
『ーーーーーーーー〈
「そんな不思議性質があのレベルに有ったのか……。」
…初耳である。
そんな風にピーターとジョンがへー、と思っていると横からジェニファーが口を挟んだ。
「ーーーーーちょっと待って下さい、車掌さん。……あの…レベル11にこの電車は停まるんですよね?私、レベル11にちょっと最後に挨拶したい人が居るんですが…。」
車掌さんの顔が少し動く。
『…ほう?』
「ーーーーーああ、ニードルスさんだな。俺たちがお世話になった人です。」
横からジョンが捕捉する。
車掌さんは首を少し傾げて考え込んでいる様だった。
『…ふむ。ーーーーーーーシャドウフェイスリングの件で私もレベル11に用事が出来たので、少し停車時間を延ばす予定でしたが…まぁ、延ばしても20分が限度でしょうね。その間にその方に最後の挨拶が出来るかどうか……。駅が出現する場所にもよりますし。』
「…でも、20分は延ばせるんですね?出来たら、最後に挨拶したいな…。」
そうジョンは呟いて、窓の外ーーーーー今は真っ暗なトンネルの中の様だーーーーーーを見つめた。
◇◆◇
場所:Level11〈the endless City〉
日時:20XX 年 9月 10日 午後1時頃
暫く電車に揺られ、幾つかの見知らぬレベルに寄ってから、遂にジョン達3人はレベル11に戻ってきた。
車掌さん曰く、ここで長めに停車する予定なので、今の内にお世話になった人に挨拶してくると良いーーーーーーーーとの事だった。
『〈
…と、云う事でその好意に甘えて、一旦電車を降りた3人だが、駅の場所がニードルスさん家から遠く離れた〈地図〉にも載っていない場所だったので、途方に暮れていた。
「…知らない所に出て来ちゃったな…この〈地図〉もニードルスさんの物なんだけど…返せないかもね。」
レベル11からレベル33に直接入って来てしまったので、ニードルスさんから貰ったものをそのまま持って来てしまっているのだ。
しかし、20分以内にはニードルスさん家に辿り着けない可能性が高い。
「仕方ない…このまま駅に戻るか。ニードルスさん所まで遠すぎるぞ、電車の出発に間に合わない。』
…そうピーターが呟いた時だった。
ーーーーーーーー
何かがひび割れる様な音が、辺りに響き渡った。
「ーーーーーん?なんだ?」
「?」
「なんだか…空から何かが割れたみたいな音が……。」
3人は空を見上げる。
それは、この世界の日常を壊す音ーーーーーーーー
今後、バックルームで語り継がれることになる、
Now it's all coming to an end.
〈今、全てが終わりを告げようとしています〉